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序章 いつもと変わらぬ毎日
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ある日の朝。まだ陽が昇り始めて、数分の時間。のどかさと肌寒さとの板挟みになるような天気だ。
港区のとあるマンション。そこの506号室で、朝早くから起きる少年の姿があった。短いスポーティな黒髪に、どこから見ても健康そうな日本男児だ。くせ毛なのか、髪があらぬ方向に向いている。
少年こと、#新条 燈夜_ しんじょう とうや__#はベッドから這い出て三十分ほどストレッチをしてから、キッチンで朝食の用意をする。冷蔵庫から卵二つ、昨日のハンバーグ、トーストを三枚取り出し、それぞれ焼いていく。いい匂いだ。
そろそろだな…。
「おーい。起きろよ、二人とも!朝ごはんだぞ!」
朝から大声を出すのには理由がある。声をあげて3分後、二つの部屋がほとんど同時に開いた。義理の妹の新条 月とその母親だ。どちらも黒く短い髪をふんわりとさせて、リビングの机に座る。心なしか、彼女らはまだ寝ぼけているようで、目が完全に開ききっていない。
良いタイミングで朝食を完成させ、机に持っていく。ラジオを聴きながらゆっくりと朝食をとる。
「燈夜、うるさい。」「そうよ、ご近所さんに朝から迷惑よ。」
二人そろって俺を非難する。毎朝同じ時間に起こしているだけなのに、なぜこうも言われなければいけないのか。
俺はいつもどうり話をすり替える。
「そんなことより、今日はバトミントンの朝練ないのか?月?」
「え…。あ、え?…やば、こんな時間じゃん!」
時計はすでに7時25分を示している。ここから走って20分ほどに、俺と月が通う高校がある。朝練は8時からなので、ギリギリになってしまう。
「なんでもう少し早く起こしてくれなかったの⁉」
俺はいつものぞんざいな扱いが脳裏によぎった。それを思い出し、口角をあげながらこう言った。
「いつもの、い・や・が・ら・せ。」
怒りでプルプルと震える月と信じられないものを見る義母。と言っている俺も月と同じ時間に登校しているので、急いで支度をせねばなるまい。三人分の食器をキッチンで洗ってから、それぞれが自室に戻りいつもの制服に袖を通す。今日の予報では日中は温かいらしいからな、ブレザーはいらないだろう。代わりに黒のカーディガンを着る。
身支度を整え部屋を出る。扉の前には制服をきた月の姿があった。いつもは隠している生足が白く輝く。短いスカートも相まってよく映える。ショートボブの髪型がいつもと違い、櫛をかけただけでセットされていない不用心さ。綺麗な目元と大きな瞳も高評価だ。わが妹ながら美少女と称されるのもわかる。
目線に気付いたのか、ぶっきらぼうに月が口を開く。
「…なによ、なんかついてる?」「いや、別に…。」
家族にちょっぴり見ほれていた、なんて口が裂けても言えない。
時刻は35分、自転車なら余裕だ。俺たちは玄関で外靴に履き替える。母はパタパタと玄関まで出迎える。
「じゃあ、行ってらっしゃい。」「「行ってきます!」」
息のそろった挨拶とともにドアを開く。天気は良好、清々しい春の朝だった。
「あの子たちも学校に行ったわ。私も今日は大臣との外食だから、家は静かになってしまうけど我慢してね。」
燈夜と月を見送った後、リビングの奥の仏壇に私は声をかける。そこには4人の遺影が並んでいる。先だった夫と燈夜の実の両親それに長男の写真。
燈夜の両親は、17年前交通事故で亡くなった。引き取り先が居なかったから、昔からの友人である私たちが引き取った。でも、夫は病気で亡くなった。女手一つで三人を育ててきたけど、長男の旭あさひは必至に頑張ってくれたわ。
そのうち、旭にいろいろ頼ってしまって、終いには植物状態になってしまった。ドナーカードを持っていたから、あの子の臓器は小さな女の子の体に移植された。だから、あの子を最後に見たのは、病室で何本も体にチューブが刺さった姿。
私の人生、大切なものを失うことの方が多いわ。残された二人を大切に守っていくしか、もう残されたものはないのよ。
あぁ、もし神様がいらっしゃるのなら、どうか、息子と娘を守ってやっってください。わたしから何も奪わないでください。
港区のとあるマンション。そこの506号室で、朝早くから起きる少年の姿があった。短いスポーティな黒髪に、どこから見ても健康そうな日本男児だ。くせ毛なのか、髪があらぬ方向に向いている。
少年こと、#新条 燈夜_ しんじょう とうや__#はベッドから這い出て三十分ほどストレッチをしてから、キッチンで朝食の用意をする。冷蔵庫から卵二つ、昨日のハンバーグ、トーストを三枚取り出し、それぞれ焼いていく。いい匂いだ。
そろそろだな…。
「おーい。起きろよ、二人とも!朝ごはんだぞ!」
朝から大声を出すのには理由がある。声をあげて3分後、二つの部屋がほとんど同時に開いた。義理の妹の新条 月とその母親だ。どちらも黒く短い髪をふんわりとさせて、リビングの机に座る。心なしか、彼女らはまだ寝ぼけているようで、目が完全に開ききっていない。
良いタイミングで朝食を完成させ、机に持っていく。ラジオを聴きながらゆっくりと朝食をとる。
「燈夜、うるさい。」「そうよ、ご近所さんに朝から迷惑よ。」
二人そろって俺を非難する。毎朝同じ時間に起こしているだけなのに、なぜこうも言われなければいけないのか。
俺はいつもどうり話をすり替える。
「そんなことより、今日はバトミントンの朝練ないのか?月?」
「え…。あ、え?…やば、こんな時間じゃん!」
時計はすでに7時25分を示している。ここから走って20分ほどに、俺と月が通う高校がある。朝練は8時からなので、ギリギリになってしまう。
「なんでもう少し早く起こしてくれなかったの⁉」
俺はいつものぞんざいな扱いが脳裏によぎった。それを思い出し、口角をあげながらこう言った。
「いつもの、い・や・が・ら・せ。」
怒りでプルプルと震える月と信じられないものを見る義母。と言っている俺も月と同じ時間に登校しているので、急いで支度をせねばなるまい。三人分の食器をキッチンで洗ってから、それぞれが自室に戻りいつもの制服に袖を通す。今日の予報では日中は温かいらしいからな、ブレザーはいらないだろう。代わりに黒のカーディガンを着る。
身支度を整え部屋を出る。扉の前には制服をきた月の姿があった。いつもは隠している生足が白く輝く。短いスカートも相まってよく映える。ショートボブの髪型がいつもと違い、櫛をかけただけでセットされていない不用心さ。綺麗な目元と大きな瞳も高評価だ。わが妹ながら美少女と称されるのもわかる。
目線に気付いたのか、ぶっきらぼうに月が口を開く。
「…なによ、なんかついてる?」「いや、別に…。」
家族にちょっぴり見ほれていた、なんて口が裂けても言えない。
時刻は35分、自転車なら余裕だ。俺たちは玄関で外靴に履き替える。母はパタパタと玄関まで出迎える。
「じゃあ、行ってらっしゃい。」「「行ってきます!」」
息のそろった挨拶とともにドアを開く。天気は良好、清々しい春の朝だった。
「あの子たちも学校に行ったわ。私も今日は大臣との外食だから、家は静かになってしまうけど我慢してね。」
燈夜と月を見送った後、リビングの奥の仏壇に私は声をかける。そこには4人の遺影が並んでいる。先だった夫と燈夜の実の両親それに長男の写真。
燈夜の両親は、17年前交通事故で亡くなった。引き取り先が居なかったから、昔からの友人である私たちが引き取った。でも、夫は病気で亡くなった。女手一つで三人を育ててきたけど、長男の旭あさひは必至に頑張ってくれたわ。
そのうち、旭にいろいろ頼ってしまって、終いには植物状態になってしまった。ドナーカードを持っていたから、あの子の臓器は小さな女の子の体に移植された。だから、あの子を最後に見たのは、病室で何本も体にチューブが刺さった姿。
私の人生、大切なものを失うことの方が多いわ。残された二人を大切に守っていくしか、もう残されたものはないのよ。
あぁ、もし神様がいらっしゃるのなら、どうか、息子と娘を守ってやっってください。わたしから何も奪わないでください。
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