未完のクロスワード

ぬくまろ

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男と女

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 翌朝出勤すると、オフィス内はいつもの“おはようございます”が飛び交う。一日の始まりだ。規則正しく時間は刻まれる。でも、日々起きる出来事は絶えず変化している。同じ景色はない。心の状態も変化している。かおりに目をやると、メールをチェックしている。昨日はふたりでワイン二本飲んだ。四分の三くらいはかおりが飲んだ。それにもかかわらず、すっきりした顔をしている。お酒が強い。こうゆうタイプの人は、男性をかわすのがきっとうまい。言い寄られても、酔った勢いでそのまま付いて行くということはありえないだろう。自分を見失うことがない、うらやましい体質だ。
「亜仁場さん。どうしたの。ボーっとしてるね。寝不足?」
 権藤課長が言った。
「なつかしの友だちから電話があって、長話したんです」
「今日の会議の資料づくりで徹夜したのかと思ったよ」
「いえ、そんなことは……」
 わたしは、気分や体調の変化が顔に出やすいタイプだ。かおりのようにいつも颯爽としている人を見るとうらやましいと思う。体調の悪いときに、クライアントとの打ち合わせがあると、自信がないような印象を与えてしまう。権藤課長にも言われていることだ。だから、トランプやゲームでもポーカーフェイスができない。しまったと思ったことが、脳を通さずにダイレクトに表情を表われてくるから、心の中を悟られやすい。
 フロアを見渡すと上野さんがキーボードをたたいていた。上野一郎。かおりが付き合っている人だ。歳は三十。上司の信頼も厚く、部下の指導も熱血漢あふれ、将来への期待も年々高まっている。憧れの先輩といった感じだ。上野さんとかおりがいっしょになれば、公私共にきっと最強のコンビになるだろう。ふたりが出世街道を駆け抜ける姿が目に浮かぶ。お互いに見る目があったということだろう。それなのに、かおりはなんで結婚相談所みたいなところに入会して、出会いを期待するのだろうか。現在の状況でも満足のはずだ。二股をかける。それは、あり余るエネルギーの行く末なのだろうか。ゲームを楽しむだけというのは本心なのか。本心だとしても、器用に切り替えながら、どうやってコマを進めるのだろうか。疑問が疑問を連れてくる。しばらくの間、オフィスの風景をパソコンの壁紙のように眺めながら、ぼーっとして意識を拡散していた。横に目をやると、かおりが立っていた。
「おはよう」
 さわやかな声だ。
「あっ。おはよう」
「昨日、帰ってから電話したんだけど、誰かと話中だったでしょ。改札口で別れ際、晴れない顔をしていたので、心配しちゃった」
「ごめんね。心配かけちゃって。かおりの話が予想もしていなかった内容だったので、頭がついていけなかっただけ」
「そう。そんなに刺激的だったかしら。でもノーマルよ」
 そう言って、かおりは軽快な足取りで立ち去った。上野さんがこの話を聞いたら、どんな気持ちになるだろう。いい気はしないはずだ。だから、かおりとわたしだけの秘密にして、誰にも言わない方がいい。でも胸の中にしまったまま、このまま過ごせるだろうか。かわいそうな上野さんを想像するのは、自分が悲しい思いをするよりもつらくなりそうだ。上野さんの顔を見ていると、ちょっと重い気分になった。
 上野さんは営業一筋。クライアントの要望を吸い上げるだけではなく、いつも市場を創り出そうという意欲にあふれている。現状には満足しないで、何かを発掘しようとするタイプだ。ときには暴走することもあって、上司に注意されている場面もあるが、すぐに立ち直れる性格みたいであっけらかんとしている。マイナスをいつまでも引きずらない。それでいて、営業マン特有の気配りができる。クライアントにはもちろん、社内の誰にでも対して、それぞれに応じて気持ちのよいコミュニケーションで場を和ます。特に、添えるひと言がうまい。人に何かを頼むときでも、“○○さん、これお願い”ということだけではなく、“○○さん、その髪型いいね。ぴったりだよ……”というように、人の変化を巧みにとらえて、さりげなく持ち上げる。たとえ本心はどう思っていても、さらっと言われたら、言葉の裏を読み取る隙を与えない。だから、女子社員の間でもポイントが高く、人気がある。上野さんは敵をつくりにくいタイプだ。とにかく、悪感情を与えないことが、異性とのコミュニケーションにとって大切なポイントだ。
 上野さんの横には、わたしとかおりより二つ上、上野さんと同じ歳の女子社員がいる。望月冴子。プライドが高く、失敗もすぐ他人に転嫁する。その転嫁の仕方が理屈っぽく、フローチャートのように言い訳していくので、聞いている方も主導権を握られて流されていく。ある意味で頭の回転が速い。望月さんは上野さんに好意を寄せていたが、かおりに負けた。それ以来、コミュニケーションスキル抜群の上野さんも苦手意識が出て、ぎこちない関係が続いている。男女間は一度ギクシャクすると、元通りになるのは難しい。
 実は彼女、不倫をしている。相手は、中年のサラリーマン。かおりが上野さんと付き合う前で、まだ望月さんと仲がよかったときに、打ち明けられたらしい。特にこの人と付き合いたいから付き合うのではなく、その場の雰囲気と継続したちょっとした緊張感を楽しみたいかららしい。
 特定の人に四六時中縛られるのが嫌になったのにはワケがある。以前、長く付き合っていた人がいて、結婚を前提に話は進んでいた。あるとき、価値観か何かの不一致で彼女から別れ話を切り出したとのこと。そうしたら、態度が急変し、しつこく電話をかけてきたり、自宅に押しかけてきたりで、不眠症になり恐怖感でからだの震えが止まらなかったそうだ。それ以来、男性に対する見方が変わり、本気で好きになれない状態が続いているとのこと。それで、本人の言うところによると、男性に対する懐疑心が強くなり、心の底から好きになることができないということだ。だから、不倫は自分探しでもあり、男性の心探しでもあるとのこと。特定の人に信頼を寄せるというのでなく、いつでも自分から抜け出せる状態にいたいのだ。
 彼女の相手の見つけ方は、ひとりで飲みに行き、カウンター席に座る。女性がひとりで飲んでいると男性は気になるということを彼女は知っている。たいてい声をかけてくるそうだ。若い人が多いが、前の例にもあるように独身であろうという人は避けて、将来についての話が盛り上がらないミドル層にのみ。独身だとわかると身を引く。ただ、妻帯者であろうと、お互いに情が移るっていうことはないかと、かおりが聞いたところ、現実的な話を持ちかけられると血の気が引くように急にさめていくらしい。結婚という言葉に防御本能が働くということだった。
 長く付き合っていた人とはそんな別れ方になり、上野さんの争奪戦についてもかおりに負けたとなって、望月さんの性格はそれから変わった。懐疑心で人を見るようになった。かおりに対する敵対心みたいなものが、かおりと親しいわたしに対しても感じるのだ。以前は、三人でランチに行っていたこともあったのに。男女関係の不調は友情関係に連鎖するんだということをあらためて思ったものだ。
 わたしは、立ち上がって、資料を取りに行くふりをして、望月さんの横を通り過ぎた。やっぱりあった。首筋付近のキスマークが。これがある限り、関係は続いているということ。わかる人にはわかってしまうので、ファンデーションか何かで隠せばいいのにといつも思ってしまう。それとも、わざとそうしているのか。誰に対して? わたしは、同性として恥ずかしくなってしまうので、できればやめてほしい。もしかして、わたしやかおりに対しての羞恥心の裏返し?
「亜仁場さん。そろそろいくよ」
 権藤課長が声をかけてきた。今日の社内会議である。たたき台はつくってある。
「わかりました」
 わたしは資料を持って、権藤課長といっしょに会議室へ向かった。
 会議室といってもドアとパーティションで区切られた後付け仕様の空間だ。パーティションの上部は天井まで達してなく、三十センチメートルほど低い壁になっている。大型の空調設備でオフィス空間の隅々まで効率よく空気を行き渡らせるためだ。ただ、こうゆう場所では秘密会議はできない。話し声が筒抜けだから。近くに社外の人などがいると、話の内容によっては、おいしいネタを提供することになるからだ。
 ドアを開けると、まだ誰も来ていなかった。部屋の中心にはコの字型にテーブルが並べられている。でも、イスはない。これにはワケがある。会議時間の短縮のためだ。イスがあると、気持ちが落ち着いてしまい、その結果、議案の焦点も散漫になったり、意見のやりとりもスロースペースになったりで、効率を悪くしているんじゃないかとの声があり、社内で検討した結果取り入れたやり方だ。起立した状態でやって、どの程度効率がよくなるかはこれからだ。起立状態の方が、緊張感が保てるので、意見のやりとりが活発になることは確かだ。ただ、体調が悪いと打ち合わせを早く終わらせようとする意識が芽生えることも確かだ。腰が重いときはけっこうつらい。イスが欲しくなる。腰痛持ちの人もつらいだろうし、着席式と起立式の中間はないものかを考えてしまう。寄りかかり式だとだらしなくなるし……まあ、会議時間の短縮化。これが基本だ。
 少しして、宣伝部のスタッフが入ってきた。佐伯課長、わたしより三つ上の男性スタッフの堀井さん、わたしよりひとつ下の女性スタッフの田村さん、そして、権藤課長とわたしの五人のメンバーで会議が始まる。議題は、ヘアカラー新製品の提案。権藤課長がクライアントである化粧品会社の担当者との打ち合わせの中で出た話が発端で、ヘアカラー製品の開発・宣伝・販売展開までを仮提案するということになった。通常、製品の開発についてはクライアントであるメーカー側で企画・開発・製造までを手がけてから、広告代理店であるわたしたちがそれを受けて、製品の売り方などを提案するのがパターンだ。今回は、市場分析を得意とするわたしたち側から見た、これから求められる製品を考えていこうというテストケースだ。採用されるかどうかわからないけれど、積極的に何かやらなければ企業も生き残れないご時世だから、やってみる価値はある。ということで、議題が決まった。
「お集まりいただきありがとうございます。メールでお知らせしたとおり、ヘアカラーの新製品についての当社なりの展開を考え、クライアントに提案していきたいと思っています。マーケティング部でつくった基礎資料があります。亜仁場さんお願いします」
 権藤課長が冒頭に言った。
「ヘアカラーは、今やファッションの一部になり、おしゃれのために欠かせない存在です。十代、二十代はもちろん、三十代以上の人たち、特に女性にもカラーリング経験者が広がっています。その中でどんな色が好まれているのか調べたところ、ここ数年の傾向からブラウン系に人気が集まっています。その要因として、ブラウン系のヘアカラーなら、小麦色・色白・ピンク系の肌色などさまざまな肌に調和するので、大勢の人たちに選ばれているようです。また、ブラウンはアースカラーなので、人や自然に美しく調和すると言われています。」
「街中を見ても、黒髪を見つける方が難しいよ。特に若い人は」
 佐伯課長が言った。
「僕の友人関係で染めている人は少ないな」
 わたしより三つ上の堀井さんが言った。
「わたしのまわりではけっこういますね。まだの人もカラーリングしたいって思っている人もいますけど、職業柄許可されないケースもあります」
 わたしよりひとつ下の田村さんが言った。
「職業について考えてみると、カラーリング禁止の企業は以前より少なくなっている感じもします。ホテルとか航空会社なんかも落ち着いたブラウン系ならOKというように。接客サービスをメインにしているところも少しずつ認識が変化しているようです」
 わたしが言った。
「ただ、子どもからお年寄りまで幅広い層をターゲットにしているところでは、保守的な考え方が強く、カラーリングを許可していないところもある」
 権藤課長が言った。
