血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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具現

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 戦闘モードからは離れていないが、一度落ち着いた事で戦闘に集中しすぎて忘れていた事柄が徐々に顕著になっていく。

 最初に倦怠感、疲労、そして――渇き。
 これはこのスキルを得た瞬間を除いて、初めて血の貯蔵量が普通の人の身体に流れているであろう量に近付いたのが原因なんだと思う。元々の血液量を下回っていないのにこう思うって事は、自分の身体の人外化が進行しすぎているのか、潤いすぎているのに慣れてしまったかのどっちか......なのかな?
 授業かなんかで見たのか他の何かで知ったのかはわからないけど、確か体重60kgの男性の体内に流れている血液の総量は約5L弱らしい。それで、現在の自分の血液総量は約10Lとかなり心許ないから、この推測はあながち間違ってないかなと思っている。真相は未だ究明されていない。

 さて、貯蔵血液の使用用途としては細かい傷や溶けた箇所、普通の怪我を治したのと......途中から血の蒸気みたいのが身体から出ていたのが原因でここまで減ってしまったみたいだ。多分アレは血をなんやかんやしてスタミナ補正か身体強化してたんだろう。
 いやぁ......一度こう冷静になって思い返してみると、このままブチ切れて戦い続けていたらかなりヤバい状況になっていたみたいっぽい......うん、冷静にさせてくれて有難うワーム。

 と、ここである意味恩人であるワームに目を向けるも、やはり流石に近寄れそうにない暴れっぷり。
 ワームの周りは酸の雨......いや、酸の豪雨であり地面は穴ぼこだらけ、且つ白煙がもうもうと立ち込めていては流石に今の自分では進む事は無理だ。

 さて、自分の状態と相手の現状は多分ちゃんと把握できた。結構ピンチっぽいんだけどまだ慌てるような血の量ではない。
 なのでここからはあの暴れワームを倒す方法を考えていこう。......まぁそんな事言ってももう、ぶっちゃけ二択しかないんだよね。

 → 一、ナイフ
  二、魔法

 シンプルイズベスト。
 何をごちゃごちゃ考えようと結局最後にモノを言うのは有効な攻撃なのである。どっちがより効くかである。

「......魔法だろうなぁ」

  一、ナイフ
 → 二、魔法 ピッ

 ナイフで致命傷を与えるのはぶっちゃけマジで無理。まずナイフをワームに刺すに至る前に血のストックが切れる。
 深く刺す事が出来ればその時点で勝ち確定だろうけど、こちらの取り分血液がちゃんと確保出来るか不安なのと刺さる未来が見えない。ちょっと拡げた傷口なら刺さるかもしれないけど......かなり有効範囲がシビアだから除外。
 それで......選んだ魔法なんだけど、炎で沸騰すると思うから総量は減るだろうけど、なんか血も一緒に吸いそうな色になったナイフに任せておけない。変わるのならばもっと切れ味をどうにかして欲しかった。あのゲームでいう白ゲージらへんまで切れ味よくなれ。

「いつまでも手元に残していたら未練が残るからね、これは一時的に捨てておこう......オラァッ!!」

 タダで捨てるのは勿体ないので、【空間把握】&【投擲】を使って傷口に向けてぶん投げた。激しく動き回っているし刺さったら儲けもの的な心持ちで。

「おっ!? 『Gruaaaaaaaah!!!』うるっせぇ!! んっ............はぁぁぁ!?」

 変に気負わなかったのが良かったのか投げたナイフは吸い込まれるように傷口へ向かっていく。自分が何かを投げたのを察知し、その投げた物の軌道が己の傷口へと向かっているのを認めたワームがこれまでの比じゃない雄叫びを上げ、さらなる変貌を遂げる。

 その変貌振りには、戦闘中......それも最終決戦の前にも関わらず気の抜けた声を思わず出してしまう位に驚いてしまった。投げたナイフはもちろん弾かれた。

「フシュルルルルルルルル......」

 呻き声か鳴き声か......なんか知らないけど大分聞き取りやすくなった。
 姿形は......うん、なんて言うか大芋虫と聞いて想像出来る程度の大きさにまで縮んだ。見るからに硬そう。威圧感も縮んだというのにこれまでとは段違い。
 棘はかなり深く食いこんでいたらしく、あそこまで縮んでいても抜けていない。エッグイよね、あの棘とカエシ。

「アハハッ......これで魔法までダメなら一度退散する事も考えないといけなさそう......」

 手持ちで有効打を与えられる武具は無し、引いたら強力な棘をロストしてしまうからできる事なら引きたくはない。

 白煙も引き始め、お互いの視界がクリアになる。

 ワームも警戒しているのが理解できるが、こちらも「様子見するなら先制攻撃させてもらうよ!」って風に安易には攻められない。

 最初の攻撃が与えるダメージが軽微ならば、相手はもう仕留める為に動き出して手をつけられなくなるだろう。その時撤退出来れば御の字、最悪の場合は死ぬだろうが......まぁ死にたくはないがコレも勝負の結果だ、その時は潔く受け入れよう。

「......ふぅ」

 ワームから目を離さないようにしながらステータスを開き、魔攻に残しておいたポイント10を全て振り分ける。焼け石に水かもしれないが、やらないよりはマシだ。

 ポイントを振り終えたのを確認したら続いて使いたい炎をイメージ。強くイメージすればきっと使える筈。ゾンビ戦の時のように......

 思い浮かべるは強固で堅牢な鎧を溶かす強烈な炎
 続いて避けられても追尾する性能
 最後に――心に沈殿する悪意と殺意の具現化




 ジリジリと互いの距離が詰まっていく。

 匠は一撃に全てを賭けダメなら撤退を狙い、ワームはこれまで同様肉を切らせて骨を断つスタイルは変わらないが被弾しながら仕留める覚悟。

 あと数ミリで互いのキルゾーン

 その時、匠が動いた!


 右手を前に突き出し、思い描いた魔法を放つイメージを込めて言葉を紡ぐ――

「目の前のクソ虫を燃やし......殺せッッ!!」

 魔力を込めすぎたのか、魔力がゴッソリ抜けていく感覚に気を抜けば意識を持っていかれそうになるが口内を噛み締めながら堪え発動を待つ。

 やがて右手に収束していた魔力が圧縮され、朧気ながらも粛々と形を作っていく――

 強烈な熱が辺りに吹き荒れ、その余りの熱にワームは耐えきれず若干後退る。

 この時強引にでも前へ進み攻撃していれば、この魔法が完成する事は無かったかもしれない。このロスした距離は匠に新たな武器を齎した。

 燃え盛る炎は掌サイズにまで圧縮されると落ち着きをみせるとそこから一気に完成へと突き進む。

 そしてその形を成した炎は――

『ピィィィィ』

 死の淵を彷徨う己を容赦無く喰らおうとしたあの悪魔のようなヒヨコの形をしていた。



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 吉持ㅤ匠
 半悪魔
 職業:血狂い

 Lv:20

 HP:100%
 MP:5%

 物攻:200
 物防:1
 魔攻:100→110
 魔防:1
 敏捷:170
 幸運:10

 残SP:10→0

 魔法適性:炎

 スキル:
 ステータスチェック
 血液貯蓄ㅤ残9.2L
 不死血鳥
 部分魔化
 血流操作
 簡易鑑定
 状態異常耐性Lv8
 拳闘Lv8
 鈍器(統)Lv5
 上級棒術Lv2
 小剣術Lv6
 空間把握Lv10
 投擲Lv8
 歩法Lv7
 強呪耐性
 病気耐性Lv4
 解体・解剖
 回避Lv9
 溶解耐性Lv6
 洗濯Lv1
 ■■■■■■

 装備:
 魔鉄の金砕棒
 悪魔骨のヌンチャク
 肉食ナイフ
 貫通寸鉄
 夢魔蚕の服一式
 火山鼠革ローブ
 再生獣革のブーツ
 聖銀の手甲
 魔鉱のブレスレット
 剛腕鬼の金棒
 圧縮鋼の短槍
 迷宮鋼の棘針×2
 魔法袋・小
 ババアの加護ㅤ残高220

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