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レベル62 逃亡者カナミ 非処女 絹のローブ 皮の靴 鈍く光るイヤリング 奴隷の烙印 ステ:安堵 憐憫 金54000JEM
迷いの森編①「ちっぽけな正義の代償」
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手近の椅子に腰かけ、酷使した足を擦りながら一息をつく。
(とりあえずひと安心ね。でも、現実世界に帰るために、あたしにはまだやるべきことがたくさんある)
魔王の討伐。空間転移魔法の購入。
いや――。
(タクヤの手前さっきはああ言ったけど、その前に牢屋で助けてもらったあの人をなんとしてでも弔わなきゃいけない……)
考えることは山積み。
しかし、どこから手を付けて良いものか分からない。
そうこう悩んでいる間にも、馬車の心地よい揺れがカナミの意識を奪い去ろうと襲い掛かる。
(あ。もうダメかも。少しだけ、ほんの少しだけ寝ようかな。だって、疲れたもの……)
瞼は鉛のように重くなり、徐々に視界がぼやけていく中、カナミは改めて周囲を見渡す。
(え?)
そのとき、乗客の様子が少しおかしいことに気が付いた。
(この人たち……)
馬車に乗っているのはすべて中高年の男性。
そこまではいい。問題はその見た目だ。
身体はほぼ、骨と皮だけ。眼球が飛び出た顔も土気色で、生きているのが不思議なくらいと言う第一印象。
年齢はさだかではないが、白髪まみれのせいで余計に老けて見える。
しかし彼らはそんな風貌をものともせず、さも元気であるかのように振る舞い、笑みを浮かべ語らいあっていた。
「……」
狭い馬車の中。
聞く気もなかった会話が嫌でも耳に入ってくる。
「やっぱり、カイン先生は最高だな。俺なんて一回の診療でピンピンでさぁ!」
「オレもオレも。町医者じゃ匙を投げた難病が、こうも簡単に良くなるなんてなぁ。今から家族への報告が楽しみだぜ」
「大枚をはたいたかいがあるってもんだな。さ、これから今までできなかった分バリバリ働いて、ツケの治療代を稼いでいくか!」
「信じる者は救われるってヤツだな。ワシもまさか、また孫を抱ける日がくるなんて思いもよらなかったわぁ」
繰り返される、カインへの称賛の声、声、声。
『おいカナミ、まさかこいつら……』
「洗脳催眠されて……る?」
そのとき、ふとカナミの脳裏に牢屋の女性が放ったセリフが浮かぶ。
患者が故郷に帰った矢先、命を落とすことも珍しくない……と言う言葉が。
「あ、あたし……もう我慢できない!」
ペテン師であるカインの名声が一人歩きしていく現実はもとより、元気になったと思い込んでいる彼らの痛々しい笑顔は、カナミの静まりつつあった怒りを再燃させるには十分すぎるほどの力を持っていた。
『か、カナミ! ダメだ、今はおとなしくしておけ!!』
「ごめんなさい。いくらタクヤのお願いでも聞けないわ」
『待て!』
俺の必死の制止も空しく、カナミは彼らの会話の中に無理やり割り込んだ。
一時の気の迷い、そしてちっぽけな正義感を振りかざして――。
◇◆◇
「あ、あの!!」
「あ~? なんだ嬢ちゃん。ワシたちに何か用か?」
「はい。カインって男についてなんですが」
「おお。嬢ちゃんもカイン先生の患者かい。元気そうなツラして、さては病気が完治したんだな? オレらみたいによぉ」
「ハッ。にしても若いって羨ましいねぇ。肌の色つやとか全然違うじゃねーか」
「ま、年齢にはどう足掻いたって勝てないからな。それはしょうがねぇよ。カッカッカ!」
「ち、違うんです! あのカインって男……。実は医師でもなんでもない、ただのイカサマペテン師なんです!」
カナミの物言いに、男のひとりの眉がピクリと動く。
「ペテン? なぁに言ってんだ嬢ちゃんよぉ。あの方は偉大な先生様なんだぜ。あらゆる難病を治しちまうんだ」
「で、ですから! カインはあなたがたを騙して、病気が治ったと錯覚させてるだけなんです!」
