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番外編 Prime Yellows 5(2)
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※(1)からそのまま繋がっています。
* * *
ようやく私たちの出番になり、ステージに立って楽器とマイクを調整した。薄暗い店内と、眩しい照明。温度も少し高い。
私はステージの上のこの空気が好きだが、メンバーの顔を見ると、ナミが強張った表情で立っていた。
「波香さん、笑顔ね。鏡貸す?」
敢えてマイクを通してそうおどけると、客席の一部から笑い声がした。そちらの方に目をやると、同級生が笑いながらステージを見ていた。
我が愛友は、何を考えているのかわからない表情で私を見つめている。相変わらず研ぎ澄まされた可愛さだ。元々造形が良いが、最近はメイクスキルも上昇してもう手が付けられない。
私たちもステージに立つ時くらいはメイクをするが、5人もいて誰もそのジャンルに興味がない。今度涼夏に教室を開いてもらうのもいいかもしれない。
「初めまして、Prime Yellowsです。4人で活動していて、新しい曲とか古い曲とかカバーしてます」
語彙が足りない感じで挨拶をしてから、チラッとメンバを振り返った。
「後で自己紹介させようと思うけど、あの人がさぎりさんで、あの人が莉絵さんで、この人がナミ。じゃあ、早速1曲目」
私がギターを抱え直すと、サブボーカルの朱未がマイクに顔を近付けた。
「その、空気みたいに扱うイジメやめてくれない?」
「スペシャルゲストだから、後から紹介しようと思った。いじめるつもりはなかった」
「いじめる側はみんなそう言うんだよ」
朱未がやれやれと首を振る。それでもなお紹介せずに、何か喋るようさぎりんに合図を送る。
今日は4曲しかないから、少しMCを長めに取っている。私はとりあえず1曲目を弾いてから喋るのが好きなのだが、今日は仕方ない。
「ただいまご紹介にあずかりましたさぎりです。IKOIKOさんでは個人的に何回か演奏していて、今日も知っている顔がちらほらあって、デビュー戦にしてホームに帰ってきた心地です」
さぎりんが妙に丁寧な挨拶をしてから、簡単にバンドの紹介をしてピアノに指を置いた。
まずはピアノの綺麗な旋律が店内を満たす。さぎりんのピアノは上手だ。よくある、小さい頃にピアノを習わされた組にして、そのままずっと続けている人である。
楽器が少ないので、まずはピアノだけで1番のAメロを歌い出す。ちょっとねっとり入り過ぎたが、声の調子は悪くない。
ドラムが入ってから一気に盛り上がるが、テンポは速くならないよう注意してサビへ。ナミの音がカタイが、今日は朱未もいるから良しとしよう。場数を踏んで成長してもらおう。
大きなミスもなく『evolution』を演奏し終えて、拍手をもらいながらマイクを取った。たまには3曲続けて演奏とかもしたいが、今日はそれをやったらもう最後の曲になってしまう。それに、MCも好きだ。
「1曲目、『evolution』でした。私たちの生まれる前の曲ですが、古さを感じないメロディーだなって思います」
曲紹介に続けて、アレンジについて語る。私たちはコピーバンドだが、完コピではない。それは楽器の問題もあるし、技量的な問題もある。さぎりんのピアノを聴かせたい思いもある。そんな感じで、アレンジも楽しんでもらえたら嬉しい。
大体そういう趣旨の話をしてから2曲目、『花火』を披露する。今回のセットリストの中で最も大人しい曲だが、歌は一番難しい。
さぎりんのピアノと莉絵のドラムを主体としたシンプルなバックに、私が歌を乗せる。涼夏の前で演奏した時は私もギターを弾いたが、本番はナミと朱未に任せて、私は歌だけ歌うことになった。私の歌唱力で聴かせるというコンセプトだ。ギターはそこそこでいいし、朱未も十分上手だ。
曲の後、メンバー紹介のトークを挟んでから、私はベースを肩にかけた。今回一番大胆にアレンジした『くじら12号』だが、さぎりん渾身の編曲なのできっと楽しんでもらえるだろう。
これも歌に集中する。有名な分、誤魔化しが効かない。ギターも弾けるところを披露したい気持ちもあるが、せっかくギタリストをゲストに迎えているから譲ろう。
客席のグルーヴ感も上々。ようやくステージも客席もあったまってきたが、残念ながら次が最後の曲だ。時計を見ると、やはり少し早かった。いきなりでも出来る乃木坂をしれっとぶち込んでもいいが、せっかく練ったセットリストなのでこのまま終わろう。
「ちょっと早いけど、次が最後の曲です。ねっとりした曲が続きましたが、最後はSPEEDで爽やかに終わりますね」
曲の紹介と、一応夏休みにやるライブの告知をしてからギターをかき鳴らした。ピアノ曲ではないが、さぎりんはそのままピアノを弾き、朱未がベースを響かせる。
良いバランスだ。歌っていて気持ちがいい。少しだけ朱未が欲しい気持ちも出てきたが、紅一点のバンドの邪魔は出来ない。サックスのなつみんもそうだが、時々ゲストで遊びに来てくれたらそれでいい。
朱未と部分的に歌い分けて最後まで弾き、満を持して朱未を紹介する。
「Prime Yellowsと、スペシャルゲスト、永峯朱未でした。朱未、紅一点バンドの告知とかある?」
拍手の中そう聞くと、朱未が驚いたように眉を上げた。
「今更? 今、綺麗に終わったじゃん!」
「せっかくだから紹介してあげるよ。この人は紅一点バンドでボーカルをしていて……」
「そんなバンド名じゃないし!」
仕方なさそうに、朱未が自己紹介をする。本当にまだ告知するようなことはないようだ。何目線かわからないが、ご多幸をお祈りしたい。
楽器を置いてテーブルに戻ると、莉絵が明るい声で言った。
「絢音、自分の紹介をしなかったね」
言われてみると、そんな気がしないでもない。まあ、それはオープンマイクの場で勝手にされるだろう。
にこにこしながら拍手をしてくる父親を見ながら、私は大きくため息をついた。
* * *
ようやく私たちの出番になり、ステージに立って楽器とマイクを調整した。薄暗い店内と、眩しい照明。温度も少し高い。
私はステージの上のこの空気が好きだが、メンバーの顔を見ると、ナミが強張った表情で立っていた。
「波香さん、笑顔ね。鏡貸す?」
敢えてマイクを通してそうおどけると、客席の一部から笑い声がした。そちらの方に目をやると、同級生が笑いながらステージを見ていた。
我が愛友は、何を考えているのかわからない表情で私を見つめている。相変わらず研ぎ澄まされた可愛さだ。元々造形が良いが、最近はメイクスキルも上昇してもう手が付けられない。
私たちもステージに立つ時くらいはメイクをするが、5人もいて誰もそのジャンルに興味がない。今度涼夏に教室を開いてもらうのもいいかもしれない。
「初めまして、Prime Yellowsです。4人で活動していて、新しい曲とか古い曲とかカバーしてます」
語彙が足りない感じで挨拶をしてから、チラッとメンバを振り返った。
「後で自己紹介させようと思うけど、あの人がさぎりさんで、あの人が莉絵さんで、この人がナミ。じゃあ、早速1曲目」
私がギターを抱え直すと、サブボーカルの朱未がマイクに顔を近付けた。
「その、空気みたいに扱うイジメやめてくれない?」
「スペシャルゲストだから、後から紹介しようと思った。いじめるつもりはなかった」
「いじめる側はみんなそう言うんだよ」
朱未がやれやれと首を振る。それでもなお紹介せずに、何か喋るようさぎりんに合図を送る。
今日は4曲しかないから、少しMCを長めに取っている。私はとりあえず1曲目を弾いてから喋るのが好きなのだが、今日は仕方ない。
「ただいまご紹介にあずかりましたさぎりです。IKOIKOさんでは個人的に何回か演奏していて、今日も知っている顔がちらほらあって、デビュー戦にしてホームに帰ってきた心地です」
さぎりんが妙に丁寧な挨拶をしてから、簡単にバンドの紹介をしてピアノに指を置いた。
まずはピアノの綺麗な旋律が店内を満たす。さぎりんのピアノは上手だ。よくある、小さい頃にピアノを習わされた組にして、そのままずっと続けている人である。
楽器が少ないので、まずはピアノだけで1番のAメロを歌い出す。ちょっとねっとり入り過ぎたが、声の調子は悪くない。
ドラムが入ってから一気に盛り上がるが、テンポは速くならないよう注意してサビへ。ナミの音がカタイが、今日は朱未もいるから良しとしよう。場数を踏んで成長してもらおう。
大きなミスもなく『evolution』を演奏し終えて、拍手をもらいながらマイクを取った。たまには3曲続けて演奏とかもしたいが、今日はそれをやったらもう最後の曲になってしまう。それに、MCも好きだ。
「1曲目、『evolution』でした。私たちの生まれる前の曲ですが、古さを感じないメロディーだなって思います」
曲紹介に続けて、アレンジについて語る。私たちはコピーバンドだが、完コピではない。それは楽器の問題もあるし、技量的な問題もある。さぎりんのピアノを聴かせたい思いもある。そんな感じで、アレンジも楽しんでもらえたら嬉しい。
大体そういう趣旨の話をしてから2曲目、『花火』を披露する。今回のセットリストの中で最も大人しい曲だが、歌は一番難しい。
さぎりんのピアノと莉絵のドラムを主体としたシンプルなバックに、私が歌を乗せる。涼夏の前で演奏した時は私もギターを弾いたが、本番はナミと朱未に任せて、私は歌だけ歌うことになった。私の歌唱力で聴かせるというコンセプトだ。ギターはそこそこでいいし、朱未も十分上手だ。
曲の後、メンバー紹介のトークを挟んでから、私はベースを肩にかけた。今回一番大胆にアレンジした『くじら12号』だが、さぎりん渾身の編曲なのできっと楽しんでもらえるだろう。
これも歌に集中する。有名な分、誤魔化しが効かない。ギターも弾けるところを披露したい気持ちもあるが、せっかくギタリストをゲストに迎えているから譲ろう。
客席のグルーヴ感も上々。ようやくステージも客席もあったまってきたが、残念ながら次が最後の曲だ。時計を見ると、やはり少し早かった。いきなりでも出来る乃木坂をしれっとぶち込んでもいいが、せっかく練ったセットリストなのでこのまま終わろう。
「ちょっと早いけど、次が最後の曲です。ねっとりした曲が続きましたが、最後はSPEEDで爽やかに終わりますね」
曲の紹介と、一応夏休みにやるライブの告知をしてからギターをかき鳴らした。ピアノ曲ではないが、さぎりんはそのままピアノを弾き、朱未がベースを響かせる。
良いバランスだ。歌っていて気持ちがいい。少しだけ朱未が欲しい気持ちも出てきたが、紅一点のバンドの邪魔は出来ない。サックスのなつみんもそうだが、時々ゲストで遊びに来てくれたらそれでいい。
朱未と部分的に歌い分けて最後まで弾き、満を持して朱未を紹介する。
「Prime Yellowsと、スペシャルゲスト、永峯朱未でした。朱未、紅一点バンドの告知とかある?」
拍手の中そう聞くと、朱未が驚いたように眉を上げた。
「今更? 今、綺麗に終わったじゃん!」
「せっかくだから紹介してあげるよ。この人は紅一点バンドでボーカルをしていて……」
「そんなバンド名じゃないし!」
仕方なさそうに、朱未が自己紹介をする。本当にまだ告知するようなことはないようだ。何目線かわからないが、ご多幸をお祈りしたい。
楽器を置いてテーブルに戻ると、莉絵が明るい声で言った。
「絢音、自分の紹介をしなかったね」
言われてみると、そんな気がしないでもない。まあ、それはオープンマイクの場で勝手にされるだろう。
にこにこしながら拍手をしてくる父親を見ながら、私は大きくため息をついた。
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