上 下
273 / 296

第58話 対決 2

しおりを挟む
 Prime Yellowsのメンバー+私の5人で議論を重ねた結果、帰宅部対抗何とか大会はTSAで行うという、実に無難なところに着地した。
 TSAとはトライ・スポーツ・アミューズメントの略で、様々なスポーツで遊べる施設である。もちろん、本格的な道具や設備があるわけではないが、バッティングにピッチング、テニスにバドミントン、バスケにフットサルなど、様々なスポーツを楽しむことができる。
 店舗にもよるが、スポーツ以外にもカラオケ、ダーツ、ビリヤードといった定番の遊びもあり、若者なら誰もが一度は行ったことのある、超有名なスポットだ。ちなみに、私は若者だが行ったことがない。
 その場にいた絢音はもちろん、涼夏も私の報告を聞いて「久しぶりだな」と言っていた。ここまで無難な場所に、何故帰宅部を結成してから1年半、一度も行ったことがないかというと、1つは微妙に高いからである。学割でも1日2千円もするので、お小遣いが5千円の絢音には高額な遊びだ。
 場所が遠いのもある。施設の特性上、どうしても広いスペースを必要とするので、繁華街よりも郊外にあることが多い。そうなると、当然交通費もかかってくるので、さらに懐が圧迫される。
 そして、涼夏がそれほどスポーツが好きではないこと。トラスポはスポーツというよりは遊びの延長だが、敢えて遊びの候補に挙げることはなかった。結局、涼夏は行ったことがあったし、今回も実に前向きなので、余計な心配だったのかも知れない。
 奈都はどうだろうか。中学の時同様、今も他の友達と遊んだ内容をほとんど自分からは話さないが、いかにも行ったことがありそうだ。そう思って聞いてみると、意外にも奈都は機会がなかったと言った。
「行きたいと思ってたんだよね」
「奈都、経験豊富そうなのに」
「それ、響きが嫌。それで、いつ行くの?」
 まだ帰宅部対抗何とか大会の話を切り出したわけではなかったが、私がTSAの話をし始めた時点で、行くという予想はついたようだ。
「今度、プライエメンバーと涼夏と私で、帰宅部対抗トラスポ大会的なことをするから、終わったら感想を話すね」
「いや、誘ってよ!」
「帰宅部限定だから」
「ナミは手芸部でしょ?」
 さすが元クラスメイトだ。詳しい。そこを突かれると弱いので、仕方なくため息をついた。
「じゃあ、奈都も参加ってことで」
「嫌々ならいいけど」
「そんなわけないでしょ」
 叱るようにそう言うと、奈都は納得がいかないように唇を尖らせた。難しい子だ。
 これで7人になった。実に中途半端な数なので、後からサックスの涌田さんも呼ぶかと発起人に提案すると、豊山さんはこれ以上人数が増えるのは大変だと首を横に振った。
「まあ、3対3で絢音は審判だね。得点記録係」
「出たいから。元1組のナツも私と同じ共通メンバーみたいなものだから、私とナツで中立勢力を形成する」
 絢音が名案だと手を打った。中立勢力はなかなかカッコイイ響きだ。厨二病を患っている奈都も喜ぶだろう。
 そうなると、私は涼夏と組むことになる。いかにも弱そうなチームだ。
「ペア戦なら、私はさぎりと組めって、天がそう言ってるから、莉絵が得点記録係ね」
 一緒にいた戸和さんが迷いのない眼差しでそう言って、豊山さんは冷静に手を振った。
「発案者が出ないのはおかしいから」
「じゃあ、私とナツのペアと、千紗都と涼夏のペアの4人で遊ぶから、みんなとはまた今度」
「それじゃあ、いつも通りでしょ!」
 絢音の冗談に豊山さんがわかりやすい反応をして、思わず笑った。ここも私と奈都のように5年の付き合いだが、ずっと一緒にバンドをやっているだけあって息がピッタリだ。私と奈都は、一体何年付き合えばわかり合えるのだろう。
 ひとまず対戦は4対3もしくは2対2対3でやるとして、後は日にちだ。こういうのは勢いが大事なので、すぐにでもやりたかったが、すべての土日が空いているような暇人は私だけだった。
 涼夏のバイトと絢音の模試、奈都の部活、戸和さんの外せない用事と、バンドのスタジオ練習日を除いたら、2週間後の土曜日になった。その日も奈都は遊ぶ予定が入っていたが、さすがに無理を言って予定をずらしてもらった。
 それにしても、まだ3週間もある。モチベーションの維持が大変だと唸ると、涼夏が陽気に笑った。
「だいぶ先の予定は一旦忘れることだな。私はその日までのすべての日を無駄にするつもりはない」
 帰宅部の鑑のような発言である。実際、指折り数えて待つのはもったいないし、無為に過ごすには惜しい季節だ。涼夏の誕生日の企画もしたい。
 特に練習が必要でもなければ、細かいルールを決めるほどの企画でもないし、どの遊びが空いているかは当日行ってみないとわからない。よって、各自漠然とやりたいゲームを考えておくことにして、気負わずに当日を待つことにした。

 そんなわけで、帰宅部対抗トラスポ大会当日は、見事な秋晴れだった。TSAはもちろん屋内の施設なので、こんなに晴れなくても良かったのにと、恨めしく空を見上げると、絢音が穏やかに言った。
「ピクニックに変更しようか」
「ないから! 私は体中の全細胞をトラスポ用に仕上げてきたから!」
 豊山さんが大袈裟にそう言って、私たちは思わず無言で見つめた。奈都だけが「やるなぁ」と唸り声を上げたので、何か通じ合うものがあったのだろう。言った本人も大袈裟すぎたと、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「チーム分けどうする? 負けたチームが勝ったチームにアイスね」
 涼夏が明るく笑う。何かする時、いつもアイスを賭けるが、たまには違うものでもいいと思う。
「アメリカンドッグを賭ける」
「微妙だ。コンビニで200円までとかでもいいな」
「じゃあそれで」
 主催者の豊山さんが締めてくれて、奈都が軽く手を挙げて私の隣に立った。
「私、チサと同じチームね」
「いや、部活も違うし、クラスも違うし、共通点がないでしょ」
 私が遠ざかるように一歩移動すると、奈都がわかりやすく声を上げた。
「魂の色が同じだから!」
 一体どこまで冗談だろう。絶対に違う色をしていると思うが、突っ込むのはやめておいた。
「中学が同じってことなら、私が莉絵と同じチームだね。昔は友達だった」
「まるで今は違うようだ」
 豊山さんが半眼になる。戸和さんは相変わらず牧島さんにくっついているので、涼夏が無念だと首を振った。
「チーム分けであぶれたの、人生で初めてかも知れない。貴重な体験だ」
 涼夏くらいのカリスマになると、逆にペアを組みにくいのではないかと思うが、そんなことはないようだ。実際、去年も今年も、クラスでペアを組む時、私は他に友達の少ない者同士、絢音と組むことが多いが、涼夏は普通に他の友達を捕まえている。
 奈都と組むと勝率は上がりそうだったが、しっくり来る2対2対3が出来なかったので、最初に話していたチームで戦うことになった。
「どう考えても弱そうなチームだ」
 涼夏が私と腕を組みながら深く頷く。私もまったく同じ感想だが、手芸部の戸和さんよりは動けそうな気もする。ほとんど一緒に遊んだことがないので未知数だ。
 楽しい一日になりそうである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~

楠富 つかさ
青春
 落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。 世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート! ※表紙はAIイラストです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。 一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか? おすすめシチュエーション ・後輩に振り回される先輩 ・先輩が大好きな後輩 続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。 だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。 読んでやってくれると幸いです。 「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195 ※タイトル画像はAI生成です

百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常

坂餅
青春
毎日更新 一話一話が短いのでサクッと読める作品です。 水原涼香(みずはらりょうか) 黒髪ロングに左目尻ほくろのスレンダーなクールビューティー。下級生を中心に、クールで美人な先輩という認識を持たれている。同級生達からは問題児扱い。涼音の可愛さは全人類が知るべきことだと思っている。 檜山涼音(ひやますずね) 茶色に染められた長い髪をおさげにしており、クリっとした目はとても可愛らしい。その愛らしい見た目は、この学校で可愛い子は? と言えばすぐ名前が上がる程の可愛さ。涼香がいればそれでいいと思っている節がある。 柏木菜々美(かしわぎななみ) 肩口まで伸びてた赤毛の少し釣り目な女子生徒。ここねが世界で一可愛い。 自分がここねといちゃついているのに、他の人がいちゃついているのを見ると顔を真っ赤にして照れたり逃げ出したり爆発する。 基本的にいちゃついているところを見られても真っ赤になったり爆発したりする。 残念美人。 芹澤ここね(せりざわここね) 黒のサイドテールの小柄な体躯に真面目な生徒。目が大きく、小動物のような思わず守ってあげたくなる雰囲気がある。可愛い。ここねの頭を撫でるために今日も争いが繰り広げられているとかいないとか。菜々美が大好き。人前でもいちゃつける人。 綾瀬彩(あやせあや) ウェーブがかったベージュの髪。セミロング。 成績優秀。可愛い顔をしているのだが、常に機嫌が悪そうな顔をしている、決して菜々美と涼香のせいで機嫌が悪い顔をしているわけではない。決して涼香のせいではない。なぜかフルネームで呼ばれる。夏美とよく一緒にいる。 伊藤夏美(いとうなつみ) 彩の真似をして髪の毛をベージュに染めている。髪型まで同じにしたら彩が怒るからボブヘアーにパーマをあててウェーブさせている 彩と同じ中学出身。彩を追ってこの高校に入学した。 元々は引っ込み思案な性格だったが、堂々としている彩に憧れて、彩の隣に立てるようにと頑張っている。 綺麗な顔立ちの子。 春田若菜(はるたわかな) 黒髪ショートカットのバスケ部。涼香と三年間同じクラスの猛者。 なんとなくの雰囲気でそれっぽいことを言える。涼香と三年間同じクラスで過ごしただけのことはある。 涼香が躓いて放った宙を舞う割れ物は若菜がキャッチする。 チャリ通。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...