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木村は歩きながら細井に語りかける。顔は前を向いたままだ。
「殺害推定時刻は午前一時頃。殺害される前、近くのコンビニエンスストアの防犯カメラに映っていることが確認された。履歴に残っていた時刻は午前〇時二十四分。コンビニエンスストアから、害者(被害者)の自宅までは徒歩で五分とかからない。午前〇時三十分頃には、そこから寄り道をしなければ、部屋の中にいたと思われる。午前〇時三十分から午前一時までの三十分間、何があったか。細井君、この三十分間をどうとらえるか」
「はい。歌舞伎町にあるアルバイト先の飲食店を出たのが、午前〇時十分。コンビニエンスストアの防犯カメラの履歴の時刻が午前〇時二十四分。アルバイト先から普通に歩いて帰宅しようとしていることが推測されます。そこから先は、寄り道するような店はなさそうですし。害者は午前〇時三十分頃に部屋の中にいたと考えられます。間取りはワンルーム。玄関から入ってすぐ目の前にキッチンがあり、キッチンの先、座卓テーブルの手前で害者は倒れていた。争った形跡はないので、顔見知りの人物であると推測されますが、玄関のドアが施錠されていなかった場合は、誰でも簡単に中に入れますよね。あっ、でも、突然玄関のドアが開き、他人が入ってきたら、驚きますよね。相手の出方によっては、拒絶や抵抗の姿勢を見せるでしょうし、そうなれば部屋のどこかに争ったような形跡が残ると考えられます。しかし、その形跡はありません。害者は穏やかな顔をして仰向けで倒れていました。ホシは当然、至近距離から胸を突いたはずです。ということは、玄関から数歩、足を踏み入れなければなりません。土足で上がった形跡はありませんでした。靴を脱いで害者に近づいたのです。知人か友人、あるいは顔見知りの人物ということになります」
二人は新大久保駅から山手線に乗った。内回りだ。二人は並んで吊革につかまっていた。無言であった。車窓の景色を見ているのであろう。眼球が小刻みに動く。
「着きました」
電車が原宿駅で止まると。細井は木村に声をかけた。静止画の木村が動いた。うなずいたわけではない。二人はホームの階段を下り、竹下口に向かう。竹下口を出て左に曲がり、原宿外苑中学校西のY字路を右に進んだ。ちなみに、Y字路を左方向道なりに進むと、皇室専用の駅、宮廷ホームがある。ただ、現在はほとんど利用されていない。宮内庁幹部によれば、『静養のためにわざわざ宮廷ホームを使って迷惑をかけるより、一般と同じようにとのお気持ちが天皇陛下にあると思う』とのことだ。
二人は明治通りが交差する千駄ヶ谷小学校交差点を直進。百五十メートルほど先の歩道橋脇の路地を左に曲がった。そこは千駄ヶ谷二丁目、マンションが建ち並ぶエリア。コンビニエンスストアを通り過ぎ、二つ目の角を左に曲がった。しばらく進むと、二人は立ち止まった。
「イチ、ゼロ、ニ」
〈ピンポーン〉
しばらくして
「はい」
「新都心署の細井です」
「なに? ちょっと。なんですか。こんな遅く」
対応したくない。口調に表れている。
「お時間は取らせません」
「うー、明日早いのに」
「お願いします」
「うーん。はい」
「ありがとうございます」
エントランスを右に曲がり、すぐのところにあった。一〇二号室。
「おじゃまします」
二人は床に腰を下ろした。そこはフローリングの上に二畳ほどのカーペットが敷かれていた。カーペットの中央には、高さ三十センチメートル、六十センチメートル角のテーブルが置かれていた。折りたたみ式のシングルベッドが、バルコニーの手前、壁際にぴったりつく。八畳ほどの1Kだ。木村と細井の真向いには、テーブルを挟んで男性が座っている。猫背。斜に構えている。
「浦辺さん。藤堂さくらさんの自宅の遺留物からあなたのDNAが検出されました」
「ぐっ」
猫背が瞬時に反り返った。
