228 / 296
第53話 ビーチ(3)
しおりを挟む
ようやく椅子から解放されると、肩が歓喜の声を上げた。絢音がレジャーシートを敷きながら、「嬉しそうだね」と笑った。
まるで拘束具から解き放たれたようだと言うと、絢音が眩しそうに目を細めた。
「私、拘束具をつけられたことがないからわからない」
「私もないから! 想像できるでしょ?」
「千紗都を拘束。滾る」
「変態はいます」
「助詞『は』を選んだ是非だね」
椅子を設置すると、とりあえずお尻を深くうずめた。隣で絢音が寝っ転がっていて、そっちの方がいい気がしないでもないが、隣の芝は青く見えるだけだろう。後で交代しよう。
空が青い。輝くような白い砂浜の上には無数のビーチチェアが置かれ、若者たちが肌を焼いているが、どうもあの感覚はわからない。欧米だと白い肌は不健康と見られ、日焼けする人が多いそうだが、その感覚だろうか。
隣を見ると、絢音の白い太ももが横たわっていた。何となく指先でなぞると、絢音がくすぐったそうに体を震わせた。
「そう言えば、服どうする?」
絢音が私のシャツをつまみながら言った。どうするというのは、水着になるかということだろうが、ぶっちゃけ海に入る気がないなら、わざわざ布を薄くする必要はない。
もっとも、チェアリング・オン・ザ・ビーチは、そもそも水着を1回しか着ていないことに対する物足りなさから企画したイベントである。ここで脱がなかったら本末転倒感が拭えない。
「脱ぐか」
もちろん、水着は下に着てきている。パパッと脱いで水着になると、絢音がはしゃぎながら写真を撮った。
「涼夏に送らなきゃ」
「涼夏の要望は二人の写真だったはず」
「今日、水着忘れたんだよね」
絢音が残念そうにため息をついたが、そんなわけはない。無理矢理引っぺがすと、絢音の白い肌が露になった。相変わらず細い。自分のお腹の肉をつまみながら、少しあげようかと言うと、絢音は静かに首を振った。
「もう少しお肉が欲しいけど、千紗都はそれ以上痩せなくていい。今、完全に仕上がってる」
「そうかなぁ」
「たくさん写真撮って壁紙にする」
絢音のスマホがパシャパシャと音を立てる。放っておくと永遠に撮り続けそうだったので、ビーチボールを持って一度腰を上げることにした。
日差しの下に出ると、肌が焦げる感じがした。日焼け止めはしっかり塗ってきたが、すぐに汗で流れてしまいそうだ。
ビーチボールを打ち合いながらそう言うと、絢音が大丈夫だと頷いた。
「後で私が塗ってあげる」
「肩と背中だけお願い」
「人間って、表面積大きいよね。どれだけ日焼け止めがあっても足りない」
適度に汗をかいたので、陣地に戻り、シートの上に寝転がった。シートの下は砂なので、柔らかくて気持ちがいい。
絢音は椅子に座って、これがチェアリングかとはしゃいでいる。
次に何をしようか相談しようとしたら、一緒に遊ばないかと声をかけられた。見上げると大学生くらいの男が3人。チャラいけどチャラくなり切れない感じの、一線を超えられないあどけなさがある。
声をかけるのにも随分勇気を出したのかもしれないが、生憎それに応じる義理はない。絢音は対応は任せたと言わんばかりに、ただ私を見つめるばかりなので、仕方なく私が追い払うことにした。せっかくだから、行きに話していたのを実践するのがいいだろう。
「私たち、デート中なの。もし私たちが男女だったら、話しかけてないでしょ?」
つっけんどんにそう言うと、男たちは、それはそうだがと言葉を濁した。
「じゃあ、邪魔しないでもらえる? 性別に関係なく、カップルに話しかけるのは非常識でしょ」
腰を上げて、のんきに座っている絢音の肩を抱くと、唇を押し付けた。これ見よがしにキスしていると、男たちは何やらドン引きしたような台詞を残して去っていった。
顔を離して絢音が笑った。
「これ、いつか学校でもやろう」
「そうする必要があったらね」
キスをするのはやぶさかではないが、幸か不幸かそうする必要があるシーンが思い付かなかった。
破滅したいと、よくわからないことを口走っている絢音の頭をぐりぐりと撫でて、私は再びレジャーシートに寝転がった。頭上にはまだまだ色の濃い青空が広がっている。
まるで拘束具から解き放たれたようだと言うと、絢音が眩しそうに目を細めた。
「私、拘束具をつけられたことがないからわからない」
「私もないから! 想像できるでしょ?」
「千紗都を拘束。滾る」
「変態はいます」
「助詞『は』を選んだ是非だね」
椅子を設置すると、とりあえずお尻を深くうずめた。隣で絢音が寝っ転がっていて、そっちの方がいい気がしないでもないが、隣の芝は青く見えるだけだろう。後で交代しよう。
空が青い。輝くような白い砂浜の上には無数のビーチチェアが置かれ、若者たちが肌を焼いているが、どうもあの感覚はわからない。欧米だと白い肌は不健康と見られ、日焼けする人が多いそうだが、その感覚だろうか。
隣を見ると、絢音の白い太ももが横たわっていた。何となく指先でなぞると、絢音がくすぐったそうに体を震わせた。
「そう言えば、服どうする?」
絢音が私のシャツをつまみながら言った。どうするというのは、水着になるかということだろうが、ぶっちゃけ海に入る気がないなら、わざわざ布を薄くする必要はない。
もっとも、チェアリング・オン・ザ・ビーチは、そもそも水着を1回しか着ていないことに対する物足りなさから企画したイベントである。ここで脱がなかったら本末転倒感が拭えない。
「脱ぐか」
もちろん、水着は下に着てきている。パパッと脱いで水着になると、絢音がはしゃぎながら写真を撮った。
