222 / 296
第52話 怪談(3)
しおりを挟む
今の涼夏の怪談は、私の想像とは少し違う内容だった。いわゆるお化けとか怪奇現象とか、そういう話をするのかと思ったら、ただのキモい人の話だった。
「私、普通の怪談を持ってきたんだけど」
もしかしたら、企画の趣旨が違ったのではないかと思って聞くと、涼夏は構わないと頷いた。そのまま私が話す流れになったので、ここ数日で考えたチープな怪談を披露する。
「ユナ高の話だけどね。去年、文化祭の準備をしてた時に、先輩から妙なことを言われたのを思い出したの」
「いい入りだね」
絢音が真剣な眼差しをしたが、どことなく頬が緩んでいる。楽しんでくれるのは嬉しいが、果たして怖がってもらえるだろうか。
「もちろん私たちが入学する前、先輩たちもまだ中学生とか小学生だった頃に、ある事件が起きたんだって」
「ふむ」
涼夏が探るような目で私を見つめる。チープな話なので、あまり真面目に聞かれるのも恥ずかしい。
「夕方、ある女子生徒が専門の方の校舎のトイレを使ったんだけど、誰もいなかったのに、何かが倒れる音がして、ドアが開かなくなっちゃったんだって」
怪談と言えばトイレだ。夕方の校舎の奥のトイレ。声を出しても人はいないし、スマホはバッグと一緒に教室に置いてきてしまった。
「絶体絶命だね」
「一人暮らしだと気を付けなきゃいけないやつの一つだね」
「物が倒れて来なくても、鍵が壊れて出られなくなるケースもあるらしい」
「一人暮らしだったら、少し空けてするのも大事かも」
「常にスマホを携帯してトイレに行く」
何やら危機管理の話が始まったので、終わるのを待ってから続きを話し始めた。
「何とか上から出ようとか色々頑張ったけど、とうとうダメで、3連休の間にその子は亡くなってしまいました」
「可哀想に」
奈都がしょんぼりする隣で、絢音が「そんなニュースもあったね」と神妙に頷いた。私が考えた話だから、きっとそんなニュースはなかったと思う。
「誰も探しに来なかったの? 3日も?」
涼夏が素朴な疑問をぶつけてきたので、私はそうだと頷いた。
「誰も来なかった」
「不自然だな」
「そこが怪談なんだよ。そもそもどうしてドアが開かなくなったのか。倒れるものなんてなかったのに」
私が推理を求めるようにそう言うと、絢音がしたり顔で口を開いた。
「それはきっと、霊の仕業だね」
「そう。そしてその子も霊になって、夕方一人で訪れる生徒を待ち受けてるの」
「その連鎖が長年続いてるんだろうね。校舎が出来たの、割と最近だけど」
涼夏が悲しそうに息を吐いた。後半が本当に余計で、奈都が笑いを堪えるように口元を押さえた。せっかく頑張って考えたのに、結局笑い話みたいになってしまった。話していて自分でもガバガバ設定だと思ったので仕方ない。
「そんなわけで、みんなもトイレに行く時は気を付けてね」
「つまり、トイレに行く時はみんなで!」
涼夏が謎理論を展開すると、奈都がしんみりと首を振った。
「私、あの文化苦手」
「謎だね。一緒に行くことはあっても、したくもない時について行くことはないかな」
絢音も曖昧に同調する。そもそもトイレの話がしたいわけではないので、私の話はこれでおしまいと言って、バトンを絢音に手渡した。
「私、普通の怪談を持ってきたんだけど」
もしかしたら、企画の趣旨が違ったのではないかと思って聞くと、涼夏は構わないと頷いた。そのまま私が話す流れになったので、ここ数日で考えたチープな怪談を披露する。
「ユナ高の話だけどね。去年、文化祭の準備をしてた時に、先輩から妙なことを言われたのを思い出したの」
「いい入りだね」
絢音が真剣な眼差しをしたが、どことなく頬が緩んでいる。楽しんでくれるのは嬉しいが、果たして怖がってもらえるだろうか。
「もちろん私たちが入学する前、先輩たちもまだ中学生とか小学生だった頃に、ある事件が起きたんだって」
「ふむ」
涼夏が探るような目で私を見つめる。チープな話なので、あまり真面目に聞かれるのも恥ずかしい。
「夕方、ある女子生徒が専門の方の校舎のトイレを使ったんだけど、誰もいなかったのに、何かが倒れる音がして、ドアが開かなくなっちゃったんだって」
怪談と言えばトイレだ。夕方の校舎の奥のトイレ。声を出しても人はいないし、スマホはバッグと一緒に教室に置いてきてしまった。
「絶体絶命だね」
「一人暮らしだと気を付けなきゃいけないやつの一つだね」
「物が倒れて来なくても、鍵が壊れて出られなくなるケースもあるらしい」
「一人暮らしだったら、少し空けてするのも大事かも」
「常にスマホを携帯してトイレに行く」
何やら危機管理の話が始まったので、終わるのを待ってから続きを話し始めた。
「何とか上から出ようとか色々頑張ったけど、とうとうダメで、3連休の間にその子は亡くなってしまいました」
「可哀想に」
奈都がしょんぼりする隣で、絢音が「そんなニュースもあったね」と神妙に頷いた。私が考えた話だから、きっとそんなニュースはなかったと思う。
「誰も探しに来なかったの? 3日も?」
涼夏が素朴な疑問をぶつけてきたので、私はそうだと頷いた。
「誰も来なかった」
「不自然だな」
「そこが怪談なんだよ。そもそもどうしてドアが開かなくなったのか。倒れるものなんてなかったのに」
私が推理を求めるようにそう言うと、絢音がしたり顔で口を開いた。
「それはきっと、霊の仕業だね」
「そう。そしてその子も霊になって、夕方一人で訪れる生徒を待ち受けてるの」
「その連鎖が長年続いてるんだろうね。校舎が出来たの、割と最近だけど」
涼夏が悲しそうに息を吐いた。後半が本当に余計で、奈都が笑いを堪えるように口元を押さえた。せっかく頑張って考えたのに、結局笑い話みたいになってしまった。話していて自分でもガバガバ設定だと思ったので仕方ない。
「そんなわけで、みんなもトイレに行く時は気を付けてね」
「つまり、トイレに行く時はみんなで!」
涼夏が謎理論を展開すると、奈都がしんみりと首を振った。
「私、あの文化苦手」
「謎だね。一緒に行くことはあっても、したくもない時について行くことはないかな」
絢音も曖昧に同調する。そもそもトイレの話がしたいわけではないので、私の話はこれでおしまいと言って、バトンを絢音に手渡した。
1
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~
楠富 つかさ
青春
落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。
世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート!
※表紙はAIイラストです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!
いーじーしっくす
青春
赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。
しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。
その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。
証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。
そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。
深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。
拓真の想いは届くのか? それとも……。
「ねぇ、拓真。好きって言って?」
「嫌だよ」
「お墓っていくらかしら?」
「なんで!?」
純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!
百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常
坂餅
青春
毎日更新
一話一話が短いのでサクッと読める作品です。
水原涼香(みずはらりょうか)
黒髪ロングに左目尻ほくろのスレンダーなクールビューティー。下級生を中心に、クールで美人な先輩という認識を持たれている。同級生達からは問題児扱い。涼音の可愛さは全人類が知るべきことだと思っている。
檜山涼音(ひやますずね)
茶色に染められた長い髪をおさげにしており、クリっとした目はとても可愛らしい。その愛らしい見た目は、この学校で可愛い子は? と言えばすぐ名前が上がる程の可愛さ。涼香がいればそれでいいと思っている節がある。
柏木菜々美(かしわぎななみ)
肩口まで伸びてた赤毛の少し釣り目な女子生徒。ここねが世界で一可愛い。
自分がここねといちゃついているのに、他の人がいちゃついているのを見ると顔を真っ赤にして照れたり逃げ出したり爆発する。
基本的にいちゃついているところを見られても真っ赤になったり爆発したりする。
残念美人。
芹澤ここね(せりざわここね)
黒のサイドテールの小柄な体躯に真面目な生徒。目が大きく、小動物のような思わず守ってあげたくなる雰囲気がある。可愛い。ここねの頭を撫でるために今日も争いが繰り広げられているとかいないとか。菜々美が大好き。人前でもいちゃつける人。
綾瀬彩(あやせあや)
ウェーブがかったベージュの髪。セミロング。
成績優秀。可愛い顔をしているのだが、常に機嫌が悪そうな顔をしている、決して菜々美と涼香のせいで機嫌が悪い顔をしているわけではない。決して涼香のせいではない。なぜかフルネームで呼ばれる。夏美とよく一緒にいる。
伊藤夏美(いとうなつみ)
彩の真似をして髪の毛をベージュに染めている。髪型まで同じにしたら彩が怒るからボブヘアーにパーマをあててウェーブさせている
彩と同じ中学出身。彩を追ってこの高校に入学した。
元々は引っ込み思案な性格だったが、堂々としている彩に憧れて、彩の隣に立てるようにと頑張っている。
綺麗な顔立ちの子。
春田若菜(はるたわかな)
黒髪ショートカットのバスケ部。涼香と三年間同じクラスの猛者。
なんとなくの雰囲気でそれっぽいことを言える。涼香と三年間同じクラスで過ごしただけのことはある。
涼香が躓いて放った宙を舞う割れ物は若菜がキャッチする。
チャリ通。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる