自死セミナー

ぬくまろ

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エピローグ

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 無音の空間に残された四人。
 しばらくして、誰からともなく席を立った。四人は無言のままエレベーターに乗り、下に降りた。そして、四人は建物のエントランス付近で立ち止まった。
 この季節は日の入りも早く、薄暗く闇に覆われていたが、白く光るものが落ちてきた。雨ではない、雨よりも柔らかい感触。雪だ。粉雪だ。街灯の光を反射した雪が降ってきたのだ。初雪だ。
「かさかさ。かさかさ。あっ! でも、さあさあ、さあさあって聞こえるよ。さあさあって、呼んでいるみたい。さあさあ、さあさあ……」
 耳に手を当て、空を見上げていた山名の目からは涙があふれていた。涙は頬を伝わり、いく粒も落ちていった。
「僕はみんなと違うんで、ほんとうのさよならを言わなくちゃいけないね。いつか会えるよね。先に行くだけだからさ。ありがとう」
 空古田も泣いていたが、顔は晴れ晴れとしていた。
「みなさん。ありがとうございました。セミナーに参加してよかったです。私は、私は……」
 外神田は号泣し、言葉を継げなかった。
「この近くに警察署はあるかな。ないかな。あっ、でも、交番でもいいのか」
 佐伯がぽつりと言葉を吐くと、山名と空古田が佐伯に視線を向けた。その視線はとても柔らかかった。

 赤信号で立ち止まった四人は同時に振り返り、ゴクラックビルを見上げた。
「あれっ? 一、二、三、四、五、六、七、八。一、二、三、四、五、六、七、八。あっ、九階がないよ」
 山名の言葉に応えるように、三人も数え始めた。
「ほんとうだ」
「不思議」
「確かにない」
 四人は見上げたままだった。
「わかった! 三門さん、きっと、次のセミナー会場に行ったのよ」
 山名の言葉を聞いて、三人は深く頷いた。













     セミナーにご参加いただきまして、ありがとうございました。
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