「血液、唾液、汗といった体液や髪の毛、皮膚の断片等からDNAは検出されましたが、詳細は控えさせていただきます。また、指紋も検出されました」
「何が言いたい」
上目遣い。敵意丸出しだ。
「まあ、当たり前ですよね。恋人であるわけですから」
「だから、何が言いたいんだ」
浦辺が細井をにらむ。木村も無表情で浦辺をにらむ。
「あなたにはアリバイがありません。自宅で寝ていたということですよね。このマンションの住人に聞いてみましたが、事件当夜、あなたがこのマンションにいたという確証を得ることはできませんでした。深夜でしたので、姿をとらえることは難しいと思いますが、念のために聞いてみたのです」
「俺がやったとでも言いたいのか。じゃあ、理由はなんなんだよ」
「はい。そうなんです。その理由を知りたいのです」
「なにっ? 俺が理由を知っているとでも言いたいのか」
「あなたは藤堂さくらさんと親しい関係にありました。だからこそ、殺害に至る動機を探るうえで、参考になるような情報をお持ちではないかと考えているのです」
「それじゃあ、俺はシロだということだな」
「ふっ。いいえ」
細井は一泊間を置いて、答えた。
「なにっ。どういうことだ」
「ご協力、お願いできますでしょうか」
「最悪だな。さくらは殺され、俺が犯人かよ」
浦辺は頭をかきむしっている。
「藤堂さんと浦辺さん。最近二人の関係がうまくいっていなかったということですよね」
「おい、それが動機だっていうのか」
「はい」
「なんだと」
浦辺は右の拳を握った。
「動機の一つになりますが、精神状態が安定していれば、殺害に至ることは考えにくいですね」
「どういう意味だ」
「藤堂さん、何か悩んでいませんでしたか。男女関係だけではなくて、人間関係とか」
「ああ、悩んでいたよ。いつも悩んでいたよ。人間関係、芝居のこと。頭の中でグルグル回っていただろうよ」
「人間関係とは。具体的に教えていただけませんか」
「警察もそうだけど、どこの社会だって、それなりにぶつかり合いはあるでしょ。それですよ」
「特定の人物ということではないのですね」
「うー、うん」
浦辺は視線をそらした。
「浦辺さん以外の劇団員の方が、藤堂さんの部屋に入ったことはありますか」
「わからない」
「まったくわからない? 友人とか、知人が来たという話はしないんですか」
「ない! さくら、そういう話が嫌いだったんだ。誰か来たって聞いても、『そんなのどうだっていいじゃない』ってことになるんだ。だからそれ以上は聞かねえよ」
「そうですか。そういう話が嫌いなのですね」
沈黙が訪れた。恋人の家に訪問客があるのかないのかわからない? そんなことも話さないのか。期待どおりの答が返ってこなかったというふうに、細井は無音でうなる。浦辺は安心したようにふっと息を吐いた。もういいだろう。話すことはない。早く帰ってくれというふうに、浦辺は細井をちらちら見た。次の質問を考えているのだろうか、細井の視線が宙をさまよっている。ぐるぐる、ぐるぐる、止まりそうもない。
〈トン〉
木村が指先でテーブルをたたき、立ち上がった。続いて、細井も立ち上がった。それを見て、浦辺はニヤッとした。
「浦辺さん。被害者宅に訪問客はあったようですね」
浦辺の頭上から声が降る。乾いたささやきだ。声の主は無表情のまま口角を上げた。もちろん、木村である。浦辺が上目遣いで木村を見た。上目遣いというよりも、にらみだ。
「ど、どういう、意味だ」
浦辺の声が上向きに震える。
「一人ではなく、複数だ」
木村の視線が下向きに刺さる。
「だから、どういう意味だ」
「跡を残しているんだよ。しっかりとね」
「跡?」
「心当たりはないのかね。被害者が話さなかったとしても、何が気づいたことはないのかね」
「どういうことだ」
浦辺は頭を抱えた。
「訪問客は君が知っている人物だ」
「なにっ!」
「誰なんだよ。わかっているなら、教えてくれよ」
「それはできない。変な憶測を招く恐れがあるからな。新たな事件、思いも寄らぬ事件が起こらないとも限らない」
「なにっ? 思いも寄らぬ?」
浦辺の手が震え出した。視線はテーブルを突き抜けている。
「言っておくが、被害者にやましいことがあったかどうかは関係ないということだ」
「なんだと。なんでそう言い切れるんだよ」
浦辺は震える手でテーブルの脚を握り、木村をにらんだ。
「細井君、行くぞ」
木村は部屋を出た。遅れて、細井が続いた。
二人は千駄ヶ谷小学校交差点を通り過ぎた。お互いに一言も発していない。間もなく、宮廷ホームだ。
「細井君」
「はっ」
細井はビクッと驚いた。浦辺の自宅を出てからずっと無言であったので、突然声をかけられたら当然に驚く。
「知りたいか」
「はい?」
「訪問客のことだ」
「あっ、はい。ずっと考えていました。木村部長がなぜあのようなことを浦辺に伝えたのか」
「まだ伝えるべきではないかと。そういうことか」
「はい、そうです」
「伝えるとどうなる」
「はい。浦辺はきっと害者の部屋を訪問した人物を探そうとします。心当たりのある人物がいるはずです。そいつを見つけ出し、今回の事件に関して何か知っているのではないかと問い詰める。そして最悪の場合、危害を加えてしまう。と考えられます」
木村は口角を上げた後、口を真一文字に結んだ。口を開かない。無言の状態が続く。視線は宮廷ホームの門扉に向けられている。細井の視線は木村の横顔をとらえている。木村の視線がゆっくり細井に移る。細井が固唾を飲む。
「なぜ俺が公開していない情報を話したのか、考えてみたか」
「その、いえ。あっ、いいえ。そこまでは。その」
「俺がどのような情報を公開したのか、ということよりも、なぜ公開したのか、ということを考えてみろ。そういった考える習慣を身に付けるんだ」
「あー、はい」
細井は戸惑った表情を見せた。
木村が歩き出した。遅れて、細井も歩き出した。二人は無言のまま竹下口に向かった。
「殺害推定時刻は午前一時頃。殺害される前、近くのコンビニエンスストアの防犯カメラに映っていることが確認された。履歴に残っていた時刻は午前〇時二十四分。コンビニエンスストアから、害者(被害者)の自宅までは徒歩で五分とかからない。午前〇時三十分頃には、そこから寄り道をしなければ、部屋の中にいたと思われる。午前〇時三十分から午前一時までの三十分間、何があったか。細井君、この三十分間をどうとらえるか」
「はい。歌舞伎町にあるアルバイト先の飲食店を出たのが、午前〇時十分。コンビニエンスストアの防犯カメラの履歴の時刻が午前〇時二十四分。アルバイト先から普通に歩いて帰宅しようとしていることが推測されます。そこから先は、寄り道するような店はなさそうですし。害者は午前〇時三十分頃に部屋の中にいたと考えられます。間取りはワンルーム。玄関から入ってすぐ目の前にキッチンがあり、キッチンの先、座卓テーブルの手前で害者は倒れていた。争った形跡はないので、顔見知りの人物であると推測されますが、玄関のドアが施錠されていなかった場合は、誰でも簡単に中に入れますよね。あっ、でも、突然玄関のドアが開き、他人が入ってきたら、驚きますよね。相手の出方によっては、拒絶や抵抗の姿勢を見せるでしょうし、そうなれば部屋のどこかに争ったような形跡が残ると考えられます。しかし、その形跡はありません。害者は穏やかな顔をして仰向けで倒れていました。ホシは当然、至近距離から胸を突いたはずです。ということは、玄関から数歩、足を踏み入れなければなりません。土足で上がった形跡はありませんでした。靴を脱いで害者に近づいたのです。知人か友人、あるいは顔見知りの人物ということになります」
二人は新大久保駅から山手線に乗った。内回りだ。二人は並んで吊革につかまっていた。無言であった。車窓の景色を見ているのであろう。眼球が小刻みに動く。
「着きました」
電車が原宿駅で止まると。細井は木村に声をかけた。静止画の木村が動いた。うなずいたわけではない。二人はホームの階段を下り、竹下口に向かう。竹下口を出て左に曲がり、原宿外苑中学校西のY字路を右に進んだ。ちなみに、Y字路を左方向道なりに進むと、皇室専用の駅、宮廷ホームがある。ただ、現在はほとんど利用されていない。宮内庁幹部によれば、『静養のためにわざわざ宮廷ホームを使って迷惑をかけるより、一般と同じようにとのお気持ちが天皇陛下にあると思う』とのことだ。
二人は明治通りが交差する千駄ヶ谷小学校交差点を直進。百五十メートルほど先の歩道橋脇の路地を左に曲がった。そこは千駄ヶ谷二丁目、マンションが建ち並ぶエリア。コンビニエンスストアを通り過ぎ、二つ目の角を左に曲がった。しばらく進むと、二人は立ち止まった。
「イチ、ゼロ、ニ」
〈ピンポーン〉
しばらくして
「はい」
「新都心署の細井です」
「なに? ちょっと。なんですか。こんな遅く」
対応したくない。口調に表れている。
「お時間は取らせません」
「うー、明日早いのに」
「お願いします」
「うーん。はい」
「ありがとうございます」
エントランスを右に曲がり、すぐのところにあった。一〇二号室。
「おじゃまします」
二人は床に腰を下ろした。そこはフローリングの上に二畳ほどのカーペットが敷かれていた。カーペットの中央には、高さ三十センチメートル、六十センチメートル角のテーブルが置かれていた。折りたたみ式のシングルベッドが、バルコニーの手前、壁際にぴったりつく。八畳ほどの1Kだ。木村と細井の真向いには、テーブルを挟んで男性が座っている。猫背。斜に構えている。
「浦辺さん。藤堂さくらさんの自宅の遺留物からあなたのDNAが検出されました」
「ぐっ」
猫背が瞬時に反り返った。
「血液、唾液、汗といった体液や髪の毛、皮膚の断片等からDNAは検出されましたが、詳細は控えさせていただきます。また、指紋も検出されました」
「何が言いたい」
上目遣い。敵意丸出しだ。
「まあ、当たり前ですよね。恋人であるわけですから」
「だから、何が言いたいんだ」
浦辺が細井をにらむ。木村も無表情で浦辺をにらむ。
「あなたにはアリバイがありません。自宅で寝ていたということですよね。このマンションの住人に聞いてみましたが、事件当夜、あなたがこのマンションにいたという確証を得ることはできませんでした。深夜でしたので、姿をとらえることは難しいと思いますが、念のために聞いてみたのです」
「俺がやったとでも言いたいのか。じゃあ、理由はなんなんだよ」
「はい。そうなんです。その理由を知りたいのです」
「なにっ? 俺が理由を知っているとでも言いたいのか」
「あなたは藤堂さくらさんと親しい関係にありました。だからこそ、殺害に至る動機を探るうえで、参考になるような情報をお持ちではないかと考えているのです」
「それじゃあ、俺はシロだということだな」
「ふっ。いいえ」
細井は一泊間を置いて、答えた。
「なにっ。どういうことだ」
「ご協力、お願いできますでしょうか」
「最悪だな。さくらは殺され、俺が犯人かよ」
浦辺は頭をかきむしっている。
「藤堂さんと浦辺さん。最近二人の関係がうまくいっていなかったということですよね」
「おい、それが動機だっていうのか」
「はい」
「なんだと」
浦辺は右の拳を握った。
「動機の一つになりますが、精神状態が安定していれば、殺害に至ることは考えにくいですね」
「どういう意味だ」
「藤堂さん、何か悩んでいませんでしたか。男女関係だけではなくて、人間関係とか」
「ああ、悩んでいたよ。いつも悩んでいたよ。人間関係、芝居のこと。頭の中でグルグル回っていただろうよ」
「人間関係とは。具体的に教えていただけませんか」
「警察もそうだけど、どこの社会だって、それなりにぶつかり合いはあるでしょ。それですよ」
「特定の人物ということではないのですね」
「うー、うん」
浦辺は視線をそらした。
「浦辺さん以外の劇団員の方が、藤堂さんの部屋に入ったことはありますか」
「わからない」
「まったくわからない? 友人とか、知人が来たという話はしないんですか」
「ない! さくら、そういう話が嫌いだったんだ。誰か来たって聞いても、『そんなのどうだっていいじゃない』ってことになるんだ。だからそれ以上は聞かねえよ」
「そうですか。そういう話が嫌いなのですね」
沈黙が訪れた。恋人の家に訪問客があるのかないのかわからない? そんなことも話さないのか。期待どおりの答が返ってこなかったというふうに、細井は無音でうなる。浦辺は安心したようにふっと息を吐いた。もういいだろう。話すことはない。早く帰ってくれというふうに、浦辺は細井をちらちら見た。次の質問を考えているのだろうか、細井の視線が宙をさまよっている。ぐるぐる、ぐるぐる、止まりそうもない。
〈トン〉
木村が指先でテーブルをたたき、立ち上がった。続いて、細井も立ち上がった。それを見て、浦辺はニヤッとした。
「浦辺さん。被害者宅に訪問客はあったようですね」
浦辺の頭上から声が降る。乾いたささやきだ。声の主は無表情のまま口角を上げた。もちろん、木村である。浦辺が上目遣いで木村を見た。上目遣いというよりも、にらみだ。
「ど、どういう、意味だ」
浦辺の声が上向きに震える。
「一人ではなく、複数だ」
木村の視線が下向きに刺さる。
「だから、どういう意味だ」
「跡を残しているんだよ。しっかりとね」
「跡?」
「心当たりはないのかね。被害者が話さなかったとしても、何が気づいたことはないのかね」
「どういうことだ」
浦辺は頭を抱えた。
「訪問客は君が知っている人物だ」
「なにっ!」
「誰なんだよ。わかっているなら、教えてくれよ」
「それはできない。変な憶測を招く恐れがあるからな。新たな事件、思いも寄らぬ事件が起こらないとも限らない」
「なにっ? 思いも寄らぬ?」
浦辺の手が震え出した。視線はテーブルを突き抜けている。
「言っておくが、被害者にやましいことがあったかどうかは関係ないということだ」
「なんだと。なんでそう言い切れるんだよ」
浦辺は震える手でテーブルの脚を握り、木村をにらんだ。
「細井君、行くぞ」
木村は部屋を出た。遅れて、細井が続いた。
二人は千駄ヶ谷小学校交差点を通り過ぎた。お互いに一言も発していない。間もなく、宮廷ホームだ。
「細井君」
「はっ」
細井はビクッと驚いた。浦辺の自宅を出てからずっと無言であったので、突然声をかけられたら当然に驚く。
「知りたいか」
「はい?」
「訪問客のことだ」
「あっ、はい。ずっと考えていました。木村部長がなぜあのようなことを浦辺に伝えたのか」
「まだ伝えるべきではないかと。そういうことか」
「はい、そうです」
「伝えるとどうなる」
「はい。浦辺はきっと害者の部屋を訪問した人物を探そうとします。心当たりのある人物がいるはずです。そいつを見つけ出し、今回の事件に関して何か知っているのではないかと問い詰める。そして最悪の場合、危害を加えてしまう。と考えられます」
木村は口角を上げた後、口を真一文字に結んだ。口を開かない。無言の状態が続く。視線は宮廷ホームの門扉に向けられている。細井の視線は木村の横顔をとらえている。木村の視線がゆっくり細井に移る。細井が固唾を飲む。
「なぜ俺が公開していない情報を話したのか、考えてみたか」
「その、いえ。あっ、いいえ。そこまでは。その」
「俺がどのような情報を公開したのか、ということよりも、なぜ公開したのか、ということを考えてみろ。そういった考える習慣を身に付けるんだ」
「あー、はい」
細井は戸惑った表情を見せた。
木村が歩き出した。遅れて、細井も歩き出した。二人は無言のまま竹下口に向かった。
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