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第55話 誕生日2 5(2)
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<作者より>
Kindle版『キタコミ!』第6巻が発売されました!
沖縄の後、夏休み後半から文化祭、この誕生日会までを収録しています。
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* * *
元気になったらしい妹氏も交えてゲームをしていたら、涼夏ママが帰ってきた。そろそろいい時間だったので、ピザのお礼を伝えて入れ違いでお暇することにした。
服の詰まった紙袋を手に持って、入り切らなかった服ともらったプレゼントを詰め込んだリュックを背負う。セールの戦利品の様相だ。
外はすっかり暗くなっていたが、まだまだ夏を感じる気温だった。今年も涼夏が駅まで送ってくれる。
「さっき思ったんだけど、千紗都は我々全員のファーストキスを奪ったんだな。すごいことだ」
「部長だから」
短くそう答えると、何が面白かったのか、絢音があははと笑った。ちなみに、奪ったというのは人聞きが悪い。私の方からしたのは奈都だけだと言うと、奈都が嬉しそうにはにかんだ。
「私だけ特別」
「でも千紗都のファーストキスの相手は私だから!」
涼夏が対抗心を燃やすようにそう言った。内容的には正しいが、もちろんただの冗談だ。奈都も口調でそう感じ取っただろう。
「私はユナ高が誇る2大可愛い千紗都と涼夏とキスしたことがある唯一の人間であることを誇りにしてるから、その争いには参加しない」
絢音がふふんと笑った。定期的に言っているから、かなり誇っているようだ。
「チサは部長だからわかるけど、アヤと涼夏がキスしてるのはちょっと不思議」
奈都が首を傾げると、「いや、ナッちゃんのせいだろ」と涼夏が苦笑した。奈都は「私、関係ないし!」と驚いたように目を丸くしたので、たぶん本気にしていない。2回目以降はともかく、涼夏と絢音が最初にキスをした原因は、完全に奈都にあるのだが、まあ忘れているのなら放っておこう。
「今年の誕生日会も楽しかった。涼夏の素晴らしい手作りカプレーゼも食べれたし」
「うん。すごく美味しかった!」
絢音もうんうんと頷くと、涼夏が「そっちじゃないな」と冷静に首を振った。私も本気を出したらケーキくらい作れるようになりたいが、日頃の研鑽の賜物だろう。
「カプレーゼを作れるようになるのを、17歳の目標にしよう」
静かにそう言うと、涼夏が「1時間コースでマスター出来る目標だな」と呆れたように肩をすくめた。1時間でマスターして、得意料理はカプレーゼですと言うのも、響きはカッコイイ。
「私は17歳の目標、どうしようかなぁ。ナツは何にした?」
絢音が参考までにと話を振る。奈都はひどく狼狽えた様子で首を振った。
「何もないけど。みんな、目標とか立てて生きてるの?」
「16歳の時は立てなかったし、15歳以前にも立てたことがないね」
「ずっとじゃん!」
的確なツッコミだ。涼夏も「何にしようかなぁ」と言い出したので、キミにはまだ早いと止めておいた。
「涼夏は私たちには失われた16歳を楽しんで。今度3人で17歳会議を開こう」
「うわぁ。疎外感」
涼夏が無念だと首を振った。いつかお酒が飲める歳になった時にも同じやり取りをしそうだ。絢音だったら気にせず飲みそうだが、涼夏はその辺りは堅い。
話し込むと長くなるので、そろそろ切り上げることにした。せっかくなので涼夏にキスすると、涼夏が可笑しそうに言った。
「荷物抱えながらキスすると、ついで感がすごいな」
「まあ、今のは実際、肩に手を置くとかと同じレベルのスキンシップだった」
「慣れたくないものだ」
愛は死んだと、涼夏が無念そうにため息をついた。
電車に乗り込み、乗り換え駅で絢音にもスキンシップを図ると、絢音は「目標考えておいて」と笑った。
「目標ねぇ。毎日筋トレするとか」
奈都と二人になり、何かないかとそう口にすると、奈都は不満げな顔をした。
「チサは柔らかいからいいのに」
「それ、褒め言葉なの? 帰宅部の企画を5つ立てるとか」
「部長なんでしょ? もっと頑張って」
