31 / 43
三章:龍を宿す卯月の姫君
第29話:霊力切れ
しおりを挟む
「ケモノは倒したわ、だから帰りましょう? ――え、あれ?」
俺に歩み寄り笑った龍華がそのまま倒れていく、咄嗟に抱えるが完全に力が入らないのか驚いている様子だ。
あまりに突然なことで理解が出来なかったが、この症状には心当たりがあった。
「霊力切れ」
そう、これは俺もよくなるが霊力切れの症状に近い。
霊力とは生命力と紙一重であり空になれば命に関わる可能性がある――と、それを理解していた俺の判断は速かった。すぐさま霊力を八割ほど解放、バラバラに龍華を探しただろう大人達を感知して、その中から逢魔さんを探す。
「――よし、見つけた」
範囲のみを広げた冷気感知、それで逢魔さんの事は見つける事が出来たので俺は龍華を抱えながら急いでそっちに向かう。
「逢魔さん、霊薬ないですか!?」
「あるがって、おい何があった!?」
「霊力切れです――とりあえず龍華に飲ませるので貸してください!」
「刃、龍華に霊薬は効かない――すぐに家に連れて帰るぞ!」
そう言われて思い出したことがある。
龍華は加護としてあらゆる状態変化を無効化する。それは毒や病気にならず催眠などの状態操作を無効化するという優れたものなのだが、欠点として状態を治すという事も無効化してしまうのだ。
原作でも一度似たような事件があり、その時はある手段で解決したが……それは剣と龍華だからこその関係があったから出来たことだ……いや、でも悩んでる暇はない。もしもこれが初めての霊力切れだった場合、本当に命に関わるから。
「ごめん逢魔さん、龍華が起きたら謝っといてください」
「何する気――ってお前、霊力分ける気か!?」
俺が何する気かを悟ったのか驚く逢魔さん。
それに頷いた俺は龍華を寝かしてから覚悟を決めて――口移しで残ってる霊力を限界まで彼女に流した。
「――あとは、頼みます」
霊力を分けるという行為、それはかなり危険とされており禁術に近いとさえ言われている。でもやるしかなかった――最初は強引に契約を交わしてきたやべぇ奴だが、根は良い奴で優しい子なんだ……死なせるわけにはいかないんだよ。
「許さない」
最後に聞こえたのはそんな声、それを聞いた俺の意識は暗闇へと堕ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇
半日後の昼の事、龍華は医療室で目を覚ました。
彼女が目覚めて感じたのはいつも以上に満ちている霊力。それを不思議に思いながら周りを見渡せば、近くには逢魔の姿があった。
「……起きたか、龍華」
「起きたけど……どうして私はこの部屋にいるのお父様」
「半日倒れてたからだ、異常は無いか?」
「えぇ、むしろ霊力が多いわ。でも何があったの? ケモノを倒した所までは覚えてるけれど」
龍華の最後の記憶、それは自分が八つ当たりもかねてケモノを倒し刃を前にしたもの。そこから先の事を覚えてない彼女にとってその疑問は当たり前の物であり、きっと父親なら答えてくれると思ってそう言った。
「なぁ龍華、お前ケモノを倒すとき何したんだ」
「確か全力で術を使ったわ、早く帰って刃を休ませたかったもの。でも、それならなんで倒れてるのかしら? 私は攻撃なんて受けなかったのよ」
「単純に霊力切れだ――お前は全力で術を使って倒れたらしい」
らしい……とは何だろうかと、龍華はそう思った。
確かに最後に見た時には刃しかいなかったし、父親の姿は無かったから見ていないのは分かるけど、霊力切れならこんな物ではないはずで……半日じゃ回復しないはずなのだ。
「本当に霊力切れ? 刃は三日寝てたのよ? 私が半日で起きれると思えないわ」
「――それはな、刃がお前を助けたんだよ」
「そうなの? ならお礼を言わないといけないわ。刃はどこかしら?」
「悪いが、今のお前と刃を会わせる気はない。契約の範囲内には居させるつもりだが、あいつが滞在して契約を破るまでの間は絶対にだ」
「どうして? ……冗談でもそんな事は嫌よ、お父様」
突然告げられたのはそんな事、龍華はその意味が分からずすぐにそう答えた。
彼と会えないというだけで軽く震え、それどころか嫌な想像だけが頭を過る――会えない? 彼に……とそれを考えるだけで不安になってしまう。
「その反応が答えの一つだが、どれだけ自分が刃に依存してるか自覚してるか?」
「それは理解してるわ、初めての相手だもの」
「あぁ、そこはな――龍華、お前刃が傷付くだけでどうしてあぁなるようになったんだ?」
逢魔が言うのは、刃が少し傷付いただけでも帰ろうと良い霊薬を求めた昨日の姿。
心当たりはあるのでそれに対して答えようとしたのだが、龍華は言葉を詰まらせてしまう。
「それがもう一つの答えだ。なぁ龍華、お前は刃が傷付くの見れなくなってるんだろ?」
「そんな事……ない、はずよ」
「いや、あいつは気付いてたようだぞ? 本当に心当たりないのか?」
その問いに対して龍華は答えることが出来なかった。
だって、それは事実だから。自分は最近の模擬戦でも無意識のうちに手を抜いており、彼が傷付かないようにしていたから。
「分かった――これ以上は聞かんが、暫くは自室にいろ。いつも通り過ごして良いが、絶対に刃に会いにいくな。あいつは今動けないからな」
そう言って、部屋から出て行く逢魔。
それを見送り部屋に残された彼女は何も言えず、ただベッドの上で佇むことしか出来なかった。
俺に歩み寄り笑った龍華がそのまま倒れていく、咄嗟に抱えるが完全に力が入らないのか驚いている様子だ。
あまりに突然なことで理解が出来なかったが、この症状には心当たりがあった。
「霊力切れ」
そう、これは俺もよくなるが霊力切れの症状に近い。
霊力とは生命力と紙一重であり空になれば命に関わる可能性がある――と、それを理解していた俺の判断は速かった。すぐさま霊力を八割ほど解放、バラバラに龍華を探しただろう大人達を感知して、その中から逢魔さんを探す。
「――よし、見つけた」
範囲のみを広げた冷気感知、それで逢魔さんの事は見つける事が出来たので俺は龍華を抱えながら急いでそっちに向かう。
「逢魔さん、霊薬ないですか!?」
「あるがって、おい何があった!?」
「霊力切れです――とりあえず龍華に飲ませるので貸してください!」
「刃、龍華に霊薬は効かない――すぐに家に連れて帰るぞ!」
そう言われて思い出したことがある。
龍華は加護としてあらゆる状態変化を無効化する。それは毒や病気にならず催眠などの状態操作を無効化するという優れたものなのだが、欠点として状態を治すという事も無効化してしまうのだ。
原作でも一度似たような事件があり、その時はある手段で解決したが……それは剣と龍華だからこその関係があったから出来たことだ……いや、でも悩んでる暇はない。もしもこれが初めての霊力切れだった場合、本当に命に関わるから。
「ごめん逢魔さん、龍華が起きたら謝っといてください」
「何する気――ってお前、霊力分ける気か!?」
俺が何する気かを悟ったのか驚く逢魔さん。
それに頷いた俺は龍華を寝かしてから覚悟を決めて――口移しで残ってる霊力を限界まで彼女に流した。
「――あとは、頼みます」
霊力を分けるという行為、それはかなり危険とされており禁術に近いとさえ言われている。でもやるしかなかった――最初は強引に契約を交わしてきたやべぇ奴だが、根は良い奴で優しい子なんだ……死なせるわけにはいかないんだよ。
「許さない」
最後に聞こえたのはそんな声、それを聞いた俺の意識は暗闇へと堕ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇
半日後の昼の事、龍華は医療室で目を覚ました。
彼女が目覚めて感じたのはいつも以上に満ちている霊力。それを不思議に思いながら周りを見渡せば、近くには逢魔の姿があった。
「……起きたか、龍華」
「起きたけど……どうして私はこの部屋にいるのお父様」
「半日倒れてたからだ、異常は無いか?」
「えぇ、むしろ霊力が多いわ。でも何があったの? ケモノを倒した所までは覚えてるけれど」
龍華の最後の記憶、それは自分が八つ当たりもかねてケモノを倒し刃を前にしたもの。そこから先の事を覚えてない彼女にとってその疑問は当たり前の物であり、きっと父親なら答えてくれると思ってそう言った。
「なぁ龍華、お前ケモノを倒すとき何したんだ」
「確か全力で術を使ったわ、早く帰って刃を休ませたかったもの。でも、それならなんで倒れてるのかしら? 私は攻撃なんて受けなかったのよ」
「単純に霊力切れだ――お前は全力で術を使って倒れたらしい」
らしい……とは何だろうかと、龍華はそう思った。
確かに最後に見た時には刃しかいなかったし、父親の姿は無かったから見ていないのは分かるけど、霊力切れならこんな物ではないはずで……半日じゃ回復しないはずなのだ。
「本当に霊力切れ? 刃は三日寝てたのよ? 私が半日で起きれると思えないわ」
「――それはな、刃がお前を助けたんだよ」
「そうなの? ならお礼を言わないといけないわ。刃はどこかしら?」
「悪いが、今のお前と刃を会わせる気はない。契約の範囲内には居させるつもりだが、あいつが滞在して契約を破るまでの間は絶対にだ」
「どうして? ……冗談でもそんな事は嫌よ、お父様」
突然告げられたのはそんな事、龍華はその意味が分からずすぐにそう答えた。
彼と会えないというだけで軽く震え、それどころか嫌な想像だけが頭を過る――会えない? 彼に……とそれを考えるだけで不安になってしまう。
「その反応が答えの一つだが、どれだけ自分が刃に依存してるか自覚してるか?」
「それは理解してるわ、初めての相手だもの」
「あぁ、そこはな――龍華、お前刃が傷付くだけでどうしてあぁなるようになったんだ?」
逢魔が言うのは、刃が少し傷付いただけでも帰ろうと良い霊薬を求めた昨日の姿。
心当たりはあるのでそれに対して答えようとしたのだが、龍華は言葉を詰まらせてしまう。
「それがもう一つの答えだ。なぁ龍華、お前は刃が傷付くの見れなくなってるんだろ?」
「そんな事……ない、はずよ」
「いや、あいつは気付いてたようだぞ? 本当に心当たりないのか?」
その問いに対して龍華は答えることが出来なかった。
だって、それは事実だから。自分は最近の模擬戦でも無意識のうちに手を抜いており、彼が傷付かないようにしていたから。
「分かった――これ以上は聞かんが、暫くは自室にいろ。いつも通り過ごして良いが、絶対に刃に会いにいくな。あいつは今動けないからな」
そう言って、部屋から出て行く逢魔。
それを見送り部屋に残された彼女は何も言えず、ただベッドの上で佇むことしか出来なかった。
3
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる