上 下
225 / 296

第52話 怪談(6)

しおりを挟む
 夏の夜はまだまだ暑い。もう数日で9月だが、しばらく寝苦しい夜が続きそうだ。
 涼夏の家からの帰り道を、奈都と二人で歩いている。絢音は泊まっていきたい、涼夏と寝たいと必死に訴えた結果、承諾された。そういうことなら私としてもお泊まり会に変更したかったが、ベッドは一つしかないし、私は明日バイトがある。奈都も連勤だ。
「今日は楽しかったね。夕方からでも、結構遊べるね。焼きそば美味しかったし」
 奈都が明るい声でそう言いながら、私の手をギュッと握った。
「怪談っていうか、漫才みたいだったね。奈都のは怖かったけど」
「そう言ってもらえたら、頑張って考えた甲斐があるよ」
「やっぱり実体験が一番怖い」
 私が怯えながらそう言うと、奈都がわかりやすく声を大きくした。
「実体験じゃないから!」
「どこまでが作り話だったの?」
「全部! 初期設定以外!」
 ドールも買ってないし、録音もしてないし、髪の毛を集めてもいないと、奈都は慌てた様子で言った。その後、不満げに唇を尖らせる。
「アヤの話と同じレベルで、明らかに作り話だったよね?」
「涼夏の話より本当っぽかったけど」
「そんなわけないでしょ。チサの話は普通だったね」
 奈都が自分の話はもういいと言わんばかりに話題を振ってきた。私としては、もう少しバラバラにされたドールの話がしたかったが、一旦脱線しよう。
「一番王道だったでしょ? 怪談って、お化けとか幽霊とか出てくるものじゃないの?」
「確かに、怪しい話であって、怖い話じゃないね」
「奈都の話は怪談的な怖さがあったよ。話してる時、ずっと笑ってるのも怖かった」
 声の抑揚も表情も完璧だった。私も喋り方一つで、もう少し怖い話に出来たかもしれない。
 奈都が満足そうに笑った。
「猟奇的なキャラを演じてたから、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「素だったね」
「違うから!」
 反応が可愛い。それにしても、ああいう話を思い付く時点でなかなか普通ではないと思うが、奈都は様々なフィクションによるインプットが多いから、引き出しの幅が広いのだろう。そうだと思いたい。
「猟奇的な奈都も可愛いよ。嘘。言ってて無理があった」
「可愛くなくていいよ。別に猟奇的じゃないし」
「中学時代の奈都が知れて良かった」
「今日は私のことは何も話してない」
 にわかには信じ難いが、まあそういうことにしておこう。
 しきりにチューとおっぱいの話をしていたので、最寄り駅で降りると人気のない場所に連れ込んでキスをした。薄着なので押し付けられる肉感が生々しい。
「おっぱい触りたいの?」
 髪に手を這わせて、舌を絡めながら吐息だけで聞いてみた。奈都は譫言のようにうんと頷いた。
「じゃあ、帰ったらチサ2のおっぱいたくさん揉んであげてね」
「それもう、可燃ゴミで捨てたから」
「凄惨な殺人事件の様相」
 呆れながらそう言うと、許可していないのに奈都が私の胸に指を埋めた。荒い息が顔にかかって汗ばんでくる。
 だんだんここが外であることを忘れたように興奮してきたので、適当なところでやめさせて体を離した。奈都がうっとりした目で私を見つめる。唾液で湿った唇が艶かしい。
「幸せ。所詮、チサ2は人形だった」
「単純な人だ。飽きられないように、揉ませるのは3回に1回くらいにしよう」
 ずれたブラジャーを直しながらそう告げると、奈都が悲鳴を上げた。
「飽きないから。大丈夫。日課にしてもいい」
「自分の胸と感触変わらないでしょ」
「誰のものかが大事なの! チサも大人になればわかるから!」
 奈都が必死に訴えるが、生憎何年経ってもわからない気がする。3人のことは大好きだが、胸を揉みたいとは全然思わない。
 奈都とはまた明日も会うので、遅くならない内に切り上げた。
 夏と言えば怪談。去年は一文字もそんな話は出なかったし、大して好きなジャンルでもないが、今日は楽しかった。苦手と思っているものでも、帰宅部でやればまた違ったふうに感じるかも知れない。
 秋に向けて、私もさらにアンテナを広く張ろう。世の中にはまだ、面白いことがたくさんあるはずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~

楠富 つかさ
青春
 落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。 世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート! ※表紙はAIイラストです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。 一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか? おすすめシチュエーション ・後輩に振り回される先輩 ・先輩が大好きな後輩 続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。 だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。 読んでやってくれると幸いです。 「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195 ※タイトル画像はAI生成です

百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常

坂餅
青春
毎日更新 一話一話が短いのでサクッと読める作品です。 水原涼香(みずはらりょうか) 黒髪ロングに左目尻ほくろのスレンダーなクールビューティー。下級生を中心に、クールで美人な先輩という認識を持たれている。同級生達からは問題児扱い。涼音の可愛さは全人類が知るべきことだと思っている。 檜山涼音(ひやますずね) 茶色に染められた長い髪をおさげにしており、クリっとした目はとても可愛らしい。その愛らしい見た目は、この学校で可愛い子は? と言えばすぐ名前が上がる程の可愛さ。涼香がいればそれでいいと思っている節がある。 柏木菜々美(かしわぎななみ) 肩口まで伸びてた赤毛の少し釣り目な女子生徒。ここねが世界で一可愛い。 自分がここねといちゃついているのに、他の人がいちゃついているのを見ると顔を真っ赤にして照れたり逃げ出したり爆発する。 基本的にいちゃついているところを見られても真っ赤になったり爆発したりする。 残念美人。 芹澤ここね(せりざわここね) 黒のサイドテールの小柄な体躯に真面目な生徒。目が大きく、小動物のような思わず守ってあげたくなる雰囲気がある。可愛い。ここねの頭を撫でるために今日も争いが繰り広げられているとかいないとか。菜々美が大好き。人前でもいちゃつける人。 綾瀬彩(あやせあや) ウェーブがかったベージュの髪。セミロング。 成績優秀。可愛い顔をしているのだが、常に機嫌が悪そうな顔をしている、決して菜々美と涼香のせいで機嫌が悪い顔をしているわけではない。決して涼香のせいではない。なぜかフルネームで呼ばれる。夏美とよく一緒にいる。 伊藤夏美(いとうなつみ) 彩の真似をして髪の毛をベージュに染めている。髪型まで同じにしたら彩が怒るからボブヘアーにパーマをあててウェーブさせている 彩と同じ中学出身。彩を追ってこの高校に入学した。 元々は引っ込み思案な性格だったが、堂々としている彩に憧れて、彩の隣に立てるようにと頑張っている。 綺麗な顔立ちの子。 春田若菜(はるたわかな) 黒髪ショートカットのバスケ部。涼香と三年間同じクラスの猛者。 なんとなくの雰囲気でそれっぽいことを言える。涼香と三年間同じクラスで過ごしただけのことはある。 涼香が躓いて放った宙を舞う割れ物は若菜がキャッチする。 チャリ通。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...