上 下
32 / 96

守るべき家族の為に……

しおりを挟む
   五年後。*卯月《うづき》

   楓菜の方の部屋-

「凛実の方様、お呼び立てして申し訳ありません」

「いえ……」

「殿が、数日前より体調を崩されて、床に臥せっておりますの」

 楓菜の方は、自ら立てたお茶を凛実の方に差し出すと。

「と、殿様はどうなされたのですか? どこがお悪いのですか?」


 瞬間、楓菜の方は、 相手を探るような問い掛けをしたのを恥じた。凛実の方は 関わってはいないのだ。と確信し、安堵して。

「殿が、一月程前に外喜殿に『商人より 買付けたお茶』を頂いたのです。 身内の者達に相談した所、飲まない方が良いと…… 数日前今度は『 相談したき義がある』との事で『 心配ないと』 仰せられて…… お茶を出された際に飲んでしまわれたのです」

「そんな……」

「 頂いたお茶を薬師に確認させた所、ほんの微量の…… しかし毎日飲み続ければ体調を崩してしまわれるだろうから、決して飲まないように。と言われていたのですが」

「叔父上は、お茶に? ……」


 あまりの衝撃に凛実の方は震えている。

「ごめんなさいね 。貴女を責めているのではないのです。 貴女も政岡家も関わりないと分かっていますから。 殿は外喜殿の野心には、決してして屈しったりはしない! ……との思いから。 万が一の事を考えて薬師が処方してくれていた中和剤、利尿剤などを服用してから外喜殿の所に行きましたから。 やはりお茶の匂いが、封を開けた時に匂った、薬の香りがしたから。一口。口に含んだだけにしたそうです。ですから、体調崩した。というよりも、家臣を最後まで信じたい。という思いが打ち砕かれた事に…… 精神的に参ってしまって体調崩されたのではないか? と言う薬師の話でした」


「 楓菜の方様、本当に申し訳ございません。叔父が……」 

(怒るべきは外喜殿……己れの感情を……凛実の方にぶつけてはならぬ……)


「凛実の方様…… 大切なお方をと守りたいがゆえに我を忘れてしまう所でした。 実は、私、懐妊致しましたの。 まだ、 殿に話してないのですけどね。 殿と共に守るべき家族が増えたのに壊されてしまうかもしれない……という恐怖に……『私』を優先してしまいました。凛実の方様。外喜殿は、貴女と鈴様の為と動いてるようで、自分の野心の為に動かれている。これでは、鈴様がいつ傷付いてしまわれます。私は、楓禾姫と生まれて来る子供を守ります。凛実の方様は、鈴様を守って下さい」


「はい……」


「 凛実の方様、お互いに力を合わせて子供達を守り、桜家を守もって行きましょうね」

「はい、楓菜の方様」

「凛実の方様、 泣いている場合じゃございませんよ。私、少し悪阻がきつくて……爽様が 早く回復されるように看病の方を任せてよろしいですか?」


 凛実の方は、楓菜の方の言葉に、楓菜の方や、爽への申し訳なさ。叔父に対する怒りの涙。とは違う……表現し難い、別の涙が溢れて止まらなくなって。

「はい。 心を込めて……爽様を看病させて頂きます」


 そう答えたのだった。


 ──
 -夫婦の部屋-


 爽が、凛実の方の看病により回復後。


「懐妊? ま、誠ですか? 楓菜の方!」

「はい…… ですからもう。一人で無茶をしないで。爽」


「申し訳ございませんでした」


「凛実の方にも謝って下さいませ。爽。貴方は、楓禾姫、鈴様。 生まれてくる子供を守る責任があるのですよ。お命は大切にして下くださいませ!」

 自分に抱きついて泣いている楓菜の方……


 愛しくて。


 献身的に看病してくれた凛実の方……

 愛しくて。


 九つになった楓禾姫の笑顔……


 愛しくて。


 大切な家族の為に……爽は頑張らねばと誓うのだった……

*卯月《四月》


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

Sapphire小悪魔系男子にご注意asobase?〈離れてもマタ巡り逢う〉~初恋と宝石~

桜花(sakura)
恋愛
 雪の日出逢った…初恋の人? 初恋と宝石シリーズ4弾 一人で生きて行くから!…って言いたいけど現実は…悔しいけど一人では生きられない… 危なっかしいヤツ…見てらんねぇさてさてどうしようかねぇ? 試練は乗り越えられる人間だけに?嘘だ!絶対に!幸福と苦しみ、人は半分ハンブン平等に与えられる?信じられない! 今は苦しいだろうけど…これからは幸福がオマエに…Sapphire(誠実の石) 誠実に愛する…向き合うよ 色々起こる出来事に…生きる事に少し疲れたの…不思議なアナタいつも助けてくれる… テーマ  開けない夜は無い.守りたい人を支えてあげるには?それぞれの方法で貴女を守る!.不思議な小悪魔系男子…何者? 彼女を溺愛する彼氏 色々起こる出来事に…生きる事に少し疲れたの…不思議なアナタいつも助けてくれる… テーマ  開けない夜は無い.守りたい人を支えてあげるには?それぞれの方法で貴女を守る!.不思議な小悪魔系男子…何者?

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

処理中です...