29 / 43
三章:龍を宿す卯月の姫君
第27話:微かな異変
しおりを挟む
目の前に迫る数本の岩剣。
相変わらず殺意が高く当たればタダでは済まないだろうその攻撃を俺は冷気で防いでそのまま龍華に接近する。
――そして、彼女に木刀を軽く当て戦闘を終わらせた。
「今日も俺の勝ちだな」
「――え、えぇ……そうね、私の負けよ」
ルールはいつも通りの先に攻撃を当てた方が勝ちというもの。
その戦いが終わって少し動揺したような龍華、そんな彼女に俺は思ったことをそのまま伝える。
「どうしたんだよ、最近お前変だぞ?」
「……そう? 私は変わらないと思うけど、貴方から見て変?」
「そうだな。最近のお前さ、なんか遠慮してるというか攻撃が鈍いぞ? 俺が卯月家に来てからそんな感じだし、なんかあったのか?」
前まで……彼女が十六夜家にいた頃だったら楽しそうに俺に向かってきて、まじで遠慮無く術を使ってきていた。毎回それで苦戦したし俺も楽しかったのだが……どういう訳か、俺が卯月家に来て戦い始めた頃から彼女の様子が変なのだ。
「なにも……ないわよ。貴方が強くなってるんじゃないかしら?」
「そうか? ……いやでも、なんか変なんだよなぁ」
「気のせいじゃない?」
「そうか……まぁ、お前が言うならそうなんだろうが」
「そうよ、だから気にしなくて良いわ――それより今日は疲れたからもう休むわね」
「……ん、了解」
やっぱり変だ。
前までだったらもう一戦と強請ってくる奴だったのに、今は一戦だけでも休むようになった。少し……いやかなり変わった彼女の様子に首を傾げながらも、暇な俺は一人になった道場で瞑想を始める。
術を練り、冷気を出して操って――瞑想しながら道場にいくつかの氷像を作る。
それを何度か繰り返し、とりあえずで干支に関する動物の像を作っていると誰かの足音が聞こえてきた。
「刃なにしてんだ――って寒っ!」
「あ、逢魔さん。瞑想してました」
「ついでに術の練習か、相変わらずどういう精度なんだよお前は――この龍とかめっちゃ精巧だぞ?」
「剣が見たいって言ったので練習したんですよ。今ではこんな感じになりましたし」
それで指さすのは自分で言うのも何だが、めっちゃクオリティの高い東洋の龍。細長く鹿の角が生えたそれは今にも動き出しそうな程の迫力だ。
まぁ霊力を込めれば実際に動くから動きそう……というか動くんだけどさ。
「そうだ刃、お前卯月家に来て三日だが慣れたか?」
「……一応? めっちゃ広いですけど、部屋の場所は覚えましたし皆優しいので慣れてきました」
「それならよかった――だけど悪いな、契約破棄するためとはいえ態々宮崎まで来て貰って」
「まぁ、父さん達と離れるのは不安ですね。かなり反対してましたし」
母さんは龍華を信頼しているからそこまでだったが、前回の交流会のあとから少し過保護? というより過干渉気味の父さんが反対した。
最終的に折れてくれたものの、一ヶ月だけの条件が付く形になったのだ。
それに今回この家に来るにあたって、孤蝶は連れてきてないしある意味完全に一人で来ている。剣の面倒を見て貰う為に残したのだが、ちゃんとしてるかも不安だし……何より、この時期に百獣夜行が来る可能性もあるからでかなり不安。
「まあ前回の交流会があったからな、お前が暴れすぎないか心配なんだろ」
「……俺、そこまで問題児じゃないんですが」
「いや、試練をゴリ押しで突破したお前はそれを言えないぞ……あれはまじでやばかった――そういや気になってたんだが、あの術どうなってるんだ?」
「えっと、説明いります?」
「頼む、術者として気になってる」
そうなったので俺は改めて確認がてらに自分の特性を逢魔さんに説明する。
俺、というか刃が得意とするのは氷属性――そして特殊とも言える冷気の放出能力。通常であれば氷属性というのは水属性を使えるからこそ機能する少し外れともいえるもの……だが、刃の場合は霊力をそのまま冷気や氷に変換する事が出来るのだ。
通常五行に属する属性は変換しやすいからおこりというがラグがないが、雷や氷等の特殊な属性は強力だが少しのラグを必要とする。
「確かにお前の術には氷属性なのにおこりが殆ど無いしな。であの術はどういうものなんだ?」
「えっと俺って霊力使うと冷気出るじゃないですか、それを全部刀の形を持たせて全放出、簡単に言えば殲滅力に特化してる感じですね。当たった端から凍らせます。で、砕きます」
「殺意高いな、発想が子供じゃねぇよ」
「照れますね」
いやぁ、全然まだまだだが原作の刃の術を褒められるのは照れる。
彼が頑張って覚えた証しだし、本当にあれは殺意高めの技だから。
「褒めてねぇよ、お前、聞けば聞くほど思うがかなり特殊な体質だよな」
「全然使えませんが、木属性もありますしね。メインが氷だから使ってないですけど」
「そこムズいよな、属性としての相性が悪いし」
「ですよねぇ……寒さに強い植物じゃないと冷気が強すぎて使えないですし、宝の持ち腐れ感が凄いです」
刃は原作でも木属性を操れていたが、それは原作でもかなり最後の方だったし苦手な部類だったのか妖刀である四季がなければ使えなかった。
逆に言えば神綺と契約して今から四季を貰い練習すれば良いのだが、対価が重いだろうから下手に契約できない。
「まぁあれだ。短い間だが教えることは教えるぞ、それと明日は狩り人の職場体験がある。できれば早く寝ろよ」
「了解です――あ、そうだ逢魔さん最近龍華の様子変じゃないですか?」
「変ってどこら辺がだ?」
そう聞かれたので、さっき彼女に話したことを言えば逢魔さんは心当たりがないのか分からないと言った。
「気のせいじゃないか? 戦闘狂のあいつがそうなるのは想像出来ないぞ」
「やっぱり気のせいなんですかね……」
「だろうな、まあ俺も気にかけてみるぞ」
「了解です――じゃあ俺は部屋に戻りますね」
……とそう言って、逢魔さんと別れたのだが……部屋に戻っても最近違和感が消えず俺はあまり眠ることが出来なかった。
原作でもみたことのない戦闘狂らしからぬ龍華の異変。
あいつが戦いを躊躇するなんて本当に何があったのだろうか?
相変わらず殺意が高く当たればタダでは済まないだろうその攻撃を俺は冷気で防いでそのまま龍華に接近する。
――そして、彼女に木刀を軽く当て戦闘を終わらせた。
「今日も俺の勝ちだな」
「――え、えぇ……そうね、私の負けよ」
ルールはいつも通りの先に攻撃を当てた方が勝ちというもの。
その戦いが終わって少し動揺したような龍華、そんな彼女に俺は思ったことをそのまま伝える。
「どうしたんだよ、最近お前変だぞ?」
「……そう? 私は変わらないと思うけど、貴方から見て変?」
「そうだな。最近のお前さ、なんか遠慮してるというか攻撃が鈍いぞ? 俺が卯月家に来てからそんな感じだし、なんかあったのか?」
前まで……彼女が十六夜家にいた頃だったら楽しそうに俺に向かってきて、まじで遠慮無く術を使ってきていた。毎回それで苦戦したし俺も楽しかったのだが……どういう訳か、俺が卯月家に来て戦い始めた頃から彼女の様子が変なのだ。
「なにも……ないわよ。貴方が強くなってるんじゃないかしら?」
「そうか? ……いやでも、なんか変なんだよなぁ」
「気のせいじゃない?」
「そうか……まぁ、お前が言うならそうなんだろうが」
「そうよ、だから気にしなくて良いわ――それより今日は疲れたからもう休むわね」
「……ん、了解」
やっぱり変だ。
前までだったらもう一戦と強請ってくる奴だったのに、今は一戦だけでも休むようになった。少し……いやかなり変わった彼女の様子に首を傾げながらも、暇な俺は一人になった道場で瞑想を始める。
術を練り、冷気を出して操って――瞑想しながら道場にいくつかの氷像を作る。
それを何度か繰り返し、とりあえずで干支に関する動物の像を作っていると誰かの足音が聞こえてきた。
「刃なにしてんだ――って寒っ!」
「あ、逢魔さん。瞑想してました」
「ついでに術の練習か、相変わらずどういう精度なんだよお前は――この龍とかめっちゃ精巧だぞ?」
「剣が見たいって言ったので練習したんですよ。今ではこんな感じになりましたし」
