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二章:暦の一族との邂逅
第25話:共闘試練のそのあとで
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牛頭のケモノが瞬く間に氷結し砕かれたとき、その場にいる誰もが動けなかった。術者は倒れ敵は散り、冷気のみが残された空間で最初に言葉を発したのは巴だ。一番最初に我に返った彼女が、倒れる刃にへと近づき自身の家が祀る丑神を呼び出す。
「――ッ傷が深すぎますが今のわたしでは!」
丑神の力、それは豊穣を操り他者の傷を癒やすというもの。
本来の力を引き出せれば彼の傷を完治させただろうが、霊力が足りない今の巴では傷を塞ぐ程度の事しか出来なかった。
失った血は戻らず、意識も落としたまま。
間違いのない今回の功労者を目の前で死なせるというそんなことを彼女が出来るわけがなく、全力で霊力を注ぎ込んだ。
「亮様は、はやく大人の方を! もう倒しましたし出られるはずです!」
「分かった! うり坊、また力を貸して急ぐよ!」
いつの間にか現れていた扉から出て大人を探しに行く亮。
彼自分が呼び出せる中で最速の猪神を呼び出し、外にいるだろう大人を探しに行った。巴が治し、亮が探しに行く中で未だ唖然として動けない少女が二人。
一人は龍華であり、もう一人は床にへたり込む雫だ。
「……なぜこの方はわたくしを庇って?」
一瞬の出来事、自分の油断のせいでそれも自身の欲を満たすための浅はかな行動が誰かを傷付けた。その事実がのしかかり、上手く現実を飲み込めない彼女。
それとは対称的に何も喋れない龍華は、なんとか倒れる刃に近付くも……ただ見てることしか出来ない。何故なら彼女には回復の力は無く、今のこの場で足手まといだからだ。声をかけるにも、刃が自分を負かした初めての相手である彼が動かないという現実が……どうしようもなく彼女を襲う。
「龍華様、見てないで霊力を貸してください!」
「え、えぇ分かったわ」
動揺を隠しきれないのかいつもの様子を出せない。
普段の余裕な態度は鳴りを潜め、今は巴に言われた通り自分の霊力を彼女に託すことしか出来なかった。
そしてそんな治療が始まり少しが経った時、空間がゆがみ純白の少女が姿を現した。笑みを絶やさずどこまでも整った顔で倒れる刃を見下ろしている。
「この子は本当に凄いわね、まさか一人で牛頭を倒すなんて……ねぇ二人とも離れてくれないかしら?」
「――九曜様? 何する気ですか?」
「ご褒美かしらね、せっかく勝ったのだから治すぐらいはしないといけないわ――九曜曼荼羅……金星・シャクラの弦」
九曜の手に弦楽器が握られそれを鳴らせば白い光りが刃を包む。
それに包まれると瞬く間に彼の傷が治り始めたのだ。それはもう再生と言っていい程の速度であり血色の悪かった顔もいつも通りに何より霊力までもを回復させた。
「他の褒美はまたあとでね、それにこのまま放置するのも可哀想だもの。今晩はお疲れ様も兼ねて出雲大社に泊まりなさい?」
そう言って倒れていた刃を浮かした九曜は瞬時に姿を消して何処かへいなくなってしまった。残された子供達はそのまま亮が連れてきた親たちと合流しそのままこの出雲大社に泊まることとなる。
そしてそれから数時間後のこと、子供達が部屋で休む中で暦の一族の大人達である五人と九曜がある一室に集まっていた。
「さてどうだったかしら今日の催しは」
「刃という子供が圧倒的でしたね九曜様――昴、失礼ですが、本当にあの子は十六夜の血なのでしょうか? あの歳であの才は異常と言ってもよろしいはずです」
「正真正銘俺等の子だよ……まぁ、あんな事が出来るのは知らなかったが……」
思い出すのは、およそ七歳の子供が使えると思えないほどの術を操った刃。
術の理解、そして効果に範囲、どれをとっても段違いであり、その姿は当主達の目に刻まれた。
そして何より暦の本家筋である彼等の霊力を優に上回る容量。試練によって発覚したとは言え、そんな存在を易々と放置できる訳がないのだ。
「で……お前ら。言いたいことは分かるが、どこにも出さないからな。あいつにはあいつの人生がある――絶対に手を出すな、特に由衣」
本来ならこの集まりに参加するのは不本意だった昴。
息子が瀕死の重傷を負ったうえでそれが心配なのに傍に居られず、こんな部屋に集まらされたことでかなりキレかけていた。
「貴方がそこまで言うなんて本当に変わったのですね昴。あの冷徹の見鬼と言われた貴方が身内とはいえそこまで誰かに情を持つなんて」
「うるせぇ、とりあえず俺はもう抜ける刃の所に行かせろ」
「構わないわ、でも帰っちゃ駄目よ?」
「――分かってるよ、九曜様」
