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番外編 Prime Yellows 1
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絢音のライブ活動の話。一人称の私=絢音になります。
時期は第41話『音楽』より後で、夏休みの前になります。
Web限定公開。
* * *
今日のイエプラ会議は、莉絵の家でやることになった。Prime Yellowsはメンバー全員がユナ高なので、いつもは大体1組の教室か食堂でやっているが、たまには気分転換しようとさぎりんが言い出した。
莉絵とは中学が同じで、家も近い。もちろん最寄り駅も同じで、電車のお金もかからない。千紗都と同じく、両親が共働きで、夕方遅くまで帰ってこない。もっとも、いつも決まった時間に帰ってきて、野阪家みたいに夕ご飯がないとか、そういうことはないようだ。
千紗都というと、今日は何をしているだろう。涼夏はバイトだし、幽霊部員は幽霊だ。最近は垣添さんがいるので、千紗都がぼっちになる機会は減ったが、それはそれでどうなのだろう。千紗都自身も、愛友以外の友達との距離感を掴みかねているようだ。
莉絵の家は、LemonPoundの頃もバンドメンバーの溜まり場になっていた。友達を家に呼ぶことに、まったく抵抗がないらしい。
もちろん、私も家族がいなければ全然構わないが、母親は常駐しているし、弟も早く帰ってくる。母親はともかく、兄弟には友達を知られたくない。色々と面倒くさいので、中学以降、西畑家に人を呼んだことは一度もない。
「じゃあ、イエプラ会議しようか」
莉絵がポテチの大きな袋を開けてテーブルに置いた。プラのカップにジュースを注いで乾杯する。
「すっかり定着したね。イエプラ会議」
Prime Yellowsを略してもイエプラにはならないのだが、莉絵曰く「驚天動地」らしい。たぶん意味が間違っているが、言いたいことは理解できる。
私としてはPYMMを推していたが、まったく定着しなかった。言い出しっぺの私ですら、若干言いにくいと感じるから仕方ない。
「継続は大事だね」
私の言葉に莉絵が満足そうに頷くと、さぎりんがくすっと笑った。
「絢音は、イエプラ会議って名前のことを言ったんだと思うけど」
「そうだった?」
「そうだった」
深く頷いてポテチをつまむ。うすしおだ。
うすしお大好きと言いながら頬張るさぎりんの隣で、ナミが真顔で呟いた。
「色んな味のポテチが入ったバラエティーパックはどうだろう」
「味が混ざるね」
私がマジレスすると、さぎりんが「そりゃ、そうでしょ!」と笑った。何を求められたのかよくわからないが、訂正もなかったので及第点の反応だったようだ。
正方形のテーブルに4人。しかし何故かナミはさぎりんにくっついている。
ナミが加入したての頃、二人は付き合っているのかとさぎりんに聞いたら、「懐かれてはいるね」と返ってきた。敢えて言葉にして否定する必要もないだろうというニュアンスだったので、さぎりんの頭には女同士で付き合うという選択肢はないようだ。
もしナミがさぎりんを恋愛的に好きだったら、色々面倒なことになりそうだが、千紗都とナツもそんな感じだが、特に面倒なことにはなっていないと思い直した。
千紗都は今頃何をしているだろう。好きだから気になるというのはあるが、どうもあの子は目を離していると心配になる。
「のりしおとうすしおは相性が良さそう」
「っていうか、同一?」
「フレンチサラダも友達になれる」
「コンソメの孤高感」
話はバラエティーパック一色だ。この脱線具合と、くだらない話で盛り上がれるのは、いかにも女子高生という感じがする。こういう空気は私も好きだ。
しばらくポテチ談義を続け、今度試してみる方向で話が収束した。持ち越しと言ってもいい。
今日の議題は次回のライブについてである。ゴールデンウィークにライブをやってからしばらく経ち、次は夏休みまで決まっていない。どんな小さな機会でもいいから演奏したいと莉絵が言って、さぎりんが探していた。ナミがまだ初心者なので、小さなイベントで場数を踏むのは私も賛成だ。
Prime Yellowsでは、大体さぎりんがイベントを見つけてくる。すべてと言っても過言ではない。LemonPound時代は私がしていたし、莉絵は提案するだけで、実際には動かない子だ。
さぎりん自身もそれで満足している。自分で動くのが好きらしい。友達は多いし、学外での交友関係もたくさんあって、如何にもリーダーという子である。
そんなさぎりんも、自分の企画を私が楽しんでいるか、よく顔色を窺っている。これについては、私が楽しかったら続けると宣言したせいなので、だいぶ私に非がある。
「知り合いのバーでオープンマイクがあって、まあそれはよくやってるんだけど、どうかって」
インパクトの強いワードに思わずポテトを噴きそうになったが、どうにか堪えてジュースを飲んだ。中学からの友人が苦笑いを浮かべて言った。
「知り合いのバーって、なんかすごいね。高2の台詞とは思えない」
「さぎりはお酒が好きだから」
「いや、飲んでない。飲んだことはある」
「いけないんだ! お巡りさん、私です!」
「お前かよ」
「身代わりだって。愛するさぎりのために」
脱線の多い人たちだ。
実際、私も中学時代、色々な場所で演奏していたし、親もバンドをしている関係で、中高生には縁遠いような馴染みの店もある。さぎりんにもそういう店の一つや二つあっても不思議ではないし、実際に去年は何度かそういう店で演奏している。
「今回はまた初めての店だね。IKOIKOってカフェスタイルのお店」
「カフェじゃん」
「カフェだね」
「行こ行こ?」
「憩い子だよ。子供たちに居心地のいいお店」
「ますますカフェじゃん」
みんなであははと笑う。何か言うたびに脱線するから、なかなか話が進まない。これは帰宅部ではあまりないので、新鮮な感じがする。
私も別に話を急がないので、適度に脱線しながら聞いていたら、さぎりんが私を見て柔らかく微笑んだ。
「絢音はどんなコンセプトでやりたい? 準備を入れて30分くらいだと思うけど」
「結構長いね。クローズドマイクじゃないの?」
「クローズドマイク! 初めて聞いた!」
「あれじゃない? マイクカバー」
「それ、隠れてる感じ。ヒドゥンマイク」
「盗聴じゃん!」
話が進まない。
それにしても、さぎりんは私が楽しめることに重きを置き過ぎている。帰宅部でも涼夏と千紗都に任せているように、バンドもさぎりんがやりたいようにやってくれればいい。もっとも、過去にそれで合わなければ辞める的な発言をしてしまった以上、私にはフォローする責任がある。
「何でも楽しめるから、何でもいいよ。練習中のアラビア語の曲やる?」
「あれはまだ完成度が低いから、夏まで取っておこう。今回、学生は大学生も含めて私たちだけっぽいから、年齢層高めの曲がいいと思う」
「どれくらい? 『メルト』? 『川の流れのように』?」
「随分差があるね。両親世代? 題して、おじさんホイホイ」
さぎりんがまるで秘策を披露するように、得意げに指を立てる。すぐ隣でナミが笑った。
「おじさんをホイホイしてどうするの?」
「さぎりはおじさん好きだから」
「変な設定作らないで」
「どんな男がタイプなの?」
「恋愛はもういい」
「もう? もうって何?」
「それはいいから! 『CAN YOU CELEBRATE?』とか歌っておけばいいんじゃない?」
「えっ? 何その曲」
「えっ? マジで言ってる?」
「知らないし!」
話が少しずつ進んでいく。莉絵が『CAN YOU CELEBRATE?』を知らないのは、私としても驚きなのだが、それよりもさぎりんの恋愛はもういい発言の方が私も気になる。
さぎりんが助けを求めるように私を見たので、私は深く頷いて口を開いた。
「それで、どんな恋愛があったの?」
「絢音まで!?」
さぎりんが頭を抱えて、逃げ出すようにドアを振り返った。そんなさぎりんの腕にしがみついて、ナミが追求する。
「そうだよ。ここで話しておいた方が楽になるって」
「もう楽だから。言葉の使い方を間違えただけだって」
「尋常な間違え方じゃなかったね」
莉絵まで静かに首を振って、さぎりんが悲鳴を上げた。会議が全然進まないが、この流れは私が作ったものなので仕方ない。
恋愛というと、千紗都みたいに、付き合ってもいないのにトラウマになるケースもあるから、さぎりんも必ずしも誰かと付き合っていたとは限らない。
千紗都は今頃、垣添さんと仲良く過ごせているだろうか。
ふとまた千紗都のことを考えて、思わず苦笑する。
他の友達といる時は目の前の友達に集中するべきだ。それは私もそう思うのだが、千紗都はただの友達ではないので、ご容赦願いたいところである。
時期は第41話『音楽』より後で、夏休みの前になります。
Web限定公開。
* * *
今日のイエプラ会議は、莉絵の家でやることになった。Prime Yellowsはメンバー全員がユナ高なので、いつもは大体1組の教室か食堂でやっているが、たまには気分転換しようとさぎりんが言い出した。
莉絵とは中学が同じで、家も近い。もちろん最寄り駅も同じで、電車のお金もかからない。千紗都と同じく、両親が共働きで、夕方遅くまで帰ってこない。もっとも、いつも決まった時間に帰ってきて、野阪家みたいに夕ご飯がないとか、そういうことはないようだ。
千紗都というと、今日は何をしているだろう。涼夏はバイトだし、幽霊部員は幽霊だ。最近は垣添さんがいるので、千紗都がぼっちになる機会は減ったが、それはそれでどうなのだろう。千紗都自身も、愛友以外の友達との距離感を掴みかねているようだ。
莉絵の家は、LemonPoundの頃もバンドメンバーの溜まり場になっていた。友達を家に呼ぶことに、まったく抵抗がないらしい。
もちろん、私も家族がいなければ全然構わないが、母親は常駐しているし、弟も早く帰ってくる。母親はともかく、兄弟には友達を知られたくない。色々と面倒くさいので、中学以降、西畑家に人を呼んだことは一度もない。
「じゃあ、イエプラ会議しようか」
莉絵がポテチの大きな袋を開けてテーブルに置いた。プラのカップにジュースを注いで乾杯する。
「すっかり定着したね。イエプラ会議」
Prime Yellowsを略してもイエプラにはならないのだが、莉絵曰く「驚天動地」らしい。たぶん意味が間違っているが、言いたいことは理解できる。
私としてはPYMMを推していたが、まったく定着しなかった。言い出しっぺの私ですら、若干言いにくいと感じるから仕方ない。
「継続は大事だね」
私の言葉に莉絵が満足そうに頷くと、さぎりんがくすっと笑った。
「絢音は、イエプラ会議って名前のことを言ったんだと思うけど」
「そうだった?」
「そうだった」
深く頷いてポテチをつまむ。うすしおだ。
うすしお大好きと言いながら頬張るさぎりんの隣で、ナミが真顔で呟いた。
「色んな味のポテチが入ったバラエティーパックはどうだろう」
「味が混ざるね」
私がマジレスすると、さぎりんが「そりゃ、そうでしょ!」と笑った。何を求められたのかよくわからないが、訂正もなかったので及第点の反応だったようだ。
正方形のテーブルに4人。しかし何故かナミはさぎりんにくっついている。
ナミが加入したての頃、二人は付き合っているのかとさぎりんに聞いたら、「懐かれてはいるね」と返ってきた。敢えて言葉にして否定する必要もないだろうというニュアンスだったので、さぎりんの頭には女同士で付き合うという選択肢はないようだ。
もしナミがさぎりんを恋愛的に好きだったら、色々面倒なことになりそうだが、千紗都とナツもそんな感じだが、特に面倒なことにはなっていないと思い直した。
千紗都は今頃何をしているだろう。好きだから気になるというのはあるが、どうもあの子は目を離していると心配になる。
「のりしおとうすしおは相性が良さそう」
「っていうか、同一?」
「フレンチサラダも友達になれる」
「コンソメの孤高感」
話はバラエティーパック一色だ。この脱線具合と、くだらない話で盛り上がれるのは、いかにも女子高生という感じがする。こういう空気は私も好きだ。
しばらくポテチ談義を続け、今度試してみる方向で話が収束した。持ち越しと言ってもいい。
今日の議題は次回のライブについてである。ゴールデンウィークにライブをやってからしばらく経ち、次は夏休みまで決まっていない。どんな小さな機会でもいいから演奏したいと莉絵が言って、さぎりんが探していた。ナミがまだ初心者なので、小さなイベントで場数を踏むのは私も賛成だ。
Prime Yellowsでは、大体さぎりんがイベントを見つけてくる。すべてと言っても過言ではない。LemonPound時代は私がしていたし、莉絵は提案するだけで、実際には動かない子だ。
さぎりん自身もそれで満足している。自分で動くのが好きらしい。友達は多いし、学外での交友関係もたくさんあって、如何にもリーダーという子である。
そんなさぎりんも、自分の企画を私が楽しんでいるか、よく顔色を窺っている。これについては、私が楽しかったら続けると宣言したせいなので、だいぶ私に非がある。
「知り合いのバーでオープンマイクがあって、まあそれはよくやってるんだけど、どうかって」
インパクトの強いワードに思わずポテトを噴きそうになったが、どうにか堪えてジュースを飲んだ。中学からの友人が苦笑いを浮かべて言った。
「知り合いのバーって、なんかすごいね。高2の台詞とは思えない」
「さぎりはお酒が好きだから」
「いや、飲んでない。飲んだことはある」
「いけないんだ! お巡りさん、私です!」
「お前かよ」
「身代わりだって。愛するさぎりのために」
脱線の多い人たちだ。
実際、私も中学時代、色々な場所で演奏していたし、親もバンドをしている関係で、中高生には縁遠いような馴染みの店もある。さぎりんにもそういう店の一つや二つあっても不思議ではないし、実際に去年は何度かそういう店で演奏している。
「今回はまた初めての店だね。IKOIKOってカフェスタイルのお店」
「カフェじゃん」
「カフェだね」
「行こ行こ?」
「憩い子だよ。子供たちに居心地のいいお店」
「ますますカフェじゃん」
みんなであははと笑う。何か言うたびに脱線するから、なかなか話が進まない。これは帰宅部ではあまりないので、新鮮な感じがする。
私も別に話を急がないので、適度に脱線しながら聞いていたら、さぎりんが私を見て柔らかく微笑んだ。
「絢音はどんなコンセプトでやりたい? 準備を入れて30分くらいだと思うけど」
「結構長いね。クローズドマイクじゃないの?」
「クローズドマイク! 初めて聞いた!」
「あれじゃない? マイクカバー」
「それ、隠れてる感じ。ヒドゥンマイク」
「盗聴じゃん!」
話が進まない。
それにしても、さぎりんは私が楽しめることに重きを置き過ぎている。帰宅部でも涼夏と千紗都に任せているように、バンドもさぎりんがやりたいようにやってくれればいい。もっとも、過去にそれで合わなければ辞める的な発言をしてしまった以上、私にはフォローする責任がある。
「何でも楽しめるから、何でもいいよ。練習中のアラビア語の曲やる?」
「あれはまだ完成度が低いから、夏まで取っておこう。今回、学生は大学生も含めて私たちだけっぽいから、年齢層高めの曲がいいと思う」
「どれくらい? 『メルト』? 『川の流れのように』?」
「随分差があるね。両親世代? 題して、おじさんホイホイ」
さぎりんがまるで秘策を披露するように、得意げに指を立てる。すぐ隣でナミが笑った。
「おじさんをホイホイしてどうするの?」
「さぎりはおじさん好きだから」
「変な設定作らないで」
「どんな男がタイプなの?」
「恋愛はもういい」
「もう? もうって何?」
「それはいいから! 『CAN YOU CELEBRATE?』とか歌っておけばいいんじゃない?」
「えっ? 何その曲」
「えっ? マジで言ってる?」
「知らないし!」
話が少しずつ進んでいく。莉絵が『CAN YOU CELEBRATE?』を知らないのは、私としても驚きなのだが、それよりもさぎりんの恋愛はもういい発言の方が私も気になる。
さぎりんが助けを求めるように私を見たので、私は深く頷いて口を開いた。
「それで、どんな恋愛があったの?」
「絢音まで!?」
さぎりんが頭を抱えて、逃げ出すようにドアを振り返った。そんなさぎりんの腕にしがみついて、ナミが追求する。
「そうだよ。ここで話しておいた方が楽になるって」
「もう楽だから。言葉の使い方を間違えただけだって」
「尋常な間違え方じゃなかったね」
莉絵まで静かに首を振って、さぎりんが悲鳴を上げた。会議が全然進まないが、この流れは私が作ったものなので仕方ない。
恋愛というと、千紗都みたいに、付き合ってもいないのにトラウマになるケースもあるから、さぎりんも必ずしも誰かと付き合っていたとは限らない。
千紗都は今頃、垣添さんと仲良く過ごせているだろうか。
ふとまた千紗都のことを考えて、思わず苦笑する。
他の友達といる時は目の前の友達に集中するべきだ。それは私もそう思うのだが、千紗都はただの友達ではないので、ご容赦願いたいところである。
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