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第47話 山(2)
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さて、山登りである。今回は久しぶりに私の企画なので、ベースプランは私が考えなくてはいけない。
色々と条件はあるが、一番大事なのはアクセスである。足のない高校生なので、公共交通機関でのアクセスが便利であることが絶対条件だ。
そして、近いこと。遠いと必然的に交通費が高くなってしまう。日の長い季節ではあるが、行き帰りの時間にもゆとりを持ちたい。
もちろん、あまり難易度の高い山はダメだ。ハイキングの延長で考えたいが、ある程度登った充実感は欲しい。
眺望はあるに越したことはないが、必須ではない。人とたくさんすれ違うのも面倒だし、山頂に何もない、人気のない山の方がいいだろうか。
帰宅部活動の際にスマホで検索しながらそう言うと、絢音が満足げに頷いた。
「山頂がしょぼければしょぼいほど、涼夏にはウケそうだね」
「次は自分も参加したいって思わせるような、素敵体験した方がいい?」
「エクスタシーが飽和して山頂で絶頂を迎えても、涼夏は来ない気がする」
「今、デウス・エクス・マキナって言った?」
「言ってないね。相変わらずの空耳力だね」
「山頂で絶頂を迎えるって、頭痛が痛いみたいな高尚な響きがあるね」
ランナーズハイのようなものだろうか。走って苦しいだけのマラソンにあれだけ人気があるのは、そこにエクスタシーがあるからに違いない。
そんな取り留めもない話の末、隣県の谷鳥之山という、標高600メートルほどの山に行くことにした。それなりに高く感じるが、登山道の入口がそもそも高い場所にあり、大体1時間半くらいで登れるそうだ。
電車の駅から登山道まで2キロくらい。準備運動に丁度良さそうである。ヒルもいないようだし、クマの目撃報告もない。難易度は低いが、眺望はまったくない、渋い山とのことだ。
格好はどういうのがいいだろう。崖を登るわけではないから、靴はスニーカーで大丈夫だろう。駅から歩く距離も長いし、重たい靴は大変そうだ。そもそも持っていない。
リュックは通学で使っているもので十分だろうか。ペットボトルとお菓子とタオルが入ればなんでもいいだろう。
暑い季節だが、服は長袖長ズボンがいいだろう。山ガール的なオシャレにも興味があるが、ファッションリーダーは不在だし、今回は痩せる目的を忘れずに行きたい。
そんな感じで、時々絢音と奈都と喋りながら当日を迎えた。前日まで雨が降っていたが、どうにか止んでくれた。太陽が見えないくらいの曇りだが、暑いよりはいいだろう。
リュックを背負って帽子をかぶる。駅に着くと、学校に行く時と同じように、奈都は先に来て待っていた。事前に服装は相談していたこともあって、大体同じ格好だ。
「今日は頑張って痩せようね」
明るくそう声をかけると、奈都は眩しそうに目を細めた。
「私は結構ベスト体重だから」
「55キロだっけ」
「そんなにないから! チサは胸が大きいから、それくらいありそうだね」
「ない。胸も夢もない。体重もない」
「夢は持とう」
大きな話だ。
中央駅まで移動しながら、奈都に夢を聞いたが、特にないと言われた。この子はどうも発言に一貫性がない。そう指摘すると、奈都は悪びれずに言った。
「私はモブ・オブ・モブだから、生きる基準も低いけど、チサはヒロインだから、生きる基準が高いんだよ」
「そんな大層なものになった覚えはない」
あしらうように軽く手を振った。
確かに、私も自分ではやらないことを涼夏には求めることがある。奈都の言うヒロインの基準というのもわからないでもない。
中央駅で絢音と合流して、電車を乗り換えた。しばらく座れなかったので立ったまま生きる基準の話をして、空いたところで並んで座った。とりあえず自撮りをグループに流すと、すぐに人数分の既読がついて、涼夏から返事が来た。
『気を付けてねー。微妙に昼から雨予報?』
そんな予報だっただろうか。念のため調べると、やや降水確率もある曇りだった。見る天気予報によって違うのかも知れない。
確かに、街から遠ざかるにつれて空が暗くなってきた。私が少し表情を曇らせると、奈都が陽気に笑った。
「小雨くらいなら気持ちいいかもね」
遠回しに励ますとか、そんな器用なことが出来る子ではないので、素で言ったのだろう。
「奈都がポジティブで助かるよ」
「今、ノーテンキって言った?」
「それ、千紗都っぽい」
絢音が笑うと、奈都も空耳の研究中だと満足そうな笑みを浮かべた。
窓の外は暗いが、仲間たちは明るくて何よりである。
色々と条件はあるが、一番大事なのはアクセスである。足のない高校生なので、公共交通機関でのアクセスが便利であることが絶対条件だ。
そして、近いこと。遠いと必然的に交通費が高くなってしまう。日の長い季節ではあるが、行き帰りの時間にもゆとりを持ちたい。
もちろん、あまり難易度の高い山はダメだ。ハイキングの延長で考えたいが、ある程度登った充実感は欲しい。
眺望はあるに越したことはないが、必須ではない。人とたくさんすれ違うのも面倒だし、山頂に何もない、人気のない山の方がいいだろうか。
帰宅部活動の際にスマホで検索しながらそう言うと、絢音が満足げに頷いた。
「山頂がしょぼければしょぼいほど、涼夏にはウケそうだね」
「次は自分も参加したいって思わせるような、素敵体験した方がいい?」
「エクスタシーが飽和して山頂で絶頂を迎えても、涼夏は来ない気がする」
「今、デウス・エクス・マキナって言った?」
「言ってないね。相変わらずの空耳力だね」
「山頂で絶頂を迎えるって、頭痛が痛いみたいな高尚な響きがあるね」
ランナーズハイのようなものだろうか。走って苦しいだけのマラソンにあれだけ人気があるのは、そこにエクスタシーがあるからに違いない。
そんな取り留めもない話の末、隣県の谷鳥之山という、標高600メートルほどの山に行くことにした。それなりに高く感じるが、登山道の入口がそもそも高い場所にあり、大体1時間半くらいで登れるそうだ。
電車の駅から登山道まで2キロくらい。準備運動に丁度良さそうである。ヒルもいないようだし、クマの目撃報告もない。難易度は低いが、眺望はまったくない、渋い山とのことだ。
格好はどういうのがいいだろう。崖を登るわけではないから、靴はスニーカーで大丈夫だろう。駅から歩く距離も長いし、重たい靴は大変そうだ。そもそも持っていない。
リュックは通学で使っているもので十分だろうか。ペットボトルとお菓子とタオルが入ればなんでもいいだろう。
暑い季節だが、服は長袖長ズボンがいいだろう。山ガール的なオシャレにも興味があるが、ファッションリーダーは不在だし、今回は痩せる目的を忘れずに行きたい。
そんな感じで、時々絢音と奈都と喋りながら当日を迎えた。前日まで雨が降っていたが、どうにか止んでくれた。太陽が見えないくらいの曇りだが、暑いよりはいいだろう。
リュックを背負って帽子をかぶる。駅に着くと、学校に行く時と同じように、奈都は先に来て待っていた。事前に服装は相談していたこともあって、大体同じ格好だ。
「今日は頑張って痩せようね」
明るくそう声をかけると、奈都は眩しそうに目を細めた。
「私は結構ベスト体重だから」
「55キロだっけ」
「そんなにないから! チサは胸が大きいから、それくらいありそうだね」
「ない。胸も夢もない。体重もない」
「夢は持とう」
大きな話だ。
中央駅まで移動しながら、奈都に夢を聞いたが、特にないと言われた。この子はどうも発言に一貫性がない。そう指摘すると、奈都は悪びれずに言った。
「私はモブ・オブ・モブだから、生きる基準も低いけど、チサはヒロインだから、生きる基準が高いんだよ」
「そんな大層なものになった覚えはない」
あしらうように軽く手を振った。
確かに、私も自分ではやらないことを涼夏には求めることがある。奈都の言うヒロインの基準というのもわからないでもない。
中央駅で絢音と合流して、電車を乗り換えた。しばらく座れなかったので立ったまま生きる基準の話をして、空いたところで並んで座った。とりあえず自撮りをグループに流すと、すぐに人数分の既読がついて、涼夏から返事が来た。
『気を付けてねー。微妙に昼から雨予報?』
そんな予報だっただろうか。念のため調べると、やや降水確率もある曇りだった。見る天気予報によって違うのかも知れない。
確かに、街から遠ざかるにつれて空が暗くなってきた。私が少し表情を曇らせると、奈都が陽気に笑った。
「小雨くらいなら気持ちいいかもね」
遠回しに励ますとか、そんな器用なことが出来る子ではないので、素で言ったのだろう。
「奈都がポジティブで助かるよ」
「今、ノーテンキって言った?」
「それ、千紗都っぽい」
絢音が笑うと、奈都も空耳の研究中だと満足そうな笑みを浮かべた。
窓の外は暗いが、仲間たちは明るくて何よりである。
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