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第四十一話 変な名前のボス

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 部屋の中に入っていくと入り口の扉が閉まる。

「逃げることはできないということだな!」
「緊張感があっていいじゃないか!」
「そうだな! 頑張ろう!」
「おう!」

 僕とトモは部屋の真ん中まで歩いて来た。

「あれ? ボスモンスターは?」

 僕は一通り周囲を見渡した後に呟く。大抵は真ん中まで歩いてきたらボスモンスターが登場するというパターンが多いので、今回も絶対そうだと思ったのだが……。

「こういう時は上を見ればボスモンスターがいるんだよ!」

 トモがそんなことを言うので、二人で上を向く。上を向いてみると僕とトモの上空に赤い丸い物体が二つ浮いていた。

「プレイヤーを感知しました! 今から殲滅を開始します!」

 上空から声に感情が全くこもっていない女性の声が聞こえてくる。

「ほらね! 居たでしょ!」
「本当だ! トモさすが!」
「それほどでも!」

 僕とトモが喋っていると上空からドリルが回転する時の音が聞こえてくる。ボスモンスターは体を回転させながら僕とトモに突っ込んで来た。

「回避!」
 
 僕の指示でトモは後方にジャンプして回避する。僕も友と同じように後方に飛んで回避した。
 ボスモンスターが地面にぶつかった瞬間、部屋中に嵐が吹き抜けるような轟音《ごうおん》が響く。そしてさっきまで暗かった部屋が明るくなった。派手な登場である。
 ボスモンスターの容姿は全長が十メートルくらいで人間の形をしている。そして手は空中に浮いていた。さらに全身武装をしている。

「おぉぉ! すごく強そう!」
「楽しくなりそうだな!」

 僕とトモは率直に感想を述べる。

「攻撃を外しました! プレイヤーを再認識! これから地上戦モードに移行します!」

 ボスモンスターが喋ると頭上に名前が表示される。名前は《ものすっご~い殺戮兵器》だった。

「見た目かっこいいのに名前、だっさっ‼︎ マジでだっさっ‼︎ これは無いわ!」

 僕はものすっご~い殺戮兵器を貶《けな》す。何がものすっご~いなかは少しだけ気になるが……。

「言ってやるなって、ヒビト!」

 トモはものすっご~い殺戮兵器をフォローしていたが、耐えようにも耐えきれずに笑みを口角に浮かべていた。

「トモもバカにしてるじゃないか!」

 僕はトモの胸に手の甲を軽く当てて、ツッコミをする。

「バカにされた気がします! あなたたちを直ちに始末します!」
「バカにするも何も……ってお前、僕たちの言葉が分かるのか⁉︎」

 僕とトモの会話内容を理解しているのかは分からないが、ものすっご~い殺戮兵器が状況にぴったりの言葉を発してくるので、飛び上るほどびっくりしてしまう。
 
「始末します! 始末します! 始末します!」
「やっぱり気のせいか……」

 ものすっご~い殺戮兵器は僕の質問に回答をせず、同じ言葉を繰り返していたので勘違いだと思った。
 ものすっご~い殺戮兵器は両肩に装備していたミニガンで僕とトモに射撃をしてくる。
 弾は実弾ではなく魔法を凝縮して作った魔法弾だ。ただ、普通の魔法の攻撃よりはスピードが倍速い。

「疾風迅雷発動!」

 僕はAGIをSTRと同じ値まで引き上げて、自分の体に当たる可能性がある魔法弾を斬り落としていく。
 
「魔法を斬るとか、すげぇな! ヒビト!」
「練習の成果が出ただけだ! そう言うトモも矢で魔法を破壊してるじゃん!」

 トモも的確に魔法の核を射抜き、破壊している。斬るのと同様に死ぬほど練習しないとできない技だ。

「練習の成果だ!」

 トモは親指を立て、にこりと笑いながら僕に言ってくる。僕もトモと同じ格好をする。戦闘中にも関わらず和やかな雰囲気が漂う。

「うざいです! 早く死んでください!」
「口が悪すぎやろ!」

 ものすっご~い殺戮兵器のあまりの口の悪さに思わずツッコミをしてしまう。この後もミニガンによる射撃でものすっご~い殺戮兵器に近づけないでいた。

「面倒くさいな! 今からミニガンを潰しに行くから援護よろしく!」
「おう! 任せろ!」
 
 僕は魔法弾を斬りながらものすっご~い殺戮兵器に接近する。僕が斬り損ねた魔法弾はトモがしっかりと破壊している。

「一つ目!」

 僕はものすっご~い殺戮兵器の上に足から登っていき右肩のミニガンを前宙しながら破壊する。

「二つ目!」

 そのままものすっご~い殺戮兵器の頭を踏み台にし、左肩のミニガンも破壊する。そして滑るように降りて行き地面で受け身を取って着地する。
 僕が着地したのと同時に破壊したミニガンが大爆発を起こす。爆発の影響でものすっご~い殺戮兵器のHPが半分になる。

「遠距離武器破損! 遠距離武器破損! 直ちに近距離戦闘に入ります!」
 
 ものすっご~い殺戮兵器は空中に浮いていた右手を刀の形に変更し、僕に攻撃してくる。僕はそれを受け止める。

「おもっ!」

 受け止めたはいいが、予想以上に攻撃力が高くじわじわと押されていく。そして弾き飛ばされてしまった。

「うわぁぁぁ!」
「ヒビト!」

 トモの叫び声が聞こえた。僕はそのまま壁に激突する。HPが三割弱減る。刀を受けていなかったらどうなっていたのか……。僕は直ちに【歌唱】を発動し、HPの回復を試みた。

「トモ! こいつの攻撃は受けてちゃダメだ! 回避しながら攻撃するから援護を頼む!」

 僕は部屋中に響き渡る声でトモに作戦を伝える。

「了解!」

 僕はHPが十分に回復したのを確認してから接近を開始する。そしてものすっご~い殺戮兵器の攻撃を避けながら順調にダメージを与えていく。
 僕が攻撃されそうになったらトモが攻撃を引きつけるという作戦をとって、HPを残り一割まで減らすことができた。

「HPが一割をきりました! 砲撃を行います! 砲撃を行います!」

 ものすっご~い殺戮兵器は口を開け、エネルギーを貯め出した。

「おいおいおい! なんでもありかよ! ものすっご~いな!」
「そうだな! 当たったら確実にあの世行きだ!」

 僕とトモはものすっご~い殺戮兵器の攻撃の威力を冷静に分析して、作戦を考える。

「フウラ! ブレス攻撃とかできるのか?」
「フォッコォォ!」

 僕がフウラにそんな質問をするとフウラは鳴き声を出して頷く。

「それならクウガも出来るよな?」
「グリフィィィ!」

 トモの質問にクウガも頷く。

「よし! 作戦は決まった! あいつの砲撃をフウラとクウガのブレスで相殺! そして相殺後、僕とトモの攻撃でとどめを刺す!」
「了解! 砲撃は任せたぞ! フウラ、クウガ!」
「フォッコォォ!」
「グリフィィィ!」

 僕たちは一致団結して、ものすっご~い殺戮兵器にとどめを刺すことを決意した。

「キャノン砲! 発射です!」

 その言葉と同時にものすっごーい殺戮兵器の口からビームが発射された。それをフウラとクウガが向かい打つ。 
 フウラの口からは赤色のブレスが放たれ、クウガの口からは緑色で渦状のブレスが放たれた。それを見て僕はフウラのブレスを【炎爆】、クウガのブレスを【風波】と名付けることにした。
 ものすっご~い殺戮兵器ビームとフウガとクウガのブレスがぶつかる。ビームとブレスは枕元で雷が落ちたくらいの爆音が鳴り、相殺された。

「今だ!」

 僕はものすっご~い殺戮兵器に接近して、僕が今持っている中で最強のスキルを発動する。

「雪・月・花!」

 トモも弓を思いっきり弾いて渾身の一撃を放つ。

「イベントでは見せてない俺の中で最強のスキル! 属性貫通矢《アトリビュート・ピィアスアローウ》!」

 炎、水、風、土、雷、氷の主属性の矢が一つになり、激しい光を発生させながらものすっご~い殺戮兵器を貫通した。ちなみに副属性は光、闇、毒、麻痺、睡眠である。
 僕とトモの最高威力の攻撃を受けたものすっご~い殺戮兵器は消滅する。

「やったな! ヒビト!」
「おう!」

 僕とトモはハイタッチをして笑い合い扉を開けて、階段を登って行く。
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