血塗れダンジョン攻略

甘党羊

文字の大きさ
上 下
77 / 146

保護者

しおりを挟む
『大した持て成しなぞは出来ぬが、此処でなら落ち着いて話せるだろう。まぁ座るがよい』

 鎧の化け物は部屋の隅まで移動したかと思ったら唐突に剣を振るった。かなり上がっていると自負していた自分の動体視力でも納刀した瞬間が辛うじて見えた程度だった。
 ダメだ......勝つイメージは勿論、一矢報いる事すら不可能だ。さっきまでは精一杯抵抗してやろうとか考えていたけど、何も出来ずにストックが尽きるまで殺され続けるのが目に見えている。

 内心驚愕し戦慄していたが、驚くのはこれだけじゃなかった。

 鎧の化け物が剣を振るった先が裂けたのだ。
 ぞぶり――と、身の毛がよだつ様な不気味な音と共に軋んだ音を立ててどんどん広がって行く空間の裂け目。

 コイツに自分が勝てるようになる日は果たして来るのか......

 呆気に取られているこちらの事など気にも留めずに振り返った鎧の化け物は軽い口調で言葉を発する。

『何をしている、呆けていないで着いてくるがよい』

 鎧の化け物にとっては手の内を晒した事には入らない程度の事だろうが、こういった細かい情報でもそれを手に入れられた分だけ殺り合った時の生存確率が上がると思うので有り難く貰っておく。

 おっと、急かされたから早く行かないと......

 と、そんな事を考えながら着いていった先にあったのは、異世界ファンタジーモノでよく見る上流階級の者が住む部屋だった。

(こんな所で落ち着いて話せるワケないじゃんか!! それならばさっきまで居たダンジョンの部屋の方が落ち着いて話せるよ!!)

 今殺り合えば確実に死ぬので、頭に浮かんできた言葉を必死に飲み込み、いつの間にか用意されていた紅茶らしきモノが置いてある位置の椅子へと腰を下ろした。

『では先ずタクミよ、お主は仲間等は居らぬのか? それとも此処へと辿り着く前に死んだのか? あぁ、言葉遣いは気にせんで良いから答えてくれ』

 当たり前のようにこちらの情報がバレていたが、そんなのは今更。それよりも何故そんな事を聞いた? 仲間が居ようが居なかろうが、処理する手間は変わらないだろうに......
 言葉遣いについては有り難い。簡単な敬語くらいなら使えるけど、ガチの上流階級向けの喋り方とかは知らないもん。言葉を全て鵜呑みにしていいのかわからないけど、どっちにしろダメな時はダメだし早い所開き直ってしまった方が楽だろう。

「居ない。偶然が重なってこのダンジョンに一人で落ちてからずっと一人」

『ほぅ......』

 ......本当に気にしていない様子に見える。最初の方でのやり取りの時はしっかりとした場とは違うから見逃されたと思っていたけど......今回は最悪、バッサリ殺られる覚悟はしていた。

『成程、では次だ。本当に■■ル殿については心当たりは無いのであるな?』

「無い。そんな聞き取れない名前の......人? んー、とりあえず人でいいか。そんな名前の人とは会った事も話した事も無い」

『............』

 こちらの答えを聞いた鎧の化け物は考える人の像のようなポーズで何かを思案し始めた。かなり深く思考に耽っているようで、今なら不意打ちすれば当たるかもしれない。

 まぁそんな事はしないが。今はまだ敵とも味方ともハッキリしていないから。

 とりあえず暇なので、目の前の紅茶らしきモノを皮切りに目に付いたモノを片っ端から鑑定していき時間を潰す事にした。

〈魔王国産紅茶〉
〈熱保存ティーカップ〉
〈毒無効化ティースプーン〉
〈無限シュガーポット〉

 ......ヤバい、コレらは超高級なモノだ。もし壊したりでもしたらどうなる事やら......
 目の前の紅茶用のモノを【簡易鑑定】しただけで―――名前だけを見ただけでそう理解させられる。序に鎧の化け物がこちらを害する気が今は皆無な事も。

 知らない方が気楽でいれたと思う。

(このまま鑑定を続けるか否か......それに魔王国なんてモノがあるのか......)

 匠は好奇心のまま、安易に鑑定した事を後悔していた。今では目の前の化け物相手ににタメ口を利ける程開き直ってはいるが、その性根はただの一般時。
 大事にしているであろう、若しくは愛着があるであろう物や、普通に生きていたら一生お目に掛かる事が高級な物を前にすると萎縮してしまうのは仕方のないことなのだ。

(......いや今は情報の方が大事、か。知らなければ良かったと後で後悔する事になったとしてもやるべきだろう。くそっ、こんな落ち着かない気分にさせられるのはどれもこれもこの鎧の化け物が悪い!)

 明らかにこんな階層で出会うモノじゃない鎧に頭の中でこうなった責任の全てを押し付け、半ばやけくそになりながらこのまま鑑定を続ける決意をした匠は本気を出した。

 ............
 ..................
 ........................
〈忌剣 ゾモロドネガル〉

 よく分からない名前付きの家具を鑑定していくと、次第に目の奥が痛み出したが続行。絵画や椅子、鏡台、ベッド、机と......見た目はどれも素晴らしいが、見ていると頭にガンガンと警鐘が鳴り響くので相当な曰くが付いた一品なのだろう。
 家具の鑑定を終える頃には頭痛と寒気にも襲われていたが......次に選んだ鎧の化け物が腰に佩く剣へ目を移した時、これまで見た物品の比では無い圧と悪寒が襲ってきた。
 コレを見続けてはダメだ......と、脳がこれまでになく警鐘を鳴らし続けるが目が縫い付けられたかのように離せずにガタガタと震えだす身体。今すぐこの目を刳り貫かなくては......
 動かすのすら億劫な身体に鞭打ち、両の手を己の目まで誘導し......

『むっ!? お主......阿呆な事を......』

 尋常ではない気配を察した鎧が腰の剣を空間収納で仕舞った所で匠は苦しみから解放された。手は眼球に触っていて正に危機一髪といった所か。
 匠が再生はすると鎧も理解しているのだが、それでも自傷は見ていて気分の良い行いではない。匠は気付いていないが、とある者の庇護下にある匠を害そうという気は鎧には無いのである。

「はぁっ......はぁっ......」

『何を思いアレを見たかは知らぬが、アレは人の身には過ぎた代物よ......余計な好奇心は身を滅ぼす事もあると知れ。だがまぁ、我がお主を放ったらかしにしていたのが悪い故これ以上とやかく言わぬが......』

「ごめんなさい......」

 このダンジョンに来てから初めてだと思う心からの謝罪をすると、鎧はアレがどれだけヤバいブツだったのかを説明してくれた。

『元はヒトの英雄が持っていたが、英雄の死後同名の■■の王へ渡されると、剣に散りばめられていたエメラルドが変異変質して剣自体が強力な呪物へと変化。■■の王は配下の■■にその管理を任せ、そこから長い時を経て―――』

 とまぁ、こんな感じの禁止ワード込みの説明を受けた。
 鎧も元々■■王の所有する呪物でゾモロドネガルの隣に安置されていたらしい。それが■■王の瘴気か何かを吸い込み続けた事に加え、ゾモロドネガルもまた強力な呪物だった事から干渉を受けてインテリジェンスな鎧に変わり王の所有物から配下へと栄転。その際に相性抜群だったゾモロドネガルを下賜された。

 ■■王の崩御後、俺を庇護している■■ルに拾われてこのダンジョンの一部を与えられた。それからの仕事はたまに来る魔物や侵入者を駆除する程度。
 こちらからしたら気の遠くなる位長い時間、ゆっくり穏やかに暮らしていたら俺が落ちてきて今に至る。らしい。

「なるほど。それで、自分がその人から庇護されているとわかったらしいけど......どうやってそう判断したのか教えてほしい」

『そうだ、それがあったな。少し待っておれ』

 話が一段落した所で思い切って核心を突いてみると、鎧は一度席を外し何かをしにいった。元々そこも話すつもりだったらしく案外すんなりと進んだ。
 部屋へ通されてから結構経ったが未だに冷めない紅茶を飲みながら待機していると、鎧が何かを手に戻ってきた。

『待たせたな。コレなのだがお主も似たようなモノを持っているだろう?』

 その手の中にあるモノは全く知らないが、それが発する気配というのか魔力というのかオーラというのか......よくわからないがその存在が発するソレ自分自身よく知っていた。


「......ババアの店の会員証」

 どうやら目の前のヤバい存在を丸っと匿えるようなもっとヤバい存在が自分を庇護していたようだ。ただ者ではないとは理解していたけど、そこ迄の存在だったのか......嘘だと言ってほしい......
 会員証が無かったら多分この鎧に問答無用で殺されていただろうから助かったから感謝しているんだけどさ......

 出来ればこのままかなり怪しいけど優しい、そんな不思議な婆さんのままで居て欲しかった......
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

処理中です...