ロンド戦記英雄譚.sin

針本ねる

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1章 世界をまたぐ、彼の名は

異世界への片道切符②

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 放課後の時間になるとやかましかった学校が、さらに段を飛ばしてうるさくなる。
 まぁ、サッカー部を途中退部した俺には関係ない話だ。周りのレベルが高すぎて、仲間からの冷やかしがなかったわけじゃないが、それよりもこの場にいることの惨めさに耐えられなかった。自分の弱さが憎らしい。
 代わりにバイトを始めた。半年前からファミレスで働いている。「大盛り、ジャンキー!」という店だが、なかなかどうして美味い。独特な味が人気を呼んで、1度テレビ取材にも出演したほどだ。
 ま、今日はシフトないし、さっさと帰るか。
 自転車に跨り、家路につく。横断歩道を渡り、近所のコンビニで肉まんを買う、いつも通りの光景だ。
 呑気に220円の肉まんを口にほお張る。程よいボリュームに、圧倒的満足感。たまらん。1度大阪の55ー1肉まんも食べてみたいものだ。
 すると、ダッダッダッ、と2人が目の前を走り抜ける。
 何事かと、俺はその集団を目で追う。先頭を走るのは小柄な人物だ。白いフードを被っているため、性別は分からない。何やらペットボトルを持ったまま走っている。
 それに追随する男。相当なスピードで目の前を駆け抜けていった。
 もぐもぐ、もぐも、ごっくん。なかなかに肉まんは美味かった。


 いや、見に来ちゃダメだって!何してるんだよ、俺は!
 陽も落ち、すっかり周りが暗くなってしまった。二人の後を追い、路地裏でふたりを眺める。
 あの後、彼らの跡をつけて来てしまった。別に野次馬をしに来た訳では無い。なのに、彼らがどうなるか興味が湧いてしまった。
「俺って…、ほんとダメなやつだよなぁ。」
 ビルの陰から、ぼそっとつぶやく。
 彼らは5分間ほど追いかけ回り、袋小路に追い込んだ。
「君が盗った財布、返してくれないか。」
 追い込んだ男が、静かに語る。はて、どこがで聞いたような声…。張りのない声、青いパーカー。猫背で、ボサボサな髪が見て取れる。…絶対あの人だ。
 対する小人は可憐かれんな声で、口を開く。「なぜ、返さなくっちゃあいけないの?これはあたしが拾った。だから私のものと同意ではなくて?」
 上から目線で荒々しく声をあげる。まるで女性のようなその声は僅かながら、怒気が込められているように感じられた。
「確かに拾ったのは君だけど…。返さないのなら警察を呼ぶよ!」
 警察、という言葉に反応してか、わずかながらたじろぐ小人。大人ならもう少し、説得しろよ、柳座先生。
 すると、フードをばっと取り払う。中から現れたのは、長い髪をした女の子のようだった。遠目なので細部までは分からないが、かなりの美少女とうかがえる。
線と線を飛び越えてミルヒャーナ、抑止をここに纏うものエリュオー…。」
  放課後の時間になるとやかましかった学校が、さらに段を飛ばしてうるさくなる。
 まぁ、サッカー部を途中退部した俺には関係ない話だ。周りのレベルが高すぎて、仲間からの冷やかしがなかったわけじゃないが、それよりもこの場にいることの惨めさに耐えられなかった。自分の弱さが憎らしい。
 代わりにバイトを始めた。半年前からファミレスで働いている。「大盛り、ジャンキー!」という店だが、なかなかどうして美味い。独特な味が人気を呼んで、1度テレビ取材にも出演したほどだ。
 ま、今日はシフトないし、さっさと帰るか。
 自転車に跨り、家路につく。横断歩道を渡り、近所のコンビニで肉まんを買う、いつも通りの光景だ。
 呑気に220円の肉まんを口にほお張る。程よいボリュームに、圧倒的満足感。たまらん。1度大阪の55ー1肉まんも食べてみたいものだ。
 すると、ダッダッダッ、と2人が目の前を走り抜ける。
 何事かと、俺はその集団を目で追う。先頭を走るのは小柄な人物だ。白いフードを被っているため、性別は分からない。何やらペットボトルを持ったまま走っている。
 それに追随する男。相当なスピードで目の前を駆け抜けていった。
 もぐもぐ、もぐも、ごっくん。なかなかに肉まんは美味かった。


 いや、見に来ちゃダメだって!何してるんだよ、俺は!
 陽も落ち、すっかり周りが暗くなってしまった。二人の後を追い、路地裏でふたりを眺める。
 あの後、彼らの跡をつけて来てしまった。別に野次馬をしに来た訳では無い。なのに、彼らがどうなるか興味が湧いてしまった。
「俺って…、ほんとダメなやつだよなぁ。」
 ビルの陰から、ぼそっとつぶやく。
 彼らは5分間ほど追いかけ回り、袋小路に追い込んだ。
「君が盗った財布、返してくれないか。」
 追い込んだ男が、静かに語る。はて、どこがで聞いたような声…。張りのない声、青いパーカー。猫背で、ボサボサな髪が見て取れる。…絶対あの人だ。
 対する小人は華聯な声で、口を開く。「なぜ、返さなくっちゃあいけないの?これはあたしが拾った。だから私のものと同意ではなくて?」
 上から目線で荒々しく声をあげる。まるで女性のようなその声は僅かながら、怒気が込められているように感じられた。
「確かに拾ったのは君だけど…。返さないのなら警察を呼ぶよ!」
 警察、という言葉に反応してか、わずかながらたじろぐ小人。大人ならもう少し、説得しろよ、柳座先生。
 すると、フードをばっと取り払う。中から現れたのは、長い髪をした女の子のようだった。遠目なので細部までは分からないが、かなりの美少女とうかがえる。
線と線を飛び越えてミルヒャーナ抑止をここに来たれエリューオ…。
 何かを決心したのか、少女はひざを折り右手を地面に突き出す。そして、何やらぶつぶつと唱え始める。
 柳座も知らない動作に困惑しているようだ。動かないで、だのと騒いでいるのだろうが、俺の耳には届かなかった。
 やがて、少女の胸元が発光する。煌めきが収まらず、柳葉を、そして見とれる俺をも包み込む。温かな感覚と、無重力のような脱力感が身を包む。
 そして、
我が愛しき故郷への帰還魔封石 リンク!」
 少女の声を最後に、俺は意識を失った。
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