293 / 321
第61話 俳句(4)
しおりを挟む
俳句というのは、もちろん想像や一般論で書くこともできる。
例えば、「広き野に在るのは我と赤蜻蛉」みたいな句をなんとなく詠んで、なんとなく解釈してもらうこともできる。
しかし、やはり実体験を詠んだ方が句に深みが出るのは間違いない。
『春深しそろそろ友達出来たかな?』
私のこの名句は、中学時代に全然友達がいなかった私ならではの一句だろう。
基本路線はこのままで、友達が出来た安心感とか、友達が出来るか不安な気持ちを詠みたいが、何かそういう季語はあるだろうか。
一覧を眺めると、『春陰』という季語があった。春の曇り空だそうだ。ただ、気持ちが春陰だと書くと、春陰を比喩として使うことになってしまう。
『春陰の入学式今は一人』
これなら、不安だ心配だと語らずに、季語の力でそれを表現できているのではないか。
休み時間に二人に見せると、涼夏に「暗い」と一蹴された。
「句としても学校がテーマの句としてもいいかもだけど、あの青空の兼題写真には合ってないな」
涼夏がそう言って首を振ると、隣で絢音も気になるところがあると手を挙げた。
「入学式に一人なのは当たり前だから、『春陰の入学式』だけで一人きりの不安な気持ちは表現されてる」
なるほど、さすが俳句甲子園を見て勉強しただけはある。鋭い指摘だ。
「実体験を詠むのは大事だな。帰宅部で毎日帰るのが楽しい気持ちを詠もう」
そう言って、涼夏が昼休みに披露したのがこの句である。
「虫の音をただ追いかける通学路」
実体験と言っていたが、虫の音を追いかけたことなどない。
絢音が「授業はちゃんと受けて」と軽くたしなめた後、句について言及した。
「この『ただ』っていうのが、すごく文字数調整に見えるけど」
「まっしぐらとか一心不乱を表現した『ただ』だな」
「そのまま『虫の声よ通学路をまっしぐら』とかの方がいいんじゃない?」
絢音が添削したが、それだとニュアンスが曖昧に感じる。
「虫が嫌いで、走って帰ってるようにも聞こえる」
「そこは『虫の声』っていう季語が、ポジティブに働いてくれると思うけど」
「季語の力かー」
涼夏がパンをかじりながら呟いた。ちなみに絢音は何か出来たかと聞くと、絢音は授業中は授業を受けていると澄ました顔で言った。
「でも、秋もいいね。友達と今日はおでんだ秋日和」
絢音が即興で詠む。おでんは冬の季語だろうと突っ込むと、すぐに修正してきた。
「友達と今日はケーキだ秋日和」
「ケーキって言うと、何か特別な一日って感じがする」
「友達と今日はカラオケ秋日和」
「せっかくの秋日和なのに屋内なの?」
やいのやいの喋っていたら、昼休みが終わった。全然話し足りない。
それにしても、こうしてみんなで一つのことに取り組むのは面白い。いっそそういうことを詠むのもいいかもしれない。
募集の期間は2週間。長くはないが飽きずに取り組むには丁度いい長さだ。この2週間は、我が帰宅部は結波俳句部Aを名乗ろう。
例えば、「広き野に在るのは我と赤蜻蛉」みたいな句をなんとなく詠んで、なんとなく解釈してもらうこともできる。
しかし、やはり実体験を詠んだ方が句に深みが出るのは間違いない。
『春深しそろそろ友達出来たかな?』
私のこの名句は、中学時代に全然友達がいなかった私ならではの一句だろう。
基本路線はこのままで、友達が出来た安心感とか、友達が出来るか不安な気持ちを詠みたいが、何かそういう季語はあるだろうか。
一覧を眺めると、『春陰』という季語があった。春の曇り空だそうだ。ただ、気持ちが春陰だと書くと、春陰を比喩として使うことになってしまう。
『春陰の入学式今は一人』
これなら、不安だ心配だと語らずに、季語の力でそれを表現できているのではないか。
休み時間に二人に見せると、涼夏に「暗い」と一蹴された。
「句としても学校がテーマの句としてもいいかもだけど、あの青空の兼題写真には合ってないな」
涼夏がそう言って首を振ると、隣で絢音も気になるところがあると手を挙げた。
「入学式に一人なのは当たり前だから、『春陰の入学式』だけで一人きりの不安な気持ちは表現されてる」
なるほど、さすが俳句甲子園を見て勉強しただけはある。鋭い指摘だ。
「実体験を詠むのは大事だな。帰宅部で毎日帰るのが楽しい気持ちを詠もう」
そう言って、涼夏が昼休みに披露したのがこの句である。
「虫の音をただ追いかける通学路」
実体験と言っていたが、虫の音を追いかけたことなどない。
絢音が「授業はちゃんと受けて」と軽くたしなめた後、句について言及した。
「この『ただ』っていうのが、すごく文字数調整に見えるけど」
「まっしぐらとか一心不乱を表現した『ただ』だな」
「そのまま『虫の声よ通学路をまっしぐら』とかの方がいいんじゃない?」
絢音が添削したが、それだとニュアンスが曖昧に感じる。
「虫が嫌いで、走って帰ってるようにも聞こえる」
「そこは『虫の声』っていう季語が、ポジティブに働いてくれると思うけど」
「季語の力かー」
涼夏がパンをかじりながら呟いた。ちなみに絢音は何か出来たかと聞くと、絢音は授業中は授業を受けていると澄ました顔で言った。
「でも、秋もいいね。友達と今日はおでんだ秋日和」
絢音が即興で詠む。おでんは冬の季語だろうと突っ込むと、すぐに修正してきた。
「友達と今日はケーキだ秋日和」
「ケーキって言うと、何か特別な一日って感じがする」
「友達と今日はカラオケ秋日和」
「せっかくの秋日和なのに屋内なの?」
やいのやいの喋っていたら、昼休みが終わった。全然話し足りない。
それにしても、こうしてみんなで一つのことに取り組むのは面白い。いっそそういうことを詠むのもいいかもしれない。
募集の期間は2週間。長くはないが飽きずに取り組むには丁度いい長さだ。この2週間は、我が帰宅部は結波俳句部Aを名乗ろう。
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる