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三章:龍を宿す卯月の姫君
第41話:龍を宿した卯月の姫君
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「この子の正体が分かったわ、刃とその子の霊力を吸収して生まれたそうよ」
凄く冷たい声、しかもかなり機嫌が悪そうに俺等にそう伝える神綺。
理由は分かるが、そこまで不機嫌にならなくても……いや、ごめん神綺睨まないでくれよ。
彼女と契約して繋がっているからかある程度の考えが伝わってしまう――だからか考えが読まれて睨まれたが、過去一神綺が怖い。普通に魂抜けるかと思った。
「…………頭痛てぇ」
「……俺もだ刃」
俺がそう呟けば、同意するように呟いた逢魔さん。そんな俺等に対して不安そうな顔で少女は言う。
「とうさま、わたし……邪魔ですか?」
「いや違うぞ? ただ……ちょっと情報過多で。あのさ、聞きたいんだけどどれぐらい知識あるんだ?」
「役割と力については前任のわたしから受け継ぎました。それ以外はなにも……あ、でも少し違う所が……こんな感じで」
彼女が霊力を練れば、この部屋の気温がぐっと下がり一気に吹雪き始める。
この力はどう考えても俺の物だし、神綺が言った通りに俺の霊力が流れてるみたいだ……いや、どうするんだこれ? 次代の大地の神がめっちゃ速く生まれた件についてもだが、それが俺を父と慕うのは色々不味い気がするし、何より。
「……で、龍華はどう思う?」
「可愛いわねこの子」
「いや、それは分かるけどさ――この子をどうするかなんだが……」
「私が育てるわ」
なんか彼女を見てから龍華が取り乱してそんな事を言いだしている。
いや……確かに彼女らしいと言えば彼女らしいが、なんか乱心してないか?
「……逢魔さん、どうすべきだと思う?」
「まあ……暫くは隠すしかないだろ。あの龍の討伐はすぐに広がるだろうが、こんな速く生まれ変わるという事は文献を見る限り今までなかった。利用する奴もいるだろうしな――それに殆ど孫みたいな存在だし」
「…………まじでその扱いなのか?」
実際の子供ではないが、俺と龍華の霊力を受け継いだ存在。
なんて言えばいいのだろうか? 前世があるから精神年齢的には俺は上ではあるが、今実際の年齢が六歳であるのに……子持ち? いや……違う。
確かに俺と龍華に似てるし……能力も受け継いでいるっぽいけれど、あの百合龍の転生体だ。設定を思い出せ、確かあの龍は転生するとき周りに影響を受けると書いてあった――それでかなりの霊力を持つ俺等の影響を受けたって事は分かるが……。
「いやだってどうすんだよ、めっちゃ似てるしなんなら霊力感知出来る昴に見せてみろよ? 取り乱すって絶対」
「会わせないのは……無理だよなぁ、俺が帰るとき迎えに来るっぽいし見鬼である父さんに隠すのは無理だし」
「…………何よりだ。おい神綺、何してる?」
「刃を成長させる術でも作ろうと思うわ――あとは言えないの」
……怖いよぉ。
何が怖いって相棒が怖い、なんかもう殺る目をしてる。
このままいけばよくて監禁ルート……いや既に死後は彼女の元に行くだろうから、それが早まるぐらいか――ふっ、これが覚り?
「あと今更だけど刃、それ誰なの? 妙に馴れ馴れしいけれど……」
そういえば気付いたことがある。
今の今まで神綺と龍華を実際に対面させたことがないことに。
……あれ、会わせてなかったけ? そう思い記憶を探るが、今まで一回も対面させてないことを思い出した。
原作では敵対関係であるから決して交わることがなかった最恐ヒロイン。
刃側には神綺、剣には龍華……そんな歪な天秤バランスの取り方がされていたが、流石に鈍い俺でも二人に好かれていることは理解してる……ので。
「あら、刃から聞いてないのね。私は神綺、刃の唯一無二の相棒よ?。彼の中からずっと観させて貰っていたわ。以後よろしくね」
「へぇ、それで?」
それでって、なんだろう?
空気が死んでいる。俺が術を使ったわけでもないのに……空気が完全に凍っていて、何かすっごい肌寒い。逢魔さんとか冷えるなーっていいながら腕をさすっているんだけど……。
「こちらこそ、よろしくね。そういえばだけど神綺って名前は聞いた事あるわね。確か神具に宿る神様だったかしら? ……神様ならば優に百歳は超えてるわよね?」
「……何が言いたいのかしら?」
「つまり貴女、ショタコン?」
「病み娘がよく言うわね――彼は私の物よ?」
「でも私は責任は取ると言われたわ――なんなら血を飲まれたの」
龍華の爆弾発言に、逢魔さんがまじか? って顔をしている。
不可抗力なんです。いや、まじでさアレしか勝つ手段が――と言い訳する時間もないし、その中で二人がどんどんヒートアップしていく。
「それは私が許したからよ? 思い上がらないで頂戴」
「――何様のつもりかしら?」
「刃の相棒様よ。契約もしてるわ」
「ッそれなら私だって」
「でもそれは強制でしょう? ――残念ね私は彼に求められたの」
「ほんとなの刃?」
そこで俺に振るのか?
まじでどうしよう。神綺との契約については俺が彼女に迫ったことだし、言い逃れできない。いや、そういう関係じゃないから逃れる必要はないんだけどさ? でもあれじゃん二人とも怖いんだが……とにかく有無を言わさない態度に首を縦に振れば、龍華が笑みを深めて。
「来なさい龍扇」
「起きなさい四季」
一触即発そんな言葉が似合うように、その瞬間に二人が己の愛武器を取り出した。空気が死んでいく、部屋の中に植物が生え始め四季が冬を呼ぶ。
まじの殺し合いが始まりそうな空気の中、俺も止めようと霊力を練ろうとしたのだが――二人の間に誰かが割って入った。
「――やめてください二人とも、とうさまが困ってます」
「邪魔するのかしら、生まれたての龍如きが」
「ひゃ――邪魔、します。かあさまもあなたもとうさまの大事な人のようですし、喧嘩したらとうさまが悲しみます。だから邪魔します」
「――そう。それもそうね。そこの病み娘、毒気が抜かれたから私は刃の中に戻るわ。貴女はどうするかしら?」
「この子に言われたら仕方ないわ、私も矛を収めるわね――ごめんなさい」
龍の少女にそう言われた二人は意外にも戦う事を止めて、武器をしまった。
まじでありがとうと、名もなき少女に感謝しながら俺はこの良い子を生涯甘やかすと誓う。俺でも絶対に止められないであろうこの二人の戦いを止めた英雄だそのぐらいしてもいいだろうから。
「そうだ龍の子、どうせなら名前をあげるわ。不本意だけど私を止めた褒美よ」
「――とうさま達から貰いたいです」
「……我が儘ね。でもいいわ、せっかく生まれたもの――名付けなさい刃」
「急に言われても――龍華がつけてくれ」
「私にそんな大役を担わせないで頂戴。ネーミングセンスは刃の方がいいんだから貴方がつけて」
そんな事を言われてもな、俺の技名は基本原作刃のオマージュなんだよ……。
でもつけろと言われればつけるしかないか、神綺も俺が名付ければ納得するだろうし、龍華は完全に俺任せだし……。
……名前というのはそいつを表現するもので、一生付きまとう贈り物。
名は体を表すという言葉があるように、絶対にふざけてつけてはいけない宝物だ。だからこそ俺は真面目に、そして意味を込めて彼女にそれを送らなければいけないだろう。
「……華蓮」
だけど、そこまでネーミングセンスのない俺はそれぐらいしか思いつかなかった。
意味というか由来としては、龍華の華と俺が術を使えば咲く氷の蓮の花を混ぜた名前になってしまったがこれで良いのだろうか?
「かれん……かれんですか。どう書くのですかとうさま」
「えっとこうだな」
氷で空中に文字を作り彼女に見せれば、龍の少女――華蓮はそれを手で取って抱きしめる。
「華蓮……わたしの名前」
「えっと気に入らなければ別の考えるが……」
「いいえ、これがいいです。これでいいです。これからわたしは華蓮と名乗りますとうさま!」
そこまで気に入る物なのか?
そう思ったが満足そうなのでこれ以上は何も言えない。
「決まったのね、なら私が祝福して定めてあげるわ。貴女の名前は華蓮――卯月華蓮をこれから名乗りなさい」
そして神綺がそう言えば、彼女の体が少し光って名前が定められた。
なんか勝手に名字まで決まったっぽいが、皆満足そうだし問題ないだろう。
それにしてもだ――もう朝になる。
陽が昇り――月は隠れて、全てが終わった。かの龍――何百年も生きた穣涼は死に、新たな大地の神がここに生まれた。
そして何より――龍華の呪いは解け、彼女は誰かと触れあえるようになった。
これは逢魔さんが彼女を抱きしめられたことから確定で、それを考えると原作からは確実に乖離しただろう。
「どうしたの刃?」
「いや……終わったんだなぁって」
これから色々大変な事は起こるだろうが、俺は龍華の運命を変えることが出来た……それは俺がやりたかった闇堕ち回避の一歩であり――とても大きな出来事になる。
「ええそうね、終わったよ。もう呪いを感じないもの。ねえ刃、もう一度私に触れてくれない?」
「――いいけど、手を繋ぐぐらいでいいか?」
「ヘタレね……」
だってしょうがないだろ?
改めて普通に女子に触れるのは緊張するし……そんな思いで、俺は彼女の手を握ったんだが――その瞬間。
「せっかくなのだからこれぐらいしなさい?」
俺を引き寄せて――。
そのあと彼女は笑った。今まで見たことのないくらいに綺麗な顔で――何よりとても楽しそうに。
あぁ、なんて言えばいいだろうか?
――いや、でもいいか。
この後起きる修羅場は置いておくとして、彼女の笑った顔が見れたのだから。
でもさ、一つだけ言わせてくれないか?
「……俺の周り重い奴多過ぎ」
俺の中から出てきて龍華と言い合いになる神綺を見て、そんな事を俺は心底思い、二人の仲裁に向かった。
――――――
――――
――
陽が昇る頃、卯月の屋敷にて――龍は死に廻って咲いた。
けものの唄が響く世界で、また新しい命が咲いたのだ。龍を宿した卯月の姫の呪いは解かれ、世界は進む。
この先、幾百の呪いに襲われようとも――この日は祝福されるだろう。
だって龍を倒した一人の英雄が生まれたのだから――ふふ、これから世界はとっても楽しくなりそうね。
「さぁ、暦を回しましょう? はじめの獣を討つ英雄が生まれるまで。血を命を魂を全てを賭して造りましょう――それが私、神無月九曜の役目なのだから。そう、私は観測者、どうしようもない……ヒトデナシ」
凄く冷たい声、しかもかなり機嫌が悪そうに俺等にそう伝える神綺。
理由は分かるが、そこまで不機嫌にならなくても……いや、ごめん神綺睨まないでくれよ。
彼女と契約して繋がっているからかある程度の考えが伝わってしまう――だからか考えが読まれて睨まれたが、過去一神綺が怖い。普通に魂抜けるかと思った。
「…………頭痛てぇ」
「……俺もだ刃」
俺がそう呟けば、同意するように呟いた逢魔さん。そんな俺等に対して不安そうな顔で少女は言う。
「とうさま、わたし……邪魔ですか?」
「いや違うぞ? ただ……ちょっと情報過多で。あのさ、聞きたいんだけどどれぐらい知識あるんだ?」
「役割と力については前任のわたしから受け継ぎました。それ以外はなにも……あ、でも少し違う所が……こんな感じで」
彼女が霊力を練れば、この部屋の気温がぐっと下がり一気に吹雪き始める。
この力はどう考えても俺の物だし、神綺が言った通りに俺の霊力が流れてるみたいだ……いや、どうするんだこれ? 次代の大地の神がめっちゃ速く生まれた件についてもだが、それが俺を父と慕うのは色々不味い気がするし、何より。
「……で、龍華はどう思う?」
「可愛いわねこの子」
「いや、それは分かるけどさ――この子をどうするかなんだが……」
「私が育てるわ」
なんか彼女を見てから龍華が取り乱してそんな事を言いだしている。
いや……確かに彼女らしいと言えば彼女らしいが、なんか乱心してないか?
「……逢魔さん、どうすべきだと思う?」
「まあ……暫くは隠すしかないだろ。あの龍の討伐はすぐに広がるだろうが、こんな速く生まれ変わるという事は文献を見る限り今までなかった。利用する奴もいるだろうしな――それに殆ど孫みたいな存在だし」
「…………まじでその扱いなのか?」
実際の子供ではないが、俺と龍華の霊力を受け継いだ存在。
なんて言えばいいのだろうか? 前世があるから精神年齢的には俺は上ではあるが、今実際の年齢が六歳であるのに……子持ち? いや……違う。
確かに俺と龍華に似てるし……能力も受け継いでいるっぽいけれど、あの百合龍の転生体だ。設定を思い出せ、確かあの龍は転生するとき周りに影響を受けると書いてあった――それでかなりの霊力を持つ俺等の影響を受けたって事は分かるが……。
「いやだってどうすんだよ、めっちゃ似てるしなんなら霊力感知出来る昴に見せてみろよ? 取り乱すって絶対」
「会わせないのは……無理だよなぁ、俺が帰るとき迎えに来るっぽいし見鬼である父さんに隠すのは無理だし」
「…………何よりだ。おい神綺、何してる?」
「刃を成長させる術でも作ろうと思うわ――あとは言えないの」
……怖いよぉ。
何が怖いって相棒が怖い、なんかもう殺る目をしてる。
このままいけばよくて監禁ルート……いや既に死後は彼女の元に行くだろうから、それが早まるぐらいか――ふっ、これが覚り?
「あと今更だけど刃、それ誰なの? 妙に馴れ馴れしいけれど……」
そういえば気付いたことがある。
今の今まで神綺と龍華を実際に対面させたことがないことに。
……あれ、会わせてなかったけ? そう思い記憶を探るが、今まで一回も対面させてないことを思い出した。
原作では敵対関係であるから決して交わることがなかった最恐ヒロイン。
刃側には神綺、剣には龍華……そんな歪な天秤バランスの取り方がされていたが、流石に鈍い俺でも二人に好かれていることは理解してる……ので。
「あら、刃から聞いてないのね。私は神綺、刃の唯一無二の相棒よ?。彼の中からずっと観させて貰っていたわ。以後よろしくね」
「へぇ、それで?」
それでって、なんだろう?
空気が死んでいる。俺が術を使ったわけでもないのに……空気が完全に凍っていて、何かすっごい肌寒い。逢魔さんとか冷えるなーっていいながら腕をさすっているんだけど……。
「こちらこそ、よろしくね。そういえばだけど神綺って名前は聞いた事あるわね。確か神具に宿る神様だったかしら? ……神様ならば優に百歳は超えてるわよね?」
「……何が言いたいのかしら?」
「つまり貴女、ショタコン?」
「病み娘がよく言うわね――彼は私の物よ?」
「でも私は責任は取ると言われたわ――なんなら血を飲まれたの」
龍華の爆弾発言に、逢魔さんがまじか? って顔をしている。
不可抗力なんです。いや、まじでさアレしか勝つ手段が――と言い訳する時間もないし、その中で二人がどんどんヒートアップしていく。
「それは私が許したからよ? 思い上がらないで頂戴」
「――何様のつもりかしら?」
「刃の相棒様よ。契約もしてるわ」
「ッそれなら私だって」
「でもそれは強制でしょう? ――残念ね私は彼に求められたの」
「ほんとなの刃?」
そこで俺に振るのか?
まじでどうしよう。神綺との契約については俺が彼女に迫ったことだし、言い逃れできない。いや、そういう関係じゃないから逃れる必要はないんだけどさ? でもあれじゃん二人とも怖いんだが……とにかく有無を言わさない態度に首を縦に振れば、龍華が笑みを深めて。
「来なさい龍扇」
「起きなさい四季」
一触即発そんな言葉が似合うように、その瞬間に二人が己の愛武器を取り出した。空気が死んでいく、部屋の中に植物が生え始め四季が冬を呼ぶ。
まじの殺し合いが始まりそうな空気の中、俺も止めようと霊力を練ろうとしたのだが――二人の間に誰かが割って入った。
「――やめてください二人とも、とうさまが困ってます」
「邪魔するのかしら、生まれたての龍如きが」
「ひゃ――邪魔、します。かあさまもあなたもとうさまの大事な人のようですし、喧嘩したらとうさまが悲しみます。だから邪魔します」
「――そう。それもそうね。そこの病み娘、毒気が抜かれたから私は刃の中に戻るわ。貴女はどうするかしら?」
「この子に言われたら仕方ないわ、私も矛を収めるわね――ごめんなさい」
龍の少女にそう言われた二人は意外にも戦う事を止めて、武器をしまった。
まじでありがとうと、名もなき少女に感謝しながら俺はこの良い子を生涯甘やかすと誓う。俺でも絶対に止められないであろうこの二人の戦いを止めた英雄だそのぐらいしてもいいだろうから。
「そうだ龍の子、どうせなら名前をあげるわ。不本意だけど私を止めた褒美よ」
「――とうさま達から貰いたいです」
「……我が儘ね。でもいいわ、せっかく生まれたもの――名付けなさい刃」
「急に言われても――龍華がつけてくれ」
「私にそんな大役を担わせないで頂戴。ネーミングセンスは刃の方がいいんだから貴方がつけて」
そんな事を言われてもな、俺の技名は基本原作刃のオマージュなんだよ……。
でもつけろと言われればつけるしかないか、神綺も俺が名付ければ納得するだろうし、龍華は完全に俺任せだし……。
……名前というのはそいつを表現するもので、一生付きまとう贈り物。
名は体を表すという言葉があるように、絶対にふざけてつけてはいけない宝物だ。だからこそ俺は真面目に、そして意味を込めて彼女にそれを送らなければいけないだろう。
「……華蓮」
だけど、そこまでネーミングセンスのない俺はそれぐらいしか思いつかなかった。
意味というか由来としては、龍華の華と俺が術を使えば咲く氷の蓮の花を混ぜた名前になってしまったがこれで良いのだろうか?
