上 下
53 / 296

番外編 ボードゲーム 2

しおりを挟む
 次に涼夏が持ってきたのは、『コリドール』というゲームだった。木製のコンポーネントが可愛らしいゲームで、9×9マスのボードの両端にポーンを置いて、それを1マスずつ進めて、先に相手側の辺に持って行ったら勝ち。
 手番でできることは、ポーンを1マス動かすか、一人10枚ずつ持っている壁を置くかのどちらか。壁は2マス分の長さがあり、マスとマスの間に置く。当たり前だが、相手がゴールに辿り着けなくなるように置くのはダメらしい。
「さっき負けたから、私からやるね」
 涼夏がそう言いながら、とりあえずポーンを1つ動かした。私も同じように動かして、二人で真っ直ぐぶつかり合うように進める。ポーンはぶつかったら飛び越えられるので、このまま真っ直ぐ進めば、飛び越える分、私の方が早く向こう側に辿り着く。
「壁を置いてみるか」
 そう言いながら、涼夏が私の目の前に壁を作った。仕方がないので回り込むように進む。涼夏がさらに壁を置こうとして手を止めた。
「これ、千紗都の邪魔をしてると、自分もそっちに行けなくなるな?」
「そりゃ、そうだろうね」
 考えながら動かしているわけではないが、なるべく余裕の表情で頷いた。涼夏が迷路を作るように私のコマに隣接するように壁を置いた。
 しばらく涼夏の壁から逃げながら、ようやく涼夏も動き始めたので、敢えて涼夏がこっちに来るように壁を置いた。動かせば私が飛び越える配置になって、涼夏が悩まし気に眉をひそめる。
「うーん。千紗都、このゲームやり慣れてるな?」
「ついさっき存在を知ったばかりだけど」
 涼夏が私が前に進めなくなるように壁を置いたので、それに沿って横に移動した。そしてもう1枚置かれて、はっと我に返る。端まで壁ができて、向こう側に行けなくなってしまった。まるでアメリカのインターナショナル・フレンドシップ・パークから眺める、メキシコとの国境のようだ。
 向こう側に行くにはグルッと回らなくてはいけないが、涼夏の方がいい位置にいる。少しだけ壁で邪魔をしながらまだ道が残っている場所に出ると、涼夏の方が1手番有利な状況になっていた。
「形勢逆転だ」
「まだ私は壁を8枚も残してる。この意味がわかる?」
「わからない」
「私も」
 初めて前後の位置が入れ替わったところで、涼夏の進行方向に壁を作った。逃げようとする涼夏がどんどん戻らなくてはいけないように壁を作ると、涼夏が顔色を変えた。
「これ、ダメな気がする」
 涼夏は私の邪魔をしようにも、もう壁を置くことができない。枚数はあるが、どこに置いても私がゴールが出来ないようにしか置けない。私がふふんと鼻を鳴らすと、涼夏が悔しそうにテーブルに突っ伏した。
「うぅ……勝てない」
「アイスにまた一歩近付いた」
 一応ポーンを最後まで動かして、私が先にゴールする。これで2勝0敗。先に5連勝したらどうするか聞いたら、涼夏は静かに首を振った。
「次は私が勝つから、そんな心配はしなくていい」
「そっか。今日は10連勝目指してるけど、ふてくされないでね?」
「負けても楽しいから大丈夫だよ」
 涼夏が笑いながらゲームを片付けて立ち上がった。まだ負けていないからわからないが、確かにゲームは楽しい。それは間違いない。

 次に涼夏が持ってきたのは、『TOKYO HIGHWAY』というゲームだった。これまでの2つとはまたまったく違うコンポーネントで、指先大の円柱と、道路となる平べったい細い棒、そしてその上に乗せる車のコマという内容だった。
 これもルールはシンプルで、柱を置いて道路を設置し、車を走らせる。柱は基点より1つ増やすか1つ減らすように置くが、黄色いジャンクションの場合はその制限がなかったり、そこから道路を分岐させたりできる。
 車を走らせられるのは、相手の道路と初めて交差した時で、その本数分だけ車が置ける。先に車をすべて置いた方が勝ちだ。
 前のゲームで負けたからと言って、再び涼夏からゲームをスタートする。先程からずっと先手で負けているが、このゲームは確実に先手の方が有利だろうという判断だ。
「とりあえず、相手に越えさせないように逃げるか」
「そうしたら、涼夏も私の道路を越えれないよ?」
 柱と道路を置きながら牽制し合う。先に涼夏が私の道路をくぐり、私も涼夏の道路を越えて車を置いた。
「高くすると越えやすくなるけど、柱がなくなるね」
 先に建築資材がなくなったら負けというルールがある。そんな事態にはならないだろうと思ったが、牽制し合ったり、どんどん高くしていくと普通にありそうだ。
 とにかく、戦略ミスはともかく、道路を崩すペナルティーだけはもらいたくない。慎重にピンセットで車を置くと、先に涼夏が中央付近にジャンクションを作った。これで他の場所へは行きやすくなったが、結構高い。他の場所に行くのに、いちいち柱をたくさん使いそうだが、どうなのだろう。
 ジャンクションを作りながら逃げるように柱を作ると、涼夏が「こっちに来て」と手招きした。私も逃げてばかりではゲームが終わらない。すでに涼夏が一度に2台車を置いている道路もあって、だいぶ私より先行している。
 どうにか2台置こうと努力したが、結局涼夏の大胆に柱を使って行く作戦が功を奏して、先に車をすべて置かれてしまった。
「やっと勝てた」
 涼夏がふぅと息を吐きながら、完成した道路の写真を撮った。なかなか見栄えがする。
「色んなゲームがあるんだねぇ」
 私も写真を撮って奈都に送りつけながら呟くと、涼夏も同じように帰宅部グループに流しながら頷いた。
「ここまではまだカードを使ったゲームをやってないしね」
「カードって、トランプみたいな?」
「色んな効果が書いてある。カードを使うと、効果がどうっていうより、運の要素が出てくるのが大きいかな」
 山からカードを引いたり、ダイスを振ったりすると、その内容によって結果が左右される。確かに『ブロックス』や『コリドール』はそういう要素がなく、言うなれば実力差が付きやすくて、頭の良い方が勝つゲームだ。私が囲碁や将棋を例に挙げて、涼夏が頷いていたのもそういうことだろう。
 少しお腹が空いたので、店一押しのオムライスとカルボナーラを注文した。正直なところあまり期待していなかったが、思いの外美味しい料理が出てきて、涼夏と半分ずつ食べた。
 1つ取られてしまったが、気を取り直して頑張ろう。ゲームは全力でやってこそ。容赦なくアイスをもらいにいきたいと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~

楠富 つかさ
青春
 落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。 世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート! ※表紙はAIイラストです。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

処理中です...