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自滅
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ザッと見ただけでも三十体以上はいるモンスターが一斉に殺気立つ。
二足歩行のモンスターの方が多い。
動き出しが早かったおかげで相手は虚を突かれた様子を見せている。傍から見れば誤差程度に思えるだろうが、命の遣り取りをしている現場ではこの少しの時間が勝敗を分けるほどに大きい時間である。
「アハハハハッ!」
――乱戦が始まった
一撃で決めなくてもいい......それを心掛けながら、両手に持った金砕棒を敵に向けて振るう。
確殺よりも部位の損壊を狙った攻撃。
長柄の武器による攻撃の最大の特徴は、遠心力を用いた破壊力にある。
刃物のように刃筋や切れ味を心配する事なく、馬上などでぶん回せば心得が無くとも通用する扱い易さを以て圧倒的な質量で相手を壊す武器。
タイマンでもかなり使えるが、それよりも継戦能力が高く乱戦に向いている。
そんな武器を......だ、驚異的な膂力と反射神経を持った人間が攻撃後の隙を減らす為に決して大振りはせずに振るう。それだけでも質量の大きい金砕棒ならば相当な威力になり、相手に取っては脅威になる。
だが、それだけでは勿体ない。例え一撃必殺を目的として造られた凶悪な形と重量の武器だとしても......一撃で終わらずに、振った武器の勢いを殺さずに次の一撃、次の一撃......と、まるで流れるように、遠心力を最大限に利用しながら次々と高威力の一撃を繰り出していく。
ステータスの物攻を上げているので、物理攻撃を目的とした行動にはとても強くなっている。見た目は変わっていないが、物理攻撃に適した肉体に造り変えられたという事。
そんな肉体に加わるスキルの鈍器や格闘術に因って、鈍器を使っての攻撃時には更に肉体ポテンシャルは上がっている。
このスキルの鈍器は、一定以上の重量があり殴る事を主目的にした獲物ならば効果を発揮する......正に彼に最適なスキルだった。
「アハッ! アハハハ! アハハハハハッ!」
――愉しい
思った通りに体を扱える。武器を扱える。
――楽しい
モンスターが次々に戦闘から離脱していく。
――楽シイ
飛び散る肉片
霧のように舞う血煙
汚物や臓物に塗れた地面
人間如きに向ける怯えを孕んだ瞳
敵の攻撃を避ける動きは最小限に、ただし直撃だけは喰らわないように注意しながら。
乱戦状態で全ての攻撃を避けようとすれば最終的に破綻する......なればこそこの肉体が持つスキルを最大限に活かし、空間把握を使いながら受けてもいい攻撃と避けるべき攻撃の取捨選択をしていく。
痛みなんて自分にはもう意味は無い。
生命維持に必要な感覚と言うが、そんな物はルールに守られた試合、平穏な日々にのみ必要な物。
痛みに怯んでしまえば忽ち囲まれ、殺される。止めてくれる審判も、ルールも、医者も居ないのだから。
それに乱戦状態で敵の攻撃を避ければ、フレンドリーファイアになったり、味方である者の邪魔になる。
「勢いが付きすぎて動きが止められなくなったのは反省しないと......最悪の場合は武器を手放せば止まれるかな......アハハハ」
残念な事に肉体の強度はそれまで高くないので、回転の勢いが付きに付きまくった今の自分が無理に止まろうとすれば......その時は膝や腰が捻じ切れるだろう。
ただでさえ遠心力に腕が引っ張られて嫌な音を出しているのだから無理して余計に血液の消費量を増やす必要は無いな......
回転速度をこれ以上上げないように注意しながらこちらの隙を伺うモンスターの群れに向かう。状態異常耐性がいい仕事をしてくれているので、三半規管はまだ正常なままだ。
格闘ゲームでレスラーが両腕を広げて回転する攻撃があったのを思い出す。生命の遣り取りをしているのに何故か可笑しくなっていつもとは違う笑いが零れる。
「ハハハッ」
そうこうしているうちに、気付けば大分モンスターの数が減っている。
ここから先はこの攻撃は必要無いだろう。大した被害は無いままここまで殺れたのは助かる。
持っていた金砕棒と棍棒をモンスターが固まっている場所に向けて手放した。
モンスターを数体吹き飛ばした愛棒を見届け、肉食ナイフを手に持ち自身勢いが収まるのを空間把握で残りを確認しながら待つ。
残りは八体。
だがコイツらは自分には全然脅威ではない。回転していなければ。
生命の遣り取りの最中にコチラの準備が整うまで待ってくれるヤツはいない。そんなヤツが居るとしたら創作物の中だけだろう。
回転が止められず隙だらけな自分は大型の猫に噛み付かれて押し倒される。
そのまま腹を切り裂かれ、腸を引きずり出されて絶命した......
と、普通ならなる所だがそこは流石の再生力。食いちぎられた瞬間に再生し、手に持っていた肉食ナイフを首に刺し込み、一思いに切り裂いた。
残りのモンスターは七体......
押し倒された自分にトドメを刺そうと近付いてきていた鬼が二体居たので、太腿を横に切り裂き足を潰す。
止まれなかった所為で余計な血を使ってしまったが、そのおかげで形勢は整えられた。
「アハハハハッ!! どうした? 自分はまだ生きているぞ!!」
致命傷を受けた筈なのにピンピンしているのを見て戸惑い、コチラへ攻撃するのを躊躇っている様子の敵に、予備の棍棒を手に襲いかかった。
──────────────────────────────
吉持ㅤ匠
Lv:85
HP:100%
MP:100%
物攻:70
物防:1
魔攻:24
魔防:1
敏捷:70
幸運:10
残SP:0
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残62.2L
不死血鳥
状態異常耐性Lv4
拳闘Lv4
鈍器Lv6
簡易鑑定
空間把握Lv5
投擲Lv5
■■■■■■
装備:
魔鉄の金砕棒
肉食ナイフ
布のシャツ※損壊
丈夫なズボン
再生獣革のブーツ
魔鉱のブレスレット
悪夢の棍棒
悪夢の棍棒
丈夫なリュック
厚手の肩掛け鞄
鱗皮のナイフホルダー
ババァの店の会員証ㅤ残高530
──────────────────────────────
二足歩行のモンスターの方が多い。
動き出しが早かったおかげで相手は虚を突かれた様子を見せている。傍から見れば誤差程度に思えるだろうが、命の遣り取りをしている現場ではこの少しの時間が勝敗を分けるほどに大きい時間である。
「アハハハハッ!」
――乱戦が始まった
一撃で決めなくてもいい......それを心掛けながら、両手に持った金砕棒を敵に向けて振るう。
確殺よりも部位の損壊を狙った攻撃。
長柄の武器による攻撃の最大の特徴は、遠心力を用いた破壊力にある。
刃物のように刃筋や切れ味を心配する事なく、馬上などでぶん回せば心得が無くとも通用する扱い易さを以て圧倒的な質量で相手を壊す武器。
タイマンでもかなり使えるが、それよりも継戦能力が高く乱戦に向いている。
そんな武器を......だ、驚異的な膂力と反射神経を持った人間が攻撃後の隙を減らす為に決して大振りはせずに振るう。それだけでも質量の大きい金砕棒ならば相当な威力になり、相手に取っては脅威になる。
だが、それだけでは勿体ない。例え一撃必殺を目的として造られた凶悪な形と重量の武器だとしても......一撃で終わらずに、振った武器の勢いを殺さずに次の一撃、次の一撃......と、まるで流れるように、遠心力を最大限に利用しながら次々と高威力の一撃を繰り出していく。
ステータスの物攻を上げているので、物理攻撃を目的とした行動にはとても強くなっている。見た目は変わっていないが、物理攻撃に適した肉体に造り変えられたという事。
そんな肉体に加わるスキルの鈍器や格闘術に因って、鈍器を使っての攻撃時には更に肉体ポテンシャルは上がっている。
このスキルの鈍器は、一定以上の重量があり殴る事を主目的にした獲物ならば効果を発揮する......正に彼に最適なスキルだった。
「アハッ! アハハハ! アハハハハハッ!」
――愉しい
思った通りに体を扱える。武器を扱える。
――楽しい
モンスターが次々に戦闘から離脱していく。
――楽シイ
飛び散る肉片
霧のように舞う血煙
汚物や臓物に塗れた地面
人間如きに向ける怯えを孕んだ瞳
敵の攻撃を避ける動きは最小限に、ただし直撃だけは喰らわないように注意しながら。
乱戦状態で全ての攻撃を避けようとすれば最終的に破綻する......なればこそこの肉体が持つスキルを最大限に活かし、空間把握を使いながら受けてもいい攻撃と避けるべき攻撃の取捨選択をしていく。
痛みなんて自分にはもう意味は無い。
生命維持に必要な感覚と言うが、そんな物はルールに守られた試合、平穏な日々にのみ必要な物。
痛みに怯んでしまえば忽ち囲まれ、殺される。止めてくれる審判も、ルールも、医者も居ないのだから。
それに乱戦状態で敵の攻撃を避ければ、フレンドリーファイアになったり、味方である者の邪魔になる。
「勢いが付きすぎて動きが止められなくなったのは反省しないと......最悪の場合は武器を手放せば止まれるかな......アハハハ」
残念な事に肉体の強度はそれまで高くないので、回転の勢いが付きに付きまくった今の自分が無理に止まろうとすれば......その時は膝や腰が捻じ切れるだろう。
ただでさえ遠心力に腕が引っ張られて嫌な音を出しているのだから無理して余計に血液の消費量を増やす必要は無いな......
回転速度をこれ以上上げないように注意しながらこちらの隙を伺うモンスターの群れに向かう。状態異常耐性がいい仕事をしてくれているので、三半規管はまだ正常なままだ。
格闘ゲームでレスラーが両腕を広げて回転する攻撃があったのを思い出す。生命の遣り取りをしているのに何故か可笑しくなっていつもとは違う笑いが零れる。
「ハハハッ」
そうこうしているうちに、気付けば大分モンスターの数が減っている。
ここから先はこの攻撃は必要無いだろう。大した被害は無いままここまで殺れたのは助かる。
持っていた金砕棒と棍棒をモンスターが固まっている場所に向けて手放した。
モンスターを数体吹き飛ばした愛棒を見届け、肉食ナイフを手に持ち自身勢いが収まるのを空間把握で残りを確認しながら待つ。
残りは八体。
だがコイツらは自分には全然脅威ではない。回転していなければ。
生命の遣り取りの最中にコチラの準備が整うまで待ってくれるヤツはいない。そんなヤツが居るとしたら創作物の中だけだろう。
回転が止められず隙だらけな自分は大型の猫に噛み付かれて押し倒される。
そのまま腹を切り裂かれ、腸を引きずり出されて絶命した......
と、普通ならなる所だがそこは流石の再生力。食いちぎられた瞬間に再生し、手に持っていた肉食ナイフを首に刺し込み、一思いに切り裂いた。
残りのモンスターは七体......
押し倒された自分にトドメを刺そうと近付いてきていた鬼が二体居たので、太腿を横に切り裂き足を潰す。
止まれなかった所為で余計な血を使ってしまったが、そのおかげで形勢は整えられた。
「アハハハハッ!! どうした? 自分はまだ生きているぞ!!」
致命傷を受けた筈なのにピンピンしているのを見て戸惑い、コチラへ攻撃するのを躊躇っている様子の敵に、予備の棍棒を手に襲いかかった。
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吉持ㅤ匠
Lv:85
HP:100%
MP:100%
物攻:70
物防:1
魔攻:24
魔防:1
敏捷:70
幸運:10
残SP:0
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残62.2L
不死血鳥
状態異常耐性Lv4
拳闘Lv4
鈍器Lv6
簡易鑑定
空間把握Lv5
投擲Lv5
■■■■■■
装備:
魔鉄の金砕棒
肉食ナイフ
布のシャツ※損壊
丈夫なズボン
再生獣革のブーツ
魔鉱のブレスレット
悪夢の棍棒
悪夢の棍棒
丈夫なリュック
厚手の肩掛け鞄
鱗皮のナイフホルダー
ババァの店の会員証ㅤ残高530
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