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第48話 応援(3)
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試合は結局、11対0で5回コールドになった。私たちと3塁側スタンドの応援も虚しく、相手チームは1点も取ることが出来なかった。
3回は攻守ともに内野席で見たが、4回の相手チームの攻撃は、売店にジュースを買いに行き、バックネット裏で立って観戦した。ストロベリースムージーなる惹かれる名前の商品もあったが、今日はこの後確実にカフェに行くだろうからやめておいた。
4回裏は既に7点差付いていて、実質最後の攻撃になる。元々野球の応援ではなく、奈都の応援に来たので、ポンポンを持って踊っている奈都の動画や写真を撮った。ひとまず絢音に写真だけ送る。
試合が終わると、両校礼をした後、勝者の校歌が流れた。知っている曲なので二人で口ずさんで、人の流れが少なくなってから球場を出た。バトン部は現地解散とのことなので、この後奈都と合流することになっている。
球場の外の日陰に移動すると、涼夏が元気な笑顔で頷いた。
「思ったより楽しかった。迫力があった」
「ピッチャーの球、速かったね」
「あれで120キロでしょ? プロの150キロとかヤバイな」
きっとプロ野球はもっと迫力があるだろう。ただ、応援しているチームもなければ選手もいないので、在籍校の高校野球の方が楽しめそうな気はする。
出場していたクラスメイトの感想を言ったり、奈都の動画を見たりしていたら、やがて奈都から連絡が来た。合流すると制服を着ていた。
「どうせすぐ着替えて、しかも現地解散なのに、なんでそんなの着てるの?」
私が疑問を呈すると、奈都は不思議そうに首を傾げた。
「高校生が高校のイベントに制服を着てくるのは、ごく普通の選択だと思うけど。むしろなんで二人とも、制服じゃないの?」
「暑いからだな。実際、ちょっと迷いはした」
涼夏が陽気に答える。その答えに対して私が付け加えることは何もなかったので、軽く奈都を抱き寄せて全力でうなじを嗅いだ。
奈都が「ひいぃ」と変な悲鳴を上げて体を震わせた。
「な、何? なんで嗅ぐの?」
「いっぱい汗かいただろうなって思って」
「かいたよ! シャワー浴びたいよ! 普通、嗅がないでしょ!」
「奈都は特別。汗の似合う女だ」
肘を持って腕を上げさせると、腋の下に顔を押し当てた。湿ったシャツをくんくん嗅ぐと、奈都が悲しみに満ちた声を漏らした。
「もうおしまいだ。頑張って応援したのに、こんな仕打ちが待ってるなんて」
「今、ご褒美って言った?」
「言ってない! 耳も頭もおかしいでしょ!」
「汗臭い奈都、可愛い……」
背中に手を這わせると、全体的にしっとりしていた。触れ合う肌が熱い。興奮してきたので、犬のようにうなじを舐めると、とうとう引き剥がされた。
「頭おかしいでしょ!」
奈都が顔を赤くしながら、肩で息をする。涼夏が随分大人しいので、どうしたのかと振り返るとスマホで動画を撮っていた。私を見てにっこりと微笑む。
「意味のわからん動画が撮れたから、夜にまたグループに流しておくね」
「興奮してる奈都、可愛い」
「興奮してたのはチサでしょ! こんな場所で何考えてるの?」
奈都が意味もなく服を払いながら、涼夏の隣に移動してスマホを覗き込んだ。涼夏が動画を再生しながら、「ちょっとエッチな感じだから、ナッちゃんの夜のお供に」と囁いた。この人たちは時々よくわからない会話をする。
周囲を見ると、幸いにも私たちを気にしている人はいないようだった。野球が好きな子供たちもいる場所で、確かにちょっと場違いな行動だったかもしれない。
「まあ、暑いからしょうがないね」
手でパタパタ仰ぎながらそう言うと、奈都が疲れたようにため息をついた。
その後、外はもう無理だと判断して、食事も出来そうなカフェに移動した。涼夏がサンドイッチ、奈都がオムライス、私がカルボナーラを注文して、とりあえず一息つく。
涼夏が奈都の動画を再生しながら口を開いた。
「選手ごとに踊りが違ったね。青春を感じた」
チアチームは総勢20人くらい。階段で10人ずつくらいで列になって踊っていた。実際には選手ごとではなく曲ごとで、野球部員が打者が変わるたびに曲名の書かれたボードを掲げていた。
「夏は地域の夏祭りで踊るくらいで、他に何の予定もなかったから、丁度良かったよ。チア部の子とはちょっと揉めたけど」
「揉めたんだ」
「あっちは本業だからね。私たちのレベルに合わせてもらったら、やっぱりチア部の子たちが退屈しちゃって」
「それで?」
涼夏が好奇心を剥き出しにして身を乗り出す。涼夏は意外とこの手の話が好きだ。
奈都が苦笑いを浮かべて手を広げた。
「まあ、多数決で過激派を黙らせて終わった。結局チアの子も参加してくれたし、良かったんじゃない?」
「過激派って?」
「バトン部で受けたんだから、嫌なら来てくれなくていいとか、じゃあチア部でやればよかったじゃんみたいな。それはなんていうか、ちょっとずるい攻め方かなって思う」
「まあそうだね。奈都が過激派じゃなくて良かったよ」
決まった中での話し合いに、決まったことを持ち出すのはあまり建設的ではない。
他にも色々と練習の話や、試合の感想なんかを語り合う。奈都も一応野球のルールは事前に部員で共有したが、あまり興味がないようだった。
「迫力はあるし、勝ったら嬉しいけど、野球自体はそんなに。甲子園とか青春の祭典って感じで行ってみたいけど、応援のバスとかあるのかなぁ。少なくとも、自腹は切れない」
金銭的な問題は仕方ない。私としてもたくさん遊びたいから、奈都には甲子園に行って欲しくないが、それは野球部に勝って欲しくないという意味ではない。
いい具合にお腹も膨れて、時間も経った。この後遊びに行こうと言うと、奈都はさすがに帰ると遠慮した。
「汗臭いし。荷物もあるし」
「汗臭い奈都はすごく魅力的だけど」
「そんな魅力、かけらも要らない。シャワー浴びて涼しい部屋でアイス食べたい」
そこまで言われたら仕方ない。朝早かったし、炎天下の応援で疲れているだろう。
手を振って見送ると、涼夏が笑顔で言った。
「チアの衣装着てる千紗都が見たいから、今度ナッちゃんに借りよう」
一体どういう流れからその発想に至ったのだろう。とても不思議だが、まあ涼夏も着るのなら着てあげてもいいかなと思う。
3回は攻守ともに内野席で見たが、4回の相手チームの攻撃は、売店にジュースを買いに行き、バックネット裏で立って観戦した。ストロベリースムージーなる惹かれる名前の商品もあったが、今日はこの後確実にカフェに行くだろうからやめておいた。
4回裏は既に7点差付いていて、実質最後の攻撃になる。元々野球の応援ではなく、奈都の応援に来たので、ポンポンを持って踊っている奈都の動画や写真を撮った。ひとまず絢音に写真だけ送る。
試合が終わると、両校礼をした後、勝者の校歌が流れた。知っている曲なので二人で口ずさんで、人の流れが少なくなってから球場を出た。バトン部は現地解散とのことなので、この後奈都と合流することになっている。
球場の外の日陰に移動すると、涼夏が元気な笑顔で頷いた。
「思ったより楽しかった。迫力があった」
「ピッチャーの球、速かったね」
「あれで120キロでしょ? プロの150キロとかヤバイな」
きっとプロ野球はもっと迫力があるだろう。ただ、応援しているチームもなければ選手もいないので、在籍校の高校野球の方が楽しめそうな気はする。
出場していたクラスメイトの感想を言ったり、奈都の動画を見たりしていたら、やがて奈都から連絡が来た。合流すると制服を着ていた。
「どうせすぐ着替えて、しかも現地解散なのに、なんでそんなの着てるの?」
私が疑問を呈すると、奈都は不思議そうに首を傾げた。
「高校生が高校のイベントに制服を着てくるのは、ごく普通の選択だと思うけど。むしろなんで二人とも、制服じゃないの?」
「暑いからだな。実際、ちょっと迷いはした」
涼夏が陽気に答える。その答えに対して私が付け加えることは何もなかったので、軽く奈都を抱き寄せて全力でうなじを嗅いだ。
奈都が「ひいぃ」と変な悲鳴を上げて体を震わせた。
「な、何? なんで嗅ぐの?」
「いっぱい汗かいただろうなって思って」
「かいたよ! シャワー浴びたいよ! 普通、嗅がないでしょ!」
「奈都は特別。汗の似合う女だ」
肘を持って腕を上げさせると、腋の下に顔を押し当てた。湿ったシャツをくんくん嗅ぐと、奈都が悲しみに満ちた声を漏らした。
「もうおしまいだ。頑張って応援したのに、こんな仕打ちが待ってるなんて」
「今、ご褒美って言った?」
「言ってない! 耳も頭もおかしいでしょ!」
「汗臭い奈都、可愛い……」
背中に手を這わせると、全体的にしっとりしていた。触れ合う肌が熱い。興奮してきたので、犬のようにうなじを舐めると、とうとう引き剥がされた。
「頭おかしいでしょ!」
奈都が顔を赤くしながら、肩で息をする。涼夏が随分大人しいので、どうしたのかと振り返るとスマホで動画を撮っていた。私を見てにっこりと微笑む。
「意味のわからん動画が撮れたから、夜にまたグループに流しておくね」
「興奮してる奈都、可愛い」
「興奮してたのはチサでしょ! こんな場所で何考えてるの?」
奈都が意味もなく服を払いながら、涼夏の隣に移動してスマホを覗き込んだ。涼夏が動画を再生しながら、「ちょっとエッチな感じだから、ナッちゃんの夜のお供に」と囁いた。この人たちは時々よくわからない会話をする。
周囲を見ると、幸いにも私たちを気にしている人はいないようだった。野球が好きな子供たちもいる場所で、確かにちょっと場違いな行動だったかもしれない。
「まあ、暑いからしょうがないね」
手でパタパタ仰ぎながらそう言うと、奈都が疲れたようにため息をついた。
その後、外はもう無理だと判断して、食事も出来そうなカフェに移動した。涼夏がサンドイッチ、奈都がオムライス、私がカルボナーラを注文して、とりあえず一息つく。
涼夏が奈都の動画を再生しながら口を開いた。
「選手ごとに踊りが違ったね。青春を感じた」
チアチームは総勢20人くらい。階段で10人ずつくらいで列になって踊っていた。実際には選手ごとではなく曲ごとで、野球部員が打者が変わるたびに曲名の書かれたボードを掲げていた。
「夏は地域の夏祭りで踊るくらいで、他に何の予定もなかったから、丁度良かったよ。チア部の子とはちょっと揉めたけど」
「揉めたんだ」
「あっちは本業だからね。私たちのレベルに合わせてもらったら、やっぱりチア部の子たちが退屈しちゃって」
「それで?」
涼夏が好奇心を剥き出しにして身を乗り出す。涼夏は意外とこの手の話が好きだ。
奈都が苦笑いを浮かべて手を広げた。
「まあ、多数決で過激派を黙らせて終わった。結局チアの子も参加してくれたし、良かったんじゃない?」
「過激派って?」
「バトン部で受けたんだから、嫌なら来てくれなくていいとか、じゃあチア部でやればよかったじゃんみたいな。それはなんていうか、ちょっとずるい攻め方かなって思う」
「まあそうだね。奈都が過激派じゃなくて良かったよ」
決まった中での話し合いに、決まったことを持ち出すのはあまり建設的ではない。
他にも色々と練習の話や、試合の感想なんかを語り合う。奈都も一応野球のルールは事前に部員で共有したが、あまり興味がないようだった。
「迫力はあるし、勝ったら嬉しいけど、野球自体はそんなに。甲子園とか青春の祭典って感じで行ってみたいけど、応援のバスとかあるのかなぁ。少なくとも、自腹は切れない」
金銭的な問題は仕方ない。私としてもたくさん遊びたいから、奈都には甲子園に行って欲しくないが、それは野球部に勝って欲しくないという意味ではない。
いい具合にお腹も膨れて、時間も経った。この後遊びに行こうと言うと、奈都はさすがに帰ると遠慮した。
「汗臭いし。荷物もあるし」
「汗臭い奈都はすごく魅力的だけど」
「そんな魅力、かけらも要らない。シャワー浴びて涼しい部屋でアイス食べたい」
そこまで言われたら仕方ない。朝早かったし、炎天下の応援で疲れているだろう。
手を振って見送ると、涼夏が笑顔で言った。
「チアの衣装着てる千紗都が見たいから、今度ナッちゃんに借りよう」
一体どういう流れからその発想に至ったのだろう。とても不思議だが、まあ涼夏も着るのなら着てあげてもいいかなと思う。
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