「涼夏に送らなきゃ」
「涼夏の要望は二人の写真だったはず」
「今日、水着忘れたんだよね」
絢音が残念そうにため息をついたが、そんなわけはない。無理矢理引っぺがすと、絢音の白い肌が露になった。相変わらず細い。自分のお腹の肉をつまみながら、少しあげようかと言うと、絢音は静かに首を振った。
「もう少しお肉が欲しいけど、千紗都はそれ以上痩せなくていい。今、完全に仕上がってる」
「そうかなぁ」
「たくさん写真撮って壁紙にする」
絢音のスマホがパシャパシャと音を立てる。放っておくと永遠に撮り続けそうだったので、ビーチボールを持って一度腰を上げることにした。
日差しの下に出ると、肌が焦げる感じがした。日焼け止めはしっかり塗ってきたが、すぐに汗で流れてしまいそうだ。
ビーチボールを打ち合いながらそう言うと、絢音が大丈夫だと頷いた。
「後で私が塗ってあげる」
「肩と背中だけお願い」
「人間って、表面積大きいよね。どれだけ日焼け止めがあっても足りない」
適度に汗をかいたので、陣地に戻り、シートの上に寝転がった。シートの下は砂なので、柔らかくて気持ちがいい。
絢音は椅子に座って、これがチェアリングかとはしゃいでいる。
次に何をしようか相談しようとしたら、一緒に遊ばないかと声をかけられた。見上げると大学生くらいの男が3人。チャラいけどチャラくなり切れない感じの、一線を超えられないあどけなさがある。
声をかけるのにも随分勇気を出したのかもしれないが、生憎それに応じる義理はない。絢音は対応は任せたと言わんばかりに、ただ私を見つめるばかりなので、仕方なく私が追い払うことにした。せっかくだから、行きに話していたのを実践するのがいいだろう。
「私たち、デート中なの。もし私たちが男女だったら、話しかけてないでしょ?」
つっけんどんにそう言うと、男たちは、それはそうだがと言葉を濁した。
「じゃあ、邪魔しないでもらえる? 性別に関係なく、カップルに話しかけるのは非常識でしょ」
腰を上げて、のんきに座っている絢音の肩を抱くと、唇を押し付けた。これ見よがしにキスしていると、男たちは何やらドン引きしたような台詞を残して去っていった。
顔を離して絢音が笑った。
「これ、いつか学校でもやろう」
「そうする必要があったらね」
キスをするのはやぶさかではないが、幸か不幸かそうする必要があるシーンが思い付かなかった。
破滅したいと、よくわからないことを口走っている絢音の頭をぐりぐりと撫でて、私は再びレジャーシートに寝転がった。頭上にはまだまだ色の濃い青空が広がっている。
1
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~
楠富 つかさ
青春
落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。
世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート!
※表紙はAIイラストです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常
坂餅
青春
毎日更新
一話一話が短いのでサクッと読める作品です。
水原涼香(みずはらりょうか)
黒髪ロングに左目尻ほくろのスレンダーなクールビューティー。下級生を中心に、クールで美人な先輩という認識を持たれている。同級生達からは問題児扱い。涼音の可愛さは全人類が知るべきことだと思っている。
檜山涼音(ひやますずね)
茶色に染められた長い髪をおさげにしており、クリっとした目はとても可愛らしい。その愛らしい見た目は、この学校で可愛い子は? と言えばすぐ名前が上がる程の可愛さ。涼香がいればそれでいいと思っている節がある。
柏木菜々美(かしわぎななみ)
肩口まで伸びてた赤毛の少し釣り目な女子生徒。ここねが世界で一可愛い。
自分がここねといちゃついているのに、他の人がいちゃついているのを見ると顔を真っ赤にして照れたり逃げ出したり爆発する。
基本的にいちゃついているところを見られても真っ赤になったり爆発したりする。
残念美人。
芹澤ここね(せりざわここね)
黒のサイドテールの小柄な体躯に真面目な生徒。目が大きく、小動物のような思わず守ってあげたくなる雰囲気がある。可愛い。ここねの頭を撫でるために今日も争いが繰り広げられているとかいないとか。菜々美が大好き。人前でもいちゃつける人。
綾瀬彩(あやせあや)
ウェーブがかったベージュの髪。セミロング。
成績優秀。可愛い顔をしているのだが、常に機嫌が悪そうな顔をしている、決して菜々美と涼香のせいで機嫌が悪い顔をしているわけではない。決して涼香のせいではない。なぜかフルネームで呼ばれる。夏美とよく一緒にいる。
伊藤夏美(いとうなつみ)
彩の真似をして髪の毛をベージュに染めている。髪型まで同じにしたら彩が怒るからボブヘアーにパーマをあててウェーブさせている
彩と同じ中学出身。彩を追ってこの高校に入学した。
元々は引っ込み思案な性格だったが、堂々としている彩に憧れて、彩の隣に立てるようにと頑張っている。
綺麗な顔立ちの子。
春田若菜(はるたわかな)
黒髪ショートカットのバスケ部。涼香と三年間同じクラスの猛者。
なんとなくの雰囲気でそれっぽいことを言える。涼香と三年間同じクラスで過ごしただけのことはある。
涼香が躓いて放った宙を舞う割れ物は若菜がキャッチする。
チャリ通。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる