この恋は始まらない

こう

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第七十七話・貴方に赤い風船を。貴女に赤い薔薇を。文化祭一日目。

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 4年目。

 自分のしでかしたことが橘にバレてしまうのが、さらに怖くなった。
 橘は僕を嫌っているだろう、憎んでいるだろう。
 おぞましい男だと、思っているだろう。
 でもそれは、あたりまえのことだ。
 あの一件をただの不幸な事故、コドモの過ちだと信じている彼に、真実など話せるわけがない。
 彼の兄も、死ぬまで僕から離れられない橘のために、真実を隠し通すことを決めたらしい。
 父にも言うなと釘を刺された──どうにも、橘の兄に嫌われたくないようだ。
 ましてや好きだなんて言えるわけがなかった。だって、知られたらきっと軽蔑される。この気持ちは絶対に悟られちゃいけない。
 橘にこれ以上嫌われたら、僕は死んでしまう。
 けれども、好意以外の感情で彼と接するのは難しかった。
 なにしろ僕は性格が悪いのだ。橘にも言われた通り。
 普通の顔をして、橘と何を話せばいいかわからないし、緊張して口が空回り、皮肉や嫌味しか出てこない……これは元来の僕の性格が原因かもしれないけれど。
 でも、僕が冷たい言葉を吐き捨ててしまうたびに、『なんでそーゆーこというんだよ』なんてムスッとした唇を突き出して、僕を睨んでくる橘は可愛い。
 可愛い、可愛い。
 僕はいつだって、橘の背中に天使の羽が生えているように見える。
 この4年間、ずっとずっと橘は可愛かった。
 本当は、その突き出た唇が腫れるくらい吸ってしまいたい。ヒート中は、彼の足腰が立たなくなるぐらいめちゃくちゃにして犯してしまいたい。
 ヒートが終わっても、彼を部屋から出したくない。
 三日間以上同じ家の中にいるというのに、一日たった数回の、ごく普通の交わりでコトが終わってしまうなんて。
 彼の兄がいる家になんて、帰したくない。
 次にまともに会えるのが数か月後も先だなんて、信じられない。
 いっそのこと、このまま家に閉じ込めてしまおうか。金ならある。僕しか鍵を持たない地下室でも作って、橘をそこに突っ込んで──なんて、相も変わらず、そんなことばかり考えている自分の浅ましさに反吐が出た。
 一歩間違えれば、ヒートもなにも関係なく彼を襲い、その身体を余すところなく貪り尽くしてしまいそうだった。

 自分のおぞましい衝動を抑えるために、嗜好品に手を出し始めたのはこの頃からだ。

 橘を求めて寂しがる口が咥えたのは、煙草。しかもスゥッと鼻を突き抜けるメンソール系。
 清涼感のある爽やかなミントの香は、こんな関係になる前に手に入れた橘のリップクリームと、よく似ている香りだった。
 これが一番、橘の唇の味に近い気がした。

 あの頃の思い出に必死に縋り付いて日々を生きる。
 そんな惨めな4年目だった。








 ──────
 淡々と、姫宮視点の最期の章(後篇)が始まります。
 お付き合いいただけると嬉しいです。


 
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感想 7

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みんなの感想(7件)

roanpeltz
2023.06.14 roanpeltz

投稿お疲れ様です。サウナ検定とか遊戯王とか時々出てくるギャグ要素に草。そして最後はやっぱり普通じゃないように終わることまで。みんな仲がいいですね、うん。

こう
2023.06.14 こう

いつも感想ありがとうございます❗
男子は仲良くてちょっと嫉妬してしまいますね。
そこらへんの空気感が女子とは違って書いてて楽しかったです。

解除
roanpeltz
2023.06.03 roanpeltz
ネタバレ含む
こう
2023.06.03 こう

いつもありがとうございます。
水着だからいつもより頑張りました。
よんいち組だけでなく、三馬鹿や準備組も女の子として可愛いですからね。
好きな人がいるなら、頑張りますよ。

よくある水着回。
ラブコメの鉄板から脱線して訳分からなくなりましたが、まあ、よく考えたらこの恋はこんなものですよね。
まだまだ一日目の話は続くのでよろしくお願いします❗

解除
roanpeltz
2023.05.15 roanpeltz

とても面白く読んで感想を書きます。外国人ですので、もし文章が間違っていてもご了承ください。まず主人公が魅力的だと思いました。 まじめに仕事をし、周囲を気にする男。 ハーレムも納得できますね。そしてヒロインたちもいい意味で個性的ですね。 作品序盤と違って次第に性格が変わってきて立体的だと思います。特に麗姫さんは、うん··· またサブキャラクターも好きです。 主人公とファンの交流シーンは毎回面白いですね。サブキャラクターの中ではマリアさんが一番好きです。 はい、需要あります. 普段は別のサイトで小説を読んでいて、最近偶然この作品を知りました。 会員登録をしたのもコメントを書くためです。長文失礼しました。 これからも応援し続けます。

こう
2023.05.15 こう

ありがとうございます。
外国の方だと、自分の日本語の適当さに加えて、オタクの専門用語が多過ぎて難しいでしょうに。
でも、それでも楽しんで読んでもらえているなら、幸いです。

マリアさん……。
あの人の名前が出てくるとは……。
まあ、うん。
メイドさん好きとは、渋いですね。
本当の意味で、メイドの良さを理解出来る人間は、オタクの中でも一握りくらいです。
ヴィクトリアンスタイルのメイド服の似合う良い女は、星のように煌めくメイド界隈を探しても、シルフィードのメイド長のリゼくらいでしょう。
ご主人様に安らぎを。
秋葉原に御立ち寄りした時は、シルフィードの提供する、最高級のアフタヌーンティーを堪能してみてください。
メイド喫茶・シルフィード。
ご主人様に極上の一時を。

シルフィード組は、文化祭編含めて、今後も活躍する機会はありますので、楽しみにしていてください。
ダージリンさんや、アールグレイさんも出ると思います。

感想は執筆の励みになりますので、色々書いて頂けると嬉しいです。
ありがとうございます。

解除

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