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マイルール
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なるほど......ナイフに肉を食わせるとこうなる訳なのか。
自分は生きているモンスターからでも血を吸えたから、きっとこのナイフでも生きているモンスターの肉を食わせる事ができると思う。
「血が残っていなかったから本当に知りたいことはまだ知れてないけど、内臓と骨だけが残った事を思うと......多分血は残りそうだね」
潰した頭から、革の中に残った中身を覗いて確認してみると、思った通りに内臓と骨だけが綺麗に残っている。
内臓も食べる事ができるから肉ではあると思うけど......どんな基準で肉かそれ以外を判断しているんだろうか。
それよりも、メイズウルフの残った毛皮......なにかに使えそうでいいね。
「あれだけモンスターを殴り殺したり捌いたりしたから、中身を見る事くらい今更どうってことない。
......アハハッ! 革をかっ切って中に残った内臓で実験しようか」
ナイフで皮を切り、内臓を引き摺り出す。腸や心臓以外はよくわからないので、知っている部位の腸にナイフを刺して「食え」と命令する。
結果は食わず。
――中に残っているモノがあるとダメなのだろうか?
そう考えた彼はナイフで腸を切り裂き、腸に残っていた異物を全て外に出した。
内臓や消化液等の臭い、それと中に詰まっていたモノの臭いが部屋に広がる。
強烈な臭いに顔を顰めながらも、純粋に腸だけになったモノにナイフを突き刺して「食え」と命じた。
結果は変わらず。
一般的に肉と呼ばれている部分以外をこのナイフは食わない......そう結論を出し、ウルフの毛皮で手とナイフを拭いて立ち上がって逃げるように次の部屋へと進んでいった。
「臭かったぁ......血の臭いには慣れたけど、排泄物とかの臭いには慣れそうもないや......殺す時はそこを傷付けないように気をつけよう。やっぱり楽だし、頭を潰して殺すのが良さそうだ」
これまではただ相手を殺すだけだったのだが、自身の手札が増えるにつれてモンスターの殺し方や殺した後の事も考えるようになった。
「今までは自分が血が吸えればよかったけど、このナイフだったり食事だったり......それとモンスターの死体を有効に活用する方法を探さないと......
このまま進めばいつか詰む気がする。なるべく快適にこのダンジョンを進めるようにならないと......」
どういう殺し方をすれば殺した後に残った死体を活用できるのか、殺した後に自分が苦労しないか、など。
そのように考え出すと、普通はモンスターを殺す際に迷いが生じたりするのだが、先程死ぬ事が無いと思えていた自身が死ぬ可能性を見せつけられたので、もうそんな愚は犯さないだろう。
「明確な行動理念を決めていれば、いざという時に迷わない......はずだよね。これはゲームじゃないから、やり直しはきかない」
そうして彼は目標を明確に定めた。
一つ、自分が殺される前に、相手を殺せ
一つ、自分が殺されたり苦戦する可能性が無いのなら、相手の殺し方に拘われ
一つ、その際にイレギュラーが起こりそうな場合は迅速に敵を殺せ
一つ、無力化なんて生温い考えは捨てろ、敵が死ぬまで攻撃を止めるな
......と。
「アハハハハッ......そうだね。これくらいで丁度いい。強敵と戦って死にかけるならまだしも、そこらへんにいくらでも湧くモブに殺されかけるのは許されない」
自分の中で新たに目標を定めれば他に深く考えなくて済み、後はその定めた目標に沿うように行動するだけ。
現実になってしまった空想の産物であるダンジョン。
隣人は愛する物ではなく死が隣人な世界......そんな物にすぐに適応したり、効率的に動けるようになる者は暴力を他人に躊躇いなく振るえる者よりも少ない。
トライアンドエラーを行えない世界で、人が生き残る為に必要な物は何か。
それは単純に覚悟。
極限状態に陥った時に必要なのは肉体の強さよりも、意志の強さだ。
何をしたとしても生き残ろうとする覚悟を持った一般人と、試合感覚の格闘家が殺しあったら......凡そ一般人が勝つだろう。
それ程までに差がある。
ルールが細分化されすぎてスポーツと化している現代の格闘技では、本当の殺し合いには対応する心構えはない。
もしそれでも格闘家が勝てたのならば、窮鼠が猫を噛むような状態になる前に上手く制圧したり、牽制目的で放った攻撃が偶然致命的な一撃を与えてしまったりした、所謂過剰防衛の場合かと。
本気の殺意を抱いた人間や野生動物を相手にすれば急所を貫かれようが直ぐには死なず、止まらない。ダウンしようがそれを止めるレフェリーはおらず、その隙を好機と見て構わず生命を止めようとしてくる。
このように本当に必要な物は相手を倒す技術よりも、絶対に相手を殺すという意志。
覚悟を決めてから、定めた目標に向かって突き進む。浮き上がってきた問題点や細かい調整などは、その時その時で行っていけばいいと考える彼はもう、一般人でも格闘技経験者でも無い......唯の相手の仕留め方を思考するようになった野生動物である。
「アハハハハッ! なんか自分というキャラを操作しているような感覚になってきた。でもこれは悪い気分じゃない......前よりも頭はスッキリしている」
今までは自身を迫害してくるのなら殺せばいいと考えていた彼の色々と拗らせていた思考や倫理が噛み合い、死がすぐ隣にある世界に馴染んだ。
結果、自身が生き残る事を最優先にした現代社会とは相容れない独自の価値観を得るに至る。
「よし、着いたな......敵の数や質は問題無さそうだ......アハハハハッ! 死ね」
新たな部屋に着いた彼は金砕棒を手に走り出す。今までよりも明確になった殺意を滾らせながらも冷静に......如何に上手く敵を全滅させられるかを考え――動き出す。
自分は生きているモンスターからでも血を吸えたから、きっとこのナイフでも生きているモンスターの肉を食わせる事ができると思う。
「血が残っていなかったから本当に知りたいことはまだ知れてないけど、内臓と骨だけが残った事を思うと......多分血は残りそうだね」
潰した頭から、革の中に残った中身を覗いて確認してみると、思った通りに内臓と骨だけが綺麗に残っている。
内臓も食べる事ができるから肉ではあると思うけど......どんな基準で肉かそれ以外を判断しているんだろうか。
それよりも、メイズウルフの残った毛皮......なにかに使えそうでいいね。
「あれだけモンスターを殴り殺したり捌いたりしたから、中身を見る事くらい今更どうってことない。
......アハハッ! 革をかっ切って中に残った内臓で実験しようか」
ナイフで皮を切り、内臓を引き摺り出す。腸や心臓以外はよくわからないので、知っている部位の腸にナイフを刺して「食え」と命令する。
結果は食わず。
――中に残っているモノがあるとダメなのだろうか?
そう考えた彼はナイフで腸を切り裂き、腸に残っていた異物を全て外に出した。
内臓や消化液等の臭い、それと中に詰まっていたモノの臭いが部屋に広がる。
強烈な臭いに顔を顰めながらも、純粋に腸だけになったモノにナイフを突き刺して「食え」と命じた。
結果は変わらず。
一般的に肉と呼ばれている部分以外をこのナイフは食わない......そう結論を出し、ウルフの毛皮で手とナイフを拭いて立ち上がって逃げるように次の部屋へと進んでいった。
「臭かったぁ......血の臭いには慣れたけど、排泄物とかの臭いには慣れそうもないや......殺す時はそこを傷付けないように気をつけよう。やっぱり楽だし、頭を潰して殺すのが良さそうだ」
これまではただ相手を殺すだけだったのだが、自身の手札が増えるにつれてモンスターの殺し方や殺した後の事も考えるようになった。
「今までは自分が血が吸えればよかったけど、このナイフだったり食事だったり......それとモンスターの死体を有効に活用する方法を探さないと......
このまま進めばいつか詰む気がする。なるべく快適にこのダンジョンを進めるようにならないと......」
どういう殺し方をすれば殺した後に残った死体を活用できるのか、殺した後に自分が苦労しないか、など。
そのように考え出すと、普通はモンスターを殺す際に迷いが生じたりするのだが、先程死ぬ事が無いと思えていた自身が死ぬ可能性を見せつけられたので、もうそんな愚は犯さないだろう。
「明確な行動理念を決めていれば、いざという時に迷わない......はずだよね。これはゲームじゃないから、やり直しはきかない」
そうして彼は目標を明確に定めた。
一つ、自分が殺される前に、相手を殺せ
一つ、自分が殺されたり苦戦する可能性が無いのなら、相手の殺し方に拘われ
一つ、その際にイレギュラーが起こりそうな場合は迅速に敵を殺せ
一つ、無力化なんて生温い考えは捨てろ、敵が死ぬまで攻撃を止めるな
......と。
「アハハハハッ......そうだね。これくらいで丁度いい。強敵と戦って死にかけるならまだしも、そこらへんにいくらでも湧くモブに殺されかけるのは許されない」
自分の中で新たに目標を定めれば他に深く考えなくて済み、後はその定めた目標に沿うように行動するだけ。
現実になってしまった空想の産物であるダンジョン。
隣人は愛する物ではなく死が隣人な世界......そんな物にすぐに適応したり、効率的に動けるようになる者は暴力を他人に躊躇いなく振るえる者よりも少ない。
トライアンドエラーを行えない世界で、人が生き残る為に必要な物は何か。
それは単純に覚悟。
極限状態に陥った時に必要なのは肉体の強さよりも、意志の強さだ。
何をしたとしても生き残ろうとする覚悟を持った一般人と、試合感覚の格闘家が殺しあったら......凡そ一般人が勝つだろう。
それ程までに差がある。
ルールが細分化されすぎてスポーツと化している現代の格闘技では、本当の殺し合いには対応する心構えはない。
もしそれでも格闘家が勝てたのならば、窮鼠が猫を噛むような状態になる前に上手く制圧したり、牽制目的で放った攻撃が偶然致命的な一撃を与えてしまったりした、所謂過剰防衛の場合かと。
本気の殺意を抱いた人間や野生動物を相手にすれば急所を貫かれようが直ぐには死なず、止まらない。ダウンしようがそれを止めるレフェリーはおらず、その隙を好機と見て構わず生命を止めようとしてくる。
このように本当に必要な物は相手を倒す技術よりも、絶対に相手を殺すという意志。
覚悟を決めてから、定めた目標に向かって突き進む。浮き上がってきた問題点や細かい調整などは、その時その時で行っていけばいいと考える彼はもう、一般人でも格闘技経験者でも無い......唯の相手の仕留め方を思考するようになった野生動物である。
「アハハハハッ! なんか自分というキャラを操作しているような感覚になってきた。でもこれは悪い気分じゃない......前よりも頭はスッキリしている」
今までは自身を迫害してくるのなら殺せばいいと考えていた彼の色々と拗らせていた思考や倫理が噛み合い、死がすぐ隣にある世界に馴染んだ。
結果、自身が生き残る事を最優先にした現代社会とは相容れない独自の価値観を得るに至る。
「よし、着いたな......敵の数や質は問題無さそうだ......アハハハハッ! 死ね」
新たな部屋に着いた彼は金砕棒を手に走り出す。今までよりも明確になった殺意を滾らせながらも冷静に......如何に上手く敵を全滅させられるかを考え――動き出す。
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