Lapis Lazuli 瑠璃色の愛 ~初恋と宝石~Ⅵ

桜花(sakura)

文字の大きさ
上 下
73 / 96

ただいまお傍に参ります……

しおりを挟む
   「もう、五日間も楓禾姫様と……湖紗若様にお逢いしていない」

「船は、明後日しか出航しないですしね」


 私と詠史殿は、体術の鍛練中の休憩の合間、地べたに並んで座り、愚痴を溢し合っていた。
(というより、何かしら身体を動かしていないと楓禾姫様に逢えない事が辛すぎて……)


「しかし、楓禾姫は私達に気付かれないように、あの手紙を枕元に置いたんですよね?」

「いくら寝ていたからといって……楓禾姫様は、隠密としての才までおありなのか?」
(恐ろしいお方だ)


「お話し中すみません。よろしいですか?」

 私と、稜弥様の会話に割って入って来た男……
(暗号の男……)

 あの、外喜との一件以降、殿様に仕えるようになった男。

「……」

「……」

 稜弥様と、二人答えずにいると、特に気にするそぶりも見せずに。

「楓禾姫様に、そのような危ない真似はおさせする訳には参りませんから。私が 皆様の枕元に手紙を置かせて頂いたのです」


(……)


(……)


 私と、詠史殿は返事をする気持ちになれなかった。にも関わらず、秋川信介《あきかわしんすけ》と名乗った男は。


『外喜殿に、仕えるのが心底嫌になったのですよ。あの日に。 会議をサボった際に、なずな殿が拉致され、楓禾姫と湖紗若様はお茶に呼び出され、 ボヤ騒ぎまで起きた。 家臣たちは会議の為に皆、集まっているのにですよ。調べれば誰の仕業か直ぐ分かる事なのに。楓禾姫様と湖紗若様のお命まで狙って。 愚かな人に仕えるなど 冗談じゃないと思いました』

 聞いてもいないのに、告白をぶちかましてくれて。



 言うだけ言って、鍛錬に戻っていった信介殿を見ながら、私と、稜弥様は。


「いくら、桜家が造船技術に優れ、立派な船を所有していても。良く殿様が、楓禾姫様と湖紗若様の旅立ちを許したなと思っているんだ」


「本当に、殿様がお話しして下さった時、信じられませんでしたよね。桜家の所有地だといっても、舟で一日半掛かる場所に……なんて」


『私は、楓禾姫様と湖紗若様を護衛して、無事、島にお送りする役目を仰せ遣ったのです。殿様は、桜家の誇る水軍の中から、 特に海に詳しい者、船の操縦に長けている者をお遣わしになったんですよ』


 ここまでぶっちゃけた信介殿に、 良いのだろうか? と心配になるくらいで。


 秋川の、 殿様への心酔ぶりというか、忠誠心の厚さに驚くけど。


「秋川への、殿様の信頼度が凄すぎません? ほんの数日で……」


「信介殿が、 全てを正直に ぶっちゃけすぎるほど、ぶっちゃけたからじゃないでしょうか」


 稜弥. 詠史 (それにしても……)


 二十代半ばぐらいだろうか? 想像するに。

 湖紗若様と楓禾姫様に。


 湖紗若と楓禾姫に。


 一日半の船旅にて、 懇切丁寧に接したと思われる……

 思わず……


『秋川、既婚者か? ……独身か?』


『信介殿、婚者ですか? ……独身ですか?』


 訪ねてしまっていたんだ。


『私は、既婚者ですよ』


(稜弥. 詠史)
 心底胸をなでおろしてた……




 こうして、永遠に、明後日など来ないのではないかと思う程、 長く長く感じた 二日間を超えて。




 楓禾姫様と湖紗若様の元へ。


 私、殿様、詠史殿、鈴様。なずな。凛実の方様。楓希の方様。陽様は、湖楓鈴丸《こふりん まる》に乗り込み大海原に飛び出したのである。

 楓禾姫様と湖紗若様の元へ。


 私、殿様、稜弥様、鈴様。なずな殿。凛実の方様。楓希の方様。陽様は、湖楓鈴丸《こふりん まる》に乗り込み大海原に飛び出したのです。


 ちなみに、稜禾詠ノ国。桜桃城の留守居役を。自ら。


 殿様と、私の父の勇の父で。私の祖父の幸《こう》と。

 稜弥様のお父上様の勇様が。


 申し出たのである。


 申し出られたのです。


 湖紗若様……

 楓禾姫様……ただいまお傍に参ります……

 湖紗若様……

 楓禾姫様……ただいまお傍に参ります……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Ruby キミの涙 ~初恋と宝石~Ⅴ

桜花(sakura)
恋愛
Ruby キミの涙 ~初恋と宝石~Ⅴ https://estar.jp/novels/25960145  初恋と宝石シリーズ第5弾 ライターの彼氏×心に傷を追った女の子 〈正義はどこに… 〉  思う様な記事を書けず書かせてもらえず、日々理不尽に、イライラが…  そんな彼    正義が正義ではないと言われた 彼女…  キミは深く傷ついたはずなのに… いつも慈愛に満ちた瞳をしているね   キミのその涙を  笑顔に変えてあげるから…

Sapphire小悪魔系男子にご注意asobase?〈離れてもマタ巡り逢う〉~初恋と宝石~

桜花(sakura)
恋愛
 雪の日出逢った…初恋の人? 初恋と宝石シリーズ4弾 一人で生きて行くから!…って言いたいけど現実は…悔しいけど一人では生きられない… 危なっかしいヤツ…見てらんねぇさてさてどうしようかねぇ? 試練は乗り越えられる人間だけに?嘘だ!絶対に!幸福と苦しみ、人は半分ハンブン平等に与えられる?信じられない! 今は苦しいだろうけど…これからは幸福がオマエに…Sapphire(誠実の石) 誠実に愛する…向き合うよ 色々起こる出来事に…生きる事に少し疲れたの…不思議なアナタいつも助けてくれる… テーマ  開けない夜は無い.守りたい人を支えてあげるには?それぞれの方法で貴女を守る!.不思議な小悪魔系男子…何者? 彼女を溺愛する彼氏 色々起こる出来事に…生きる事に少し疲れたの…不思議なアナタいつも助けてくれる… テーマ  開けない夜は無い.守りたい人を支えてあげるには?それぞれの方法で貴女を守る!.不思議な小悪魔系男子…何者?

Orange Topaz~初恋と宝石~

桜花(sakura)
恋愛
 切ない初恋 初恋と宝石シリーズ 再会した幼馴染みの親友の妹…綺麗になったね…ずっと俺が、キミを守るから…初恋…子供の頃一度だけ会った兄の親友、心の片隅に今も…チョッとイジワルだけど優しい彼と少し内気な彼女の恋 エリートサラリーマン×内向的な女の子 真実の愛.君の悲しみを一緒に背負ってあげる 希望、喜び勇気の石純粋な愛で永遠の愛をキミに… 彼と彼女の愛.彼と友達の友情.彼女と友達の友情.妹を溺愛する二人の兄(双子)の愛.兄's達を思う彼女の友達の初恋 宝石の様に心の綺麗な幼馴染みの女の子達3人と彼女姫達を溺愛し守る騎士達幼馴染み3人、6人の恋物語

Moonstone キミはキミだよ〈学園王子様は分かってくれたの〉~初恋と宝石~

桜花(sakura)
恋愛
 初恋と宝石シリーズ第2弾  私の初恋 恋愛物語 ゲームクリーエターを目指している彼×家庭の事情で従兄の家に暮らす彼女 二人とも、何かしら抱えて居て… 「キミはキミだよ…Moonstone純粋な愛を…貴女へ…今迄頑張ったね!俺が守るから泣かないで…大好きだよ!」  彼女達を溺愛する彼氏達

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

Garnet 真恋 〈ホントの恋を掴みたい〉~初恋と宝石~

桜花(sakura)
恋愛
遅咲きの初恋.咲かせたい 初恋と宝石シリーズ3弾  打算的な生き方を選んだ彼…「後悔したんだ」   彼女は今の状況にいた方が…「諦らめなきゃ」 どうにもならないよ…って思っていた だけどやはり諦めたくない!  真恋(シンコイ)~ホントの恋…Garnet 永遠の愛を貴女に イタリア料理のシェフ×児童指導員の女の子 傷付いた4人の恋愛ストーリー  彼女達を溺愛する彼彼氏達 トラウマや心に傷を抱えた人(子供達)が日々頑張って生きています

処理中です...