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第54話 文化祭2 12(1)

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 校内放送で文化祭の終了を知り、クラスのあちらこちらで終わった終わったと声が上がった。一般開放は先に終わっていて、客足も途絶えていたからすでに片付けを始めている。
 お金のことは糸織に任せてあったが、どうやら無事にプラスで終えられたらしい。景品もいくつか余ったので、ジャンケン大会が行われた。ルーレットについては、今度のHRで話し合うことになっている。
 誰かに買い取ってもらってもそのお金をどうするかという話になるし、かと言って学校のお金で買ったものを個人が持ち帰るのも問題がある。もっとも、景品はこうして山分けしたし、ルーレットが欲しい人などそういないだろうから、恐らく希望者がジャンケンをして持って行くことになるだろう。
 綺麗に作ったレイアウトも、たくさんの客を呼び込んだ宣伝も、感謝を捧げながらゴミ袋に詰め込んだ。たくさん写真も撮ったし、SNSにアップした子もいるだろうから、記憶の中で輝き続けて欲しい。
 廊下はガヤガヤと賑わっている。片付けもそうだが、今年は後夜祭が行われるので、それを待つ子もいるのだろう。後夜祭といえばフォークダンスだが、そういうものではなく、若者向けのダンスを踊りながら、みんなで歌って終わろうという企画だ。挨拶も含めて1時間ほど。しょぼい花火も上がるらしい。どうせ暇しているし、明日は代休で学校はないし、私も4人で見に行くことにしている。
 机を元の位置に並び終えて、やれやれと息を吐くと、何やら神妙な様子で川波君に声をかけられた。
「野阪さん、ちょっといい?」
 いつもの調子で突っぱねようと思ったが、なるほどそういうことかと察してOKした。他の友達と喋っていた涼夏が顔を上げたが、軽く手を広げて制した。涼夏も状況を理解したのか、私にだけわかるように小さく頷いた。
 何がそうさせたのかわからないが、川波君は私に振られようとしている。いや、もちろん振られる前提で告白するわけではないのだろうが、勝算がないのはわかっているだろう。だからこそ、川波君もこれまで踏み込まずにいたのだ。
 廊下の奥の人の少ない場所に移動すると、川波君は世間話をするように言った。
「文化祭、なんとか終わったな」
「せやな」
「言葉遣い、おかしくね?」
「余所行きの私」
 真顔で答えると、川波君は少しだけ笑ってから足元に視線を落とした。自分が告白しようとしていることに私が気が付いていると、川波君も理解しているだろう。それ以上世間話は続けずに、本題を切り出した。
「昨日、垣添さんに好きだ付き合って欲しい的なことを言われた」
「そう。それはおめでとう」
 予想の範疇なので特に驚かない。糸織はそうすることを示唆していたし、打ち明けるなら自然に喋れる今の内だろう。文化祭が終わってしまうと繋がりがなくなってしまう。
「どう思う?」
 抽象的な質問をされて、私は首を傾げた。
「糸織が好きなら付き合えばいいし、恋愛がしたいなら試せばいいと思うよ? 付き合う内に好きになるかもしれないし、好きじゃなくても付き合ってみるっていうのは、今時普通でしょ? 私はしないけど」
 誤解されるといけないのでそう付け加える。告白されたから付き合ってみたというカジュアルな恋愛は、クラスでもよく耳にする。一線を超えない限り、それは悪いことではないだろう。付き合ってから好きになったっていいと思う。
 川波君は難しそうに眉根を寄せてため息をついた。
「俺はやっぱり野阪さんが好きだ」
「それはどうも。片想いを継続したければ止めないけど、私が糸織に恨まれることはないようにしてね」
 もちろん、希望はないので、あまりお勧めはしないと付け加える。
「野阪さんは他に好きな人がいるの?」
「17歳で異性と付き合わなかったら投獄される法律があったら川波君にお願いするけど、幸いにもそういう法律はないね」
「つまり、恋愛自体に興味がないと」
「そう。涼夏と絢音と遊ぶことより大事なことなんて、私の世界には存在しない」
 これはもう何度も言っているし、実際に行動でも示しているが、理解してもらえるまで言い続ける。そもそも、たとえぼっちだったとしても男子と付き合うつもりはないが、それはややこしい事情によるものなので割愛する。
 川波君も、それはわかっていると頷いた。
「友達と恋愛って両立できない?」
「できないね。私は涼夏と絢音が好き」
「恋愛的な意味で?」
「それはわからないけど、卒業したら一緒に住もうって話をしてる。あの二人は私の中で、友達っていうより家族枠にいる」
 結婚とは家族になる契約だ。男女の恋愛の先に結婚があるのなら、川波君と涼夏と絢音は同じ立場にある。両立はできないし、どちらを選ぶかも明白だ。
「よくハグしてるし、普通じゃないとは思ってたけど、そこまでか」
「普通じゃないのは絢音の思考回路で、私は自分を普通だと思ってるけど」
 真面目にそう言うと、川波君は情けなく笑った。
「ケジメとして告白するよ。好きだから付き合って欲しい」
「じゃあ、ケジメとしてちゃんと断っておくね。それはできません。ごめんなさい」
 1年半続けてきた友情もこれでおしまい。川波君からの好意のない世界がどんなものか想像できないが、少なくとも私と愛友たちの関係には一切影響しないだろう。
「糸織を大事にしてあげてね」
 教室に戻りながらそう言うと、川波君は怪訝そうに首を傾げた。
「いや、まだ付き合うって決めたわけじゃない」
「なんで! 糸織と付き合うために私に振られにきたんでしょ?」
「どう考えても野阪さん、可愛いし。アイドルの追っかけも悪くない」
「私のために青春を無駄にしないで。卒業した後、自分を好きだって言ってくれた子と恋愛しておけば良かったってなるよ。絶対に」
「キミこそ」
「私は涼夏と絢音と幸せな毎日を送ってるから。卒業した後も関係は継続するし、思い出を作ってるんじゃなくて、礎を作ってるの」
 いいことを言った。今のは会心の比喩だったと満足して頷くと、川波君に「すごいドヤ顔だ」とからかわれた。
 廊下の窓から外を見ると、もう後夜祭が始まっていた。
 突然の告白のせいで大事な礎を一つ作り損ねたが、1年半、他の男子を牽制してくれたお礼に、それくらいは許してあげよう。
 スマホを見ると、涼夏から先に行くとメールが来ていた。私も急いで合流しよう。仲間には呆れられたが、私は文化祭に青春をかけているのだ。
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