「奈都はもっと愛情を言動で表現することを目標にして」
最近愛が感じられないと訴えると、奈都は「つまり、おっぱいを揉む」と真顔で呟いた。ちょっと理解できない。
「それが奈都の愛情表現なんだね? 顔を叩くカメと同じレベルだね」
「何それ」
「カメの求愛。じゃあ、奈都に胸を揉まれたら、ほっぺを叩くよ。それはOKのサインだから」
「すごく嫌」
まったく新しい愛の形が爆誕するところだったが、却下されてしまった。
最寄り駅で降りると、奈都が人間らしい愛情表現を求めてきた。そちらからどうぞと無形の位で待ち構えると、奈都は恐る恐るという手つきで私の体を引き寄せてキスをした。
あまり慣れるのも考えものだが、あまり慣れないのも考えものだ。もっとも、一緒に寝る時は貪るようにキスをしてくるから、どこかにスイッチがあるのだろう。
「5回に1回くらいは奈都からキスするのを目標にして」
私がそう言うと、奈都はむぅと頬を膨らませた。
「じゃあ、チサもたまには私の胸を揉むのを目標にして」
「揉まれたいの?」
怪訝な顔でそう聞くと、奈都はもちろんだと頷いた。仕方がないので両手で勢いよくわきわき揉むと、奈都は悲鳴を上げて身をよじった。容赦なく揉み続けると、奈都はブンブンと頭を振って涙目で私を見上げた。
「もうわかった! 今日はもう大丈夫!」
「まだ数秒しか揉んでないから。5分くらい揉むから」
逃げようとする奈都の体を背中から抱きしめて、これでもかと揉みしだく。
奈都は壁に寄りかかって震えていたが、その内色っぽい声を出して崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。まるでいじめの構図だ。
「これを時々すればいいんだね?」
「いいけど、指から愛を感じなかった!」
「これは私の愛情表現と違うから」
高校に入って1年半、愉快な3人とずっと一緒にいるが、未だに胸を揉みたいという感情を抱いたことがない。自分がそうなので、普通は抱くという意見にも懐疑的だ。
奈都がよろよろと立ち上がって、服の上からブラジャーを直しながら言った。
「チサの愛情表現って?」
「なんだろう。いつも一緒にいたいとは思うけど」
「それは寂しいだけでしょ」
何やらとても難しいことを言って、奈都は私の胸をふた揉みして帰って行った。
「愛とは何か」
帰り道、一人呟く。涼夏が愛100%と言っていたが、私が3人と一緒にいたいと思う気持ちは愛ではないのだろうか。
寂しいからと言って、誰でも良いわけではない。好きなのは確かに愉快な仲間たちだけだが、表現方法が違うから物足りないのだろう。
とりあえず、しばらく奈都の胸を揉みまくろう。そうしたら、何か新しい扉が開けるかもしれない。
17歳。愛に満ちた毎日が送れたらと思う。
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「私だけ特別」
「でも千紗都のファーストキスの相手は私だから!」
涼夏が対抗心を燃やすようにそう言った。内容的には正しいが、もちろんただの冗談だ。奈都も口調でそう感じ取っただろう。
「私はユナ高が誇る2大可愛い千紗都と涼夏とキスしたことがある唯一の人間であることを誇りにしてるから、その争いには参加しない」
絢音がふふんと笑った。定期的に言っているから、かなり誇っているようだ。
「チサは部長だからわかるけど、アヤと涼夏がキスしてるのはちょっと不思議」
奈都が首を傾げると、「いや、ナッちゃんのせいだろ」と涼夏が苦笑した。奈都は「私、関係ないし!」と驚いたように目を丸くしたので、たぶん本気にしていない。2回目以降はともかく、涼夏と絢音が最初にキスをした原因は、完全に奈都にあるのだが、まあ忘れているのなら放っておこう。
「今年の誕生日会も楽しかった。涼夏の素晴らしい手作りカプレーゼも食べれたし」
「うん。すごく美味しかった!」
絢音もうんうんと頷くと、涼夏が「そっちじゃないな」と冷静に首を振った。私も本気を出したらケーキくらい作れるようになりたいが、日頃の研鑽の賜物だろう。
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静かにそう言うと、涼夏が「1時間コースでマスター出来る目標だな」と呆れたように肩をすくめた。1時間でマスターして、得意料理はカプレーゼですと言うのも、響きはカッコイイ。
「私は17歳の目標、どうしようかなぁ。ナツは何にした?」
絢音が参考までにと話を振る。奈都はひどく狼狽えた様子で首を振った。
「何もないけど。みんな、目標とか立てて生きてるの?」
「16歳の時は立てなかったし、15歳以前にも立てたことがないね」
「ずっとじゃん!」
的確なツッコミだ。涼夏も「何にしようかなぁ」と言い出したので、キミにはまだ早いと止めておいた。
「涼夏は私たちには失われた16歳を楽しんで。今度3人で17歳会議を開こう」
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涼夏が無念だと首を振った。いつかお酒が飲める歳になった時にも同じやり取りをしそうだ。絢音だったら気にせず飲みそうだが、涼夏はその辺りは堅い。
話し込むと長くなるので、そろそろ切り上げることにした。せっかくなので涼夏にキスすると、涼夏が可笑しそうに言った。
「荷物抱えながらキスすると、ついで感がすごいな」
「まあ、今のは実際、肩に手を置くとかと同じレベルのスキンシップだった」
「慣れたくないものだ」
愛は死んだと、涼夏が無念そうにため息をついた。
電車に乗り込み、乗り換え駅で絢音にもスキンシップを図ると、絢音は「目標考えておいて」と笑った。
「目標ねぇ。毎日筋トレするとか」
奈都と二人になり、何かないかとそう口にすると、奈都は不満げな顔をした。
「チサは柔らかいからいいのに」
「それ、褒め言葉なの? 帰宅部の企画を5つ立てるとか」
「部長なんでしょ? もっと頑張って」
「奈都はもっと愛情を言動で表現することを目標にして」
最近愛が感じられないと訴えると、奈都は「つまり、おっぱいを揉む」と真顔で呟いた。ちょっと理解できない。
「それが奈都の愛情表現なんだね? 顔を叩くカメと同じレベルだね」
「何それ」
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あまり慣れるのも考えものだが、あまり慣れないのも考えものだ。もっとも、一緒に寝る時は貪るようにキスをしてくるから、どこかにスイッチがあるのだろう。
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私がそう言うと、奈都はむぅと頬を膨らませた。
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「揉まれたいの?」
怪訝な顔でそう聞くと、奈都はもちろんだと頷いた。仕方がないので両手で勢いよくわきわき揉むと、奈都は悲鳴を上げて身をよじった。容赦なく揉み続けると、奈都はブンブンと頭を振って涙目で私を見上げた。
「もうわかった! 今日はもう大丈夫!」
「まだ数秒しか揉んでないから。5分くらい揉むから」
逃げようとする奈都の体を背中から抱きしめて、これでもかと揉みしだく。
奈都は壁に寄りかかって震えていたが、その内色っぽい声を出して崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。まるでいじめの構図だ。
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奈都がよろよろと立ち上がって、服の上からブラジャーを直しながら言った。
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「なんだろう。いつも一緒にいたいとは思うけど」
「それは寂しいだけでしょ」
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帰り道、一人呟く。涼夏が愛100%と言っていたが、私が3人と一緒にいたいと思う気持ちは愛ではないのだろうか。
寂しいからと言って、誰でも良いわけではない。好きなのは確かに愉快な仲間たちだけだが、表現方法が違うから物足りないのだろう。
とりあえず、しばらく奈都の胸を揉みまくろう。そうしたら、何か新しい扉が開けるかもしれない。
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