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第19話 文化祭 10(1)
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我らが西畑絢音が、旧友豊山莉絵と、同級生牧島さぎりの3人で作った新しいバンドは、Prime Yellowsという。絢音が作ったというと語弊があるが、豊山さんが声をかけて結成されたPrime Yellowsは、やはりセンターボーカルの絢音がリーダーを務めている。手を引かれるのが好きな子だが、やろうと思えばなんだって出来るのだ。
司会の紹介でステージに上がった3人は、少し音を出してから、挨拶無しで演奏を始めた。サマセミの時はベースの男子がやや内輪ノリのMCから入ったが、絢音はこういうのが好きなのだろう。
1曲目はアニメの劇中曲で、私はスタジオで絢音に教えてもらうまで知らなかったが、アニメ好きの奈都はもちろん、周りにも知っている人がたくさんいた。涼夏ですら聴いたことがあるというので、私が疎すぎるのだろう。
絢音が圧倒的な歌唱力を披露して、拍手をもらってマイクを取った。
「初めまして、Prime Yellowsです。1年です。私は3組で、ドラムの莉絵は4組、さぎりは1組です」
手で後ろの二人を紹介してから、歌った曲とそれにまつわるエピソードを話す。隣を見ると、奈都が興奮した様子でステージを見つめていた。
「アヤ、すごいね。さぎりもすごいね」
語彙が欠落したように、奈都がすごいすごいと歓喜の呟きを漏らす。私はくすっと笑った。
「絢音はすごいよ」
誇らしげにそう答えると、チクリと胸が痛んだ。どうもここのところ、友達の立派な姿を見ると、置いていかれたような気持ちになる。涼夏と絢音とは対等でありたいという、それ以外の感情はない。ただ、対等でなければ捨てられるような不安がある。涼夏と絢音は、中学の時にいた軽薄な友達とは違う。頭ではわかっているが、これはもう私のトラウマだろう。
可愛らしいアニソンから一転、ロック調のカッコイイ曲で沸かせ、有名なポップスを歌う。MCは午前の文化祭の話をして、最後にはちゃっかりとそれぞれのクラスの宣伝をした。私がスタジオで聴いたより1曲多い5曲を披露してステージを降りる。
惜しみない拍手を贈ってからステージを後にすると、奈都が感動冷めやらぬ様子で言った。
「アヤがあんなにすごいなんて思わなかった。わかった。私はチサを許す」
突然許されて、私は思わず目を丸くした。さしもの涼夏も驚いたように奈都を見て、首を傾げた。奈都は説明が必要と感じたのか、笑いながら手を広げた。
「ほら、夏にチサが私の予定を蹴って、アヤを優先して喧嘩になったじゃん? あの演奏ならしょうがないかなって思った」
「いや、待って。私、許されてなかったの? 今日まで?」
思わず奈都の腕を掴むと、涼夏が口元を押さえて肩を震わせた。笑い事ではない。
夏休みに入る直前、私は奈都のバトンの演技を見に行く予定をキャンセルして、絢音のバンド演奏を優先した。その結果、奈都と付き合い史上、最も険悪な状態に陥ったが、結局奈都が折れて仲直りした。私の中では完全に過去の出来事になっていたが、奈都は心のどこかでずっと引っかかっていたのだろうか。
私が奈都の腕をギュッと掴んでそう聞くと、奈都は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「いや、別に全然気にしてないけど、アヤの演奏はどんなもんなんだろうって、今日はそういう意味でも楽しみだった」
「今明かされる真実」
涼夏が嬉しそうにそう言って、いたずらっぽく笑った。
「だから、笑い事じゃないから!」
「いやー、あの時、ナッちゃんがなんで許したんだろうって、帰宅部でも話題になってさぁ」
涼夏が気楽な調子でそう言うと、奈都が呆れたように肩をすくめた。
「だってあの時、チサ、『私はもう謝ったから、許してくれないならおしまいだね』みたいな感じだったから」
「そりゃ、千紗都が悪いね」
「うん。チサが悪い」
二人が意気投合して、ケラケラと笑う。これは単にからかっているだけだろうか。それとも涼夏は、奈都の味方をすることで、奈都の気持ちに寄り添おうとしているのだろうか。
部活に戻るという奈都を呼び止めて、人目につかないようにそっとキスをした。奈都は顔を赤くしながら、「大丈夫なのに」と子供のように頬を膨らませた。とても可愛い。
奈都と別れると、涼夏がもう一度笑った。
「それにしても、さっきのは面白かった。ナッちゃん、なかなか根に持つねぇ」
「いや、本当に笑い事じゃないし!」
「大丈夫だよ。第三者的に見て、あれはただの冗談。そう聞こえなかったのは、千紗都に後ろめたい気持ちがあるからだよ」
「だといいけど」
元々奈都とは時々喧嘩をするが、出来ることなら平穏に過ごしたい。もっとも、時々喧嘩をするからこそ、別に大丈夫かと思えるのもまた確かだが。
司会の紹介でステージに上がった3人は、少し音を出してから、挨拶無しで演奏を始めた。サマセミの時はベースの男子がやや内輪ノリのMCから入ったが、絢音はこういうのが好きなのだろう。
1曲目はアニメの劇中曲で、私はスタジオで絢音に教えてもらうまで知らなかったが、アニメ好きの奈都はもちろん、周りにも知っている人がたくさんいた。涼夏ですら聴いたことがあるというので、私が疎すぎるのだろう。
絢音が圧倒的な歌唱力を披露して、拍手をもらってマイクを取った。
「初めまして、Prime Yellowsです。1年です。私は3組で、ドラムの莉絵は4組、さぎりは1組です」
手で後ろの二人を紹介してから、歌った曲とそれにまつわるエピソードを話す。隣を見ると、奈都が興奮した様子でステージを見つめていた。
「アヤ、すごいね。さぎりもすごいね」
語彙が欠落したように、奈都がすごいすごいと歓喜の呟きを漏らす。私はくすっと笑った。
「絢音はすごいよ」
誇らしげにそう答えると、チクリと胸が痛んだ。どうもここのところ、友達の立派な姿を見ると、置いていかれたような気持ちになる。涼夏と絢音とは対等でありたいという、それ以外の感情はない。ただ、対等でなければ捨てられるような不安がある。涼夏と絢音は、中学の時にいた軽薄な友達とは違う。頭ではわかっているが、これはもう私のトラウマだろう。
可愛らしいアニソンから一転、ロック調のカッコイイ曲で沸かせ、有名なポップスを歌う。MCは午前の文化祭の話をして、最後にはちゃっかりとそれぞれのクラスの宣伝をした。私がスタジオで聴いたより1曲多い5曲を披露してステージを降りる。
惜しみない拍手を贈ってからステージを後にすると、奈都が感動冷めやらぬ様子で言った。
「アヤがあんなにすごいなんて思わなかった。わかった。私はチサを許す」
突然許されて、私は思わず目を丸くした。さしもの涼夏も驚いたように奈都を見て、首を傾げた。奈都は説明が必要と感じたのか、笑いながら手を広げた。
「ほら、夏にチサが私の予定を蹴って、アヤを優先して喧嘩になったじゃん? あの演奏ならしょうがないかなって思った」
「いや、待って。私、許されてなかったの? 今日まで?」
思わず奈都の腕を掴むと、涼夏が口元を押さえて肩を震わせた。笑い事ではない。
夏休みに入る直前、私は奈都のバトンの演技を見に行く予定をキャンセルして、絢音のバンド演奏を優先した。その結果、奈都と付き合い史上、最も険悪な状態に陥ったが、結局奈都が折れて仲直りした。私の中では完全に過去の出来事になっていたが、奈都は心のどこかでずっと引っかかっていたのだろうか。
私が奈都の腕をギュッと掴んでそう聞くと、奈都は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「いや、別に全然気にしてないけど、アヤの演奏はどんなもんなんだろうって、今日はそういう意味でも楽しみだった」
「今明かされる真実」
涼夏が嬉しそうにそう言って、いたずらっぽく笑った。
「だから、笑い事じゃないから!」
「いやー、あの時、ナッちゃんがなんで許したんだろうって、帰宅部でも話題になってさぁ」
涼夏が気楽な調子でそう言うと、奈都が呆れたように肩をすくめた。
「だってあの時、チサ、『私はもう謝ったから、許してくれないならおしまいだね』みたいな感じだったから」
「そりゃ、千紗都が悪いね」
「うん。チサが悪い」
二人が意気投合して、ケラケラと笑う。これは単にからかっているだけだろうか。それとも涼夏は、奈都の味方をすることで、奈都の気持ちに寄り添おうとしているのだろうか。
部活に戻るという奈都を呼び止めて、人目につかないようにそっとキスをした。奈都は顔を赤くしながら、「大丈夫なのに」と子供のように頬を膨らませた。とても可愛い。
奈都と別れると、涼夏がもう一度笑った。
「それにしても、さっきのは面白かった。ナッちゃん、なかなか根に持つねぇ」
「いや、本当に笑い事じゃないし!」
「大丈夫だよ。第三者的に見て、あれはただの冗談。そう聞こえなかったのは、千紗都に後ろめたい気持ちがあるからだよ」
「だといいけど」
元々奈都とは時々喧嘩をするが、出来ることなら平穏に過ごしたい。もっとも、時々喧嘩をするからこそ、別に大丈夫かと思えるのもまた確かだが。
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