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七不思議邂逅
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常に毛が逆立ち気の休まる暇の無いゾワゾワする場所――日本一有名な山のダンジョン――に籠って狩りを続ける猫。
一日籠って外に出て変なのに肉球押し付けてステータス更新、一度やすんでからまた籠っては出て肉球スタンプというルーティンを繰り返した。
食事は腹が空いたら生きているモンスターを噛みちぎって戦いながら摂取している。倒した後にゆっくりと飯を食べていたら、飯が突然蒸発するように消失してからはそのようにして摂っていた。食いしん坊猫としては飯を途中で奪われる、飯を途中で中断させられるのは許せる事では無かったのだ。
「にゃー」
猫は考えた。
主を殺したニンゲンを殺すにはどうすればいいかを。どれくらいの強さになれば、安心して狩れるかを。
人は群れを好み、自分よりも弱い生き物を寄って集って甚振ることを好むのを知っている。猫にとって人は己のたった一人の主だった者以外、信用してはならない、と。
ならば強くなればいい。どんなに数が多かろうが、卑劣な手を使って来ようが、それを圧倒出来る力を持てばいい。
幸い、主を殺したヤツらの臭いは覚えている。今自分は弱い。耐えるしかない。強くなる為の、時間。
「にゃぁん」
気の抜ける鳴き声とは裏腹に、強化されたスピードから繰り出された凶悪な爪の一撃で、自分の数倍はある大きな猪型モンスターの首はザックリと半分程切り裂かれて地に沈んだ。
まだビクンビクンと動いているから直ぐに肉は消えない。なので猫は急いで新鮮な肉の美味な箇所へ喰らいつく。慣れた手つきで爪で毛皮を剥ぎ、邪魔な肉を削ぎ取り美味い箇所の更に中心部分を美味しそうに食べていった。
殺して、食って、殺して、食って......そうすれば、強くなれると信じて今日も殺し、喰らう。絶えず襲い来る空腹感と寂しさを誤魔化す為でもあるが......
何でも食べられる能力は得たが、元飼い猫という事でグルメすぎる舌になっていた猫は食欲に忠実であり、少しでも美味しく食べる努力はする。
そんな猫の今一番欲しいのは恥辱と引き換えにしてでも欲しかったあのチュ〇ル。それも主の手で直接食べさせて欲しいという叶わぬ夢が添えられていた。
猫の情緒は――まだ安定していない。
「にゃうん......」
もう一度一緒に過ごせるなら、幾らでも愛想を振り撒くのに......それが叶わぬ事とわかっているが、一度思い出してしまえば思考せずにいられない。
どんどん気持ちが落ち込んでいく。目からは涙が溢れてきて止まらない。
「グルルルルルァッ!!」
しかし何時までも感傷に浸ってはいられない。猫が今居る場所はダンジョンなのだから。
血の臭いに惹かれてやってきた狼型モンスターが背後から隙だらけな猫を襲う。
「......ぅ゛ニ゛ャァァァァッ!!」
ペットモードから野生モードへ瞬時に切り替え、邪魔をするな!! とばかりに、攻撃を避けて首へと噛み付き......そのまま危なげなく首を噛み折って急遽始まった戦闘は終了した。
「フーーーーーッ」
昂った気持ちを制御するように怒気を込めて周囲を威嚇して......も落ち着かなかったので、腹いせに狼型モンスターを爪でぐっちゃぐちゃに切り刻んでからその場を後にした猫は、そのまま深層へ続く階段方面へと進んでいく。
この階層へはただ食事をしに来ただけである。
日本一有名な山が変化したダンジョンだけあって難易度は高く、人間が殆ど出入りしなくて成長するのに丁度いい狩り場と猫は認識している。なので、初めの頃に潜っていたダンジョンが物足りなくなった辺りからゾワゾワが強い所を探し歩いて見つけた此処へ入り浸っていた。
猫の今の実力で行けるのは八階層。
人間は三階層は未到達。モンスター以外出ない場所で伸び伸びと狩りが出来る此処は、猫が思い描くモノと丁度一致したのであった。
「にゃおん」
まだ全然実力が足りない。
猫は気合いを入れ直してマウントフジダンジョンを進んでいった。
◆◆◆◆◆
猫がマウントフジダンジョンへ籠って三ヶ月が経過した。
二十五階層まで余裕で進める実力を得た猫だったが、此処で完全に行き詰まってしまった。