「自分を魅せるということと、相手が受ける印象を考えた場合、自分をよく魅せるイコール相手の好印象が成り立てば、それが一番なんだ。それを考えたとき、きれいな黒髪を想像しちゃうけどね」
 佐伯課長が言った。
「雑誌のアンケートで見ましたけど、個性を主張すると言う意味で、カラーリングをしている人たちが多く、ほとんどがブラウン系ですね。たまに、オレンジ系やゴールド系がいたりして……。中には西洋人への憧れから染める人もいるようです」
 田村さんが言った。
「ただ、カラーリングで気になっているのは、髪の生え際の部分だね。既染部分というか、どんなにいい色に染めていても、元の髪の色がその部分に出てくるとあれって言うか、やっぱり黒髪なんだと思ってしまう。しょうがないと思うんだけど。とにかくこまめに染めるしかないのかな。今のところは」
 堀井さんが言った
「それに加えて、気になっていることがあるんだ。それは元の髪の色と染めた部分がまだらになっているケースがけっこうある。街を歩いていたり、電車の中を見てもけっこういる。たぶん自分でカラーリングしている人たちなんだろうな。美容院でカラーリングする場合は、プロの人がやるからまだらにならないとは思うんだ。まあ、髪の質にもよるだろうけど」
 権藤課長が言った。
「わたしは、色そのものというより、発色の程度が気になります。室内の蛍光灯の下だとか、太陽の下だとか、光を反射したときのリフレクションみたいな。同性として気になるところです。光を吸収して沈み込むような場合は最悪ですね。カラーリングの意味がない。それは、色というよりも成分の問題なのかなと」
 わたしが言った。
「めずらしいところでは、青とか紫のカラーリング。十代の若い人たちが目に付くけれど、お年寄りも多そうだよ。街でちらほら見かけるよ。特にお年寄りの女性。さすがに男性は見たことがない」
 佐伯課長が言った。
「年配の方の場合、黒が多いように思う。ただ、カラーリングという発想よりも、白髪隠しで染め始める人がいて、どうせ染めるなら、黒とかブラウンよりもっと個性的な色ということになるんでしょう」
権藤課長が言った。
「カラーバリエーションについて言えば、出揃った感がします。バリエーションもさらに細分化されるでしょうけれど。これからは質感がさらに求められてくると思います。ファンデーションで言えば女優肌、ヘアカラーで言えば女優髪かな。カメラに写ったときの質感みたいな」
 わたしが言った。
「そこまで求めるかな。やっぱり色ありきだと思うな」
 堀井さんがすぐさま言った。
「カラーリングのパサついた感じが気になるんです。近寄ってみると、一本一本の髪の毛が分離しているような印象を受けます」
 わたしが言った。
「それはシャンプーやコンディショナーでケアすればいい話だよ」
 堀井さんが言った。
「ケアはケアで必要だと思いますが、製品自体の性能で完結していることが大切だと思います。時間的に余裕がない人や、時間があっても時間を少しでも短縮したい人にとっては、一度のカラーリングで完璧さを求めているはずです」
 わたしが言った。
「カラーリングについて言えば、他社と差別化するには何か付加価値を加えることが重要だと思う。カラーバリエーションでもいいし、質感でもいいし、メンテナンス関連でもいい。何かおもいきった得策があればいいんだ」
 権藤課長が言った。
「僕はやっぱりきれいな黒髪がいいな。つややかでハリのある。それこそ和服の似合う黒髪。日本人は日本人としてもって生まれた髪の色を大事にすべきだと思うし、こちらから提案すれば、消費者も気づき始めると思うんだ」
 佐伯課長が言った。
「ただ、憧れるということから考えると、自分が本来持っている色とは別に、華やかに見える色を選ぶということもあります。わたしもブラウン系の自分を見てみたいと思いますし」
 田村さんが言った。
「日本人に違和感のないブラウンは、ダーク系でしょうね。黒との違和感もないし、染めたときのムラが多少あっても、そんなに目立たないし。黄色や赤は特殊でしょうね」
 堀井さんが言った。
「生え際の違和感をなくし、ちょっとした個性を表現するにはブラウン系だろうね」
 権藤課長が言った。
「また、日本人の肌にはピンク系の色が合うということなので、ピンク系ブラウンかブラウン系ピンクあたりを探ってみるのも面白いかもしれません」
 わたしが言った。
「本日は、第一回目の会議として、意見をいただきありがとうございました。今回出た意見の中で、色と質感についてはもっと掘り下げる必要があると思います」
 一回目の会議とあって、ざっくばらんな意見の言い合いの中、権藤課長が締めくくった。
 わたしは、入社が浅いせいか、製品の売り出し方など、販売促進について意見を出し合う通常の会議とは違って、一からどのような製品をつくったらよいか、いわゆる新製品の開発から関わることはめったにない。マーケットが成熟した中で、新製品を出すには、目新しさでアピールするしかない。あったらいいな的な発想しかないわたしには、論理的な思考が苦手だ。まわりには感覚的思考だと思われている。そこが弱点なのはわかっているけれど。

 会議室を出て、自分のデスクのあるフロアへ続く階段を下りている途中で、望月さんと偶然出くわした。お互い目と目が合い、二メートルほどの距離で立ち止まり、呼吸も空気も数秒間止まった。お互いちらちらと気にしながら過ごしてきたが、ふたりで面と向かい合うのは何ヵ月ぶりだろう。
「あー」
 戸惑いと、驚きと、何を言っていいのかわからない気持ちが重なって、不完全な言葉をわたしは発した。
「どうも」
 望月さんは落ち着いていた。そして続けて言った。
「最近、ちょっと疲れているみたいね」
「仕事がちょっと忙しいので」
 わたしは無難な答えでしのごうとした。
「かおりは元気みたいね。上野さんともうまくいっているんでしょ」
「ええ。そうみたいです」
 やっぱり、本題はかおりだ。聞かれるんじゃないかと思った。
「結婚とか考えているのかしら」
 望月さんが聞いてきた。
 単刀直入に聞かれて、何か尋問されているような感じがして思考がロックされた。正解を言わないとこの場を解放してもらえない威圧感に包まれた。わたしより二つしか年上でないのに、この落ち着き感。人種が違うみたいだ。
「まだ、そこまではいっていないみたいです」
 わたしは正直に言った。
「あら、そう」
 不敵な笑いを浮かべ、望月さんが言った。
 今のリアクションは、望月さんが上野さんのことをあきらめていなくて、まだチャンスがあるという気持ちの表れか。それともかおりと上野さんの仲が進展していないことに対する安堵感の表現なのか。わたしには読み取れなかった。
 望月さんがわたしの横を通り過ぎて行ったのを確認して、歩き始めようとして前を見ると、かおりがこっちを見てたたずんでいた。わたしのところに歩み寄ってくると、望月さんの背中が視界から外れるのを待っていた。
「上野さんのこと、聞かれていたみたいね」
「うん」
「まだ、あきらめていないのかな」
「わからない。かおりに対する嫉妬心だけなのかもしれない」
「どちらにしても、気にかけているということね」
 かおりも望月さんと同じように不敵な笑いを浮かべていた。
 もしかしたら、と一瞬よぎった。それは、かおりは上野さんのことを好きで付き合ったのではなく、望月さんから奪い取ったことで心を満たしていたのかな……ということだ。もしそうだとしたら、同性として、友だちとして、かおりの真意を読み取ることができなかったということか。かおりが意図的にまわりのみんなに悟られないようにしているのはなぜなのか。疑問が疑問を呼ぶ。それとも、わたしの考えすぎなのか。含み笑いのかおりがちょっとだけわからなくなった。
「それと、この前の結婚相談所の件、とりあえず行ってみようと思うの。いくつかある中で、相手の条件がよさそうなところ。入会金や月会費は安くはないけれど、普通のところに入って、普通の人を紹介されてもねえ、つまらないでしょ。だから」
 やっぱり冗談ではなかったらしい。そう思ってはいたけれど。
「やっぱり本気だったのね。お酒で酔った勢いというわけじゃなくて」
「わたしお酒に飲まれないタイプだから。酔った勢いで空想の世界に入り込まないわ」
 かおりが当然といった口調で言った。
 わたしの頭の中に上野さんの顔が浮かんできた。その話は冗談であればいいと思ったけれど違った。本当にゲームのままでいられるのかしら。ぼーっとしたまま立ちすくんでいると、かおりがわたしの肩をたたいた。
「悪いことするわけじゃないんだから」
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