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第58話 対決 1
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人生には無限の道があると言うが、学校から最寄り駅の上ノ水は真っ直ぐ同じ道上にあり、最短距離だと一通りしか道がない。時々信号を避けるために1本中の道を歩いたりもするが、それすら歩く距離だけで言えば遠回りになる。
道は我が帰宅部の主戦場である。それが一通りに限定されるのは良くないと、入学した時から帰りはみんなで一つ先の古沼まで歩くことが多い。もちろん、上ノ水がユナ高から真っ直ぐ南にある以上、歩く距離は単純に一駅分長くなるが、線が面になることで活動の場が増えるのはいいことだ。
それに、歩くのは運動にもなるし、ユナ高生による渋滞も避けられる。絢音が古沼乗り換えなので、上ノ水から一駅だけ乗るのも面倒くさい。活動内容の大半は喋っているだけなので、早く移動してどこかの店に入るより、長く歩いていた方が安く済むのもメリットだ。
もちろん、雨の日や急ぐ時、他の誰かと帰る時などは普通に上ノ水を使っている。今日も久しぶりに絢音のバンドメンバーと一緒になったので、6人で上ノ水を目指している。
「すっかり秋だね。秋は活動の季節だ」
牧島さんが風を感じる仕草をしながら言った。文化祭の頃は放課後でも汗ばむような陽気だったが、最近はそうでもない。日が落ちると涼しくなるが、寒いほどではない。スキーのような季節限定の部活を除けば、あらゆる部活にとって一番活動しやすい時期だろう。もちろん、帰宅部も例外ではない。
「活動的な帰宅部。いつもの倍くらい喋る」
「それはけたたましいな。ベラベラ喋る千紗都は見てみたいけど」
涼夏が軽やかに笑った。Prime Yellowsも何かアクティブに活動するのかと聞くと、豊山さんがコクリと頷き、隣で絢音が「知らない」と首を振った。
「私は何も聞かされてない。サプライズかな」
「いや、言った。絢音が聞いてたかどうかは別問題として」
豊山さんが冷静に退ける。絢音は額に指を当てて、呻くように呟いた。
「確か、さぎり財閥の力を借りて、全20曲のワンマンライブをやるんだっけ?」
「やらない。どっから出てきたの? その話」
「やるなら観に行こうかなって思った」
「なんでステージにいない前提なの!?」
牧島さんが慌てた様子でそう言うと、絢音がふふっといたずらっぽく笑った。基本的に絢音は、親しい間柄に対してはこんな感じだ。冗談ばかり言っているが、それは割と私も同じかもしれない。
「今度また、ライブをするくらいかな。それは聞いてる?」
豊山さんの言葉に、涼夏と二人で頷いた。もちろん絢音から聞かされているし、予定も空けてあるが、そろそろ絢音がライブをするのは日常になってきて、あまり特別なことという認識がなかった。元々、バンドとはライブをするものだ。
「例の男の子は?」
いい機会なので聞いてみる。
確か竹中君と言ったと思うが、文化祭の時、豊山さんが中学時代の後輩の男の子を連れてきて、一緒にステージに立った。もちろん、同じ中学の絢音も知っている子だったが、絢音の反応は微妙だった。なんとなく話すことすら嫌そうだったので、今回もどうするのか聞いていなかった。
私の質問に、豊山さんが苦笑いを浮かべながら答えた。
「まあ、空気読んだ。本人は出たがってたけど」
「レッドエアー」
「性を売りにするつもりはないけど、大して特徴のない私たちを見に来てくれる人がいるのは、やっぱりガールズバンドだからってのはあるからね」
牧島さんがそう答えて、相変わらず距離の近い戸和さんが、牧島さんのすぐ隣で大きく二度頷いた。もし戸和さんもこちら側の人間だとしたら、男子がいることを快く思っていなかっただろう。ただ、後から参加している上、技術的にも劣る戸和さんが、その手の発言をしにくいのは容易に想像できる。豊山さんの空気を読んだとは、そういう意味もありそうだ。
「私が男子といると千紗都が嫉妬するから、助かったよ」