それで指さすのは自分で言うのも何だが、めっちゃクオリティの高い東洋の龍。細長く鹿の角が生えたそれは今にも動き出しそうな程の迫力だ。
まぁ霊力を込めれば実際に動くから動きそう……というか動くんだけどさ。
「そうだ刃、お前卯月家に来て三日だが慣れたか?」
「……一応? めっちゃ広いですけど、部屋の場所は覚えましたし皆優しいので慣れてきました」
「それならよかった――だけど悪いな、契約破棄するためとはいえ態々宮崎まで来て貰って」
「まぁ、父さん達と離れるのは不安ですね。かなり反対してましたし」
母さんは龍華を信頼しているからそこまでだったが、前回の交流会のあとから少し過保護? というより過干渉気味の父さんが反対した。
最終的に折れてくれたものの、一ヶ月だけの条件が付く形になったのだ。
それに今回この家に来るにあたって、孤蝶は連れてきてないしある意味完全に一人で来ている。剣の面倒を見て貰う為に残したのだが、ちゃんとしてるかも不安だし……何より、この時期に百獣夜行が来る可能性もあるからでかなり不安。
「まあ前回の交流会があったからな、お前が暴れすぎないか心配なんだろ」
「……俺、そこまで問題児じゃないんですが」
「いや、試練をゴリ押しで突破したお前はそれを言えないぞ……あれはまじでやばかった――そういや気になってたんだが、あの術どうなってるんだ?」
「えっと、説明いります?」
「頼む、術者として気になってる」
そうなったので俺は改めて確認がてらに自分の特性を逢魔さんに説明する。
俺、というか刃が得意とするのは氷属性――そして特殊とも言える冷気の放出能力。通常であれば氷属性というのは水属性を使えるからこそ機能する少し外れともいえるもの……だが、刃の場合は霊力をそのまま冷気や氷に変換する事が出来るのだ。
通常五行に属する属性は変換しやすいからおこりというがラグがないが、雷や氷等の特殊な属性は強力だが少しのラグを必要とする。
「確かにお前の術には氷属性なのにおこりが殆ど無いしな。であの術はどういうものなんだ?」
「えっと俺って霊力使うと冷気出るじゃないですか、それを全部刀の形を持たせて全放出、簡単に言えば殲滅力に特化してる感じですね。当たった端から凍らせます。で、砕きます」
「殺意高いな、発想が子供じゃねぇよ」
「照れますね」
いやぁ、全然まだまだだが原作の刃の術を褒められるのは照れる。
彼が頑張って覚えた証しだし、本当にあれは殺意高めの技だから。
「褒めてねぇよ、お前、聞けば聞くほど思うがかなり特殊な体質だよな」
「全然使えませんが、木属性もありますしね。メインが氷だから使ってないですけど」
「そこムズいよな、属性としての相性が悪いし」
「ですよねぇ……寒さに強い植物じゃないと冷気が強すぎて使えないですし、宝の持ち腐れ感が凄いです」
刃は原作でも木属性を操れていたが、それは原作でもかなり最後の方だったし苦手な部類だったのか妖刀である四季がなければ使えなかった。
逆に言えば神綺と契約して今から四季を貰い練習すれば良いのだが、対価が重いだろうから下手に契約できない。
「まぁあれだ。短い間だが教えることは教えるぞ、それと明日は狩り人の職場体験がある。できれば早く寝ろよ」
「了解です――あ、そうだ逢魔さん最近龍華の様子変じゃないですか?」
「変ってどこら辺がだ?」
そう聞かれたので、さっき彼女に話したことを言えば逢魔さんは心当たりがないのか分からないと言った。
「気のせいじゃないか? 戦闘狂のあいつがそうなるのは想像出来ないぞ」
「やっぱり気のせいなんですかね……」
「だろうな、まあ俺も気にかけてみるぞ」
「了解です――じゃあ俺は部屋に戻りますね」
……とそう言って、逢魔さんと別れたのだが……部屋に戻っても最近違和感が消えず俺はあまり眠ることが出来なかった。
原作でもみたことのない戦闘狂らしからぬ龍華の異変。
あいつが戦いを躊躇するなんて本当に何があったのだろうか?
3
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる