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第50話 金欠(2)
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デパートの中はキンキンに冷えているということはなかったが、焦げた肌に冷気が気持ち良かった。例に漏れず1階は化粧品売り場になっていて、独特の匂いが充満している。
「いつかはデパコス」
涼夏が目を細めてそう言うと、絢音が「いつかはクラウン」と笑った。聞いたことのないフレーズだが、オリジナルではなさそうだ。
「あの車、乗りたいか?」
涼夏が苦笑いを浮かべる。形状が思い浮かばないのでスマホで調べてみると、いかにも古い感じの車が表示された。4ドアセダンというヤツらしい。全然乗りたいと思わない。
「昔は今ほど、車の形が色々なかったから、単に値段的な指標として言ってたんじゃないかな」
絢音が解説する。今の主流はハッチバックだ。たくさん収納できて形もオシャレだが、見た目が好きかは好みによる。
「いつかはキューブ」
「低い目標だね。っていうか、その車、もうなくない?」
二人がくすくす笑う。全然車種がわからないが、常識なのだろうか。こちらも調べてみたら、一般的な大衆車だった。しかもとっくに生産終了している。
「うち、車ないから全然わからない」
私がそう言って首を振ると、涼夏が「うちもないな」と肩をすくめた。車のあるなしより、興味のあるなしの方が大事なようだ。
さて、化石だがなかなか見つからなかった。そもそも周辺の壁は、スマホで調べたような大理石ではない。
インフォメーションで聞いてもよかったが、なんとなく恥ずかしかったし、探すのも遊びだと思ってやめておいた。
「小学生の社会見学感あるね」
「スタンプを探す童心に帰った」
「スタンプラリーっていうと、千紗都が前に古々都で笹部君とやってた元号探すの、お金かからないね」
「ああ、笹部君とやってたヤツ!」
涼夏がパッと両手を広げる。神社にある石碑や灯篭に彫られた、古い元号を探す遊びをしていたのだが、確かにあれはお金がかからない。
「この炎天下にやることじゃない」
笹部君の方はスルーしてそう言うと、絢音が「何か他に探せるものないかなぁ」と呟いた。
スマホで何かないか調べてみようと思ったら、その前に涼夏が声を上げた。
「おっ、写真で見たような壁を発見した!」
涼夏が指差す先に、見覚えのあるベージュ色の壁の階段があった。見覚えといっても、スマホで見ただけだ。
明らかに利用者のいない階段に駆け寄ると、こちらも写真で見た通り、アンモナイトの化石に枠と説明が付けられていた。
3人並んでしばらく壁を見つめる。確かにアンモナイトと言われればアンモナイトの形をしているが、白い部分は他の白い部分と同じ色をしているし、ベージュの部分も他のベージュの部分と同じ色をしている。すなわち、完全に模様と化していた。なるほど、長らく注目されてこなかったわけだ。
「期待した程じゃなかった」
涼夏がポツリと呟いて、絢音が「そうだね」と頷いた。
枠で囲われているものの他に、アンモナイトがないか探してみたが、見つからなかった。そもそも素人の私たちにわかるような化石があるなら、枠が取り付けられているだろう。
一応3人で化石を指差してはしゃいでる風の写真を撮って、奈都に送り付けておいた。「すっごい楽しい!」とコメントも添えたが、かえって白々しかっただろうか。
階段付近でスマホを開いてさらに調べると、他のデパートや古くからある近くのビルにも化石があるらしい。しかも巻貝の化石や二枚貝の綺麗な断面が見られるとのことだが、一番わかりやすいアンモナイトですら3人揃ってこの反応なので、もはや新しい感動は望めないだろう。
「中央駅の地下街に、綺麗なアンモナイトがあるらしいね」
絢音がスマホをスクロールしながら言ったが、声に元気がなかった。