絢音がわざとらしく胸を撫で下ろす仕草をして、私に寄りかかった。もちろんただの冗談だが、私も「気が狂いそうだった」と言って、同じように胸を撫で下ろした。絢音にそういう意図はないだろうが、多少私のせいにしておいた方が、豊山さんも納得がいくだろう。
涼夏がからかうように目を細めた。
「気が狂ってる千紗都、可愛いな」
「涼夏には、般若の生まれ変わりって言われた」
「言ってないし、そもそも狂ってもないな」
さすがにもう、涼夏や絢音が男子といたとしても、そこから恋愛に発展するような心配はしていないが、いないに越したことはない。もっとも、豊山さん自身が竹中君を恋愛的に気に入っていて、私たちがそれを邪魔しているのだとしたら再考の余地があるが、それすら絢音に言わせたら「他でやってくれ」という感じだろう。絢音はPrime Yellowsに音楽しか求めていない。
「絢音は野阪さん一筋だね」
戸和さんがはにかみながらそう言うと、絢音は真顔で首を振った。
「一筋ではないね。私は涼夏と千紗都を同じくらい愛してる」
「波香氏の方が一筋でしょ。さぎりちゃんとは愛し合ってるの? 片想いなの?」
涼夏が比較的クリティカルな部分にさっくりと切り込んだ。思わず息を呑んだが、考えてみたら二人はよくくっ付いているし、公然の仲なのかも知れない。期待するように目を向けると、戸和さんが苦笑した。
「野阪さんがそういう顔するの、珍しいね。そういうの興味なさそうなのに」
「人生の参考にする」
「そうなんだ。うん、私たち、付き合ってるよ」
もじもじしながら戸和さんが言った。私たちが思わず声を上げると、牧島さんが極めて冷静に手を振った。
「すごい自然に嘘つくね」
「周りから固めようと思って」
「固まった」
絢音が小さく拍手を送ったので、私も人生の参考になったと感謝を述べておいた。何にも使えそうにないが、いきなり付き合っている宣言した時にどう感じるかの参考にはなった。
話が一区切りついたところで、豊山さんが再び口を開いた。
「活動って言うと、そろそろあれをやる頃じゃない?」
あれとは何か。バンド内の話なのかと、続きを促すように視線を送ると、豊山さんは勝ち気な瞳で頷いた。
「帰宅部対抗何とか大会」
「ほう」
涼夏が興味深そうに相槌を打つ。初耳の人間の反応だ。バンド内でそういう話が出ていたのかと絢音を見ると、帰宅部とバンドを掛け持ちしている親友は、先程と同じ仕草で「知らない」と首を振った。
また聞いていなかっただけかと思ったら、今度は牧島さんも「初めて聞くイベントだね」と笑った。誰も知らないものを代名詞で表現するのは、割と好きな話題展開だ。
「私たちも帰宅部だし、ここらで一度対決するのもいいと思って」
来年は受験で忙しくなるだろうしと、豊山さんがため息混じりに付け加えたが、そもそも対決する必要はあるのだろうか。もちろん、帰宅部的な好ましい企画なのは間違いないが。
「波香氏、手芸部はどうしたの?」
涼夏が歴の浅いギタリストに聞いた。今の口ぶりは、「辞めたのか」という質問ではなく、「まだ手芸部だよね」という確認だ。私は戸和さんが手芸部であることをすっかり忘れていたが、涼夏は自分も裁縫をするし、時々そういう話もしているのだろう。
「辞めてはないけど、ギター始めてからは幽霊部員だね」
「掛け持ち。奈都と同じだね」
戸和さんと同じく、去年奈都と同じクラスだった牧島さんがそう付け加えた。
「奈都は頑として帰宅部じゃないって言い張ってる」
そのくせ、都合のいい時だけは帰宅部面するので、なかなか厄介だ。もし帰宅部対抗何とか大会が開催されたら、果たして参加するだろうか。
「こっちは私とさぎりと波香の3人で、そっちは涼夏と野阪さんと今澤さんで丁度いい」
豊山さんが指を追って数えると、絢音が一人足りないと残念そうに首を振った。
「絢音は掛け持ちだから、審判ね」
「判定が要るようなことしないでしょ。私は帰宅部を掛け持ちしたことはないよ」
「実際、何するの? その何とか大会」
牧島さんがさらに話を掘り下げようとしたところで、上ノ水に着いてしまった。今日はバイトがある涼夏が無念そうに首を振った。
「私は帰るけど、いい塩梅で決めておいてくれ。ただし、汗をかくようなスポーツ系イベントだと、猪谷さんは当日現れないかも知れない」
「私たちも運動はあんまり好きじゃないね。奈都一人で走り回ってそう」
戸和さんが笑いながらそう言って、みんなで手を振る涼夏の背中を見送った。
情報量は多かったが、まだ学校から駅まで歩いてきただけだ。今日の帰宅部活動はまだまだこれからである。場所を変えて、私たちは続きを話し合うことにした。
道は我が帰宅部の主戦場である。それが一通りに限定されるのは良くないと、入学した時から帰りはみんなで一つ先の古沼まで歩くことが多い。もちろん、上ノ水がユナ高から真っ直ぐ南にある以上、歩く距離は単純に一駅分長くなるが、線が面になることで活動の場が増えるのはいいことだ。
それに、歩くのは運動にもなるし、ユナ高生による渋滞も避けられる。絢音が古沼乗り換えなので、上ノ水から一駅だけ乗るのも面倒くさい。活動内容の大半は喋っているだけなので、早く移動してどこかの店に入るより、長く歩いていた方が安く済むのもメリットだ。
もちろん、雨の日や急ぐ時、他の誰かと帰る時などは普通に上ノ水を使っている。今日も久しぶりに絢音のバンドメンバーと一緒になったので、6人で上ノ水を目指している。
「すっかり秋だね。秋は活動の季節だ」
牧島さんが風を感じる仕草をしながら言った。文化祭の頃は放課後でも汗ばむような陽気だったが、最近はそうでもない。日が落ちると涼しくなるが、寒いほどではない。スキーのような季節限定の部活を除けば、あらゆる部活にとって一番活動しやすい時期だろう。もちろん、帰宅部も例外ではない。
「活動的な帰宅部。いつもの倍くらい喋る」
「それはけたたましいな。ベラベラ喋る千紗都は見てみたいけど」
涼夏が軽やかに笑った。Prime Yellowsも何かアクティブに活動するのかと聞くと、豊山さんがコクリと頷き、隣で絢音が「知らない」と首を振った。
「私は何も聞かされてない。サプライズかな」
「いや、言った。絢音が聞いてたかどうかは別問題として」
豊山さんが冷静に退ける。絢音は額に指を当てて、呻くように呟いた。
「確か、さぎり財閥の力を借りて、全20曲のワンマンライブをやるんだっけ?」
「やらない。どっから出てきたの? その話」
「やるなら観に行こうかなって思った」
「なんでステージにいない前提なの!?」
牧島さんが慌てた様子でそう言うと、絢音がふふっといたずらっぽく笑った。基本的に絢音は、親しい間柄に対してはこんな感じだ。冗談ばかり言っているが、それは割と私も同じかもしれない。
「今度また、ライブをするくらいかな。それは聞いてる?」
豊山さんの言葉に、涼夏と二人で頷いた。もちろん絢音から聞かされているし、予定も空けてあるが、そろそろ絢音がライブをするのは日常になってきて、あまり特別なことという認識がなかった。元々、バンドとはライブをするものだ。
「例の男の子は?」
いい機会なので聞いてみる。
確か竹中君と言ったと思うが、文化祭の時、豊山さんが中学時代の後輩の男の子を連れてきて、一緒にステージに立った。もちろん、同じ中学の絢音も知っている子だったが、絢音の反応は微妙だった。なんとなく話すことすら嫌そうだったので、今回もどうするのか聞いていなかった。
私の質問に、豊山さんが苦笑いを浮かべながら答えた。
「まあ、空気読んだ。本人は出たがってたけど」
「レッドエアー」
「性を売りにするつもりはないけど、大して特徴のない私たちを見に来てくれる人がいるのは、やっぱりガールズバンドだからってのはあるからね」
牧島さんがそう答えて、相変わらず距離の近い戸和さんが、牧島さんのすぐ隣で大きく二度頷いた。もし戸和さんもこちら側の人間だとしたら、男子がいることを快く思っていなかっただろう。ただ、後から参加している上、技術的にも劣る戸和さんが、その手の発言をしにくいのは容易に想像できる。豊山さんの空気を読んだとは、そういう意味もありそうだ。
「私が男子といると千紗都が嫉妬するから、助かったよ」
絢音がわざとらしく胸を撫で下ろす仕草をして、私に寄りかかった。もちろんただの冗談だが、私も「気が狂いそうだった」と言って、同じように胸を撫で下ろした。絢音にそういう意図はないだろうが、多少私のせいにしておいた方が、豊山さんも納得がいくだろう。
涼夏がからかうように目を細めた。
「気が狂ってる千紗都、可愛いな」
「涼夏には、般若の生まれ変わりって言われた」
「言ってないし、そもそも狂ってもないな」
さすがにもう、涼夏や絢音が男子といたとしても、そこから恋愛に発展するような心配はしていないが、いないに越したことはない。もっとも、豊山さん自身が竹中君を恋愛的に気に入っていて、私たちがそれを邪魔しているのだとしたら再考の余地があるが、それすら絢音に言わせたら「他でやってくれ」という感じだろう。絢音はPrime Yellowsに音楽しか求めていない。
「絢音は野阪さん一筋だね」
戸和さんがはにかみながらそう言うと、絢音は真顔で首を振った。
「一筋ではないね。私は涼夏と千紗都を同じくらい愛してる」
「波香氏の方が一筋でしょ。さぎりちゃんとは愛し合ってるの? 片想いなの?」
涼夏が比較的クリティカルな部分にさっくりと切り込んだ。思わず息を呑んだが、考えてみたら二人はよくくっ付いているし、公然の仲なのかも知れない。期待するように目を向けると、戸和さんが苦笑した。
「野阪さんがそういう顔するの、珍しいね。そういうの興味なさそうなのに」
「人生の参考にする」
「そうなんだ。うん、私たち、付き合ってるよ」
もじもじしながら戸和さんが言った。私たちが思わず声を上げると、牧島さんが極めて冷静に手を振った。
「すごい自然に嘘つくね」
「周りから固めようと思って」
「固まった」
絢音が小さく拍手を送ったので、私も人生の参考になったと感謝を述べておいた。何にも使えそうにないが、いきなり付き合っている宣言した時にどう感じるかの参考にはなった。
話が一区切りついたところで、豊山さんが再び口を開いた。
「活動って言うと、そろそろあれをやる頃じゃない?」
あれとは何か。バンド内の話なのかと、続きを促すように視線を送ると、豊山さんは勝ち気な瞳で頷いた。
「帰宅部対抗何とか大会」
「ほう」
涼夏が興味深そうに相槌を打つ。初耳の人間の反応だ。バンド内でそういう話が出ていたのかと絢音を見ると、帰宅部とバンドを掛け持ちしている親友は、先程と同じ仕草で「知らない」と首を振った。
また聞いていなかっただけかと思ったら、今度は牧島さんも「初めて聞くイベントだね」と笑った。誰も知らないものを代名詞で表現するのは、割と好きな話題展開だ。
「私たちも帰宅部だし、ここらで一度対決するのもいいと思って」
来年は受験で忙しくなるだろうしと、豊山さんがため息混じりに付け加えたが、そもそも対決する必要はあるのだろうか。もちろん、帰宅部的な好ましい企画なのは間違いないが。
「波香氏、手芸部はどうしたの?」
涼夏が歴の浅いギタリストに聞いた。今の口ぶりは、「辞めたのか」という質問ではなく、「まだ手芸部だよね」という確認だ。私は戸和さんが手芸部であることをすっかり忘れていたが、涼夏は自分も裁縫をするし、時々そういう話もしているのだろう。
「辞めてはないけど、ギター始めてからは幽霊部員だね」
「掛け持ち。奈都と同じだね」
戸和さんと同じく、去年奈都と同じクラスだった牧島さんがそう付け加えた。
「奈都は頑として帰宅部じゃないって言い張ってる」
そのくせ、都合のいい時だけは帰宅部面するので、なかなか厄介だ。もし帰宅部対抗何とか大会が開催されたら、果たして参加するだろうか。
「こっちは私とさぎりと波香の3人で、そっちは涼夏と野阪さんと今澤さんで丁度いい」
豊山さんが指を追って数えると、絢音が一人足りないと残念そうに首を振った。
「絢音は掛け持ちだから、審判ね」
「判定が要るようなことしないでしょ。私は帰宅部を掛け持ちしたことはないよ」
「実際、何するの? その何とか大会」
牧島さんがさらに話を掘り下げようとしたところで、上ノ水に着いてしまった。今日はバイトがある涼夏が無念そうに首を振った。
「私は帰るけど、いい塩梅で決めておいてくれ。ただし、汗をかくようなスポーツ系イベントだと、猪谷さんは当日現れないかも知れない」
「私たちも運動はあんまり好きじゃないね。奈都一人で走り回ってそう」
戸和さんが笑いながらそう言って、みんなで手を振る涼夏の背中を見送った。
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