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番外編 ボードゲーム 2
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次に涼夏が持ってきたのは、『コリドール』というゲームだった。木製のコンポーネントが可愛らしいゲームで、9×9マスのボードの両端にポーンを置いて、それを1マスずつ進めて、先に相手側の辺に持って行ったら勝ち。
手番でできることは、ポーンを1マス動かすか、一人10枚ずつ持っている壁を置くかのどちらか。壁は2マス分の長さがあり、マスとマスの間に置く。当たり前だが、相手がゴールに辿り着けなくなるように置くのはダメらしい。
「さっき負けたから、私からやるね」
涼夏がそう言いながら、とりあえずポーンを1つ動かした。私も同じように動かして、二人で真っ直ぐぶつかり合うように進める。ポーンはぶつかったら飛び越えられるので、このまま真っ直ぐ進めば、飛び越える分、私の方が早く向こう側に辿り着く。
「壁を置いてみるか」
そう言いながら、涼夏が私の目の前に壁を作った。仕方がないので回り込むように進む。涼夏がさらに壁を置こうとして手を止めた。
「これ、千紗都の邪魔をしてると、自分もそっちに行けなくなるな?」
「そりゃ、そうだろうね」
考えながら動かしているわけではないが、なるべく余裕の表情で頷いた。涼夏が迷路を作るように私のコマに隣接するように壁を置いた。
しばらく涼夏の壁から逃げながら、ようやく涼夏も動き始めたので、敢えて涼夏がこっちに来るように壁を置いた。動かせば私が飛び越える配置になって、涼夏が悩まし気に眉をひそめる。
「うーん。千紗都、このゲームやり慣れてるな?」
「ついさっき存在を知ったばかりだけど」
涼夏が私が前に進めなくなるように壁を置いたので、それに沿って横に移動した。そしてもう1枚置かれて、はっと我に返る。端まで壁ができて、向こう側に行けなくなってしまった。まるでアメリカのインターナショナル・フレンドシップ・パークから眺める、メキシコとの国境のようだ。
向こう側に行くにはグルッと回らなくてはいけないが、涼夏の方がいい位置にいる。少しだけ壁で邪魔をしながらまだ道が残っている場所に出ると、涼夏の方が1手番有利な状況になっていた。
「形勢逆転だ」
「まだ私は壁を8枚も残してる。この意味がわかる?」
「わからない」
「私も」
初めて前後の位置が入れ替わったところで、涼夏の進行方向に壁を作った。逃げようとする涼夏がどんどん戻らなくてはいけないように壁を作ると、涼夏が顔色を変えた。
「これ、ダメな気がする」
涼夏は私の邪魔をしようにも、もう壁を置くことができない。枚数はあるが、どこに置いても私がゴールが出来ないようにしか置けない。私がふふんと鼻を鳴らすと、涼夏が悔しそうにテーブルに突っ伏した。
「うぅ……勝てない」
「アイスにまた一歩近付いた」
一応ポーンを最後まで動かして、私が先にゴールする。これで2勝0敗。先に5連勝したらどうするか聞いたら、涼夏は静かに首を振った。
「次は私が勝つから、そんな心配はしなくていい」
「そっか。今日は10連勝目指してるけど、ふてくされないでね?」
「負けても楽しいから大丈夫だよ」
涼夏が笑いながらゲームを片付けて立ち上がった。まだ負けていないからわからないが、確かにゲームは楽しい。それは間違いない。
次に涼夏が持ってきたのは、『TOKYO HIGHWAY』というゲームだった。これまでの2つとはまたまったく違うコンポーネントで、指先大の円柱と、道路となる平べったい細い棒、そしてその上に乗せる車のコマという内容だった。
これもルールはシンプルで、柱を置いて道路を設置し、車を走らせる。柱は基点より1つ増やすか1つ減らすように置くが、黄色いジャンクションの場合はその制限がなかったり、そこから道路を分岐させたりできる。
車を走らせられるのは、相手の道路と初めて交差した時で、その本数分だけ車が置ける。先に車をすべて置いた方が勝ちだ。
前のゲームで負けたからと言って、再び涼夏からゲームをスタートする。先程からずっと先手で負けているが、このゲームは確実に先手の方が有利だろうという判断だ。
「とりあえず、相手に越えさせないように逃げるか」
「そうしたら、涼夏も私の道路を越えれないよ?」
柱と道路を置きながら牽制し合う。先に涼夏が私の道路をくぐり、私も涼夏の道路を越えて車を置いた。
「高くすると越えやすくなるけど、柱がなくなるね」
先に建築資材がなくなったら負けというルールがある。そんな事態にはならないだろうと思ったが、牽制し合ったり、どんどん高くしていくと普通にありそうだ。
とにかく、戦略ミスはともかく、道路を崩すペナルティーだけはもらいたくない。慎重にピンセットで車を置くと、先に涼夏が中央付近にジャンクションを作った。これで他の場所へは行きやすくなったが、結構高い。他の場所に行くのに、いちいち柱をたくさん使いそうだが、どうなのだろう。
ジャンクションを作りながら逃げるように柱を作ると、涼夏が「こっちに来て」と手招きした。私も逃げてばかりではゲームが終わらない。すでに涼夏が一度に2台車を置いている道路もあって、だいぶ私より先行している。
どうにか2台置こうと努力したが、結局涼夏の大胆に柱を使って行く作戦が功を奏して、先に車をすべて置かれてしまった。
「やっと勝てた」
涼夏がふぅと息を吐きながら、完成した道路の写真を撮った。なかなか見栄えがする。
「色んなゲームがあるんだねぇ」
私も写真を撮って奈都に送りつけながら呟くと、涼夏も同じように帰宅部グループに流しながら頷いた。
「ここまではまだカードを使ったゲームをやってないしね」
「カードって、トランプみたいな?」
「色んな効果が書いてある。カードを使うと、効果がどうっていうより、運の要素が出てくるのが大きいかな」
山からカードを引いたり、ダイスを振ったりすると、その内容によって結果が左右される。確かに『ブロックス』や『コリドール』はそういう要素がなく、言うなれば実力差が付きやすくて、頭の良い方が勝つゲームだ。私が囲碁や将棋を例に挙げて、涼夏が頷いていたのもそういうことだろう。
少しお腹が空いたので、店一押しのオムライスとカルボナーラを注文した。正直なところあまり期待していなかったが、思いの外美味しい料理が出てきて、涼夏と半分ずつ食べた。
1つ取られてしまったが、気を取り直して頑張ろう。ゲームは全力でやってこそ。容赦なくアイスをもらいにいきたいと思う。
手番でできることは、ポーンを1マス動かすか、一人10枚ずつ持っている壁を置くかのどちらか。壁は2マス分の長さがあり、マスとマスの間に置く。当たり前だが、相手がゴールに辿り着けなくなるように置くのはダメらしい。
「さっき負けたから、私からやるね」
涼夏がそう言いながら、とりあえずポーンを1つ動かした。私も同じように動かして、二人で真っ直ぐぶつかり合うように進める。ポーンはぶつかったら飛び越えられるので、このまま真っ直ぐ進めば、飛び越える分、私の方が早く向こう側に辿り着く。
「壁を置いてみるか」
そう言いながら、涼夏が私の目の前に壁を作った。仕方がないので回り込むように進む。涼夏がさらに壁を置こうとして手を止めた。
「これ、千紗都の邪魔をしてると、自分もそっちに行けなくなるな?」
「そりゃ、そうだろうね」
考えながら動かしているわけではないが、なるべく余裕の表情で頷いた。涼夏が迷路を作るように私のコマに隣接するように壁を置いた。
しばらく涼夏の壁から逃げながら、ようやく涼夏も動き始めたので、敢えて涼夏がこっちに来るように壁を置いた。動かせば私が飛び越える配置になって、涼夏が悩まし気に眉をひそめる。
「うーん。千紗都、このゲームやり慣れてるな?」
「ついさっき存在を知ったばかりだけど」
涼夏が私が前に進めなくなるように壁を置いたので、それに沿って横に移動した。そしてもう1枚置かれて、はっと我に返る。端まで壁ができて、向こう側に行けなくなってしまった。まるでアメリカのインターナショナル・フレンドシップ・パークから眺める、メキシコとの国境のようだ。
向こう側に行くにはグルッと回らなくてはいけないが、涼夏の方がいい位置にいる。少しだけ壁で邪魔をしながらまだ道が残っている場所に出ると、涼夏の方が1手番有利な状況になっていた。
「形勢逆転だ」
「まだ私は壁を8枚も残してる。この意味がわかる?」
「わからない」
「私も」
初めて前後の位置が入れ替わったところで、涼夏の進行方向に壁を作った。逃げようとする涼夏がどんどん戻らなくてはいけないように壁を作ると、涼夏が顔色を変えた。
「これ、ダメな気がする」
涼夏は私の邪魔をしようにも、もう壁を置くことができない。枚数はあるが、どこに置いても私がゴールが出来ないようにしか置けない。私がふふんと鼻を鳴らすと、涼夏が悔しそうにテーブルに突っ伏した。
「うぅ……勝てない」
「アイスにまた一歩近付いた」
一応ポーンを最後まで動かして、私が先にゴールする。これで2勝0敗。先に5連勝したらどうするか聞いたら、涼夏は静かに首を振った。
「次は私が勝つから、そんな心配はしなくていい」
「そっか。今日は10連勝目指してるけど、ふてくされないでね?」
「負けても楽しいから大丈夫だよ」
涼夏が笑いながらゲームを片付けて立ち上がった。まだ負けていないからわからないが、確かにゲームは楽しい。それは間違いない。
次に涼夏が持ってきたのは、『TOKYO HIGHWAY』というゲームだった。これまでの2つとはまたまったく違うコンポーネントで、指先大の円柱と、道路となる平べったい細い棒、そしてその上に乗せる車のコマという内容だった。
これもルールはシンプルで、柱を置いて道路を設置し、車を走らせる。柱は基点より1つ増やすか1つ減らすように置くが、黄色いジャンクションの場合はその制限がなかったり、そこから道路を分岐させたりできる。
車を走らせられるのは、相手の道路と初めて交差した時で、その本数分だけ車が置ける。先に車をすべて置いた方が勝ちだ。
前のゲームで負けたからと言って、再び涼夏からゲームをスタートする。先程からずっと先手で負けているが、このゲームは確実に先手の方が有利だろうという判断だ。
「とりあえず、相手に越えさせないように逃げるか」
「そうしたら、涼夏も私の道路を越えれないよ?」
柱と道路を置きながら牽制し合う。先に涼夏が私の道路をくぐり、私も涼夏の道路を越えて車を置いた。
「高くすると越えやすくなるけど、柱がなくなるね」
先に建築資材がなくなったら負けというルールがある。そんな事態にはならないだろうと思ったが、牽制し合ったり、どんどん高くしていくと普通にありそうだ。
とにかく、戦略ミスはともかく、道路を崩すペナルティーだけはもらいたくない。慎重にピンセットで車を置くと、先に涼夏が中央付近にジャンクションを作った。これで他の場所へは行きやすくなったが、結構高い。他の場所に行くのに、いちいち柱をたくさん使いそうだが、どうなのだろう。
ジャンクションを作りながら逃げるように柱を作ると、涼夏が「こっちに来て」と手招きした。私も逃げてばかりではゲームが終わらない。すでに涼夏が一度に2台車を置いている道路もあって、だいぶ私より先行している。
どうにか2台置こうと努力したが、結局涼夏の大胆に柱を使って行く作戦が功を奏して、先に車をすべて置かれてしまった。
「やっと勝てた」
涼夏がふぅと息を吐きながら、完成した道路の写真を撮った。なかなか見栄えがする。
「色んなゲームがあるんだねぇ」
私も写真を撮って奈都に送りつけながら呟くと、涼夏も同じように帰宅部グループに流しながら頷いた。
「ここまではまだカードを使ったゲームをやってないしね」
「カードって、トランプみたいな?」
「色んな効果が書いてある。カードを使うと、効果がどうっていうより、運の要素が出てくるのが大きいかな」
山からカードを引いたり、ダイスを振ったりすると、その内容によって結果が左右される。確かに『ブロックス』や『コリドール』はそういう要素がなく、言うなれば実力差が付きやすくて、頭の良い方が勝つゲームだ。私が囲碁や将棋を例に挙げて、涼夏が頷いていたのもそういうことだろう。
少しお腹が空いたので、店一押しのオムライスとカルボナーラを注文した。正直なところあまり期待していなかったが、思いの外美味しい料理が出てきて、涼夏と半分ずつ食べた。
1つ取られてしまったが、気を取り直して頑張ろう。ゲームは全力でやってこそ。容赦なくアイスをもらいにいきたいと思う。
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