「騙す? 錯覚? どういうことだ嬢ちゃん。カイン先生の侮辱となりゃあ、場合によっちゃただじゃ済まないぜ」
「ああ。先生様を悪く言うヤツぁ、たとえ女子供だろうが容赦はしねぇ。あ~~ん? さてはオメェ、他の国の同業者か? 先生様の悪評をばらまいて失墜させようってウワサの……」
「失墜させようなんて……! あたしはただ、真実を皆さんに知ってほしくて……」
「だからぁ、カイン先生が優れた医師だって事実が真実なんだよぉ。嬢ちゃんの言ってることが全部間違ってる。さぁ今すぐ訂正しろ。カイン先生は素晴らしい、人類史上最高の医師だってな」
「ひっ……」
四人の男はゆらりと立ち上がり、カナミを取り囲む。
決して俊敏ではない、じわりじわりと迫りくるその動きはまさにゾンビさながらだ。
「おい、どうなんだ?」
「なに黙りこくってんだよぉ。ああっ!?」
「逆に言えば答えられないってことが真実の証よぉ」
「ったく、まさかこんなメスガキが中傷の犯人だったなんてなぁ。さ~て、どう落とし前をつけてもらおうか」
「カイン先生のもとへ突き出して、土下座でもさせるかぁ」
「いや、まずはしっかりと教育させる方が先じゃねぇか?」
「カッカッカ。そりゃあいい。よく見るとオメェ、かわい~い顔してるじゃねぇか。チチもデケェしなぁ」
不気味に笑いながら、男たちは思い思いにその細腕をカナミの身体へと伸ばす。
「い、いや。来ないで……!」
「お~っと、暴れるんじゃねぇよ」
「そうそう。オレたちゃあこれでも優しい方なんだ。ちゃんと謝って、奉仕さえしてくれれば穏便に済ませてやるよ」
「ぐぅっ、離してっ」
枯れ木のような腕、体格とは裏腹に、男たちの力はすさまじいものであった。
カナミがいくら身体をよじろうとも一度掴まれたが最後、容易には振りほどけない。
ビリリリリッッ!!
「きゃああ!?」
やがて、ひとりの男がカナミのローブの胸元に指をかけ、思い切り引きちぎる。
「おほぉっ! ナマチチなんて何年ぶりだろうなぁ!」
「現役だったころを思い出すぜ。あんときゃあ、ワシと付き合った女は全員腹を膨らませて去ってったモンだ」
「おいおい。勃ってきてるじゃねぇか。もう排泄にしか使われなくなったと思い込んでたイチモツがよぉ」
「これもカイン先生の治療のおかげかもな。正真正銘元気になった証拠を、このメスガキの身体に思う存分叩き込んでやるとするかぁ。カッカッカ!」
「ちょ、ちょっと冗談よね? 落ち着いてくださいっ、落ち着いて……!!」
「ワシらはじゅうぶん落ち着いてるさぁ。むしろ、嬢ちゃんの方がこの世の終わりみてぇな顔してるぜ」
「ひっ! 誰か、誰かぁぁ!!!」
カナミを除いて、乗客は四人。
しかもその全員がカインの催眠洗脳に陥り自我を失っているとなれば、当然助けなど受け入れてもらえるはずもない。
おまけに馬車は布のカーテンで仕切られ、外からの視界も完全シャットアウト。さらには悪路が奏でるガタガタと言う揺れが、馬車内の喧騒を見事にかき消していた。
「お願い! 乱暴しないでっ!!」
まさに万事休す。
それでもカナミは力の限りに声を張り上げ、何度も何度も周囲へ呼びかけ続けた。
すると、意外なところから反応が返ってくる。
「おい! 騒々しいぞ! なにをしてるんだ!」
その叱声は馬車の前方から響いてきた。
カーテンの隙間から顔を覗かせる黒いシルクハットの男……御者だ。
「あ、あの! この人たちがいきなり乱暴を!」
「乱暴なんてひでぇ。オレたちゃあただ若い娘と交流を深めようとしてただけだぜぇ」
「そうそう。ワシたちの集落ではスキンシップなんて挨拶同然の行為だしなぁ」
「う、ウソ言わないで! あたしの服を台無しにしておいて!」
再び始まる押し問答に、御者の一喝がとどろく。
「ごちゃごちゃうるせぇ! おいテメェら、もうここで降りやがれ! 面倒事はゴメンだ!!」
馬車を停車させ、御者は引きずり出すようにしてカナミ他四人の男を外へと放った。
「悪いがここでお別れだ。後は歩くなり泣くなりして次の馬車を見つけるんだな」
「ちょ、ちょっと待って! ここ、どこなのよ!」
辺りは苔まみれの大木がうっそうと茂る不気味な森の中。
まだ日没まで時刻があるにもかかわらず、周囲はすでにほの暗い。
「母体の森だ。日が暮れるまでに安全なところへ戻らないと、命がいくつあっても足りないかもしれないぜ。じゃあな」
「イケ、ニエ? あっ……」
不吉な言葉を残し、御者は馬に鞭を振るってあっという間に立ち去っていく。
つまり、この場所に取り残されたのはカナミと、正気を失った男たち……。
「あ~あ、嬢ちゃんのせいでオレたちももう終わりだなぁ」
「ここイケニエの森は別名、迷いの森とも言われてる場所。一度足を踏み入れたら最後、素人は決して抜け出すことはできねぇ恐ろしいところなんだ」
「そんなトコに放置されたとなっちゃ、ワシらに待ってるのは死のみだよなぁ」
「ああ、せっかくカイン先生に命を救ってもらったのに、オメェのせいでのたれ死んじまうんだ。どう責任をとってもらおうか……」
「あ、あたしのせいじゃ……」
「い~や、オメェのせいだ。オレが病気になったのも、仕事がうまくいかなくなったのも、女房が逃げたのも全部オメェのな!」
「借金も嬢ちゃんのせい。息子が犯罪で捕まったのも、家が水害で流されたのも、ぜんぶ……」
「許さねぇ。めちゃくちゃにしてやりてぇ、このクソアマをよ」
「犯す、犯す……。穴と言う穴全部を犯して、まずはオレたちのイケニエとして、オレたちが今まで味わってきた苦痛……この世の地獄を味わわせてやるよぉ……!!」
四方から浴びせられる恨みつらみの言葉。突き刺すような視線。
もし再び捕まってしまったら、生きて解放される保証はない。
「ぃっ、ィャっ! タクヤ、タクヤっ。助けて!」
『カナミ、森に入って身を隠すんだ!』
「で、でもっ。ここ、迷いの森だって……」
『とにかく今は距離をとれ。幸い、アイツらは足自体はそれほど速くない。囲まれる前に、早く!』
「分かった、分かったっ」
男たちの魔手を辛くもすり抜け、深い森の中へと駆けていくカナミ。
しかし、その小さく頼りない背中を見つめる彼らからは、捕まえることができず悔しいだとか残念だとかそんな感情は見受けられない。むしろ――。
「バカな娘だ」
「逃げられるはずがないのになぁ」
「そうでなくても、森の孕神(はらかみ)サマが許してくれないだろ。まぁこれで、俺たちの集落が今年捧げる新しい母体の心配はなくなったがねぇ」
「さ~て、狩りを始めるとするかぁ。孕神サマに捧げるまえに、ワシたちが責任を持って女体を浄化してあげなきゃならんしなぁ……でゅふふふぅぅ!!」
「おうよ! 身も心もめちゃくちゃのどろどろにして、ぶっ、こわして、おもいひらせて、やるぜぇ、あひゃひゃひゃぁアあ!」
「おカ、す。おんな、犯す……。女狩り、最高っ。穴にぶち込む、の、気持ち、イイ……もンなぁ……ぃ゛ひぃひ゛ひぃ゛ぃッッ!!!」
「くわせろ、おんなの柔肉、く、わセ……ろっ。骨も、皮も、ぜんぶ、しゃぶらセろぉぉ……ぅひひひヒヒひひひヒヒひひひ!!!!!!!」
歪む顔、淀む瞳、乱れる呼吸、回らぬろれつ、異様な高笑い。
人間としての意思と尊厳を失い精神が崩壊してしまった男たちは、カナミの残り香を追うようにして森の奥深くへと歩みを進めていった――。
(とりあえずひと安心ね。でも、現実世界に帰るために、あたしにはまだやるべきことがたくさんある)
魔王の討伐。空間転移魔法の購入。
いや――。
(タクヤの手前さっきはああ言ったけど、その前に牢屋で助けてもらったあの人をなんとしてでも弔わなきゃいけない……)
考えることは山積み。
しかし、どこから手を付けて良いものか分からない。
そうこう悩んでいる間にも、馬車の心地よい揺れがカナミの意識を奪い去ろうと襲い掛かる。
(あ。もうダメかも。少しだけ、ほんの少しだけ寝ようかな。だって、疲れたもの……)
瞼は鉛のように重くなり、徐々に視界がぼやけていく中、カナミは改めて周囲を見渡す。
(え?)
そのとき、乗客の様子が少しおかしいことに気が付いた。
(この人たち……)
馬車に乗っているのはすべて中高年の男性。
そこまではいい。問題はその見た目だ。
身体はほぼ、骨と皮だけ。眼球が飛び出た顔も土気色で、生きているのが不思議なくらいと言う第一印象。
年齢はさだかではないが、白髪まみれのせいで余計に老けて見える。
しかし彼らはそんな風貌をものともせず、さも元気であるかのように振る舞い、笑みを浮かべ語らいあっていた。
「……」
狭い馬車の中。
聞く気もなかった会話が嫌でも耳に入ってくる。
「やっぱり、カイン先生は最高だな。俺なんて一回の診療でピンピンでさぁ!」
「オレもオレも。町医者じゃ匙を投げた難病が、こうも簡単に良くなるなんてなぁ。今から家族への報告が楽しみだぜ」
「大枚をはたいたかいがあるってもんだな。さ、これから今までできなかった分バリバリ働いて、ツケの治療代を稼いでいくか!」
「信じる者は救われるってヤツだな。ワシもまさか、また孫を抱ける日がくるなんて思いもよらなかったわぁ」
繰り返される、カインへの称賛の声、声、声。
『おいカナミ、まさかこいつら……』
「洗脳催眠されて……る?」
そのとき、ふとカナミの脳裏に牢屋の女性が放ったセリフが浮かぶ。
患者が故郷に帰った矢先、命を落とすことも珍しくない……と言う言葉が。
「あ、あたし……もう我慢できない!」
ペテン師であるカインの名声が一人歩きしていく現実はもとより、元気になったと思い込んでいる彼らの痛々しい笑顔は、カナミの静まりつつあった怒りを再燃させるには十分すぎるほどの力を持っていた。
『か、カナミ! ダメだ、今はおとなしくしておけ!!』
「ごめんなさい。いくらタクヤのお願いでも聞けないわ」
『待て!』
俺の必死の制止も空しく、カナミは彼らの会話の中に無理やり割り込んだ。
一時の気の迷い、そしてちっぽけな正義感を振りかざして――。
◇◆◇
「あ、あの!!」
「あ~? なんだ嬢ちゃん。ワシたちに何か用か?」
「はい。カインって男についてなんですが」
「おお。嬢ちゃんもカイン先生の患者かい。元気そうなツラして、さては病気が完治したんだな? オレらみたいによぉ」
「ハッ。にしても若いって羨ましいねぇ。肌の色つやとか全然違うじゃねーか」
「ま、年齢にはどう足掻いたって勝てないからな。それはしょうがねぇよ。カッカッカ!」
「ち、違うんです! あのカインって男……。実は医師でもなんでもない、ただのイカサマペテン師なんです!」
カナミの物言いに、男のひとりの眉がピクリと動く。
「ペテン? なぁに言ってんだ嬢ちゃんよぉ。あの方は偉大な先生様なんだぜ。あらゆる難病を治しちまうんだ」
「で、ですから! カインはあなたがたを騙して、病気が治ったと錯覚させてるだけなんです!」
「騙す? 錯覚? どういうことだ嬢ちゃん。カイン先生の侮辱となりゃあ、場合によっちゃただじゃ済まないぜ」
「ああ。先生様を悪く言うヤツぁ、たとえ女子供だろうが容赦はしねぇ。あ~~ん? さてはオメェ、他の国の同業者か? 先生様の悪評をばらまいて失墜させようってウワサの……」
「失墜させようなんて……! あたしはただ、真実を皆さんに知ってほしくて……」
「だからぁ、カイン先生が優れた医師だって事実が真実なんだよぉ。嬢ちゃんの言ってることが全部間違ってる。さぁ今すぐ訂正しろ。カイン先生は素晴らしい、人類史上最高の医師だってな」
「ひっ……」
四人の男はゆらりと立ち上がり、カナミを取り囲む。
決して俊敏ではない、じわりじわりと迫りくるその動きはまさにゾンビさながらだ。
「おい、どうなんだ?」
「なに黙りこくってんだよぉ。ああっ!?」
「逆に言えば答えられないってことが真実の証よぉ」
「ったく、まさかこんなメスガキが中傷の犯人だったなんてなぁ。さ~て、どう落とし前をつけてもらおうか」
「カイン先生のもとへ突き出して、土下座でもさせるかぁ」
「いや、まずはしっかりと教育させる方が先じゃねぇか?」
「カッカッカ。そりゃあいい。よく見るとオメェ、かわい~い顔してるじゃねぇか。チチもデケェしなぁ」
不気味に笑いながら、男たちは思い思いにその細腕をカナミの身体へと伸ばす。
「い、いや。来ないで……!」
「お~っと、暴れるんじゃねぇよ」
「そうそう。オレたちゃあこれでも優しい方なんだ。ちゃんと謝って、奉仕さえしてくれれば穏便に済ませてやるよ」
「ぐぅっ、離してっ」
枯れ木のような腕、体格とは裏腹に、男たちの力はすさまじいものであった。
カナミがいくら身体をよじろうとも一度掴まれたが最後、容易には振りほどけない。
ビリリリリッッ!!
「きゃああ!?」
やがて、ひとりの男がカナミのローブの胸元に指をかけ、思い切り引きちぎる。
「おほぉっ! ナマチチなんて何年ぶりだろうなぁ!」
「現役だったころを思い出すぜ。あんときゃあ、ワシと付き合った女は全員腹を膨らませて去ってったモンだ」
「おいおい。勃ってきてるじゃねぇか。もう排泄にしか使われなくなったと思い込んでたイチモツがよぉ」
「これもカイン先生の治療のおかげかもな。正真正銘元気になった証拠を、このメスガキの身体に思う存分叩き込んでやるとするかぁ。カッカッカ!」
「ちょ、ちょっと冗談よね? 落ち着いてくださいっ、落ち着いて……!!」
「ワシらはじゅうぶん落ち着いてるさぁ。むしろ、嬢ちゃんの方がこの世の終わりみてぇな顔してるぜ」
「ひっ! 誰か、誰かぁぁ!!!」
カナミを除いて、乗客は四人。
しかもその全員がカインの催眠洗脳に陥り自我を失っているとなれば、当然助けなど受け入れてもらえるはずもない。
おまけに馬車は布のカーテンで仕切られ、外からの視界も完全シャットアウト。さらには悪路が奏でるガタガタと言う揺れが、馬車内の喧騒を見事にかき消していた。
「お願い! 乱暴しないでっ!!」
まさに万事休す。
それでもカナミは力の限りに声を張り上げ、何度も何度も周囲へ呼びかけ続けた。
すると、意外なところから反応が返ってくる。
「おい! 騒々しいぞ! なにをしてるんだ!」
その叱声は馬車の前方から響いてきた。
カーテンの隙間から顔を覗かせる黒いシルクハットの男……御者だ。
「あ、あの! この人たちがいきなり乱暴を!」
「乱暴なんてひでぇ。オレたちゃあただ若い娘と交流を深めようとしてただけだぜぇ」
「そうそう。ワシたちの集落ではスキンシップなんて挨拶同然の行為だしなぁ」
「う、ウソ言わないで! あたしの服を台無しにしておいて!」
再び始まる押し問答に、御者の一喝がとどろく。
「ごちゃごちゃうるせぇ! おいテメェら、もうここで降りやがれ! 面倒事はゴメンだ!!」
馬車を停車させ、御者は引きずり出すようにしてカナミ他四人の男を外へと放った。
「悪いがここでお別れだ。後は歩くなり泣くなりして次の馬車を見つけるんだな」
「ちょ、ちょっと待って! ここ、どこなのよ!」
辺りは苔まみれの大木がうっそうと茂る不気味な森の中。
まだ日没まで時刻があるにもかかわらず、周囲はすでにほの暗い。
「母体の森だ。日が暮れるまでに安全なところへ戻らないと、命がいくつあっても足りないかもしれないぜ。じゃあな」
「イケ、ニエ? あっ……」
不吉な言葉を残し、御者は馬に鞭を振るってあっという間に立ち去っていく。
つまり、この場所に取り残されたのはカナミと、正気を失った男たち……。
「あ~あ、嬢ちゃんのせいでオレたちももう終わりだなぁ」
「ここイケニエの森は別名、迷いの森とも言われてる場所。一度足を踏み入れたら最後、素人は決して抜け出すことはできねぇ恐ろしいところなんだ」
「そんなトコに放置されたとなっちゃ、ワシらに待ってるのは死のみだよなぁ」
「ああ、せっかくカイン先生に命を救ってもらったのに、オメェのせいでのたれ死んじまうんだ。どう責任をとってもらおうか……」
「あ、あたしのせいじゃ……」
「い~や、オメェのせいだ。オレが病気になったのも、仕事がうまくいかなくなったのも、女房が逃げたのも全部オメェのな!」
「借金も嬢ちゃんのせい。息子が犯罪で捕まったのも、家が水害で流されたのも、ぜんぶ……」
「許さねぇ。めちゃくちゃにしてやりてぇ、このクソアマをよ」
「犯す、犯す……。穴と言う穴全部を犯して、まずはオレたちのイケニエとして、オレたちが今まで味わってきた苦痛……この世の地獄を味わわせてやるよぉ……!!」
四方から浴びせられる恨みつらみの言葉。突き刺すような視線。
もし再び捕まってしまったら、生きて解放される保証はない。
「ぃっ、ィャっ! タクヤ、タクヤっ。助けて!」
『カナミ、森に入って身を隠すんだ!』
「で、でもっ。ここ、迷いの森だって……」
『とにかく今は距離をとれ。幸い、アイツらは足自体はそれほど速くない。囲まれる前に、早く!』
「分かった、分かったっ」
男たちの魔手を辛くもすり抜け、深い森の中へと駆けていくカナミ。
しかし、その小さく頼りない背中を見つめる彼らからは、捕まえることができず悔しいだとか残念だとかそんな感情は見受けられない。むしろ――。
「バカな娘だ」
「逃げられるはずがないのになぁ」
「そうでなくても、森の孕神(はらかみ)サマが許してくれないだろ。まぁこれで、俺たちの集落が今年捧げる新しい母体の心配はなくなったがねぇ」
「さ~て、狩りを始めるとするかぁ。孕神サマに捧げるまえに、ワシたちが責任を持って女体を浄化してあげなきゃならんしなぁ……でゅふふふぅぅ!!」
「おうよ! 身も心もめちゃくちゃのどろどろにして、ぶっ、こわして、おもいひらせて、やるぜぇ、あひゃひゃひゃぁアあ!」
「おカ、す。おんな、犯す……。女狩り、最高っ。穴にぶち込む、の、気持ち、イイ……もンなぁ……ぃ゛ひぃひ゛ひぃ゛ぃッッ!!!」
「くわせろ、おんなの柔肉、く、わセ……ろっ。骨も、皮も、ぜんぶ、しゃぶらセろぉぉ……ぅひひひヒヒひひひヒヒひひひ!!!!!!!」
歪む顔、淀む瞳、乱れる呼吸、回らぬろれつ、異様な高笑い。
人間としての意思と尊厳を失い精神が崩壊してしまった男たちは、カナミの残り香を追うようにして森の奥深くへと歩みを進めていった――。
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