227 / 296
第53話 ビーチ(2)
しおりを挟む
海水浴はいつまで出来るものなのかわからないが、チェアリング・オン・ザ・ビーチの開催日は夏休み終盤の平日。お盆を過ぎるとクラゲが出ると聞くが、最悪海には入らなくてもいいし、日差しも若干弱くなってきてチェアリングには良いシーズンだろう。
そう思ったのだが、当日は快晴で、日中は8月上旬の暑さになるとのこと。平日なので両親が二人とも出かけた後、しっかりと日焼け対策をして、椅子を担いで家を出た。
日傘を差してなお、照り付ける太陽が熱い。服の下で早速汗が噴き出すのがわかるが、これから学校で授業を受けるわけでもないし、汗をかくのは嫌いではない。それよりも、椅子が重いのがツライ。海どころか、最寄り駅に着くまでに心が挫けそうだ。
どうにか中央駅まで移動して絢音と合流すると、絢音が「ご苦労様」と可愛らしく笑った。今日は袖のない襟付きのシャツにデニムの短パン、麦わら帽子という夏っぽい格好だ。
とりあえず電車に乗り込んでツーショット写真を撮ると、帰宅部グループに投下した。絢音から「千紗都可愛い!」という反応があった以外、既読もつかなかったので、二人とも忙しいのだろう。
「海、混んでるかなぁ」
座席に座って、絢音が意味もなく私の椅子の袋を触りながら言った。少し持ち上げてみて、「こんな重たいの、とても持てない」と首を振ったが、そこまで重くはないはずだ。
「暑さだけならまだ水に入りたい季節だね。LSパークとかは混んでそう」
「海閉じまでは普通に人がいるかな」
「それは海開きの反対?」
「開いたら閉じないとね」
平日ということもあって、車内に家族連れの姿はないが、海に行くと思われる若者のグループはちらほらあった。大声で笑っている日焼けしたパリピ集団は若干怖い。なんとなく涼夏がいないと不安になるが、実際には涼夏がいたとしても力ある者の前には無力だし、むしろ可愛すぎて邪なる者を引き寄せる。
それでも数は大事だと、思考の過程を飛ばさずに伝えると、絢音は満足そうに頷いた。
「烏合の衆だね」
「合ってるんだけど、響きが嫌。多勢に無勢とか」
「それは多勢側が使う言葉じゃないね」
「今日はもし絡まれたら、私たちは同性カップルでデート中ってことにするから」
「抱き合ってベロチューしよう。ちょっと練習する?」
そう言って絢音が唇を突き出したが、面白いので放っておいた。
今向かっている乙ヶ浜は、県下随一の海水浴場である。ただそれは、他にないから一位というだけで、水はそれほど綺麗ではないと聞いている。比較的最近沖縄に行ったばかりなので、大して期待していないが、いい意味で裏切られたらと思う。
急行を終点まで乗って駅を出ると、緑に囲まれた田舎の景色が広がっていた。事前に調べて知っていたが、駅は比較的内陸にあり、ここから海岸まで15分ほど歩かなくてはいけない。行きは下りだが、帰りは上りだ。
日傘を差すと、絢音が一緒に入りたいと言って、腕に巻き付いてきた。歩きにくい上に、触れ合う肌が熱い。
「椅子を持ってくれたら入れてあげる」
「帽子があるからいいや」
スッと身を引く絢音に、私は思わず目を見開いた。
「引くの早っ!」
「その椅子は人間が徒歩で運ぶ荷物じゃない。一線を超えた行いに、裁く者さえ危ぶんでる」
絢音が低い声でそう言って、自分の荷物を担ぎ直した。絢音の方もレジャーシートに浮き輪にバスタオル、それに2リットルのスポーツドリンクが入っていてなかなかの重量だが、それでもリュックに入る大きさだ。
広い通りの歩道を歩いていると、時々車が抜かしていく。同じように歩いているグループももちろんあるが、やはり車で行くのが普通なのだろう。
「運転免許というものを、絢音さんは取るの?」
何気なくそう聞くと、絢音はどうかなぁと首をひねった。
「西畑家のどこかからお金が湧いてきたら取りたいね。自腹だととても無理かな」
「それはまあ、みんなそうだね。ましてや、自腹で何十万も払ったら、その後車なんて買えるはずがないし」
「ナツは出してもらえそうなこと言ってたから、ナツに頼ろう」
車はどうかわからないが、少なくとも免許に関しては親が出してくれるという話は私も聞いている。しかも奈都は誕生日が早いので、高3の夏休みに取る可能性もあるが、私と同じ大学に行くと張り切っているので、さすがに夏休みは勉強を優先するかも知れない。正確には、私が奈都と同じ大学に行くつもりなのだが、少しでも高い大学に行けるのならそれに越したことはない。
しばらく車の話をしていたら、やがて海に着いた。なかなか広い海岸に、無数のパラソルが立ち並んでいる。海の店も健在で、芋の子を洗うほどではないが、人もいっぱいだ。
とりあえず椅子を下ろして座りたい。熱い砂をサクッと踏みしめながら、まずは腰を落ち着けられそうな日陰を探すことにした。
そう思ったのだが、当日は快晴で、日中は8月上旬の暑さになるとのこと。平日なので両親が二人とも出かけた後、しっかりと日焼け対策をして、椅子を担いで家を出た。
