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番外編 Prime Yellows 3(1)
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IKOIKO MUSIC NIGHT Vol.86におけるPrime Yellowsのセットリストは、イエプラ会議の結果次のようになった。
1.evolution(浜崎あゆみ)
2.花火(aiko)
3.出逢った頃のように(Every Little Thing)
4.くじら12号(JUDY AND MARY)
5.ALL MY TRUE LOVE(SPEED)
これに、もしアンコールがあったり、時間が余ったら、私が好きで何度かやっている乃木坂の『日常』でも歌うことにした。
意外と大人しい選曲になったのは、とにかく初心者のナミの負荷を下げるためである。聴いたことのある曲を、西畑絢音の歌唱力でどうにかするというコンセプトになった。
あとは、なるべくキーボードのさぎりんの出番がある曲を選び、なさそうな曲もキーボードメインのアレンジでやることにした。元々Prime Yellowsは、キーボードのさぎりんとドラムの莉絵、それにギターの私の3人のバンドである。
ひと月弱で5曲。ナミも莉絵も聴き馴染みのない曲にひーひー言っているし、さぎりんも編曲に苦戦している。特に『くじら12号』は、大々的にピアノアレンジに変えてでもやりたいという私の無茶振りに、泣きながら対応してくれている。
私は私で、思ったよりも歌が難しい上、ナミがバッキングしかできないので、メロディアスな部分は全部私が担当する。歌かギターかどちらかなら問題ないが、一緒にやるのはさすがになかなか難しい。
「さすがにちょっと楽器が足りない感がある」
ギターを置いて、ぼやきながら頭を抱えると、隣でナミがあははと乾いた笑いを浮かべた。特に後ろの2曲はベースが欲しい。『くじら12号』は大々的にアレンジするからまだいいが、『ALL MY TRUE LOVE』はベースラインがカッコイイ曲だ。
楽譜でパタパタ扇いでいたら、莉絵がどこか硬い表情で口を開いた。
「こないだ朱未と電話してたら、すごく参加したそうだったよ」
「朱未って誰だっけ?」
私が首を傾げると、向こうでさぎりんが噴き出してお腹を抱えた。莉絵が半眼で睨んだので、「思い出した思い出した」と軽く手を振った。
もちろん、LemonPoundのサブギター&サブボーカルだった友達である。とうとうLemonPoundへの未練を断ち切り、今年から新メンバーを加えて、新しいバンドで活動を始めたと聞いている。
去年の秋、色々と面倒なごたごたがあって、LemonPoundは完全に崩壊。Prime Yellowsまで解散しそうになり、私もだいぶ悩んで千紗都の胸に顔をうずめて安らぐ事態となったが、あれは気持ちが良かった。
いや、それはどうでもいいが、まだ莉絵と朱未に交流があるのが驚きである。そう言うと、莉絵が呆れたように言った。
「むしろ、高校に上がった時、絢音がサクッとバンドを辞めた方が驚きだったけど」
「新天地だったしね」
せっかく高校生になるし、心機一転、何かしようと考えていたが、入学初日に涼夏と千紗都に一目惚れして、他のすべてがどうでも良くなってしまった。
去年の春の自分が何を考えていたのか、よく覚えていないが、帰宅部の居心地がとんでもなく良いにもかかわらず、今こうしてギターを弾いているのだから、どんな形であれ私は音楽を続けていただろう。
「それで、朱未がベース弾くの? それとも、ギターで参加したいの?」
一応、あの子はベースも弾ける。それは私もなので、私が3人いたらいいが、生憎私は一人しかいない。
帰宅部みんなで同時に作った動画チャンネルでは、歌とギターとベースを重ね撮りしたりしていて、なかなか面白い。もっとも、あれを見て莉絵もさぎりんも、私が一人で演奏することに満足しやしないかと冷や冷やしたそうだ。
私はライブが好きなので、今のところそれは無用な心配である。
「隼一がベースやりたがっても、絢音的にはNGだよね?」
念のため確認するように、莉絵が私の顔を覗き込んだ。まずそもそもバンドメンバーの意見を聞くよう言うと、さぎりんは「別に構わない」と言い、ナミも大きく首を縦に振った。
「ギターの負担が減るなら是非!」
「私もどっちでもいいけど、向こうがやりたがらないんじゃない? 女子ばっかりだし」
小山隼一はLemonPoundのベーシストで、去年私に告白するという暴挙に出て、結局その一件がLemonPoundの活動にとどめを刺した。私は別に気にしていないが、平然と現れたら、それはそれでなかなかの勇気だと思う。
「じゃあまあちょっと朱未に、絢音も音は欲しそうだったって伝えておくよ」
莉絵が歯に物が挟まったような感じで言った。自分から言い出しておいて、何か引っかかることがあるのだろうか。
音と声が途切れたのを見計らったように、さぎりんが『Pretender』の印象的な前奏を弾き始める。
それに合わせて私が歌い出すと、莉絵が目を輝かせてドラムを叩いた。ナミも慣れた手つきでピックを弾き下ろす。これもまだ実戦配備はしていないが、このメンバーで何度もやっている曲だ。
音に自信があるし、莉絵のドラムがやや走り気味なのも、楽しんでいる様子が伝わってくる。
要するに、莉絵は私やさぎりんと違って、懐メロセットリストをそこまで楽しんでいないのだろう。
新しい曲だろうと古い曲だろうと、ボカロだろうとアニソンだろうと、それこそゲームミュージックだろうと変なアラビア語の曲だろうと、音楽ならなんだって楽しめる私やさぎりんとは、少し人種が違う。
ナミも莉絵寄りだが、これに関してはそっちが一般的だろう。
意見があるなら言ってくれればいいのだが、ナミはまだ入ったばかりの上、さぎりんを信奉しているし、莉絵もせっかくさぎりんが作ってくれた機会に水を差すようなことはしたくない。
危ういバランスではあるが、こういうのもバンド活動の醍醐味かなとは思う。
1.evolution(浜崎あゆみ)
2.花火(aiko)
3.出逢った頃のように(Every Little Thing)
4.くじら12号(JUDY AND MARY)
5.ALL MY TRUE LOVE(SPEED)
これに、もしアンコールがあったり、時間が余ったら、私が好きで何度かやっている乃木坂の『日常』でも歌うことにした。
意外と大人しい選曲になったのは、とにかく初心者のナミの負荷を下げるためである。聴いたことのある曲を、西畑絢音の歌唱力でどうにかするというコンセプトになった。
あとは、なるべくキーボードのさぎりんの出番がある曲を選び、なさそうな曲もキーボードメインのアレンジでやることにした。元々Prime Yellowsは、キーボードのさぎりんとドラムの莉絵、それにギターの私の3人のバンドである。
ひと月弱で5曲。ナミも莉絵も聴き馴染みのない曲にひーひー言っているし、さぎりんも編曲に苦戦している。特に『くじら12号』は、大々的にピアノアレンジに変えてでもやりたいという私の無茶振りに、泣きながら対応してくれている。
私は私で、思ったよりも歌が難しい上、ナミがバッキングしかできないので、メロディアスな部分は全部私が担当する。歌かギターかどちらかなら問題ないが、一緒にやるのはさすがになかなか難しい。
「さすがにちょっと楽器が足りない感がある」
ギターを置いて、ぼやきながら頭を抱えると、隣でナミがあははと乾いた笑いを浮かべた。特に後ろの2曲はベースが欲しい。『くじら12号』は大々的にアレンジするからまだいいが、『ALL MY TRUE LOVE』はベースラインがカッコイイ曲だ。
楽譜でパタパタ扇いでいたら、莉絵がどこか硬い表情で口を開いた。
「こないだ朱未と電話してたら、すごく参加したそうだったよ」
「朱未って誰だっけ?」
私が首を傾げると、向こうでさぎりんが噴き出してお腹を抱えた。莉絵が半眼で睨んだので、「思い出した思い出した」と軽く手を振った。
もちろん、LemonPoundのサブギター&サブボーカルだった友達である。とうとうLemonPoundへの未練を断ち切り、今年から新メンバーを加えて、新しいバンドで活動を始めたと聞いている。
去年の秋、色々と面倒なごたごたがあって、LemonPoundは完全に崩壊。Prime Yellowsまで解散しそうになり、私もだいぶ悩んで千紗都の胸に顔をうずめて安らぐ事態となったが、あれは気持ちが良かった。
いや、それはどうでもいいが、まだ莉絵と朱未に交流があるのが驚きである。そう言うと、莉絵が呆れたように言った。
「むしろ、高校に上がった時、絢音がサクッとバンドを辞めた方が驚きだったけど」
「新天地だったしね」
せっかく高校生になるし、心機一転、何かしようと考えていたが、入学初日に涼夏と千紗都に一目惚れして、他のすべてがどうでも良くなってしまった。
去年の春の自分が何を考えていたのか、よく覚えていないが、帰宅部の居心地がとんでもなく良いにもかかわらず、今こうしてギターを弾いているのだから、どんな形であれ私は音楽を続けていただろう。
「それで、朱未がベース弾くの? それとも、ギターで参加したいの?」
一応、あの子はベースも弾ける。それは私もなので、私が3人いたらいいが、生憎私は一人しかいない。
帰宅部みんなで同時に作った動画チャンネルでは、歌とギターとベースを重ね撮りしたりしていて、なかなか面白い。もっとも、あれを見て莉絵もさぎりんも、私が一人で演奏することに満足しやしないかと冷や冷やしたそうだ。
私はライブが好きなので、今のところそれは無用な心配である。
「隼一がベースやりたがっても、絢音的にはNGだよね?」
念のため確認するように、莉絵が私の顔を覗き込んだ。まずそもそもバンドメンバーの意見を聞くよう言うと、さぎりんは「別に構わない」と言い、ナミも大きく首を縦に振った。
「ギターの負担が減るなら是非!」
「私もどっちでもいいけど、向こうがやりたがらないんじゃない? 女子ばっかりだし」
小山隼一はLemonPoundのベーシストで、去年私に告白するという暴挙に出て、結局その一件がLemonPoundの活動にとどめを刺した。私は別に気にしていないが、平然と現れたら、それはそれでなかなかの勇気だと思う。
「じゃあまあちょっと朱未に、絢音も音は欲しそうだったって伝えておくよ」
莉絵が歯に物が挟まったような感じで言った。自分から言い出しておいて、何か引っかかることがあるのだろうか。
音と声が途切れたのを見計らったように、さぎりんが『Pretender』の印象的な前奏を弾き始める。
それに合わせて私が歌い出すと、莉絵が目を輝かせてドラムを叩いた。ナミも慣れた手つきでピックを弾き下ろす。これもまだ実戦配備はしていないが、このメンバーで何度もやっている曲だ。
音に自信があるし、莉絵のドラムがやや走り気味なのも、楽しんでいる様子が伝わってくる。
要するに、莉絵は私やさぎりんと違って、懐メロセットリストをそこまで楽しんでいないのだろう。
新しい曲だろうと古い曲だろうと、ボカロだろうとアニソンだろうと、それこそゲームミュージックだろうと変なアラビア語の曲だろうと、音楽ならなんだって楽しめる私やさぎりんとは、少し人種が違う。
ナミも莉絵寄りだが、これに関してはそっちが一般的だろう。
意見があるなら言ってくれればいいのだが、ナミはまだ入ったばかりの上、さぎりんを信奉しているし、莉絵もせっかくさぎりんが作ってくれた機会に水を差すようなことはしたくない。
危ういバランスではあるが、こういうのもバンド活動の醍醐味かなとは思う。
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