血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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異文化交流

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 何層まであるかわからない激ムズダンジョンの奥深く、伝統的な中世ナーロッパ調の街が有った。

「......えぇぇ」

 流石に今の格好では不審者認定確実、小説とかでありがちな裁判は無しで有罪及び罪の割りに重い刑罰コースなのは間違いない。

「戦術的撤退」

 一度、階段まで戻った。



 ◆◆◆◆◆



 一度戻った階段で腰掛けながら、匠は頭を抱えて今後の行動指針を考え込む。というのはかなりオブラートな表現力で、実際はこれから現住人とコンタクトするのを考えると腰が重くなり、まるで超強力な瞬間接着剤のCMのように階段と尻が結着していた。

「どうせこの中でもあのクソゴミクズ悪魔の呪いが発動していつもの様になるんでしょ......はぁぁぁぁ、顔を顰められたりイラッとした感情が伝わった瞬間に金砕棒しちゃいそうで怖い......あ、いやでも待てよ、そういえば此処ってダンジョンの中だから、文明作って暮らしてるヤツらをぶち殺してもお咎め無し、経験値と血液補充出来て、それでいて人型ぶっ殺す練習になるから......いいフロアじゃん!!」

 人として生きていた頃の嫌な事、若干トラウマになっている出来事を思い出して湧き出てきた憂鬱さに動きたくなくなっていたが、よくよく考えて見れば、嫌な思いを我慢する必要は無く、ただただストレス解消を兼ねたダンジョンモンスタージェノサイドが可能なボーナスステージであると気付く。
 となれば現金なモノで一気に上機嫌となり、いそいそと洋服に着替えて準備を整えていった。

 ババアブランドのオサレなパーカーとちょっとお高めなズボン、アクセントで金砕棒とナイフ。カジュアルでありながらワイルド蛮族さを残したスタイルでキメた匠は意気揚々と街へ向けて歩き出した。

 匠、初めての異文化交流。はじまりはじまり。



 ◆◆◆◆◆



『FUCK』
『SHIT』

「............」

 英語が得意じゃない俺でもわかる。
 どうやら俺はダンジョン民に全く歓迎をされていないようですね。とりあえずコイツらは人間の様な見た目をしている。
 目の前では門番らしき兵士が八人、取り囲んで刺股のあの首とかに押し付ける部分が超トゲトゲなヤツを俺に向けて来ていた。

『KILL HIM?』
『KILL IT』

 そしてその後ろで偉そうな服を来たムキムキとデブが俺の処遇を話し合っているようだ。多分だけど「アレ殺す?」「殺っちゃえ」って感じだと思う。
 まぁ、ね、気持ちはわかるよ? でもさ、もう少しだけ優しくして欲しいのよ。目が合った瞬間にオゥジーザスみたいなリアクションされると悲しくなるんだけど。

 ......いいや、殺そう。そして殺し尽くしてから階段を探そう。そうしよう。

 もう、ババアと悪魔さん以外に期待なんかしない。味方してくれる人が二人も居れば充分すぎる。

「穏便にさ、通してくれない?」

『HAHAHA』
『SCREW YOU』

 日本人がモノマネするオーバーなアメリカ人のようなリアクションからのなんかよく聞かない言葉を言われた。何言ってんのかわからんけど、ヤツらのニヤけ具合いからきっとファックとかと似たようなものだと思われる。
 溜め息の後、パーカーを脱いで収納にしまい、クソムカつくデブとマッチョへニッコリ微笑んだ。

「そっか、じゃあ死ね」

 ずっとぬるぬるしたのを履いていたからなのか、歩法的なのを使うと明らかに滑らかに動けるようになっていた。これはきっと怪我の功名的なヤツだろう。

 突然の動きに全く反応出来ない刺股モブに笑いそうになりながらクッソムカつくツラで嘲笑っていたムキムキにナイフを投げ付けてあげた。後はデブも含めて適当に殺ってくれるでしょう。アレらは逃がしたくなかったからね。

『GYAAAAAAAA!!』
『AHHHHHHHHHHHHHH!!』

「おら! デブとムキムキをさっさと食って戻ってこい!!」

 なんかこんな鳴き声を出すモンスター居たな、なんて思いながらムキムキから視線を剥がして漸く反応を見せた刺股モブA~Hを見る。天狗のお面の人じゃないけど、反応が遅い! と、モブの内の一匹に金砕棒で横っ面を叩く。

 ――メシャッ

「......アハッ」

 頭部に詰まっていた中身がパパパッと飛び散り地面と残りのモブの顔を汚す。信じられないモノを見る顔で匠とカオナシを交互に見やる生き残ったモブが居た。

「キヒッ......人型の生き物を殺すの、気持ちいぃぃぃぃ!!!」

 モンスターとも違う、どこか独特の感触が手に伝わってくると堪らず叫んでしまった。柔らかく、脆さの中に一つの硬さ、飛び散る血と脳漿の芳しい香り。どれも素晴らしい。

 ──────────────────────────────
 オールトゥギャザードッペルシャドウ
 レベル:57
 生涯に一度切り、人型の対象をほぼ完璧に模倣できる
 更に模倣した相手を食えばステータスが二倍になり能力も十全に発揮できるようになる
 ──────────────────────────────

「......えっ!? 怖っ!!」

 名前長いなぁって感想だったけど、鑑定文を見て一気に昂っていた気持ちが冷めた。コイツらは今すぐ殲滅しないと拙い。
 小説では結構良く見る自分自身のコピーとの戦いだけど、そんな生易しいアレにはならない。もし俺をコピーされでもしたら洒落にならない程の超絶泥試合が待っているのだから。

「――オラァッ!!」

 四方から迫ってくる刺股の連撃を避けながら、この街を速やかに殲滅をする覚悟を決めて金砕棒を振るう。多分子どもとかも居るけど、中身は全て人をコピーして食った化け物なのだから気に病む必要なんてないのが救い。

「あのクソゴミ共を殺る時の為の練習台になってくれよなァ!!!」

 金砕棒の振り終わりに首を狙った刺股を掴んで思いっきりこちらへと引き寄せ、バランスを崩しながら寄ってくるシャドウの顔面に魔化させた膝を突き刺す。

『AHHHHHHHHHHHH!!』
『GRAAAAAAAAAAA!!』
「アハハハハハハハハッ!!」

 絶えず響き渡る悲鳴と怒号と嗤い声と触手のコントラストに惹かれたオーディエンスが続々と街から出てくるのを【空間認識】が教えてくれる。

 剣、杖、盾、槍と多種多様な武器を携えた殺気立つ武装カニバ集団がご到着。......いいね、大乱闘は歓迎だ。

「オラァッ!! とっととかかって来いやァ!!」

 火の玉、水の槍、雷、鎌鼬、土埃等、魔法攻撃の雨霰を避けたり食らったり打ち返したりしながら、新規でご到着した集団へ突っ込んで金砕棒を振るう。
 途中からナイフも参戦したのか、触手がウネウネしているのがわかる。ありがとうナイフ。

『KILL THAT!!』
『MOTHER FUCKER!!』
『SHIIIIIIIIT!!』

 汚い言葉を叫びながら攻撃してくるのに合わせてカウンターで合わせた金砕棒が敵を破壊する。コイツらの仲間意識は同族だからか、ベースとなった人の感情なのか。まぁどっちだっていい。

 集団で少数を囲んで甚振るようなヤツらなんて自分や仲間がやり返された時の想像なんてしていないカス共なんだから。ほら、そろそろ冷静になったヤツらが恐慌に陥るぞ。

「ヒャーーーッハァ!!」

 手は決して緩めない。背を向けて逃げるのであれば、殺すのは容易い。

『OH MY GOD......』

 逃げたシャドウは振り返り、目前に迫った金砕棒を見て絶望の表情を浮かべ......

「モンスターが一丁前に絶望してんじゃねぇよ!! 死ねやァ!!」

 俺ももう人じゃないからコイツの事を言えないなと思いながらも、目の前のソレの元になった人物の行動の真似にイラッとしてしまい、一切の加減無く過剰すぎる程力の込もった金砕棒の一撃でシャドウを叩き潰した。

『AHHHHHHHHHHHH!!』
『AHHHHHHHHHHHH!!』
『AHHHHHHHHHHHH!!』

 イケ好かない野郎を叩き潰した爽快感の余韻に浸っていた俺の耳に金切り声が飛び込んでくる。
 ウルセェなと思いながら振り返ってみると、遠くから般若の形相をした女の個体が三匹、解体用と思われる包丁やナイフを手に走ってきていた。ああいうタイプは母親という名のモンスターの影響か、とても嫌い。

「うるっせぇ!! 行けヒヨコ!!」

 丁度、ヒス女が走って来る方向は戦闘に向かない系の集団がたんまりと溜まっていたので、一気に潰してやろうという考え。
 ひよこを差し向けたヒス女には目もくれず、戦意喪失気味のシャドウの武装集団へと躍り懸かる。

 さぁ、死ね。

 死にたくないなら、必死で抵抗しろ!!




 悲鳴と爆音と火力調整を失敗したバーベキューの臭い、木を蹴っ飛ばしたら大量の虫が落ちてきたような音、後ろを振り返って確認し、大爆笑してやりたい気分になるのを必死で堪える。

 爆炎と熱風を背に、金砕棒を構えた匠は怯えるシャドウの群れへとにじり寄っていった。
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