反魂の傀儡使い

菅原

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2章 吹き込まれる魂

国王の暗躍

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 町を離れる車の中で、バルドリンガ国国王ハルクエルは、祭りの余韻に浸っていた。
風の噂で聞いた傀儡師の人形劇。
実際目にするまでは、到底信じることが出来なかったものだ。
(半信半疑で、国の端にある何のとりえもない街に足を運んでみたが、その甲斐は十二分にあったようだ)
収穫があったことに満足し、彼は思いを巡らす。


 ハルクエルがかつて、父、祖父から伝え聞いた、傀儡師という存在。
彼らの話の中で語られる傀儡師は、敵味方問わず、多くの兵士を縮み上がらせる恐怖の対象であった。
 当時の戦はまだ原始的で、兵士同士が殺し合う白兵戦が主となっていた時代。
その戦場において、何時からか現れた傀儡人形は、多くの兵を殺し、多くの戦果を上げていったという。
 彼ら傀儡師こそ、王国が幾度もの戦争から、生きながら得ることが出来た影の功労者。
そして、いつの間にか姿を消した伝説の一族であった。

 ハルクエルはこれまで、その力を一目見ようと、国中の情報をかき集めていた。
ところが、誰かの策謀によって巧妙に隠されているかのように、有力な物は一つも耳に届かない。
それでも人形劇があると聞けば北へ、人形を売る店が出来たと聞けば南へ、自らが赴きその目で確かめて来た。
しかし実際赴いて見せられるのは、子供だましのようなお遊びだ。
その人形劇を見せられる度、心にもない賞賛の声をかけ続けた。

 先代、先々代国王からその話を聞いてから今までの間ずっと、成果らしい成果は得られなかった。
だが今回は違う。
その人形劇は、確かに、かつて多くの兵士を震撼させた、傀儡師の物であった。
正に別次元。そう言っても全く過言ではない。
願わくばもう一度……芸術や職人芸といった領域に、然程興味を持たないハルクエルであっても、そう思わざるを得なかった。


 結果、戦闘に関する力は見られなかったが、実際この目で実物を見たハルクエルは、その力の片鱗を見た。
(あれ程見事に動き回れるのだ。ならばあれが、戦う意思を持ったらどうなる?戦場に降り立ったらどうなる?本体の大きさは自由自在と聞く。そして魔法人形ゴーレムを軽く上回る機動性。暗がりであれば人間に扮することも出来るやもしれん。更にその人形は、剣を恐れず、魔法を物ともしない不死の兵士……実にそそるではないか!)
彼の頭の中には、実に都合の良い光景が思い描かれる。

 ハルクエルは堪え切れず、従えていた家臣に心の内を伝えた。
「欲しい……私はあの力が欲しい!どうしても欲しいぞ!」
そこに浮かぶ表情は、あの劇の最中で無邪気な表情を浮かべていた者と、本当に同一人物の物なのだろうか。
余りも邪悪で、余りにも歪。
賢き父とは似ても似つかない、力に魅せられた愚者の顔であった。


 当時ならいざ知らず、現代において戦争とは、兵士同士の白兵戦ではなく、魔法人形や魔導砲といった、兵器合戦に重きを置いている。
少しの訓練で誰もが扱え、比較的手軽に多くの兵力を削ぐことが出来るからだ。
 つまり、ハルクエルが手に入れようとしているのは、時代錯誤も甚だしい、旧時代の戦力と言えた。
当然傀儡師たちは、何らかの理由で活躍の場を奪われてしまったから、表舞台から姿を消したのだろう。
だが、今回見たあの傀儡師であれば、彼が思い描く妄想と、決して見劣りしない光景を描き出せるであろうと、彼は確信していた。

 邪悪な笑みを浮かべる国王を見て、家臣もやはり口元を歪めた。
「王よ。直ぐに兵を派遣しましょうか?」
「……何を言うか。私は爺さんのように愚かではない。直ぐに力で奪うようなことはせんよ」
それをしては暴君の再来と呼ばれてしまう。そう笑って、家臣の案を一蹴する。
「では、使者を送りましょう。もし話が受け取られなかった時は……私に妙案がございます」
先程とは違う家臣が、そういってハルクエルの耳に甘言を流し込んだ。

 声が零れない様に、近くまで寄って耳打ちを受ける。
家臣の案を知ったハルクエルの顔は、更に邪悪に歪んでいった。
「素晴らしい。頗る貴様も優秀なようだな。確かにそれならば、私も悪戯に非難されることはあるまい」
細かな微調整は必要だろうが、概ねの方向性が決まった。

 兄妹がすやすやと寝息を立てる中、愚かな王の高笑いが夜空に響く。
ローゼリエッタが、その話を知ることになるのは、もう少し先の話。
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