またいつか、偶然通りがかって、覚えていたら見てみることにしよう。改装や建て替えにより、少しずつ数を減らしているらしいが、大して残念に思わない程度には、大理石の化石は私たちの心に響くものではなかった。
「いつかはデパコス」
涼夏が目を細めてそう言うと、絢音が「いつかはクラウン」と笑った。聞いたことのないフレーズだが、オリジナルではなさそうだ。
「あの車、乗りたいか?」
涼夏が苦笑いを浮かべる。形状が思い浮かばないのでスマホで調べてみると、いかにも古い感じの車が表示された。4ドアセダンというヤツらしい。全然乗りたいと思わない。
「昔は今ほど、車の形が色々なかったから、単に値段的な指標として言ってたんじゃないかな」
絢音が解説する。今の主流はハッチバックだ。たくさん収納できて形もオシャレだが、見た目が好きかは好みによる。
「いつかはキューブ」
「低い目標だね。っていうか、その車、もうなくない?」
二人がくすくす笑う。全然車種がわからないが、常識なのだろうか。こちらも調べてみたら、一般的な大衆車だった。しかもとっくに生産終了している。
「うち、車ないから全然わからない」
私がそう言って首を振ると、涼夏が「うちもないな」と肩をすくめた。車のあるなしより、興味のあるなしの方が大事なようだ。
さて、化石だがなかなか見つからなかった。そもそも周辺の壁は、スマホで調べたような大理石ではない。
インフォメーションで聞いてもよかったが、なんとなく恥ずかしかったし、探すのも遊びだと思ってやめておいた。
「小学生の社会見学感あるね」
「スタンプを探す童心に帰った」
「スタンプラリーっていうと、千紗都が前に古々都で笹部君とやってた元号探すの、お金かからないね」
「ああ、笹部君とやってたヤツ!」
涼夏がパッと両手を広げる。神社にある石碑や灯篭に彫られた、古い元号を探す遊びをしていたのだが、確かにあれはお金がかからない。
「この炎天下にやることじゃない」
笹部君の方はスルーしてそう言うと、絢音が「何か他に探せるものないかなぁ」と呟いた。
スマホで何かないか調べてみようと思ったら、その前に涼夏が声を上げた。
「おっ、写真で見たような壁を発見した!」
涼夏が指差す先に、見覚えのあるベージュ色の壁の階段があった。見覚えといっても、スマホで見ただけだ。
明らかに利用者のいない階段に駆け寄ると、こちらも写真で見た通り、アンモナイトの化石に枠と説明が付けられていた。
3人並んでしばらく壁を見つめる。確かにアンモナイトと言われればアンモナイトの形をしているが、白い部分は他の白い部分と同じ色をしているし、ベージュの部分も他のベージュの部分と同じ色をしている。すなわち、完全に模様と化していた。なるほど、長らく注目されてこなかったわけだ。
「期待した程じゃなかった」
涼夏がポツリと呟いて、絢音が「そうだね」と頷いた。
枠で囲われているものの他に、アンモナイトがないか探してみたが、見つからなかった。そもそも素人の私たちにわかるような化石があるなら、枠が取り付けられているだろう。
一応3人で化石を指差してはしゃいでる風の写真を撮って、奈都に送り付けておいた。「すっごい楽しい!」とコメントも添えたが、かえって白々しかっただろうか。
階段付近でスマホを開いてさらに調べると、他のデパートや古くからある近くのビルにも化石があるらしい。しかも巻貝の化石や二枚貝の綺麗な断面が見られるとのことだが、一番わかりやすいアンモナイトですら3人揃ってこの反応なので、もはや新しい感動は望めないだろう。
「中央駅の地下街に、綺麗なアンモナイトがあるらしいね」
絢音がスマホをスクロールしながら言ったが、声に元気がなかった。
またいつか、偶然通りがかって、覚えていたら見てみることにしよう。改装や建て替えにより、少しずつ数を減らしているらしいが、大して残念に思わない程度には、大理石の化石は私たちの心に響くものではなかった。
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