上 下
171 / 300

第47話 山(2)

しおりを挟む
 さて、山登りである。今回は久しぶりに私の企画なので、ベースプランは私が考えなくてはいけない。
 色々と条件はあるが、一番大事なのはアクセスである。足のない高校生なので、公共交通機関でのアクセスが便利であることが絶対条件だ。
 そして、近いこと。遠いと必然的に交通費が高くなってしまう。日の長い季節ではあるが、行き帰りの時間にもゆとりを持ちたい。
 もちろん、あまり難易度の高い山はダメだ。ハイキングの延長で考えたいが、ある程度登った充実感は欲しい。
 眺望はあるに越したことはないが、必須ではない。人とたくさんすれ違うのも面倒だし、山頂に何もない、人気のない山の方がいいだろうか。
 帰宅部活動の際にスマホで検索しながらそう言うと、絢音が満足げに頷いた。
「山頂がしょぼければしょぼいほど、涼夏にはウケそうだね」
「次は自分も参加したいって思わせるような、素敵体験した方がいい?」
「エクスタシーが飽和して山頂で絶頂を迎えても、涼夏は来ない気がする」
「今、デウス・エクス・マキナって言った?」
「言ってないね。相変わらずの空耳力だね」
「山頂で絶頂を迎えるって、頭痛が痛いみたいな高尚な響きがあるね」
 ランナーズハイのようなものだろうか。走って苦しいだけのマラソンにあれだけ人気があるのは、そこにエクスタシーがあるからに違いない。
 そんな取り留めもない話の末、隣県の谷鳥之山という、標高600メートルほどの山に行くことにした。それなりに高く感じるが、登山道の入口がそもそも高い場所にあり、大体1時間半くらいで登れるそうだ。
 電車の駅から登山道まで2キロくらい。準備運動に丁度良さそうである。ヒルもいないようだし、クマの目撃報告もない。難易度は低いが、眺望はまったくない、渋い山とのことだ。
 格好はどういうのがいいだろう。崖を登るわけではないから、靴はスニーカーで大丈夫だろう。駅から歩く距離も長いし、重たい靴は大変そうだ。そもそも持っていない。
 リュックは通学で使っているもので十分だろうか。ペットボトルとお菓子とタオルが入ればなんでもいいだろう。
 暑い季節だが、服は長袖長ズボンがいいだろう。山ガール的なオシャレにも興味があるが、ファッションリーダーは不在だし、今回は痩せる目的を忘れずに行きたい。
 そんな感じで、時々絢音と奈都と喋りながら当日を迎えた。前日まで雨が降っていたが、どうにか止んでくれた。太陽が見えないくらいの曇りだが、暑いよりはいいだろう。
 リュックを背負って帽子をかぶる。駅に着くと、学校に行く時と同じように、奈都は先に来て待っていた。事前に服装は相談していたこともあって、大体同じ格好だ。
「今日は頑張って痩せようね」
 明るくそう声をかけると、奈都は眩しそうに目を細めた。
「私は結構ベスト体重だから」
「55キロだっけ」
「そんなにないから! チサは胸が大きいから、それくらいありそうだね」
「ない。胸も夢もない。体重もない」
「夢は持とう」
 大きな話だ。
 中央駅まで移動しながら、奈都に夢を聞いたが、特にないと言われた。この子はどうも発言に一貫性がない。そう指摘すると、奈都は悪びれずに言った。
「私はモブ・オブ・モブだから、生きる基準も低いけど、チサはヒロインだから、生きる基準が高いんだよ」
「そんな大層なものになった覚えはない」
 あしらうように軽く手を振った。
 確かに、私も自分ではやらないことを涼夏には求めることがある。奈都の言うヒロインの基準というのもわからないでもない。
 中央駅で絢音と合流して、電車を乗り換えた。しばらく座れなかったので立ったまま生きる基準の話をして、空いたところで並んで座った。とりあえず自撮りをグループに流すと、すぐに人数分の既読がついて、涼夏から返事が来た。
『気を付けてねー。微妙に昼から雨予報?』
 そんな予報だっただろうか。念のため調べると、やや降水確率もある曇りだった。見る天気予報によって違うのかも知れない。
 確かに、街から遠ざかるにつれて空が暗くなってきた。私が少し表情を曇らせると、奈都が陽気に笑った。
「小雨くらいなら気持ちいいかもね」
 遠回しに励ますとか、そんな器用なことが出来る子ではないので、素で言ったのだろう。
「奈都がポジティブで助かるよ」
「今、ノーテンキって言った?」
「それ、千紗都っぽい」
 絢音が笑うと、奈都も空耳の研究中だと満足そうな笑みを浮かべた。
 窓の外は暗いが、仲間たちは明るくて何よりである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

カリスマレビュワーの俺に逆らうネット小説家は潰しますけど?

きんちゃん
青春
レビュー。ネット小説におけるそれは単なる応援コメントや作品紹介ではない。 優秀なレビュワーは時に作者の創作活動の道標となるのだ。 数々のレビューを送ることでここアルファポリスにてカリスマレビュワーとして名を知られた文野良明。時に厳しく、時に的確なレビューとコメントを送ることで数々のネット小説家に影響を与えてきた。アドバイスを受けた作家の中には書籍化までこぎつけた者もいるほどだ。 だがそんな彼も密かに好意を寄せていた大学の同級生、草田可南子にだけは正直なレビューを送ることが出来なかった。 可南子の親友である赤城瞳、そして良明の過去を知る米倉真智の登場によって、良明のカリスマレビュワーとして築いてきた地位とプライドはガタガタになる!? これを読んでいるあなたが送る応援コメント・レビューなどは、書き手にとって想像以上に大きなものなのかもしれません。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

処理中です...