「かれん……かれんですか。どう書くのですかとうさま」
「えっとこうだな」
氷で空中に文字を作り彼女に見せれば、龍の少女――華蓮はそれを手で取って抱きしめる。
「華蓮……わたしの名前」
「えっと気に入らなければ別の考えるが……」
「いいえ、これがいいです。これでいいです。これからわたしは華蓮と名乗りますとうさま!」
そこまで気に入る物なのか?
そう思ったが満足そうなのでこれ以上は何も言えない。
「決まったのね、なら私が祝福して定めてあげるわ。貴女の名前は華蓮――卯月華蓮をこれから名乗りなさい」
そして神綺がそう言えば、彼女の体が少し光って名前が定められた。
なんか勝手に名字まで決まったっぽいが、皆満足そうだし問題ないだろう。
それにしてもだ――もう朝になる。
陽が昇り――月は隠れて、全てが終わった。かの龍――何百年も生きた穣涼は死に、新たな大地の神がここに生まれた。
そして何より――龍華の呪いは解け、彼女は誰かと触れあえるようになった。
これは逢魔さんが彼女を抱きしめられたことから確定で、それを考えると原作からは確実に乖離しただろう。
「どうしたの刃?」
「いや……終わったんだなぁって」
これから色々大変な事は起こるだろうが、俺は龍華の運命を変えることが出来た……それは俺がやりたかった闇堕ち回避の一歩であり――とても大きな出来事になる。
「ええそうね、終わったよ。もう呪いを感じないもの。ねえ刃、もう一度私に触れてくれない?」
「――いいけど、手を繋ぐぐらいでいいか?」
「ヘタレね……」
だってしょうがないだろ?
改めて普通に女子に触れるのは緊張するし……そんな思いで、俺は彼女の手を握ったんだが――その瞬間。
「せっかくなのだからこれぐらいしなさい?」
俺を引き寄せて――。
そのあと彼女は笑った。今まで見たことのないくらいに綺麗な顔で――何よりとても楽しそうに。
あぁ、なんて言えばいいだろうか?
――いや、でもいいか。
この後起きる修羅場は置いておくとして、彼女の笑った顔が見れたのだから。
でもさ、一つだけ言わせてくれないか?
「……俺の周り重い奴多過ぎ」
俺の中から出てきて龍華と言い合いになる神綺を見て、そんな事を俺は心底思い、二人の仲裁に向かった。
――――――
――――
――
陽が昇る頃、卯月の屋敷にて――龍は死に廻って咲いた。
けものの唄が響く世界で、また新しい命が咲いたのだ。龍を宿した卯月の姫の呪いは解かれ、世界は進む。
この先、幾百の呪いに襲われようとも――この日は祝福されるだろう。
だって龍を倒した一人の英雄が生まれたのだから――ふふ、これから世界はとっても楽しくなりそうね。
「さぁ、暦を回しましょう? はじめの獣を討つ英雄が生まれるまで。血を命を魂を全てを賭して造りましょう――それが私、神無月九曜の役目なのだから。そう、私は観測者、どうしようもない……ヒトデナシ」
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