観光地として有名な富士山だが、実は活火山である。
しょっちゅう噴火する桜島があるので、かなり大人しく美しい見た目の富士山が活火山だと言う事を言われるまで思い出せない人もいたりするくらいだ。
という訳で、マウントフジダンジョンにもあったのである。火山フロアが。
剥き出しの肉球で火山フロアを闊歩は難しい。猫用の耐熱靴装備などは当然ドロップする訳も無く、あっても猫は気に止めずに履こうとはしないだろう。
彷徨い続けていれば何れ耐性は生えるだろうが、猫はそこまで思考が及ばなかった。
「にゃー......」
肉球を火傷して酷い目に遭った猫は決断の時が来ていた。
進むか、別のダンジョンを探すか。
――猫は迷わず別のダンジョンを探すを偉んだ。
第一に主が大好きと言ってくれていた肉球や毛並みに深刻なダメージを与えたくない。野生化しても尚、毛並みの美しさには気を使う猫の誇りな部分。それを守る為に必要な措置であった。
第二に火山フロア以前の階層だともう殆ど経験値が得られないから。
第三に海産物やチ〇ールが食べたかった。
以上の理由から退散を決めた猫は、最後にと美味しい猪を食べてからダンジョンを出ていった。
◆◆◆◆◆
久しぶりに主と過ごした街に帰ってきた。
猫が過ごしていた頃とはもう何もかも違っているけど、それでも猫にとって思い出の地である事は変わらない。
主と出逢った公園は面影も何もなかった。
病院というのに連れていかれる時に何度も通った忌々しい道も面影は殆どない。
バズったという時に嬉しそうにしている主に連れていかれたペットショップは荒れ果てていた。好きだった猫缶があったので爪で缶を切り裂いて食べた。
主とずっと暮らしていた縄張りは、壊されて無惨な事になっていた。猫は目に涙を浮かべながら静かにその場を去っていった。
無惨な縄張りを見て怒りが再燃した猫はその日以降、ダンジョンに五日出勤、主の仇探しに二日使う生活を続けた。
マウントフジダンジョンと違って人間は多く、猫だからなのかモンスターと間違えられているのかはわからないが、襲われる事も多かったので返り討ちにして喰らったりもした。
返り討ちにした人間を殺した時、経験値が入った事は猫にとっては想定外で嬉しかった。人間もモンスターと変わらないんだと。そして、食べれば追加で経験値が入るのも知っているので効率も上がり一石二鳥。
これからは仇との戦いの前哨戦として人間も積極的に狩っていくと決めた猫の行動は変わった。
ふだんモンスター相手に狩りをしている時間を減らし、帰り道すがら人間も狩って食べるようになった。そうなると人間相手の戦闘経験値とレベルアップ用の経験値で成長は加速し、初めの方は人間の読めない動きと連携に苦戦してそこそこ被弾していたのが無くなるようになる。
自身の成長はそれだけに留まらない。ステータス上昇に因って上がった身体能力の上手い使い方、人間の急所への当て方、連携の隙、人間達の大凡の戦闘能力の把握、効果的な甚振り方などなど、乾いたスポンジが水を吸収する勢いでどんどん学んで行った。
結果、ダンジョン七不思議に数えられる迄の存在となった。
そして、満足いく仕上がりになった猫はダンジョンはそこそこに主の仇討ちの方へ傾倒していく事を決める。猫の身軽さと猫じゃない身体能力で日夜走り回り、強さにモノを言わせて野良猫を支配して一大コミュニティを作成した。
仇討ちにシフトして、十三日......猫コミュニティをフルに使って漸く主の仇と思しき人間を補足する。
「......にゃあ」
ヤツらが今居る場所は、都内水道局ダンジョン。ヤツらのヤサはそのダンジョンから主の縄張りの丁度中間地点程。
猫にあるまじき邪悪な笑みを浮かべた猫は、野良猫達をヤサ周辺で待機させ、もしヤサから出たヤツがいれば追跡し猫がダンジョンから出てきたら教えろと命令を下してからダンジョンへ向けて駆け出していった。
「フシャァァァァァァァッ!!」
「今いい所なんだからどっか行ってよ!! 何なのよこの猫はっ!?」
仇を求めてダンジョンを進んで行った猫は、ボス部屋前の扉で「あー早くどっちかピンチにならないかな」と待機していた七不思議の一つ「背後から刺す女」とカチ合ってしまっていた。
尋常ならざる濃い血の臭いが染み付いた女に即座に臨戦態勢になった猫と良い所での乱入に焦る女。
果たして両者の未来はどうなるのだろうか――
──────────────────────────────
女の詳細は101、102、106話参照
一日籠って外に出て変なのに肉球押し付けてステータス更新、一度やすんでからまた籠っては出て肉球スタンプというルーティンを繰り返した。
食事は腹が空いたら生きているモンスターを噛みちぎって戦いながら摂取している。倒した後にゆっくりと飯を食べていたら、飯が突然蒸発するように消失してからはそのようにして摂っていた。食いしん坊猫としては飯を途中で奪われる、飯を途中で中断させられるのは許せる事では無かったのだ。
「にゃー」
猫は考えた。
主を殺したニンゲンを殺すにはどうすればいいかを。どれくらいの強さになれば、安心して狩れるかを。
人は群れを好み、自分よりも弱い生き物を寄って集って甚振ることを好むのを知っている。猫にとって人は己のたった一人の主だった者以外、信用してはならない、と。
ならば強くなればいい。どんなに数が多かろうが、卑劣な手を使って来ようが、それを圧倒出来る力を持てばいい。
幸い、主を殺したヤツらの臭いは覚えている。今自分は弱い。耐えるしかない。強くなる為の、時間。
「にゃぁん」
気の抜ける鳴き声とは裏腹に、強化されたスピードから繰り出された凶悪な爪の一撃で、自分の数倍はある大きな猪型モンスターの首はザックリと半分程切り裂かれて地に沈んだ。
まだビクンビクンと動いているから直ぐに肉は消えない。なので猫は急いで新鮮な肉の美味な箇所へ喰らいつく。慣れた手つきで爪で毛皮を剥ぎ、邪魔な肉を削ぎ取り美味い箇所の更に中心部分を美味しそうに食べていった。
殺して、食って、殺して、食って......そうすれば、強くなれると信じて今日も殺し、喰らう。絶えず襲い来る空腹感と寂しさを誤魔化す為でもあるが......
何でも食べられる能力は得たが、元飼い猫という事でグルメすぎる舌になっていた猫は食欲に忠実であり、少しでも美味しく食べる努力はする。
そんな猫の今一番欲しいのは恥辱と引き換えにしてでも欲しかったあのチュ〇ル。それも主の手で直接食べさせて欲しいという叶わぬ夢が添えられていた。
猫の情緒は――まだ安定していない。
「にゃうん......」
もう一度一緒に過ごせるなら、幾らでも愛想を振り撒くのに......それが叶わぬ事とわかっているが、一度思い出してしまえば思考せずにいられない。
どんどん気持ちが落ち込んでいく。目からは涙が溢れてきて止まらない。
「グルルルルルァッ!!」
しかし何時までも感傷に浸ってはいられない。猫が今居る場所はダンジョンなのだから。
血の臭いに惹かれてやってきた狼型モンスターが背後から隙だらけな猫を襲う。
「......ぅ゛ニ゛ャァァァァッ!!」
ペットモードから野生モードへ瞬時に切り替え、邪魔をするな!! とばかりに、攻撃を避けて首へと噛み付き......そのまま危なげなく首を噛み折って急遽始まった戦闘は終了した。
「フーーーーーッ」
昂った気持ちを制御するように怒気を込めて周囲を威嚇して......も落ち着かなかったので、腹いせに狼型モンスターを爪でぐっちゃぐちゃに切り刻んでからその場を後にした猫は、そのまま深層へ続く階段方面へと進んでいく。
この階層へはただ食事をしに来ただけである。
日本一有名な山が変化したダンジョンだけあって難易度は高く、人間が殆ど出入りしなくて成長するのに丁度いい狩り場と猫は認識している。なので、初めの頃に潜っていたダンジョンが物足りなくなった辺りからゾワゾワが強い所を探し歩いて見つけた此処へ入り浸っていた。
猫の今の実力で行けるのは八階層。
人間は三階層は未到達。モンスター以外出ない場所で伸び伸びと狩りが出来る此処は、猫が思い描くモノと丁度一致したのであった。
「にゃおん」
まだ全然実力が足りない。
猫は気合いを入れ直してマウントフジダンジョンを進んでいった。
◆◆◆◆◆
猫がマウントフジダンジョンへ籠って三ヶ月が経過した。
二十五階層まで余裕で進める実力を得た猫だったが、此処で完全に行き詰まってしまった。
観光地として有名な富士山だが、実は活火山である。
しょっちゅう噴火する桜島があるので、かなり大人しく美しい見た目の富士山が活火山だと言う事を言われるまで思い出せない人もいたりするくらいだ。
という訳で、マウントフジダンジョンにもあったのである。火山フロアが。
剥き出しの肉球で火山フロアを闊歩は難しい。猫用の耐熱靴装備などは当然ドロップする訳も無く、あっても猫は気に止めずに履こうとはしないだろう。
彷徨い続けていれば何れ耐性は生えるだろうが、猫はそこまで思考が及ばなかった。
「にゃー......」
肉球を火傷して酷い目に遭った猫は決断の時が来ていた。
進むか、別のダンジョンを探すか。
――猫は迷わず別のダンジョンを探すを偉んだ。
第一に主が大好きと言ってくれていた肉球や毛並みに深刻なダメージを与えたくない。野生化しても尚、毛並みの美しさには気を使う猫の誇りな部分。それを守る為に必要な措置であった。
第二に火山フロア以前の階層だともう殆ど経験値が得られないから。
第三に海産物やチ〇ールが食べたかった。
以上の理由から退散を決めた猫は、最後にと美味しい猪を食べてからダンジョンを出ていった。
◆◆◆◆◆
久しぶりに主と過ごした街に帰ってきた。
猫が過ごしていた頃とはもう何もかも違っているけど、それでも猫にとって思い出の地である事は変わらない。
主と出逢った公園は面影も何もなかった。
病院というのに連れていかれる時に何度も通った忌々しい道も面影は殆どない。
バズったという時に嬉しそうにしている主に連れていかれたペットショップは荒れ果てていた。好きだった猫缶があったので爪で缶を切り裂いて食べた。
主とずっと暮らしていた縄張りは、壊されて無惨な事になっていた。猫は目に涙を浮かべながら静かにその場を去っていった。
無惨な縄張りを見て怒りが再燃した猫はその日以降、ダンジョンに五日出勤、主の仇探しに二日使う生活を続けた。
マウントフジダンジョンと違って人間は多く、猫だからなのかモンスターと間違えられているのかはわからないが、襲われる事も多かったので返り討ちにして喰らったりもした。
返り討ちにした人間を殺した時、経験値が入った事は猫にとっては想定外で嬉しかった。人間もモンスターと変わらないんだと。そして、食べれば追加で経験値が入るのも知っているので効率も上がり一石二鳥。
これからは仇との戦いの前哨戦として人間も積極的に狩っていくと決めた猫の行動は変わった。
ふだんモンスター相手に狩りをしている時間を減らし、帰り道すがら人間も狩って食べるようになった。そうなると人間相手の戦闘経験値とレベルアップ用の経験値で成長は加速し、初めの方は人間の読めない動きと連携に苦戦してそこそこ被弾していたのが無くなるようになる。
自身の成長はそれだけに留まらない。ステータス上昇に因って上がった身体能力の上手い使い方、人間の急所への当て方、連携の隙、人間達の大凡の戦闘能力の把握、効果的な甚振り方などなど、乾いたスポンジが水を吸収する勢いでどんどん学んで行った。
結果、ダンジョン七不思議に数えられる迄の存在となった。
そして、満足いく仕上がりになった猫はダンジョンはそこそこに主の仇討ちの方へ傾倒していく事を決める。猫の身軽さと猫じゃない身体能力で日夜走り回り、強さにモノを言わせて野良猫を支配して一大コミュニティを作成した。
仇討ちにシフトして、十三日......猫コミュニティをフルに使って漸く主の仇と思しき人間を補足する。
「......にゃあ」
ヤツらが今居る場所は、都内水道局ダンジョン。ヤツらのヤサはそのダンジョンから主の縄張りの丁度中間地点程。
猫にあるまじき邪悪な笑みを浮かべた猫は、野良猫達をヤサ周辺で待機させ、もしヤサから出たヤツがいれば追跡し猫がダンジョンから出てきたら教えろと命令を下してからダンジョンへ向けて駆け出していった。
「フシャァァァァァァァッ!!」
「今いい所なんだからどっか行ってよ!! 何なのよこの猫はっ!?」
仇を求めてダンジョンを進んで行った猫は、ボス部屋前の扉で「あー早くどっちかピンチにならないかな」と待機していた七不思議の一つ「背後から刺す女」とカチ合ってしまっていた。
尋常ならざる濃い血の臭いが染み付いた女に即座に臨戦態勢になった猫と良い所での乱入に焦る女。
果たして両者の未来はどうなるのだろうか――
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女の詳細は101、102、106話参照
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