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最終話 日常 1(2)
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※(1)からそのまま繋がっています。
* * *
そんなわけで、今日もいつもの3人である。4月に結成した帰宅部は、一人の脱落者を出すこともなく、かと言っても仲間が増えることもなく、この3人で仲良く楽しくやってきた。
「今日はその集大成だ」
私の考えを代弁するように、涼夏が力強くそう言って拳を握った。絢音がにこにこしながら大きく頷く。
泣いても笑っても、今日が1年生最後の帰宅だ。結局この一年、涼夏は絢音の塾のない日にバイトを入れてくれたおかげで、3人揃って帰りに遊んだことはあまりない。
絢音とは主に勉強していたし、涼夏とはショッピングをしていた。3人の時はいつも何をしているだろう。カフェやファミレスで喋っているか、カラオケか。ただ、それは最終日にはふさわしくない。
意見を求めると、涼夏がなんでもないように言った。
「まあ、千紗都の家で3人で1時間チャレンジじゃない? 3人でしたことないし、集大成にして、新しい扉を開く感じで」
随分と気楽に新しい扉を開く子だ。温泉に行った時、3人がかりで色々された記憶があるのだが、気のせいだっただろうか。
絢音を見ると、満足そうに首を縦に振った。
「私は大歓迎だよ。ちょっと生理終わりがけなのが気になるけど」
「いや、脱ぐわけじゃないから、別にいいし」
「脱がないの?」
涼夏がきょとんと首を傾げる。冗談なのか本気なのかわからないが、この子もすっかり大胆になった。キスでもじもじしていた涼夏も可愛かったが、余裕の表情の涼夏もやっぱり可愛い。
「時間たくさんあるけど、ゲームでもする? お昼は涼夏が作ってね」
今日は終業式だけで、午前でおしまいだ。外は天気が良く、家で引きこもるには惜しい陽気だが、そんな日はたくさんある。土日しか自由のない社会人と違って、私たちは時間は無限にあると思っていたが、それでもこうして1年過ぎてしまった。
「じゃあ、お昼はみんなでパエリア作りに挑戦しよう。ゲーム欲しいね。終業記念に、恵坂で何か新しいゲーム見て行こうか」
涼夏がそう提案すると、絢音が苦笑いを浮かべた。
「私、途中下車するたびにお金がかかる」
「途中下車1回分は私が出すよ。その代わり、1時間チャレンジでご奉仕して」
「頑張るね」
絢音が可愛らしくガッツポーズをする。一体何を頑張るのかさっぱりわからないが、私も半分出して、私にも半分ご奉仕してもらおう。
いつものように古沼まで歩いて、イエローラインを恵坂で降りる。平日の昼なのに、自分たちと同じような制服姿の若者が多い。みんな解放された顔をしている。
せっかく恵坂に来たのなら、このまま遊んで行ってもいいのではないかと提案したが、あくまで本年の帰宅部の活動は、1時間チャレンジで締め括りたいらしい。スキンシップが好きな人たちだ。
真っ直ぐ家電量販店に向かい、ボードゲームコーナーでゲームを物色した。2千円から3千円程度で、繰り返し遊べて、パーティー寄りではなく、ややゲーマー寄りのゲームを選定した結果、涼夏は『キングドミノ』というタイルを並べるゲームを購入した。
せっかくなので、私も『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』という、絵が可愛い小箱のカードゲームを買った。時代は拡大再生産だと訴えると、涼夏が笑顔で頷いた。
「3ナッちゃんで1千紗都をゲットして、千紗都の能力を使って無料で絢音を建造する」
「私、建造物なの?」
「今の、シンプルに面白かった」
笑いながら駅に戻る。かなりじっくりゲームを選んでいたこともあり、すでにお昼を過ぎていたが、帰ってパエリアを作るらしい。お腹が空いて倒れそうだが、涼夏の手料理は楽しみだ。それに、ここでパエリアなのは、私が夏に張った伏線を回収しようとしてくれているのだろう。
「涼夏、ありがとう」
とりあえずお礼を言うと、涼夏が驚いた顔で私を見た。
「久しぶりの謎思考か?」
「久しぶりなんじゃなくて、涼夏が千紗都の思考回路を理解できてきたんだと思うよ? 私から見ると、千紗都の言動は特に変わってない」
「冷静な分析だ」
絢音の言葉に、涼夏が深く頷く。実際のところ、思考の過程を口にしていないだけで、自分の中ではそんなにも突飛なことを言っているつもりはない。現に、絢音には全部伝わっている。試すように絢音を見ると、笑いながら頷いた。
「海に行った時に、パエリアが食べたいって言ってたヤツでしょ? 涼夏がパエリアって言った瞬間に思い出したけど」
「ごめん、すっかり忘れてた。でも、もしかしたら、頭のどこかに残ってたのかもしれない」
涼夏が申し訳なさそうに手を合わせる。まったく無意識にパエリアが出てきたのだとしたら、それはそれで思考が似てきたようで嬉しい。
近くのスーパーで食材を買って、二人を家に招き入れる。とりあえずご飯だと、エプロンをつけて台所に立った。私は食べる係を担当したかったが、玉ねぎを切れと言われたので泣きながら切った。
涼夏がキッチンに立てたタブレットを見ながら、フライパンで野菜を炒める。そこに水だのトマト缶だの米だの魚介だの、色々入れて、煮たり蒸したりしたらパエリアが完成した。
匂いに反応してお腹が鳴った。早速お皿に盛り付けて一口頬張ると、パエリアの味がした。
「すごいなぁ。こんなの、レストランでしか食べれないと思った」
感心しながら食べていると、涼夏が満足そうに頷きながら顔を上げた。
「他には?」
「なんだろう。チーズフォンデュとか?」
「すごく簡単そう。でも、楽しそうだし、春休みにやってみるか」
涼夏の言葉に、絢音も「楽しそう」と微笑んだ。少し調べてみたら、沸騰させた白ワインにチーズを溶かして、具材につけて食べるだけだった。私でもできそうだ。
「バレンタイン以来、千紗都も料理に興味を持ってくれて嬉しいよ」
涼夏が明るく笑う。積極的にやりたいというほどではないが、いつかは必要になるスキルだし、どうせやるなら涼夏と楽しくできたらとは思う。
春休みの話をしながらパエリアを平らげて、後片付けは私がした。二人でイチャイチャしてるかと思って部屋に戻ると、普通に喋りながら私の部屋を物色していた。特に恥ずかしいものは出て来ないが、できればやめていただきたい。
このまま1時間チャレンジのことは忘れて、ゲームでもするのかと思ったら、涼夏があくびをしながらベッドに座った。
「ご飯食べて眠くなったし、寝よう」
「そうだね、うん、そうしよう」
絢音が何度か首を縦に振って、にこにこしながら私を手招きする。私も眠たいので別に構わないのだが、一人用のベッドで3人も寝られるだろうか。
スカートを脱いで横になると、涼夏も同じようにして子供のように私の上に乗ってきた。擦れ合う太ももがすべすべして気持ちいい。
「私も大丈夫かなぁ」
絢音が不安そうに呟くと、涼夏が根拠もなく「大丈夫大丈夫」と励ました。終わりがけだと言っていたし、きっと大丈夫だろう。シーツを汚したら、まるで私がしたみたいで恥ずかしいが、スカートは邪魔な気がする。
そう言いながら絢音の手を引くと、涼夏が「服も邪魔だな」と真顔で頷いた。服は着ていてもいいと思う。
真ん中に仰向けに寝転がると、左に涼夏、右に絢音を乗せて抱きしめた。さすがに重たいが、美女二人に囲まれて王様の心地だ。
「とても偉くなった気分」
二人の背中を撫でながら満足げにそう言うと、絢音が私の胸を撫でながら耳元に唇を寄せた。
「千紗都様、何かしてほしいことはありますか?」
「キスして、キス」
即答すると、涼夏が可笑しそうに肩を震わせた。
交互にキスして至福の一時に浸る。二人の興奮気味な吐息が、耳や首にかかってくすぐったい。あらぬところを触られている気がするが、まあ好きにさせてあげよう。
それから1時間を遥かにオーバーして、3人でベッドの上で親睦を深めてから、涼夏が買ってきたゲームを広げた。
キングドミノは、地形が2つ描かれた1×2マスのタイルを並べて、5×5マスの王国を作るシンプルなゲームだ。繋がっている同じ地形のマスの数と、その中に描かれた王冠の数を掛けた数が得点になる。
ちなみに何故ドミノなのかと口にしたら、そもそもドミノとは、2つの目がくっついた牌を使って遊ぶゲームだと絢音が説明してくれた。
「あれ、倒して遊んでるの日本くらいだと思うけど、どうなんだろ」
「私も、そもそもまったく別のゲームだってのは聞いたことがある」
涼夏がそう言いながら、床に並べたタイルを取って、自分の王国にくっつけた。
いいタイルを取ると次の手番が遅くなり、弱いタイルだと次の手番が早くなる。弱いタイルでも、面積が広げられることもあるから、十分有効なこともある。シンプルながらジレンマもあっていいゲームだ。
結局夕方までキングドミノで遊んで、親が帰ってくる前に片付けた。私の買ったゲームは春休みにやることにした。
せっかくなので二人を駅まで送る。果たして私たちの今日の活動は、有終の美を飾れたか聞いたら、二人とも満足そうに頷いた。
「良かったと思う。千紗都、気持ち良かったし」
「うん。たくさん触った」
二人の笑顔に、私は呆れながら息をついた。
「他にも色々したよね? パエリアも食べたよね?」
「美味しかったね」
「まあ、集大成って感じにはなったと思う」
少しだけ含む口調でそう言って、涼夏が明るく手を振った。
集大成にはなった。だけど、新しいことはなかった。
涼夏のニュアンスは汲み取った。それはまた、春休みを経て来年から考えよう。
ひとまず、1年次最後の帰宅も楽しかった。今日はそれで満足だ。
* * *
そんなわけで、今日もいつもの3人である。4月に結成した帰宅部は、一人の脱落者を出すこともなく、かと言っても仲間が増えることもなく、この3人で仲良く楽しくやってきた。
「今日はその集大成だ」
私の考えを代弁するように、涼夏が力強くそう言って拳を握った。絢音がにこにこしながら大きく頷く。
泣いても笑っても、今日が1年生最後の帰宅だ。結局この一年、涼夏は絢音の塾のない日にバイトを入れてくれたおかげで、3人揃って帰りに遊んだことはあまりない。
絢音とは主に勉強していたし、涼夏とはショッピングをしていた。3人の時はいつも何をしているだろう。カフェやファミレスで喋っているか、カラオケか。ただ、それは最終日にはふさわしくない。
意見を求めると、涼夏がなんでもないように言った。
「まあ、千紗都の家で3人で1時間チャレンジじゃない? 3人でしたことないし、集大成にして、新しい扉を開く感じで」
随分と気楽に新しい扉を開く子だ。温泉に行った時、3人がかりで色々された記憶があるのだが、気のせいだっただろうか。
絢音を見ると、満足そうに首を縦に振った。
「私は大歓迎だよ。ちょっと生理終わりがけなのが気になるけど」
「いや、脱ぐわけじゃないから、別にいいし」
「脱がないの?」
涼夏がきょとんと首を傾げる。冗談なのか本気なのかわからないが、この子もすっかり大胆になった。キスでもじもじしていた涼夏も可愛かったが、余裕の表情の涼夏もやっぱり可愛い。
「時間たくさんあるけど、ゲームでもする? お昼は涼夏が作ってね」
今日は終業式だけで、午前でおしまいだ。外は天気が良く、家で引きこもるには惜しい陽気だが、そんな日はたくさんある。土日しか自由のない社会人と違って、私たちは時間は無限にあると思っていたが、それでもこうして1年過ぎてしまった。
「じゃあ、お昼はみんなでパエリア作りに挑戦しよう。ゲーム欲しいね。終業記念に、恵坂で何か新しいゲーム見て行こうか」
涼夏がそう提案すると、絢音が苦笑いを浮かべた。
「私、途中下車するたびにお金がかかる」
「途中下車1回分は私が出すよ。その代わり、1時間チャレンジでご奉仕して」
「頑張るね」
絢音が可愛らしくガッツポーズをする。一体何を頑張るのかさっぱりわからないが、私も半分出して、私にも半分ご奉仕してもらおう。
いつものように古沼まで歩いて、イエローラインを恵坂で降りる。平日の昼なのに、自分たちと同じような制服姿の若者が多い。みんな解放された顔をしている。
せっかく恵坂に来たのなら、このまま遊んで行ってもいいのではないかと提案したが、あくまで本年の帰宅部の活動は、1時間チャレンジで締め括りたいらしい。スキンシップが好きな人たちだ。
真っ直ぐ家電量販店に向かい、ボードゲームコーナーでゲームを物色した。2千円から3千円程度で、繰り返し遊べて、パーティー寄りではなく、ややゲーマー寄りのゲームを選定した結果、涼夏は『キングドミノ』というタイルを並べるゲームを購入した。
せっかくなので、私も『ファーム・ウィズ・ブラウニーズ』という、絵が可愛い小箱のカードゲームを買った。時代は拡大再生産だと訴えると、涼夏が笑顔で頷いた。
「3ナッちゃんで1千紗都をゲットして、千紗都の能力を使って無料で絢音を建造する」
「私、建造物なの?」
「今の、シンプルに面白かった」
笑いながら駅に戻る。かなりじっくりゲームを選んでいたこともあり、すでにお昼を過ぎていたが、帰ってパエリアを作るらしい。お腹が空いて倒れそうだが、涼夏の手料理は楽しみだ。それに、ここでパエリアなのは、私が夏に張った伏線を回収しようとしてくれているのだろう。
「涼夏、ありがとう」
とりあえずお礼を言うと、涼夏が驚いた顔で私を見た。
「久しぶりの謎思考か?」
「久しぶりなんじゃなくて、涼夏が千紗都の思考回路を理解できてきたんだと思うよ? 私から見ると、千紗都の言動は特に変わってない」
「冷静な分析だ」
絢音の言葉に、涼夏が深く頷く。実際のところ、思考の過程を口にしていないだけで、自分の中ではそんなにも突飛なことを言っているつもりはない。現に、絢音には全部伝わっている。試すように絢音を見ると、笑いながら頷いた。
「海に行った時に、パエリアが食べたいって言ってたヤツでしょ? 涼夏がパエリアって言った瞬間に思い出したけど」
「ごめん、すっかり忘れてた。でも、もしかしたら、頭のどこかに残ってたのかもしれない」
涼夏が申し訳なさそうに手を合わせる。まったく無意識にパエリアが出てきたのだとしたら、それはそれで思考が似てきたようで嬉しい。
近くのスーパーで食材を買って、二人を家に招き入れる。とりあえずご飯だと、エプロンをつけて台所に立った。私は食べる係を担当したかったが、玉ねぎを切れと言われたので泣きながら切った。
涼夏がキッチンに立てたタブレットを見ながら、フライパンで野菜を炒める。そこに水だのトマト缶だの米だの魚介だの、色々入れて、煮たり蒸したりしたらパエリアが完成した。
匂いに反応してお腹が鳴った。早速お皿に盛り付けて一口頬張ると、パエリアの味がした。
「すごいなぁ。こんなの、レストランでしか食べれないと思った」
感心しながら食べていると、涼夏が満足そうに頷きながら顔を上げた。
「他には?」
「なんだろう。チーズフォンデュとか?」
「すごく簡単そう。でも、楽しそうだし、春休みにやってみるか」
涼夏の言葉に、絢音も「楽しそう」と微笑んだ。少し調べてみたら、沸騰させた白ワインにチーズを溶かして、具材につけて食べるだけだった。私でもできそうだ。
「バレンタイン以来、千紗都も料理に興味を持ってくれて嬉しいよ」
涼夏が明るく笑う。積極的にやりたいというほどではないが、いつかは必要になるスキルだし、どうせやるなら涼夏と楽しくできたらとは思う。
春休みの話をしながらパエリアを平らげて、後片付けは私がした。二人でイチャイチャしてるかと思って部屋に戻ると、普通に喋りながら私の部屋を物色していた。特に恥ずかしいものは出て来ないが、できればやめていただきたい。
このまま1時間チャレンジのことは忘れて、ゲームでもするのかと思ったら、涼夏があくびをしながらベッドに座った。
「ご飯食べて眠くなったし、寝よう」
「そうだね、うん、そうしよう」
絢音が何度か首を縦に振って、にこにこしながら私を手招きする。私も眠たいので別に構わないのだが、一人用のベッドで3人も寝られるだろうか。
スカートを脱いで横になると、涼夏も同じようにして子供のように私の上に乗ってきた。擦れ合う太ももがすべすべして気持ちいい。
「私も大丈夫かなぁ」
絢音が不安そうに呟くと、涼夏が根拠もなく「大丈夫大丈夫」と励ました。終わりがけだと言っていたし、きっと大丈夫だろう。シーツを汚したら、まるで私がしたみたいで恥ずかしいが、スカートは邪魔な気がする。
そう言いながら絢音の手を引くと、涼夏が「服も邪魔だな」と真顔で頷いた。服は着ていてもいいと思う。
真ん中に仰向けに寝転がると、左に涼夏、右に絢音を乗せて抱きしめた。さすがに重たいが、美女二人に囲まれて王様の心地だ。
「とても偉くなった気分」
二人の背中を撫でながら満足げにそう言うと、絢音が私の胸を撫でながら耳元に唇を寄せた。
「千紗都様、何かしてほしいことはありますか?」
「キスして、キス」
即答すると、涼夏が可笑しそうに肩を震わせた。
交互にキスして至福の一時に浸る。二人の興奮気味な吐息が、耳や首にかかってくすぐったい。あらぬところを触られている気がするが、まあ好きにさせてあげよう。
それから1時間を遥かにオーバーして、3人でベッドの上で親睦を深めてから、涼夏が買ってきたゲームを広げた。
キングドミノは、地形が2つ描かれた1×2マスのタイルを並べて、5×5マスの王国を作るシンプルなゲームだ。繋がっている同じ地形のマスの数と、その中に描かれた王冠の数を掛けた数が得点になる。
ちなみに何故ドミノなのかと口にしたら、そもそもドミノとは、2つの目がくっついた牌を使って遊ぶゲームだと絢音が説明してくれた。
「あれ、倒して遊んでるの日本くらいだと思うけど、どうなんだろ」
「私も、そもそもまったく別のゲームだってのは聞いたことがある」
涼夏がそう言いながら、床に並べたタイルを取って、自分の王国にくっつけた。
いいタイルを取ると次の手番が遅くなり、弱いタイルだと次の手番が早くなる。弱いタイルでも、面積が広げられることもあるから、十分有効なこともある。シンプルながらジレンマもあっていいゲームだ。
結局夕方までキングドミノで遊んで、親が帰ってくる前に片付けた。私の買ったゲームは春休みにやることにした。
せっかくなので二人を駅まで送る。果たして私たちの今日の活動は、有終の美を飾れたか聞いたら、二人とも満足そうに頷いた。
「良かったと思う。千紗都、気持ち良かったし」
「うん。たくさん触った」
二人の笑顔に、私は呆れながら息をついた。
「他にも色々したよね? パエリアも食べたよね?」
「美味しかったね」
「まあ、集大成って感じにはなったと思う」
少しだけ含む口調でそう言って、涼夏が明るく手を振った。
集大成にはなった。だけど、新しいことはなかった。
涼夏のニュアンスは汲み取った。それはまた、春休みを経て来年から考えよう。
ひとまず、1年次最後の帰宅も楽しかった。今日はそれで満足だ。
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