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第47話 山(4)
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登山道は初めはやや勾配がきつく、階段の一段一段が結構高かった。階段といっても、細い丸太が打ち付けられただけのものだ。
さらに悪いことに、昨日までの雨で道は全体的のぬかるんでおり、丸太や木の根は凶悪に滑る状態になっていた。しかも私たちの履いているのはただのスニーカーである。
何度か滑りそうになりながら踏みとどまっていたが、少し高い段を越えようとした時、残した軸足が滑ってそのまま前のめりに転倒した。
「うわぁ!」
思わず悲鳴を上げて手をつく。仲間たちが大丈夫かと、心配そうに手を貸してくれた。幸いにも服が汚れただけで、痛いところはなかった。
「これは、ハイキングじゃなくて登山だ」
冷静にそう言うと、「元々登山だから」と奈都が呆れたように言った。葉の落ちる季節ではないが落ち葉も積もっていて、とにかく足元が悪い。時々登山道まで草木がかかっていることもあって、軍手を持ってきていた絢音が先頭を歩くことになった。
一度休憩を挟みたかったが、虫がブンブン飛び交っていて、あまり足を止めたい気分ではない。
「これ、行きより帰りがヤバそう」
背後でズリっと靴の滑る音がした後、疲れたような奈都の声がした。確かに、上りより下りの方が滑りそうだし、実際に下山時の方が事故が多いらしい。
それにしても疲れた。まだ登り始めてから15分くらいしか経っていない上、恐らく指標の15分より進んでいない。
「これは痩せる」
首にかけたタオルで汗を拭って、すでに重たい足を持ち上げた。木の根と石で構成された登山道は右へ左へうねりながら続いていて、先が見えない。そろそろなだらかになるかと期待してカーブを曲がると、さらに急坂が続いているという絶望を繰り返していると、やがて真っ直ぐな道になった。尾根ではないので傾斜はあるが、これまでの道と比べると格段に楽だ。
「平地最高!」
奈都が歓喜の声を上げた。
道の分かれる看板が現れたので、谷鳥之山の山頂に至る道を選ぶ。独立峰ではないので、山頂を経由せずに別の山に向かう道もあれば、他の場所に降りる道もある。
再び険しい上りになり、口数も少なく懸命に登っていると、額に冷たい雫が落ちてきた。昨日までの雨で時々枝葉から滴る雫が顔に当たる。
気にせず歩いていたが、雫の量は増えるばかりで、ついに背中から奈都の悲壮な声がした。
「雨が降ってきたんじゃない?」
「気のせいでしょ」
それは困るので、降っていないことにしたが、気の持ちようで誤魔化せる降りではなくなってきた。
絢音が「着るか」と呟いて合羽を取り出す。「いいなぁ」と羨ましげな眼差しを送ると、絢音が目をパチクリさせた。
「持って来てないの? あの予報で?」
「私の見た予報だと、雨は降らない感じだった」
「ナツは?」
「脳裏はよぎった」
奈都と二人で力強く頷くと、絢音は目立つオレンジ色の外套をまとって、「どうする?」と呆れたように聞いた。
もちろん、ここで引き返すかという意味だが、実際のところ大した降りではないし、すでに結構濡れている。帽子があるのでそんなに気にならないし、山頂までもう少しだ。土砂降りになることもないだろう。
「私たちの初挑戦を失敗で終わらせるわけにはいかない!」
私がそう強く訴えると、奈都は「退く勇気も大事だと思うけど」と弱気に呟いた。それもまた貴重な意見だ。
「奈都とはここでお別れだね」
「行くから! 全然平気だし! 私、水属性だし」
奈都が大袈裟な動きでそう言って、絢音がくすっと笑った。
奈都は確か風属性だったはずだが、この際何でもいい。気持ちが沈んだらおしまいだ。
山頂まで後少し。何の根拠もなくそう励まし合って、私たちは再び歩き始めた。
さらに悪いことに、昨日までの雨で道は全体的のぬかるんでおり、丸太や木の根は凶悪に滑る状態になっていた。しかも私たちの履いているのはただのスニーカーである。
何度か滑りそうになりながら踏みとどまっていたが、少し高い段を越えようとした時、残した軸足が滑ってそのまま前のめりに転倒した。
「うわぁ!」
思わず悲鳴を上げて手をつく。仲間たちが大丈夫かと、心配そうに手を貸してくれた。幸いにも服が汚れただけで、痛いところはなかった。
「これは、ハイキングじゃなくて登山だ」
冷静にそう言うと、「元々登山だから」と奈都が呆れたように言った。葉の落ちる季節ではないが落ち葉も積もっていて、とにかく足元が悪い。時々登山道まで草木がかかっていることもあって、軍手を持ってきていた絢音が先頭を歩くことになった。
一度休憩を挟みたかったが、虫がブンブン飛び交っていて、あまり足を止めたい気分ではない。
「これ、行きより帰りがヤバそう」
背後でズリっと靴の滑る音がした後、疲れたような奈都の声がした。確かに、上りより下りの方が滑りそうだし、実際に下山時の方が事故が多いらしい。
それにしても疲れた。まだ登り始めてから15分くらいしか経っていない上、恐らく指標の15分より進んでいない。
「これは痩せる」
首にかけたタオルで汗を拭って、すでに重たい足を持ち上げた。木の根と石で構成された登山道は右へ左へうねりながら続いていて、先が見えない。そろそろなだらかになるかと期待してカーブを曲がると、さらに急坂が続いているという絶望を繰り返していると、やがて真っ直ぐな道になった。尾根ではないので傾斜はあるが、これまでの道と比べると格段に楽だ。
「平地最高!」
奈都が歓喜の声を上げた。
道の分かれる看板が現れたので、谷鳥之山の山頂に至る道を選ぶ。独立峰ではないので、山頂を経由せずに別の山に向かう道もあれば、他の場所に降りる道もある。
再び険しい上りになり、口数も少なく懸命に登っていると、額に冷たい雫が落ちてきた。昨日までの雨で時々枝葉から滴る雫が顔に当たる。
気にせず歩いていたが、雫の量は増えるばかりで、ついに背中から奈都の悲壮な声がした。
「雨が降ってきたんじゃない?」
「気のせいでしょ」
それは困るので、降っていないことにしたが、気の持ちようで誤魔化せる降りではなくなってきた。
絢音が「着るか」と呟いて合羽を取り出す。「いいなぁ」と羨ましげな眼差しを送ると、絢音が目をパチクリさせた。
「持って来てないの? あの予報で?」
「私の見た予報だと、雨は降らない感じだった」
「ナツは?」
「脳裏はよぎった」
奈都と二人で力強く頷くと、絢音は目立つオレンジ色の外套をまとって、「どうする?」と呆れたように聞いた。
もちろん、ここで引き返すかという意味だが、実際のところ大した降りではないし、すでに結構濡れている。帽子があるのでそんなに気にならないし、山頂までもう少しだ。土砂降りになることもないだろう。
「私たちの初挑戦を失敗で終わらせるわけにはいかない!」
私がそう強く訴えると、奈都は「退く勇気も大事だと思うけど」と弱気に呟いた。それもまた貴重な意見だ。
「奈都とはここでお別れだね」
「行くから! 全然平気だし! 私、水属性だし」
奈都が大袈裟な動きでそう言って、絢音がくすっと笑った。
奈都は確か風属性だったはずだが、この際何でもいい。気持ちが沈んだらおしまいだ。
山頂まで後少し。何の根拠もなくそう励まし合って、私たちは再び歩き始めた。
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