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第三十七話 九尾の狐と祝賀会

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 僕はイベントを終え、イベント開始時に集合した噴水広場に戻ってきていた。
 この場所に転送された理由はお祭り騒ぎになっていると思われる観戦ルームで入賞したプレイヤーがイベントを見ていたプレイヤーに声をかけられるのを防ぐためだろう。
 周囲を見渡してみるとイベントに最後まで残ったのであろう十人プレイヤーがいた。その中にはトモの姿はなかった。

「トモは負けたのか……」

 僕はぽとりと雫のように呟く。

「優勝おめでとう! ヒビト!」

 僕に声をかけてきてくれたのはリュウガだった。

「ありがとう! リュウガは何位だったんだ?」
「惜しくも二位だった」
「僕は正直、リュウガに出会さなくてほっとしているよ!」
「そうなのか? 俺はヒビトと戦ってみたかったけどな!」
「今は絶対、勝てないので戦いたくないです……」

 僕とリュウガは少し会話をした後、お互いに唇をほころばせた。

「おーい! ヒビト!」

 僕の背後からトモが手を振りながら、辺りに響くような大きな声で呼んでくるので振り向く。トモの後ろにはツキナ、リリ、アサガオもいた。

「じゃぁ! 俺はそろそろ行くな!」
「おう! ありがとう!」

 リュウガはそれだけ言い残すと立ち去って行った。気を遣ってくれたのだろう。本当にいい人だ。
 僕がトモたちに近づいていくとトモに肩を組まれた。

「優勝するなんてすごいな! ヒビト!」
「あ、ありがとう! ツキナのおかげで優勝できた!」

 僕はトモにお礼を言いつつ、ツキナに感謝の言葉を述べる。

「そんなことないわよ! ヒビトの実力よ!」
「ありがとう!」

 僕は喜びを頬に浮かべて答える。やっと優勝したと言う実感が湧いてきた。優勝報酬の九尾の狐とはどんなやつなんだろうか……。

「さてさて! ヒビトの優勝を祝してこの後、祝賀会をやります! 参加する人は挙手!」

 リリがそんな提案をしてきたので、全員が勢いよく挙手する。
 祝賀会の場所はたくさんの桜の木に囲まれたログハウスになった。リリが探索した際にたまたま見つけた場所らしい。

「九尾の狐を出してみてもいいか? もしかしたら乗れるかもしれない」
「もちろん!」

 僕の提案にトモたちは同時に返事をして、熱い眼差しを向けてきた。

「あまりじろじろ見るなよ……」

 僕は硬い表情で答える。期待を裏切ってしまったらどうしようと言う気持ちがあるからだ。

「じゃぁ! 行くよ! 九尾の狐、出てこい!」

 僕はストレージに入っていた九尾の狐を実体化させた。すると全長五メートル程で白色の胴体。尻尾はもちろん九本あり、目を金色に輝かせている狐の姿があった。体毛はふさふさで気持ち良さそうだ。

「おぉ! かっこいい!」

 僕たちは同時に同じ感想を言う。僕は九尾の狐にゆっくりと近づいていき右手を胸部に当てる。触った感触は九尾の狐の上で寝転がったら一瞬で眠れそうなくらいふさふさだった。九尾の狐はゆっくりと顔を僕の近くに寄せてくれた。

「よし、決めた! お前の名前はフウラ! よろしくな!」

 僕はフウラの頬を撫でる。フウラは懐いてくれたみたいで、僕の顔をすりすりしてくる。

「よしよし! 可愛いな!」

 僕はフウラを一層、優しく撫でる。

「早速、僕たちを送ってくれ!」

 僕がお願いするとフウラはうつ伏せに寝転がってくれた。僕たちは一人ずつフウラの背中に乗る。

「よし! フウラ出発!」

 僕の指示でフウラはゆっくりと起き上がり、走り出した。フウラは時速六十キロの速度で走っている。
 街にいるプレイヤーは全員、驚きのあまり言葉が出ない様子だ。また有名になってしまうかもしれない……。
 リリが見つけた場所は街よりも少し離れた場所にあり、フィールドを通っていかないといけない。
 歩いていくとモンスターと戦わないといけないので、普通は一時間かかる。たがフウラがフィールドのモンスターを瞬殺する上に車と同じような速度で走るので四分で到着する。

「気持ちよかった!」

 僕は思わず歓声をあげる。

ツキナ
「まるで車でドライブしているみたいだったわね!」
 
トモ
「最高だったぜ!」

アサガオ
「楽しかった!」

リリ
「これから移動には苦労しなさそう!」

 各々で感想を述べ、桜の木に囲まれたらログハウスに向かって歩いていく。
 フウラは専用の星形宝石の中に入っている。この星形宝石はフウラを受け取った時にセットでストレージに入っていたものだ。僕は星型宝石を腰に装備した。

「まずはこの家を購入しよう! 私が代表でゴールドを払うから後で分割分を返してね!」
「オッケー!」

 リリの言葉に僕たちは返事を返す。リリはログハウスに近づいていき、家を購入した。僕たちはゴールドをリリに渡した後、家の中に入っていく。アサガオはこの中で一番最年少の小学生なので、負担額は少なくしている。
 家に入ってみると木製ならではの自然を感じさせる匂いが漂っており、さわやかな風に吹かれているような感覚になる。壁や床もすべすべしていて寝心地が良さそうだ。

「さぁ! 作るよ! ツキリン!」
「そうね! 男組とアサガオちゃんはそこに座って待っていいわよ!」

 リリとツキナは気合を入れると台所で料理を作り始めた。僕たちはツキナに言われた通りに台所前にあるテーブルの椅子に座って料理ができるのを待った。

「トモはイベントの時、誰に負けたんだ?」
「《龍帝》のリュウキだ! 次に戦う時があれば今度は絶対に勝ってやる!」

 トモはショックを受けている様子はなくリュウキに敵対心を燃やしているようだ。

「でもね! ヒビトさん! お兄ちゃん、すんごくかっこよかったんですよ!」
「そうなのか。その話を詳しく聞かせてくれないか? アサガオちゃん!」
「いいですよ!」

 トモはアサガオに褒められて恥ずかしそうに顔を赤らめている。(美人にも弱く、子供にも弱いのか)僕はつい口元がほころんでしまう。

「えっとね! リュウキさんが街を壊しながらお兄ちゃんを攻撃しててね! それをお兄ちゃんがすっと避けて、リュウキさんに少しずつダメージを与えてたの! だけど最後はリュウキさんが大技を使ってきたの! 一回目はお兄ちゃんが避けたんだけど、二回目でばーんとやられちゃったの!」

 アサガオは身振り手振りで必死にイベントで起きた出来事を僕に説明してきた。僕はその姿を見て、天使のように愛くるしく思ってしまう。

「そんなことがあったのか! トモ、ドンマイ!」
「次は勝つ! 絶対、勝ってやる!」
「応援するから頑張れ!」
「おう!」

 トモとアサガオとしばらく話していると完成した料理が運ばれてくる。唾液を誘出させる匂いを漂わせている。

「それではこれから祝賀会を始めます! 乾杯!」
「乾杯!」

 リリの挨拶で祝賀会が始まった。僕たちはイベントの話で大いに盛り上がりながら楽しい時を過ごした。
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