Lapis Lazuli 瑠璃色の愛 ~初恋と宝石~Ⅵ

桜花(sakura)

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束の間の……

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  (なずなっ)


 私は、必死に西櫓に向かって走って! 

(……)

 西櫓に着いて……

「伸びてる……」

 私は思わず呟いてた。

(詠史は何を仕掛けたんだ?)


 まぁ、見た感じ分かってしまったんだが……後で聞く事にして。

 それより今は! 

 案の定と言うか当たり前だが扉には鍵掛かっている。細い棒を、腰にぶら下げている巾着袋から取り出すと。

 -ガチャガチャ-

 本来は、 簡単に解除されてはいけない場所な訳で。素人には難しいコツが……

 結構、時間が掛かってしまって焦って。ガチャガチャやっていると……ふと中から聞こえた物音。

(なずなか?)

 考えたくないがっ、中で、なずなが危険な目に遭わされてるのかっ? 


 というより……扉の方に向かって来てる?

「は、早く!」

 -ガチャ-

 ようやくの手応えがして。 はやる気持ちが抑えられなくて、 用心深く開けなければならないのだろうけど …… 引く力に思わず力が入って…… 錆びついた扉は。結果中々開かなくて……

 開いた瞬間、足元に……何かが ……イヤ、人 が転がり出て来て……

「きゃぁ」

 思わず身構えたけど…… 悲鳴をあげた後そのままうずくまって動かなくなった……って。

(なずなっ?)

 なずな……可哀相に……お役に立つ所か。敵方に捕まって。迷惑を掛けた……とか……悔しさとか。情けなさ……とかで。地面にうずくまり動けなくなってるのだろう? 敵方には、涙を見せたくないのに涙が溢れるのだろう?

 震えているなずな。


「なずなっ! 大丈夫かっ!?」

 私の声に上体起こしたなずな。


 驚きすぎたのか、固まってしまったなずなを安心させてあげたくて 、抱き寄せると。


「遅くなってすまなかった。無事で良かった……なずな……」


「ひっ、ワーッ」

 堪えていたものを、吐き出すように大声で泣き出したなずな。



 儚なげで、守ってあげたいなずな。可愛くて愛しくて。


 泣き止んだ後の第一声が。

「楓禾姫様と、湖紗若様の元に参ります!」

 だった。


 私も、楓禾姫、湖紗若、稜弥、詠史の。早く、皆の助っ人に行きたいしで。
 

 可哀相に足首を捻ってしまったようだ……


「なずな。その足では歩けないであろう? 私がなずなをおぶってやる」

 きっと、私におんぶされるなど『なりません!』と心の中では叫んでいるのだろう。 けど今は、楓禾姫と湖紗若の所に行きたいという気持ちが勝ったのだろうな。

「……はい」


 素直に私におんぶされる事を選んだようだ。

 こんな時なのに、私は内心嬉しくて。



 しかし、今後の外喜への 対応の為にも聞いておかなくては……

 私は気を引き締めると。


「なずな何があった? 何をされた?」

「迂闊にも、 食事かお茶に、腹下しの薬かなんかを入れられたのだと思います……」


 一瞬でも、楓禾姫と湖紗若の傍を離れた事を気に病んでいる様子のなずな。

「なずなのせいではないのだから、 気にするな」

「……はい…… 二人組の痩せた男と、 ガタイの良い男囲まれて。 おめおめ捕まる訳にはいかないと。痩せている方の男を背負い投げしました」


「 待って。何をしたって?」

「背負い投げです」


 うん。聞こえてはいるんだが……

 よく冗談交じりに、稜弥と詠史と。

『いざという時、 恐ろしすぎるほどの行動力で。泣き寝入りなど、生ぬるい方法は選ばないんだろうな』


 話し合っていたけど……


「 さすがだな。なずな」

「 勝ちました」

「 そうか」

「 体力を使い果たして。もう一人には負けてしまいました」


 涙声で悔しそうに話すなずな。

 私は、なずなに背負い投げを食らった男の姿を想像してしまって……

「ふふ。 すごいな。勝ったのか」

「はい。勝ちました」

「頑張ったな」

「怖かった……」


 そう呟いてから、慌てたように。

「申し訳ございませんっ。鈴様っ。つい……」

 それは、私に敬語を使わなかった。という事で謝ったのだろうな。


「構わない……」

「ぅ、うっ」


 可哀相に…… その時の恐怖が蘇って来たのか。私の背中で嗚咽を漏らしている、健気ななずな。

「誰も……私しか聞いていない……」

 だから泣きなさい。

「鈴様ぁ、 怖かったですっ」


 私に、想いを吐き出してくれたなずなが愛しくて。


 その想いを受け止めながら私は。 嵐の前の静けさ……束の間幸せだったんだ……



 三の丸近くの、外喜の屋敷を認めた瞬間。 表情を改めたなずな。

 それは私も……

「今行く! 楓禾姫、湖紗若、稜弥、詠史!」

 私となずなは外喜の屋敷に乗り込んだ……




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