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第44話 SNS(3)

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 それからしばらく、私は反応について考えた末、ある哲学的な仮説を立てた。
 反応とはつまり交流である。
 一方向の感想よりも、出来ればもらった言葉から何かを生み出したい。そのやりとりは、もはや交流と呼んで差し支えない。
 あくまで未経験の想像である。私が本当にそれを望んでいるのかは、自分でもわからない。
 それを検証すべく、私は実験的にツイッターのアカウントを増やしてみることにした。
 とりあえず、フリー素材のサイトから淡い色味のアイコンをダウンロードして、プロフィールには他の人のを参考にして、「SJK 日常垢 服 ゆるく生きる」と書いておいた。本当は「帰宅」という文字を入れたかったが、ひとまずやめておいた。
 名前はまったく別のものを考えようと思ったが、何も思い付かなかったので「かざの」にしておいた。kazano vlogと繋げる気はないし、むしろそうしたくないが、匂わせない限り辿られることはないだろう。
 すぐにやめる可能性が高いので、帰宅部の面々には一旦内緒にする。
 ファーストツイートの参考にしようと奈都のアカウントを覗くと、「ハットグとホットドッグは似ている」と呟いていた。リプが付いていたので見てみると、知らない人が「米人が引かないように音の響きを変えたのがハットグ」と奈都に教えていた。
 教えていたというのは語弊がある。ハットグはホットドッグの韓国語表現なので、この人が書いていることは嘘か冗談か勘違いだ。
 それに対して奈都が、「マジか! 勉強になった!」とフランクな口調で応えている。どうやら相互さんのようだ。
 丁度今日、涼夏とハットグの話をしていたのだが、今ブームなのだろうか。そう思いながら涼夏のTLを見ると、「チーズハットグしか勝たん。食べたことないけど」と書いていた。投稿時刻は奈都のツイートのほんの少し前。つまり偶然ではなく、奈都は涼夏に、いわゆる空リプというのを送ったのである。
 涼夏のツイートには、私も知ってる子が「むっちゃ伸びるよ!」とリプをつけており、そこからさらに、「チーズとどっちが伸びる?」「チーズが伸びる! 他に何が伸びるの?」「ソーセージ」「卑猥」「その発想はなかった。ドン引きしたからブロックした」「されたブロックを解除した。反省はしてる」と、ひどい会話が続いていた。内容はともかく楽しそうだ。
 ツイッターのJK的な使い方はわかった。果たして私が知らない他人とこういうことがしたいのかはわからないが、誰だって初めは知らない他人だ。
 ひとまず「今日の部活も楽しかった。帰りに美味しいものを食べる想像をした」と絵文字付きで投稿した。それを本垢ですればいい説はあるが、3人しか見ていない場所に、3人としたことを書いてもしょうがない。
 それを数日続け、ツイート数が20くらいになったので、フォロワーを増やしてみることにした。すでに変なエロ垢から2、3フォローされていたが、すぐにブロックした。そういうのは鍵付きの本垢でもあることなので慣れている。変なアカウントに限らず、普通にフォロリクはあるが、あのアカウントは帰宅部メンバーのツイートを見る用なので、すべて拒否している。
 自分からフォローする勇気はないので、簡単な自己紹介に「日常垢さんと繋がりたい」的なタグを2つ3つ添えて、プロフィールに固定した。雰囲気写真を4枚載せたら、実にわかりやすい量産型ムーブになった。別に特別な存在になりたいわけではないので問題ない。
 タグの効果はてきめんで、すぐに同じ日常垢の人たちにフォローされて、私もフォロバした。フォロワーが増えるとTLが華やかになり、Aさんは茶道部だとか、Bさんは後輩が難しいとか、Cさんは未だに友達ができないとか、Dさんは家族でキャンプに行ったとか、Eさんはスタバの新作がヤバいとか、Fさんはダイエットを頑張っているとか、私の知らない日常が次々と流れ込んできた。
 中でも特に多いのは彼氏の話だ。大半の女子が、彼氏と推しと男友達の話をしている。中にはそれ以外にないのかというくらい男の話しかしていない子もいて、さすがにフォロバしたことを後悔したが、外すのもどうかと思ったのでミュートした。
 ある朝、ツイッターは男の話ばかりだとため息をつくと、奈都が不思議そうに首を傾げた。
「それは特殊なTLだね」
「ナッちゃんのTLは?」
「突然のナッちゃん。基本的にアニメとゲームの話だけど、普通にリア友もいるから学校の話もあったり、バイトの話とか、色々だよ?」
「男の話は?」
「ないね。恋愛の話をしてる人はフォローしてないしね」
 それは賢明な行動指針だと思う。そう褒めると、奈都が怪訝そうに私の顔を覗き込んだ。
「アカウント作ったの? 私、フォローされてないけど。とうとう仲間外れ?」
「いや、ちょっとツイッターの研究をしてるだけ。また研究の成果はみんなに発表するよ」
 苦笑いを浮かべながらそう言うと、奈都は「楽しみにしてる」と笑った。
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