そう言っていつもとは違う雰囲気のまま去ろうとする昴。
そんな彼にだんまりを決め込んでいた水無月静が声をかける。
「……行く前に一言良いですか?」
「なんだ静、手短にしろ」
「…………娘を守ってくれて感謝します」
「それは刃に伝えろ、まだ帰りはしないからな」
「――ッ傷が深すぎますが今のわたしでは!」
丑神の力、それは豊穣を操り他者の傷を癒やすというもの。
本来の力を引き出せれば彼の傷を完治させただろうが、霊力が足りない今の巴では傷を塞ぐ程度の事しか出来なかった。
失った血は戻らず、意識も落としたまま。
間違いのない今回の功労者を目の前で死なせるというそんなことを彼女が出来るわけがなく、全力で霊力を注ぎ込んだ。
「亮様は、はやく大人の方を! もう倒しましたし出られるはずです!」
「分かった! うり坊、また力を貸して急ぐよ!」
いつの間にか現れていた扉から出て大人を探しに行く亮。
彼自分が呼び出せる中で最速の猪神を呼び出し、外にいるだろう大人を探しに行った。巴が治し、亮が探しに行く中で未だ唖然として動けない少女が二人。
一人は龍華であり、もう一人は床にへたり込む雫だ。
「……なぜこの方はわたくしを庇って?」
一瞬の出来事、自分の油断のせいでそれも自身の欲を満たすための浅はかな行動が誰かを傷付けた。その事実がのしかかり、上手く現実を飲み込めない彼女。
それとは対称的に何も喋れない龍華は、なんとか倒れる刃に近付くも……ただ見てることしか出来ない。何故なら彼女には回復の力は無く、今のこの場で足手まといだからだ。声をかけるにも、刃が自分を負かした初めての相手である彼が動かないという現実が……どうしようもなく彼女を襲う。
「龍華様、見てないで霊力を貸してください!」
「え、えぇ分かったわ」
動揺を隠しきれないのかいつもの様子を出せない。
普段の余裕な態度は鳴りを潜め、今は巴に言われた通り自分の霊力を彼女に託すことしか出来なかった。
そしてそんな治療が始まり少しが経った時、空間がゆがみ純白の少女が姿を現した。笑みを絶やさずどこまでも整った顔で倒れる刃を見下ろしている。
「この子は本当に凄いわね、まさか一人で牛頭を倒すなんて……ねぇ二人とも離れてくれないかしら?」
「――九曜様? 何する気ですか?」
「ご褒美かしらね、せっかく勝ったのだから治すぐらいはしないといけないわ――九曜曼荼羅……金星・シャクラの弦」
九曜の手に弦楽器が握られそれを鳴らせば白い光りが刃を包む。
それに包まれると瞬く間に彼の傷が治り始めたのだ。それはもう再生と言っていい程の速度であり血色の悪かった顔もいつも通りに何より霊力までもを回復させた。
「他の褒美はまたあとでね、それにこのまま放置するのも可哀想だもの。今晩はお疲れ様も兼ねて出雲大社に泊まりなさい?」
そう言って倒れていた刃を浮かした九曜は瞬時に姿を消して何処かへいなくなってしまった。残された子供達はそのまま亮が連れてきた親たちと合流しそのままこの出雲大社に泊まることとなる。
そしてそれから数時間後のこと、子供達が部屋で休む中で暦の一族の大人達である五人と九曜がある一室に集まっていた。
「さてどうだったかしら今日の催しは」
「刃という子供が圧倒的でしたね九曜様――昴、失礼ですが、本当にあの子は十六夜の血なのでしょうか? あの歳であの才は異常と言ってもよろしいはずです」
「正真正銘俺等の子だよ……まぁ、あんな事が出来るのは知らなかったが……」
思い出すのは、およそ七歳の子供が使えると思えないほどの術を操った刃。
術の理解、そして効果に範囲、どれをとっても段違いであり、その姿は当主達の目に刻まれた。
そして何より暦の本家筋である彼等の霊力を優に上回る容量。試練によって発覚したとは言え、そんな存在を易々と放置できる訳がないのだ。
「で……お前ら。言いたいことは分かるが、どこにも出さないからな。あいつにはあいつの人生がある――絶対に手を出すな、特に由衣」
本来ならこの集まりに参加するのは不本意だった昴。
息子が瀕死の重傷を負ったうえでそれが心配なのに傍に居られず、こんな部屋に集まらされたことでかなりキレかけていた。
「貴方がそこまで言うなんて本当に変わったのですね昴。あの冷徹の見鬼と言われた貴方が身内とはいえそこまで誰かに情を持つなんて」
「うるせぇ、とりあえず俺はもう抜ける刃の所に行かせろ」
「構わないわ、でも帰っちゃ駄目よ?」
「――分かってるよ、九曜様」
そう言っていつもとは違う雰囲気のまま去ろうとする昴。
そんな彼にだんまりを決め込んでいた水無月静が声をかける。
「……行く前に一言良いですか?」
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