血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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擬態

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 レベルは3アップ、スキルアップは無し。
 似たようなスキル構成という事で回収血液は無し。ナイフが肉を食べただけ、魔石は多分頭にあって黒焦げの石的なのが残った。持ったら崩れた。

 面倒な癖にリターンがクソ......

 結論、ヴァンパイア嫌い。

 次に遭遇したら頭に手ぇぶち込んで魔石を直接引っこ抜いてやろうと思っている。それで死なないのなら頭にヒヨコをぶち込んで終わらせる。アイツらはマトモに戦うだけ無駄。

 徒労に終わった討伐で収穫は皆無だけれども一つだけ重要な情報は得られた。ここら一帯のモンスターはヴァンパイア程度の死んだフリを見抜けないアホモンスターがほとんどだって事。
 この推測がもしハズレていても、ヴァンパイアに食われるような雑魚以外には死んだフリ程度で見逃される存在。となれば自分もヤバい時には死んだフリをすれば見逃される可能性大だ。

 そんな事を考えながら歩いていくと扉付きの部屋が現れた。ソーっと扉を開けて中を覗いてみると、壺と宝箱が沢山ある部屋だった。

「......あー、あれだ。擬態モンスターがいっぱい居るってオチだろこの部屋。当たりは壺と宝箱共に一個ずつあればいいんだろ、どうせ」

 これを見て「よっしゃあ! 宝箱いっぱいあるボーナス部屋だぁ!」のような感じになるほど自分は純粋ではない。このダンジョンに入りたての頃ならば似たようなリアクションをしたかもしれないけど......
 ババアと悪魔さん以外の事は基本的に疑わないと痛い目に遭う。これは自分がこのダンジョンで身を以て学んだ事実である。本当にふざけんなと思う......

 ......さて、前置きはそのくらいにして。
 罠があろうが無かろうが、この中に入らない事には先に進めないんだよね。一本しか道が無いんだもの。

 先にヒヨコを使って部屋の中を掃除したい所なんだけど、それをすると当たりのモノまで爆散してしまうから却下。地道に殺るしかないだろう。

「......だめだ、良い案なんて出ないや畜生」

 このダンジョンは本当に意地が悪い。作ったヤツには絶対に鈍器フルボッコ&ヒヨコのフルコースを喰らわせてやる。

 そんな決意と共に中へと入り、いつも通りの準備を終わらせ宝箱と向き合う。この状況を好転させる為に自分が何を試したか結果を見ていて欲しい。


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 宝箱(黒檀)
 レベル:――
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 宝箱(黄金)
 レベル:――
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 宝箱(鋼鉄)
 レベル:――
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 宝箱(白銀)
 レベル:――
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 ──────────────────────────────
 壺
 レベル:――
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 ミミックとかあくまのつぼとか、もしかしたら出てくるんじゃないかなぁと期待して一つ一つ簡易鑑定を試していったのだけれど、まさかのモンスターと同じような表記で出てきやがった。
 アイテムなら違う表記なのでこれら全部モンスターかと思いきや、よーく見てみれば材質が出ているので本当にわけがわからない。

 簡易鑑定では見破れない処置が当たり外れどちらにもされているのか、これら全て擬態したモンスターなのかの二択だろう。罠の有無も見破れていない。

「ごちゃごちゃ色々考えるけど、最後には手詰まりして結局力業になってしまうな......もう思考放棄して場当たり的な行動した方がいい気がしてくる」

 知的生命体に与えられたギフトである思考する力、これがまぁ悉く機能してくれない。無鉄砲に突っ込んで痛い目に遭うのを反省して考えるようにしているけど、足りない頭で必死に考えて絞り出したモノは結局早々に破綻して脳筋プレイになる。
 ならばもう、全てかなぐり捨てて考える工程を無くしてもいいんじゃないか? こう思ってしまうのは仕方ない事だろう。

「もういいや、罠ごと食い散らかしてやる」

 脳筋ゾンビVS罠師......戦いのゴングが今、鳴らされた――



 匠は徐に自身から一番近くにあった宝箱に向き合い、警戒を微塵も感じさせない動きで宝箱に手を掛け、躊躇無くそれを開く。

 ――ミミックと云うモンスターは、その一生の殆どを只管擬態して過ごすという事以外の生態が謎に包まれているモンスターである。
 ババアの元居た世界にある、とある研究機関に依る調査報告書には......

