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お茶の誘い

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 楓菜の方の部屋-


「失礼致します。楓菜の方様。今よろしいですか?」



 湖紗若をあやしていた楓菜の方は。

「 ええ大丈夫よ」

 障子戸の外から声を掛けて来た 、乳母の早月に答えると。

「凛実の方様付きの侍女のこずえが、お伝えしたき事があると参っております」

「こずえが? 分かりました。部屋に入ってもらってちょうだい」 


 楓菜の方は少し訝りながら、 返事を返した。

 楓菜の方も、こずえの事は知っていて、庭師の基史の娘で。気立ても良いので。出来れば私付持女にしたかったくらいだわ。そう思い、残念がっているのであった。

 緊張した面持ちで部屋に入り、障子戸の近くに座ったこずえに。

「 そんなに緊張しなくても良いのよ。こずえ? どうしました? 凛実の方に何かあったのですか?」

 わざわざ、 自分の所来たのは……

( 凛実の方に何かあったんじゃ?)

 そう考えるに至り、慌ててこずえに問い返すと。

「いえ。凛実のお方様におかれましては、体調崩されてるという事はございません。『湖紗若君様と共にお菓子など頂きながらお茶を致しましませんか? と お誘いしたい』と申されまして。楓菜のお方様の返事を。都合を聞きに参ったのでございます」 

 珍しい事があるものだ……と楓菜の方は正直思った。 正室である自分から、お茶の誘いをした事はあるが……凛実の方からは初めてだ。それに、湖紗若と一緒にと…… 


 しかし、楓菜の方はすぐに思い直した。凛実の方。いつも自分の立場を誇示たりせず控えめなの方。 幼き頃からの関係せいの為であろうか? 時に爽に対して、遠慮なく物を言ってしまう自分。凛実の方の柔らかい雰囲気に、爽は癒されているのではないか? と思うのだ。 

(そうね。ゆっくり 話をしてみたいわ)

 楓菜の方は、そう思い至ると。

「 こずえ、支度が出来次第、凛実の方様の部屋に参りますのでと。先に戻ってお伝えてして下さい」

「かしこまりました」 

 こずえはそう返事をすると部屋を出て行った。

「 楓菜の方様、 大丈夫でしょうか? 私も付いて参ります」 

 警戒心をにじませている早月。 

 少し、顔色も悪い。けど……

「早月。悪いけど、剣術の稽古に出掛けてしまって帰ってくる気配のない楓禾姫を、ここで待っていてちょうだい。帰って来たら『次はお花の稽古です』と。 逃がさないでね(笑)」

「ほほほ。 かしこまりました。楓菜の方様。(笑)」

 途端に表情を崩して笑った早月に、 ホっとし。後を託すと。

 楓菜の方は凛実の方の部屋に、湖紗若と共にむかった。
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