血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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捻切/復讐

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 ―――不快だ。

 とても不快。体内に異物が侵入るのはこれで何度目かも分からないくらいだけど、今回のはとても不快だ。
 戦闘の末に刃物を刺し込まれるのは命のやり取りの結果だから仕方ないと諦められる。

 だが、は無いだろう。

 確かに思い込みによる無警戒さでこんな事になってしまったのは自分が悪い。しかし、こんなキリの悪い階層で急に即死罠を仕掛けてくるのは違うだろう。

「クソっ......どうにか頭部は守ったけど、ここからどうすれば抜け出せるのか......」

 異物が刺さった場所が燃えるように熱い。毒か、それともこの謎鉱物の特性なのか。それが更に不快感を増幅させていく。

 痛む箇所や違物感からして足先から大体胸の下ぐらいまで剣山は刺さっている。頭部をどうにか遠ざけようとして下に突き出した手や腕にも、漏れなくビッシリと針は刺さっていて自切しようにもできず、刺さっている針を折ろうにも力は入らず。そもそも金砕棒の一撃に耐えたコレを力がうまく入らない現状で折れる筈は無かった。

「まさかこんなんで詰むとは......」

 考えても考えても、このまま失血死して逝け花になってしまう未来しか見えない。



............

..................


「.........あぁ、そうか......こうすればいいのか。賭けになるけどもういい。失敗した後に自分がどうなろうがどうでもいい」

 身動きが取れないまま時間は過ぎ、ステータスに載っている貯蓄血液が五リットル程減った所で唐突に悟りを開いた。

 このまま緩やかに死を待つだけなのは性にあわない。あぁ、ダンジョンに堕ちる前までの自分ならばそうしたかもしれない。
 それでもこのダンジョンに堕ちて戦いに明け暮れ、生を実感し、成長する楽しみを覚え、奪われる立場から奪う立場に変われた。そんな自分がたかだか罠なんぞに嵌まったくらいで生きるのを諦めかけるとはちゃんちゃらおかしい。

「アハハハハッ!! さぁ伸るか反るかの大勝負と逝こうじゃないか!!」

 生きるか、死ぬか。

 どんなに分が悪い賭けであったとしても、結果だけ見れば唯の二択でしかない。確率は五割だ。

 覚悟を決め、鍛え上げた敏捷と物攻に物を言わせて首を勢いよく捻った。

 流石に一度では無理だったので二度、三度と連続して首を捻って、捻って、捻って......自らの首を蛇口と思って回していく。

 何度もやれば当然勢いがつく。

 身体が固定されていたのでやりやすかったと言っておこうか......最後はシャンパンのコルクが抜けるように大した抵抗も無く首は落ち、身体という支えを無くした頭は床に強く打ち付けられ鈍い音を響かせた。



 ◆◆◆



 ~某市某所~

「あのクズが出て行った所までいいが、何故今の日本はこんな事になってしまっているんだッ!! ド畜生がっ!!」

 プライドは高く、圧倒的強者にだけは媚び諂い、弱者は甚振る。
 他人は基本的に初対面から見下しており、有益か否か、上手く操れそうか否か、自分の傍に置くに値するか否か......それだけを考えて生きてきた。

 妻は美しかった。
 変質する前の世界でなら自慢の妻であり、彼女を連れて外を歩いたり、社交の場に出席する事は何をするよりも優越感を得られた。
 未だ美しく妖艶ではあるが、加齢には勝てず美しさは緩やかに下降線を辿っている。あの女から産まれただけあって美しく育った娘と一緒に抱き、己の衰えを自覚させて楽しもうと思っていた。だが......
 息子? そんなモノは最初から居なかった。

「クソっ!! 今も昔も守ってやっていただろうがっ!! 何故この俺がっ!! 先にアレから見限られなくてはならないんだ!!」

 変質した世界はもう、明確に前の世界とは違う。
 良い会社に勤め、金を稼ぎ、ブランド物で身を固めていればそれがステータスになる世界ではないのだ。
 変わり始めはまだ良かった。現金が使えたから物資を多めに買い漁ればまだ周囲に大きな顔を出来たのだ。

 だが、それは所詮砂上の楼閣でしかなかった......

 工場などが稼働しなくなり需要と供給のバランスが崩壊。人々は物資や資源に群がり減っていった。そうなれば使う機会の無くなった現金はどうなるか。そう、唯の紙切れに成り果てる。
 贅沢に慣れた人間は貧困に耐えられず、限りある物資を節約せずに浪費。周りに居る妻と娘は彼よりもその傾向が強く、気付いた時にはもう遅かった。

「クソっクソっクソっクソっ!! 殺してやる......アイツだけは絶対にッ!! ......チッ、こんな時あのクズが居ればいいストレス解消の道具になったのに......居ても居なくても使えないクズめ」

 変質した世界で求められるモノは強さ。
 ステータスとスキル。

 男だから私達を守る為に頑張ってくれとダンジョンへと送り出された。
 お世辞にも使い勝手は良いとは言えないが、運良く戦闘に使用出来るスキルを得ていたので、何とか最底辺よりは上くらいの暮らしは保証できていた。

「あのクズが居れば、クズだけを働かせて良い思いできていたのに......クソっ!!」

 ―――あの日、手にしていた武器が壊れてしまい早期の帰宅を余儀なくされた。
 早い帰宅となった俺を待っていたのは、俺不在の間に在日米軍の一人と思われる男の上で腰を振り喘ぐ妻、そしてその横でガタイのいい大学生程の歳頃の男のイキり勃った逸物をうっとりした顔で深々と咥え込む娘の姿だった。

「......そうか、そうだよな。何を真面目にやっていたんだ俺は......くくくくく。
 そうだ......ッ!! あんな雌豚如きにかまけてないでもっといい女を手に入れればいいだけじゃないか。何を真面目にやっていたんだ俺は......いつでも支配階級でなければならない男だと言うのにッ!!」

 地震により半壊した家はアバズレにくれてやった
 ボロボロの道路には対応出来そうもない見栄えだけの車も同じく
 金は紙くずだしケツを拭いた
 物資はもう殆ど無い
 あんな妻と娘は要らない
 この歳で全てを失い零からのリスタート
 ―――だが問題はない

「こんな世界の司法なんてあってないようなもの......くくくく、なんだ、やる事はとても簡単な事じゃないか」

『ごめんね貴方......この人がこれからは私を守ってくれるの。贅沢もさせてくれるし愛もくれるの。だから......ね? わかるでしょ?』
『あっパパお帰りなさい。今日は早かったんだね? あっ止めないで!! あの人は気にしないでいいから続きしてよっ』
 俺が帰ってきても何食わぬ顔で、行為を続けながらこんな事を宣うカス共。こんなヤツらの為に働いていたとか情けなくて嫌になる。

「奪い、犯し、殺す。その為に俺は力を付ける必要がある......アバズレ共の機嫌を取ったり、腰を振っていた時間をレベルアップに使う。精々今のうちに楽しんでおくんだな」

 間男共、殺してやるから覚悟しておけ!!
 そう決めてダンジョンへ向かっていく男

 間男の首筋に死神の鎌がセットされた瞬間だった

 ―――だが、復讐を誓った男の首にも、既に死神の鎌が添えられていた事に男は気付いていない



 ★おまけ★

 某パパさんステータス

 ──────────────────────────────

 吉持 浩二
 職業:未設定

 Lv:12

 HP:100%
 MP:100%

 物攻:9
 物防:7
 魔攻:2
 魔防:7
 敏捷:2
 幸運:3

 残SP:0

 魔法適性:-

 スキル:
 槌術Lv1
 精神耐性Lv1(アレの現場見てたら生えた)

─────────────────────────────
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