日傘を差してなお、照り付ける太陽が熱い。服の下で早速汗が噴き出すのがわかるが、これから学校で授業を受けるわけでもないし、汗をかくのは嫌いではない。それよりも、椅子が重いのがツライ。海どころか、最寄り駅に着くまでに心が挫けそうだ。
どうにか中央駅まで移動して絢音と合流すると、絢音が「ご苦労様」と可愛らしく笑った。今日は袖のない襟付きのシャツにデニムの短パン、麦わら帽子という夏っぽい格好だ。
とりあえず電車に乗り込んでツーショット写真を撮ると、帰宅部グループに投下した。絢音から「千紗都可愛い!」という反応があった以外、既読もつかなかったので、二人とも忙しいのだろう。
「海、混んでるかなぁ」
座席に座って、絢音が意味もなく私の椅子の袋を触りながら言った。少し持ち上げてみて、「こんな重たいの、とても持てない」と首を振ったが、そこまで重くはないはずだ。
「暑さだけならまだ水に入りたい季節だね。LSパークとかは混んでそう」
「海閉じまでは普通に人がいるかな」
「それは海開きの反対?」
「開いたら閉じないとね」
平日ということもあって、車内に家族連れの姿はないが、海に行くと思われる若者のグループはちらほらあった。大声で笑っている日焼けしたパリピ集団は若干怖い。なんとなく涼夏がいないと不安になるが、実際には涼夏がいたとしても力ある者の前には無力だし、むしろ可愛すぎて邪なる者を引き寄せる。
それでも数は大事だと、思考の過程を飛ばさずに伝えると、絢音は満足そうに頷いた。
「烏合の衆だね」
「合ってるんだけど、響きが嫌。多勢に無勢とか」
「それは多勢側が使う言葉じゃないね」
「今日はもし絡まれたら、私たちは同性カップルでデート中ってことにするから」
「抱き合ってベロチューしよう。ちょっと練習する?」
そう言って絢音が唇を突き出したが、面白いので放っておいた。
今向かっている乙ヶ浜は、県下随一の海水浴場である。ただそれは、他にないから一位というだけで、水はそれほど綺麗ではないと聞いている。比較的最近沖縄に行ったばかりなので、大して期待していないが、いい意味で裏切られたらと思う。
急行を終点まで乗って駅を出ると、緑に囲まれた田舎の景色が広がっていた。事前に調べて知っていたが、駅は比較的内陸にあり、ここから海岸まで15分ほど歩かなくてはいけない。行きは下りだが、帰りは上りだ。
日傘を差すと、絢音が一緒に入りたいと言って、腕に巻き付いてきた。歩きにくい上に、触れ合う肌が熱い。
「椅子を持ってくれたら入れてあげる」
「帽子があるからいいや」
スッと身を引く絢音に、私は思わず目を見開いた。
「引くの早っ!」
「その椅子は人間が徒歩で運ぶ荷物じゃない。一線を超えた行いに、裁く者さえ危ぶんでる」
絢音が低い声でそう言って、自分の荷物を担ぎ直した。絢音の方もレジャーシートに浮き輪にバスタオル、それに2リットルのスポーツドリンクが入っていてなかなかの重量だが、それでもリュックに入る大きさだ。
広い通りの歩道を歩いていると、時々車が抜かしていく。同じように歩いているグループももちろんあるが、やはり車で行くのが普通なのだろう。
「運転免許というものを、絢音さんは取るの?」
何気なくそう聞くと、絢音はどうかなぁと首をひねった。
「西畑家のどこかからお金が湧いてきたら取りたいね。自腹だととても無理かな」
「それはまあ、みんなそうだね。ましてや、自腹で何十万も払ったら、その後車なんて買えるはずがないし」
「ナツは出してもらえそうなこと言ってたから、ナツに頼ろう」
車はどうかわからないが、少なくとも免許に関しては親が出してくれるという話は私も聞いている。しかも奈都は誕生日が早いので、高3の夏休みに取る可能性もあるが、私と同じ大学に行くと張り切っているので、さすがに夏休みは勉強を優先するかも知れない。正確には、私が奈都と同じ大学に行くつもりなのだが、少しでも高い大学に行けるのならそれに越したことはない。
しばらく車の話をしていたら、やがて海に着いた。なかなか広い海岸に、無数のパラソルが立ち並んでいる。海の店も健在で、芋の子を洗うほどではないが、人もいっぱいだ。
とりあえず椅子を下ろして座りたい。熱い砂をサクッと踏みしめながら、まずは腰を落ち着けられそうな日陰を探すことにした。
1
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~
楠富 つかさ
青春
落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。
世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート!
※表紙はAIイラストです。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる