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第11話 ステージ(1)
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7月は随分前に祝日が新設されて、真ん中より少し後ろに3連休がある。学生の自分にはどうせ夏休みだから関係ないが、大人には嬉しい休みだろう。そしてその3連休に、毎年サマセミが開催される。
サマセミとはもちろんサマーセミナーの略だが、地域市民一体型のイベントで、誰もが先生、誰もが生徒をコンセプトに、3日間で2千を超える講座が開設される。講座の内容は本当に多岐に渡り、理科の実験から、ペットの飼育、詩の書き方、戦争を知る、将棋道場、アイドルについて、手芸、写真展、国際交流など、何でもありだ。有名な先生や芸能人の講座もあるし、グラウンドや体育館では運動系の講座も行われる。
ステージ企画はこの巨大なイベントの一環として、生徒たちの発表と交流、活性化を目的に行われ、初日はバンド企画、2日目はダンス企画、最終日は部活企画が組まれている。絢音が参加するのは初日のバンド企画で、出番は大体14時くらいからとのこと。外は暑いし、私はのんびり昼集合のつもりだったが、終業式の日に、涼夏が当然のようにこう言った。
「千紗都は午前中に行きたい講座はある?」
どうやら普通に講座に参加するつもりだったらしい。サマセミの講座は1コマ1時間20分。1限が9時半からで、2限が終わるのが12時半。丁度いいと言えば丁度いい。私はまったく調べていなかったので、涼夏に委ねることにした。
「涼夏の好きなのでいいよ」
何にも興味がないが、逆に苦手なものも少ない。涼夏とて昆虫の生態とか空手の基礎とか、そういうものには手を出さないだろうから、任せておけば大丈夫だろう。涼夏が楽しめるものを、涼夏と一緒になら、私も楽しめる。
涼夏は「わかった」と言いながら、結局その日の遊びは、ファミレスでジュースを飲みながら講座探しになった。
何にも興味がないとは言ったが、さすがに講座が2千もあれば、中には興味を惹かれるものもある。
「その興味を惹かれたものが、きっと千紗都のやりたいことだね。これだけ色んな選択肢があると、趣味探しにもいいね」
涼夏がポテトにフォークを突き刺しながら、スマホをピッと指でスクロールした。1日約700講座。4限まであるので1限だけで150を超える。タイトルを読んでいるだけで頭がクラクラする。
「私はアクセサリー作りとか小物作りとか楽しそうって思うけど、千紗都は憲法の講座とか受けたいよね?」
「いや、まったく」
冷静に突っ込むと、涼夏がくくっと笑ってポテトを指でつまんだ。そして、にこにこしながら私の顔に近付ける。有り難く頂戴すると、涼夏がそのままポテトを持っていた指を私に伸ばした。相変わらずこういうことが好きな子だ。
私は周囲を確認してから、涼夏の手を取って指を口に含んだ。舌で丁寧に舐めると、しょっぱくて美味しかった。
「私、この石垣を知ろうとか惹かれる」
冷静にそう告げると、涼夏は私が舐めた指をペロリと舐めてから、困ったように眉尻を下げた。
「趣味探しをした結果、石垣に行き着いたの? マジで言ってる?」
「うん。あと、水についてとか、ワクワクする」
「ごめん、千紗都。私の選ぶものを千紗都は楽しめるけど、千紗都の選ぶものを、私は楽しめる自信がない」
涼夏がテーブルに両手をついて、大仰に頭を下げた。元より涼夏の選ぶものでいい。そう告げると、涼夏は嬉しそうに微笑みながらスマホに視線を落とした。
「このエコバッグ作りとかも可愛いよね」
「涼夏って、本当に女子力高いよね。チャラそうなのに」
私が真顔でそう言うと、涼夏がゆっくりと顔を上げて、大きく手を振った。
「いや、チャラくないし!」
「話し方雑だし、着崩してるし、メイクしてるし、髪の毛茶色いし」
「地毛だから! メイクは千紗都もするじゃん!」
「私は女子力低い」
きっぱりそう告げると、涼夏は「つまりメイクと女子力は関係ない」と満足げに頷いた。確かに関係ない。
「その顔で女子力まで高いとか、反則だよね。モテてモテて困るよね」
「千紗都様の足下にも及びません」
「私、地味だから。高校に入ってから、告白とかされたことないし」
私が何気なくそう言うと、涼夏が驚いたように眉を上げた。
「えっ、いいな」
「待って。涼夏、コクられたことあるの?」
思わず身を乗り出すと、ジュースが倒れそうになって慌てて座り直した。涼夏が告白されること自体は何も不思議ではない。私は少なくともユナ高の1年生では、涼夏が一番可愛いと思っている。ただ、4月も早い内からずっと一緒にいるのに、私がそれを知らないとはどういうことか。説明を求めるように見つめると、涼夏は不思議そうに首を傾げた。
「別に、付き合う気はないし、わざわざ話すようなことでもないでしょ。いちいち報告した方がいい?」
「そう言われると別に……。誰にっていうのも、聞かない方がいい?」
「興味があるなら、また絢音がいる時にでも話すよ。秘密にする義理もないし」
そう言って、再びスマホに指を滑らせた。涼夏は、大事そうなことは3人揃っている時に話したがる。それは絢音もそうだし、私もなるべくそうしている。取り決めをしたわけではないが、誰に何を話したかわからなくなるのも面倒だし、残りの一人にだけ秘密にしたいこともない。私と涼夏が1時間ベッドでキスしたことですら、絢音にはすぐに話したし、絢音も「楽しそう」と笑っていた。
結局講座は1限、2限ともに3つほどに絞り込み、後は当日の教室の人の入り具合を見て決めることにした。涼夏に任せたら、アクセサリー作りにカラーセラピー、占い、メイク、手相、アロマと、実に女子力の高いラインナップになった。絢音にもメールをすると、もし面白かったら2日目に一緒に行きたいと返って来た。それもいいかもしれない。遊ぶ約束はしているが、何をするかはまったく決めていない。
ちなみに私のチョイスした、石垣を知ろう、水について、樹は語る、神社の格式はどうかと送ったら、涼夏のよりはそっちの方が面白そうだと返事が来て、涼夏が呆れたように手を広げた。
「学年6位と33位の考えることは、私にはわからん」
まあ、幅広く趣味や嗜好を網羅してくれるのがサマセミの最大の魅力であり、夏の風物詩として長年続いている所以なのだろう。
サマセミとはもちろんサマーセミナーの略だが、地域市民一体型のイベントで、誰もが先生、誰もが生徒をコンセプトに、3日間で2千を超える講座が開設される。講座の内容は本当に多岐に渡り、理科の実験から、ペットの飼育、詩の書き方、戦争を知る、将棋道場、アイドルについて、手芸、写真展、国際交流など、何でもありだ。有名な先生や芸能人の講座もあるし、グラウンドや体育館では運動系の講座も行われる。
ステージ企画はこの巨大なイベントの一環として、生徒たちの発表と交流、活性化を目的に行われ、初日はバンド企画、2日目はダンス企画、最終日は部活企画が組まれている。絢音が参加するのは初日のバンド企画で、出番は大体14時くらいからとのこと。外は暑いし、私はのんびり昼集合のつもりだったが、終業式の日に、涼夏が当然のようにこう言った。
「千紗都は午前中に行きたい講座はある?」
どうやら普通に講座に参加するつもりだったらしい。サマセミの講座は1コマ1時間20分。1限が9時半からで、2限が終わるのが12時半。丁度いいと言えば丁度いい。私はまったく調べていなかったので、涼夏に委ねることにした。
「涼夏の好きなのでいいよ」
何にも興味がないが、逆に苦手なものも少ない。涼夏とて昆虫の生態とか空手の基礎とか、そういうものには手を出さないだろうから、任せておけば大丈夫だろう。涼夏が楽しめるものを、涼夏と一緒になら、私も楽しめる。
涼夏は「わかった」と言いながら、結局その日の遊びは、ファミレスでジュースを飲みながら講座探しになった。
何にも興味がないとは言ったが、さすがに講座が2千もあれば、中には興味を惹かれるものもある。
「その興味を惹かれたものが、きっと千紗都のやりたいことだね。これだけ色んな選択肢があると、趣味探しにもいいね」
涼夏がポテトにフォークを突き刺しながら、スマホをピッと指でスクロールした。1日約700講座。4限まであるので1限だけで150を超える。タイトルを読んでいるだけで頭がクラクラする。
「私はアクセサリー作りとか小物作りとか楽しそうって思うけど、千紗都は憲法の講座とか受けたいよね?」
「いや、まったく」
冷静に突っ込むと、涼夏がくくっと笑ってポテトを指でつまんだ。そして、にこにこしながら私の顔に近付ける。有り難く頂戴すると、涼夏がそのままポテトを持っていた指を私に伸ばした。相変わらずこういうことが好きな子だ。
私は周囲を確認してから、涼夏の手を取って指を口に含んだ。舌で丁寧に舐めると、しょっぱくて美味しかった。
「私、この石垣を知ろうとか惹かれる」
冷静にそう告げると、涼夏は私が舐めた指をペロリと舐めてから、困ったように眉尻を下げた。
「趣味探しをした結果、石垣に行き着いたの? マジで言ってる?」
「うん。あと、水についてとか、ワクワクする」
「ごめん、千紗都。私の選ぶものを千紗都は楽しめるけど、千紗都の選ぶものを、私は楽しめる自信がない」
涼夏がテーブルに両手をついて、大仰に頭を下げた。元より涼夏の選ぶものでいい。そう告げると、涼夏は嬉しそうに微笑みながらスマホに視線を落とした。
「このエコバッグ作りとかも可愛いよね」
「涼夏って、本当に女子力高いよね。チャラそうなのに」
私が真顔でそう言うと、涼夏がゆっくりと顔を上げて、大きく手を振った。
「いや、チャラくないし!」
「話し方雑だし、着崩してるし、メイクしてるし、髪の毛茶色いし」
「地毛だから! メイクは千紗都もするじゃん!」
「私は女子力低い」
きっぱりそう告げると、涼夏は「つまりメイクと女子力は関係ない」と満足げに頷いた。確かに関係ない。
「その顔で女子力まで高いとか、反則だよね。モテてモテて困るよね」
「千紗都様の足下にも及びません」
「私、地味だから。高校に入ってから、告白とかされたことないし」
私が何気なくそう言うと、涼夏が驚いたように眉を上げた。
「えっ、いいな」
「待って。涼夏、コクられたことあるの?」
思わず身を乗り出すと、ジュースが倒れそうになって慌てて座り直した。涼夏が告白されること自体は何も不思議ではない。私は少なくともユナ高の1年生では、涼夏が一番可愛いと思っている。ただ、4月も早い内からずっと一緒にいるのに、私がそれを知らないとはどういうことか。説明を求めるように見つめると、涼夏は不思議そうに首を傾げた。
「別に、付き合う気はないし、わざわざ話すようなことでもないでしょ。いちいち報告した方がいい?」
「そう言われると別に……。誰にっていうのも、聞かない方がいい?」
「興味があるなら、また絢音がいる時にでも話すよ。秘密にする義理もないし」
そう言って、再びスマホに指を滑らせた。涼夏は、大事そうなことは3人揃っている時に話したがる。それは絢音もそうだし、私もなるべくそうしている。取り決めをしたわけではないが、誰に何を話したかわからなくなるのも面倒だし、残りの一人にだけ秘密にしたいこともない。私と涼夏が1時間ベッドでキスしたことですら、絢音にはすぐに話したし、絢音も「楽しそう」と笑っていた。
結局講座は1限、2限ともに3つほどに絞り込み、後は当日の教室の人の入り具合を見て決めることにした。涼夏に任せたら、アクセサリー作りにカラーセラピー、占い、メイク、手相、アロマと、実に女子力の高いラインナップになった。絢音にもメールをすると、もし面白かったら2日目に一緒に行きたいと返って来た。それもいいかもしれない。遊ぶ約束はしているが、何をするかはまったく決めていない。
ちなみに私のチョイスした、石垣を知ろう、水について、樹は語る、神社の格式はどうかと送ったら、涼夏のよりはそっちの方が面白そうだと返事が来て、涼夏が呆れたように手を広げた。
「学年6位と33位の考えることは、私にはわからん」
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