『ダンジョン及び洞窟、放棄された塔や廃屋にいつの間にか現れて棲みつく。密閉性に優れた見回りの頻度が少ない宝物庫などにも何処からか現れて棲みついたケースも報告されている。
 簡易鑑定、初級鑑定に加え中級鑑定をも弾くので、現場に出る冒険者にはまず判別できず、毎年少なくない冒険者が犠牲になっている。
 一度棲み処を見つけるとそこからは滅多に移動せず、擬態能力を磨き上げると言われている。長い時を経た個体ほど擬態の性能は上がり豪華な装いになる。???→木材→鉄製→鉱物→宝石→???の順にミミックは防御力が増していくようである。鉱物以上になると魔法への耐性が跳ね上がる。
 ミミックは周囲に漂う魔力を吸収して成長する、接地面から根のような物を伸ばし鉱物等を取り込み変質する、エサとなる人や動物を殺し成長する、ヤドカリのような生態、スライムのような不定形モンスター、ゴースト、レイスの変質体......等、様々な推測が立てられているが、周囲で生態を観察されていると感じたらいつの間にか消えているので未だに真相究明には至っていない謎に包まれたモンスターである。
 唯一解っている事は、魔石に相当する部位が高額で取り引きされている事、極稀に貴重な魔道具をドロップする事。なのでミミックを見掛けた場合リスクを恐れず挑む事を推奨されている』

 この報告から解るように、不可思議なモンスターなのである。そんなモンスターが大量発生しており、且つその派生モンスターまで陳列しているこのエリア、研究者やミミック専門のハンターからしたら垂涎物の状況だろう。
 だが、匠からしてみればただただ面倒なだけにしか感じておらず、今に至ってはミミックには吸える血液があるのだろうか? と考えている始末である。

 さて、そんな相手に匠が選んだ攻略法とは――




「とりあえず上の蓋を金砕棒でぶっ壊せば安全に中身確認出来てミミックを殺せるな」

 ミミックの真横に立ち、野球のティーバッティングのようにスイングして上の蓋をぶち壊す事を選んだ。
 主要攻撃と思われる開けた瞬間の噛み付きは横に移動している事でワンテンポ遅らせ、もしミミックではなく当たりの宝箱で罠付きだったとしても正面じゃなければ対処は容易いだろうという思い付きからの行動。

「もしここの宝箱が正攻法で開けなければ中身がダメになるような悪辣な罠付き宝箱だったら......中身は諦めて憂さ晴らしに全て破壊してやるッ! 先ずは一つ目......っしゃオラァァッ!!」

『■■■■■!!』

 どうやら宝箱はミミックだったようで、汚い声を上げて消滅していった。残ったのは粘液塗れの綺麗な魔石が一つ。

「......なんだ、ここボーナスステージじゃん」

 残念ながら付着していた粘液は吸収出来ないただの汚物だったが、高値で売れそうな魔石が拾えたのはラッキーだった。

「ワンパンで殺せて稼げる......こういうほのぼのとした討伐も楽しいなぁ......アハハッ!!!」


 本来こういう倒し方はされない高耐久、耐魔法を持つミミックだったが、ただでさえ脳筋ビルド野郎の金砕棒フルスイングにスキルが乗ってしまい、ワンパンキルという結果になった。
 耐久力も宝箱前提の擬態故、正面は耐久高く、側面背面は正面よりも脆く出来ていたのもこの悲劇の一端を担っている。

 異世界人にはミミックが住む世界の常識が通じず、全ての宝箱は笑いながら破壊され、壺は無惨にも調べられること無く叩き割られて経験値とBP魔石に変換されていった。

 余談だが、匠が幸運を50以上に上げていればミミックは魔石以外の物をドロップする未来があったかもしれない......
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