107 / 296
第33話 チョコ(1)
しおりを挟む
ユナ高の2月は、1年生は合唱コンクールがあるくらいで、他には何の行事もない。2年生は修学旅行というビッグイベントがあるが、私たちには来年の話だし、帰宅部は先輩との交流もない。
修学旅行というと、各クラスでグループを作るので、来年涼夏と絢音、出来れば奈都と一緒のクラスになれるかは死活問題である。
クラス替えはまさに人生を左右する一大イベントだが、多くの場合、深い悲しみに包まれる。何故なら、一緒になりたい子が他のクラスにいることよりも、同じクラスにいることの方が多いからだ。
必然的に、いつメンと離れ離れになるケースが多くなり、クラス替えは多くの生徒にとって「ハズレ」の結果になる。そしてその大事なイベントに対して、私たちはなす術もなく、ただ天運に任せるしかない。
そんな不条理なクラス替えに対して、ユナ高では「クラス替え希望制度」が設けられている。
数年前、進級とともに数人の生徒が不登校になり、当時の生徒会が少しでもそういう悲劇を減らすべく、先生と議論を重ねた末に作られた制度らしい。
同じクラス内でどうしても一緒になりたい生徒を記入し、相手も一致した場合に限り、担任の判断で80%ほどそれが通るというものだ。
もちろん、担任に負荷がかかるとか、全員の希望を聞くのは無理だとか、相手が書いていなかった時に余計に深刻なダメージを負うとか、色々な理由で反対されたらしい。ただ、交流の大半がクラスの中で行われる学生生活において、1年間で親交を深めた友達と引き離されることに、デメリットはあれどメリットは何一つないという生徒会の意見が通り、最終的に全校生徒の投票の上、賛成多数で可決されたそうだ。
当時のことを知っている生徒はすでに全員卒業しているが、制度はしっかりと受け継がれ、ネットの掲示板にも書き込まれるほど、ユナ高の特徴の一つにもなっている。私はその制度を入学した時は知らなかったが、夏くらいに涼夏から教えてもらった。
だから、涼夏と絢音に関してはあまり心配していなかったし、二人も悲観はしていないようだった。
「まあ、3人で名前を書き合えば大丈夫なんじゃない? ダメだったら千紗都の遺影を立てて過ごす」
「もしダメでも、毎日一緒に帰ろうね。千紗都も私の遺影を立てて過ごしてね」
二人が悲しそうな瞳で、しかし今にも笑いそうに肩を震わせながら言った。絢音の言う通り、万が一ダメでも、毎日一緒に帰りたいと思うが、もし私一人になってしまったらと思うと心が寒くなる。
涼夏は友達がたくさんいるし、絢音は一緒にバンドをやっている豊山さんや牧島さんと同じクラスになれたら、それなりに楽しく過ごせるだろう。しかし私には、3人の他に友達がいない。
「もし私はぼっちになったら、不登校になるかも……。ううん、私はぼっちには慣れてるから大丈夫。大丈夫……」
嘘泣きしながらそんなことを言っていたら、丁度通りがかった川波君が笑いながら自分を指差した。
「野阪さん、猪谷さんと西畑さんと離れ離れになったら、寂しさを埋めるのに俺を使ってくれてもいいから」
ドンと胸を叩く川波君に、3人でドン引きした眼差しを送った。涼夏が私を隠すように抱きしめて、しっしと手を振った。
「川波君、キミが不細工だとは言わないが、釣り合いを考えてくれたまえ。果たしてキミは、野阪千紗都にふさわしいか?」
「俺でダメなら、一体誰が?」
「私」
「そっちか! まあでも、俺は希望制度で野阪さんの名前を書くから、野阪さんも良かったら俺の名前を書いてね」
「希望制度は、片想いの相手の名前を書く制度ではない」
涼夏が冷静にそう指摘して、絢音が我慢できないようにぷっと噴いて肩を震わせた。今のは地味に面白かった。川波君の軽さと涼夏のツッコミは、相性抜群かもしれない。漫才的な意味で。
「また同じクラスで、しかも席が隣になるミラクルを願ってるよ!」
そう言って、川波君は手を振って自分の席に戻って行った。絢音が笑いながら涼夏に抱き付いて、涼夏がその頭をぐりぐり撫でながら心配そうに私を見た。
「千紗都、油断しちゃダメだよ? あの男、ガチで千紗都が好きだ」
「平気。ああいう男は、便利に使えばいいんだって」
足を組みながらふふっと笑うと、涼夏がごくりと息を呑んで、唖然とした顔で私を見つめた。
「冗談だよ?」
念のためそう伝えると、涼夏は「うん」と小さく頷き、絢音は涼夏に抱き付いたまま笑い転げていた。
修学旅行というと、各クラスでグループを作るので、来年涼夏と絢音、出来れば奈都と一緒のクラスになれるかは死活問題である。
クラス替えはまさに人生を左右する一大イベントだが、多くの場合、深い悲しみに包まれる。何故なら、一緒になりたい子が他のクラスにいることよりも、同じクラスにいることの方が多いからだ。
必然的に、いつメンと離れ離れになるケースが多くなり、クラス替えは多くの生徒にとって「ハズレ」の結果になる。そしてその大事なイベントに対して、私たちはなす術もなく、ただ天運に任せるしかない。
そんな不条理なクラス替えに対して、ユナ高では「クラス替え希望制度」が設けられている。
数年前、進級とともに数人の生徒が不登校になり、当時の生徒会が少しでもそういう悲劇を減らすべく、先生と議論を重ねた末に作られた制度らしい。
同じクラス内でどうしても一緒になりたい生徒を記入し、相手も一致した場合に限り、担任の判断で80%ほどそれが通るというものだ。
もちろん、担任に負荷がかかるとか、全員の希望を聞くのは無理だとか、相手が書いていなかった時に余計に深刻なダメージを負うとか、色々な理由で反対されたらしい。ただ、交流の大半がクラスの中で行われる学生生活において、1年間で親交を深めた友達と引き離されることに、デメリットはあれどメリットは何一つないという生徒会の意見が通り、最終的に全校生徒の投票の上、賛成多数で可決されたそうだ。
当時のことを知っている生徒はすでに全員卒業しているが、制度はしっかりと受け継がれ、ネットの掲示板にも書き込まれるほど、ユナ高の特徴の一つにもなっている。私はその制度を入学した時は知らなかったが、夏くらいに涼夏から教えてもらった。
だから、涼夏と絢音に関してはあまり心配していなかったし、二人も悲観はしていないようだった。
「まあ、3人で名前を書き合えば大丈夫なんじゃない? ダメだったら千紗都の遺影を立てて過ごす」
「もしダメでも、毎日一緒に帰ろうね。千紗都も私の遺影を立てて過ごしてね」
二人が悲しそうな瞳で、しかし今にも笑いそうに肩を震わせながら言った。絢音の言う通り、万が一ダメでも、毎日一緒に帰りたいと思うが、もし私一人になってしまったらと思うと心が寒くなる。
涼夏は友達がたくさんいるし、絢音は一緒にバンドをやっている豊山さんや牧島さんと同じクラスになれたら、それなりに楽しく過ごせるだろう。しかし私には、3人の他に友達がいない。
「もし私はぼっちになったら、不登校になるかも……。ううん、私はぼっちには慣れてるから大丈夫。大丈夫……」
嘘泣きしながらそんなことを言っていたら、丁度通りがかった川波君が笑いながら自分を指差した。
「野阪さん、猪谷さんと西畑さんと離れ離れになったら、寂しさを埋めるのに俺を使ってくれてもいいから」
ドンと胸を叩く川波君に、3人でドン引きした眼差しを送った。涼夏が私を隠すように抱きしめて、しっしと手を振った。
「川波君、キミが不細工だとは言わないが、釣り合いを考えてくれたまえ。果たしてキミは、野阪千紗都にふさわしいか?」
「俺でダメなら、一体誰が?」
「私」
「そっちか! まあでも、俺は希望制度で野阪さんの名前を書くから、野阪さんも良かったら俺の名前を書いてね」
「希望制度は、片想いの相手の名前を書く制度ではない」
涼夏が冷静にそう指摘して、絢音が我慢できないようにぷっと噴いて肩を震わせた。今のは地味に面白かった。川波君の軽さと涼夏のツッコミは、相性抜群かもしれない。漫才的な意味で。
「また同じクラスで、しかも席が隣になるミラクルを願ってるよ!」
そう言って、川波君は手を振って自分の席に戻って行った。絢音が笑いながら涼夏に抱き付いて、涼夏がその頭をぐりぐり撫でながら心配そうに私を見た。
「千紗都、油断しちゃダメだよ? あの男、ガチで千紗都が好きだ」
「平気。ああいう男は、便利に使えばいいんだって」
足を組みながらふふっと笑うと、涼夏がごくりと息を呑んで、唖然とした顔で私を見つめた。
「冗談だよ?」
念のためそう伝えると、涼夏は「うん」と小さく頷き、絢音は涼夏に抱き付いたまま笑い転げていた。
1
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~
楠富 つかさ
青春
落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。
世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート!
※表紙はAIイラストです。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる