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第72.1話・メイドインヘブン
しおりを挟むおまけ
夏休み。
夏休みは、夏休み。
海に行ったり、映画を観たり、祭に行って花火を見る。
青春というものは、学生しか味わうことが出来ない。
「こちとら、クソ暑い日にメイド服を着てるんじゃい!」
ニコは、キレる。
メイドカフェのイベント中。
エアコンを利かした屋内とはいえど、イベント用の一室ではエアコン一基の出力には限界があった。
エアコンくん、夏の暑さに負け。
完全敗北する。
高級業務用エアコンくんですら、勝てるかどうか分からない勝負だった。
何故、人は生きるのか。
ニコは、給仕用のシルバートレイを地面に叩き付ける。
それは、純粋な怒り。
この世の中に対しての嘆きだった。
社会人の夏休み。
今年最大の灼熱の時。
毎度のことのように、埼玉県熊谷市では最高気温を更新している最中、メイド服を着込み笑顔で仕事をしなければならない。
それは、どうしても曲げられぬ。
夏休みとは、コスプレをする人間にとって、最高の稼ぎ時なのだ。
金の為ならば、命を削ろう。
かつお節の如く、身体を酷使させお金を稼いでいた。
メイドリスト。
ニコ含む、アマネとルナは、ヴィクトリアンスタイルの漆黒のメイド服を着込み、笑顔を振り撒く仕事をしていた。
この時。
この時代。
日本には、給仕のみに特化したメイドという職はどこにも存在せず、あくまで漫画やアニメの中のものでしかない。
どれほど願おうとも、メイド服を着た可愛い女の子が、美味しい紅茶を淹れてくれる世界は存在しないのだ。
だが、人は現実のみを見て生きているわけではない。
人は人に対して、とてつもなく冷徹で残虐な一面を持つが、だがその行いが正しいものとは思っていないし、全ての人々が幸せで満たされた世界であればいいと思っている。
紅茶は世界を救う。
コーヒーは世界を救う。
故に、仕事がない土日にはメイドカフェのイベントに参加して、優雅にティータイムをするのだ。
「つらかったら下のコンビニで氷買ってくるからいってや」
「今日みたいな日は、エアコンがあっても、熱中症で死ぬ。おっさんは無理しちゃ駄目」
メイド好きには、三十代が多い。
おっさんに優しいメイドリストであった。
「というわけで。アマネ、氷買ってきて」
ルナは、アマネに吐き捨てる。
「二人がのん気に話している間も、私はちゃんと仕事してるからね!? なんなら、週五で事務仕事してから、アンタ達のイベントに参加しているのに!?」
頑張って給仕している人間に対して、この物言いであった。
テーブル席の兼ね合いで、参加枠は二十人ほどだが、メイド三人で対応するとなると無理がある。
二人は、御主人様やお嬢様と夏アニメの話題で盛り上がっているだけで、仕事をしない。
「仕方ない。救援信号を飛ばそう」
「モンハンの歴史がワールドで止まっている民」
この世にはツイッターという便利な機能があるのだ。
日本人は、助けを求められたら、断れない。
オタクのフットワークの軽さを活かした使い方をしている。
メイドとして給仕が出来る。
ニコは、そんな人間に連絡をするのであった。
ハジメちゃん。
オンナァ!?
いや。しかし、純粋にスペックが高い人間は多い方がいい。
ハジメちゃんならば、顔見知りのメイド仲間も多く、アマネ達よりも男性受けがいい。
表仕事だけではなく、裏仕事も得意であり、紅茶やコーヒーを美味しく淹れられる人材だ。
ハジメの周りには可愛い女の子は多いから、一人や二人でも連れて来てもらえれば一番楽なのであった。
ニコは、スマホ片手で連絡する。
『ハジメちゃん。悪いけど、カフェの人数足りなくて困っているから、他にも手伝える女の子連れて来て……』
こいつ、カス過ぎる。
ニコは、ハジメを介して、可愛い女の子にメイド服を着させるつもりであった。
最近の出番の少なさを、キャラの濃さ。
人間性のカス具合で補う。
可愛い新キャラばかりが目立つ環境で、古参キャラが勝つにはそれしかない。
化け物には化け物をぶつけんだよ。
コスプレ業界では、そういうぶっ壊れた思考回路が必要であった。
呪術師とレイヤーは似ているのだ。
ハジメの友達に、メイド服を着させようとする悪魔。
楽して人材を集めようとするニコ。
普通に考えれば、周りから批難されるのは当たり前だったが、よく考えてほしい。
大人になったら、子供の頃のように恥じることはなくなっていく。
年を取るにつれて、子供のような新しい景色に喜ぶ純粋さも、夏休みに遊び回る元気もなくなる。
私達大人は、大人になると恥がなくなるのだ。
学校でうんこが出来なかった学生時代とは違い、今ならばもりもりと、所構わずうんこが出来る。
アマネの自宅で、アニソンを流しながらうんこが出来るほどに、ニコは己が身の中にある羞恥心を捨てていた。
恥は水に流した。
あの頃の純粋さは、全て捨てていた。
お前は、オタクだろ。
自分の魂に従え。
分かっているだろう。
オタクとは、自分の人生を生きるのが第一。
他人と比べ、他人を鑑みる生き方はしないと誓ったはずだ。
何を恥じる必要がある。
今からでは、新しいスタッフは増やせないし、夏休みにスタッフを雇うと割高になる。
反面、ハジメの周りは若くて可愛い学生さんばかり。
しかも、子供だからか、楽しそうに働いてくれる。
そんな子達が、低賃金で雇えるならば最高だ。
悩む必要などあるまい。
畜生。
外道の極み。
しかし、それが得策ならば、仕方ない。
ニコは、サークルのリーダーだ。
少なからず、アマネやルナの人生を背負って生きている。
休日には家から出ず、知り合いの男の子を推し活している二十○歳喪女。
万年ゴスロリ好きの無愛想クソバード。
二人の社会不適合者の親だ。
雛に餌を上げる必要がある。
ニコは、誰よりもお金を稼がないといけない。
雛たちがピヨピヨ泣きながら口を開けて待っているのだ。
社会人としてはゴミでも、可愛い我が子のようなもの。
食うに困らない人生を歩ませてあげたい。
そう思ったからには、ハジメを利用するしかないのだ。
彼ならば、水に流してくれるだろう。
正当な理由に見えるが。
理由がクソすぎる。
それは、さておき。
メイドカフェのイベントで紅茶を優雅に飲んでいたおっさん達は、ニコを止めなかった。
止める気がなかった。
止める理由がなかった。
ハジメがイベントを助けて、給仕役として参加してくれたら、メイド服を着て、美味しい紅茶を淹れてくれるのだ。
そんなん、紅茶を百杯頼むわ。
ATMで金をおろしてくる所存であった。
それほどに、メイド好きからしたら、嬉しいことはないだろう。
アマネ達は、メイドリストとして人気は高いし、かなり綺麗で可愛いだろう。
他に可愛い女の子がいたとしても、目移りなどしない。
この場に集まったおっさん達は、彼女達の性格こそが好きであり、この空間が好きだった。
ずっと推し活をしていたい。
これからもずっと推し活をするだろう。
しかし、彼等だってメイド界隈の新しい風を感じていたい。
同じラーメンの味では飽きる時がある。
人間は、如何に美味しいラーメンであろうと、同じものをずっと味わっていられない。
如何に可愛いレイヤーさんであっても撮り慣れてしまう。
同じアングルに見えてしまう。
そう、この世で飽きないものなど、ニコが定期的に挑戦する蒙古タンメン中本RTAくらいなのだ。
社会経験がないクソガキが、激辛ラーメンを如何に早く食べるか考察して走るかというだけのクソ動画だ。
だが、それだけは飽きない。
数年間、蒙古タンメン中本だけで飯を食ってきた女だ。
辛すぎて吹き出して、アマネの家のテーブルを汚すまでが様式美になっていたのだ。
イベントの差し入れでは、蒙古タンメン中本のカップラーメンが毎回プレゼントされるくらいに人気である。
再走して。
蒙古タンメン中本RTAから逃げるな。
いっそ、カップラーメンにサインして。
いいからハジメちゃんを呼んで来い。
早くハジメちゃんのメイド服を見せろ。
おっさん達から、リアル投げ銭が飛び交う。
金を払うだけで、ハジメちゃんのメイド服を見れる。
可愛い女子高生よりも、ハジメちゃんだ。
野郎達は、野郎のメイド姿を見たかったのだ。
男の子だっていい。
男の子がいい。
罠でもいい。
罠でもいいんだ。
君じゃなきゃ駄目なのだ。
ハジメでなければ、全員が全員。
ここまで団結し、金を貢がなかったであろう。
……メイド服を着た男の娘には、それほどの魔力がある。
彼は、メイド界隈出身の同じオタクであり、可愛い後輩だ。
成長した今でも驕ることなく、我々を慕ってくれている後輩だ。
未来ある若者の夢を応援したい。
投げ銭というかたちではあれ、彼のためになりたい。
そこには一切の邪な気持ちはなく、全力で応援していた。
ハジメは、男女関係なく好かれている。
根が真面目な男の子は、魅力的だ。
彼が努力している姿は見ていて気持ちがいい。
ハジメちゃんの魅力は、性別の壁を超えていたのだ。
昨日、風夏ちゃんが海で撮っていた写真。
それを見て、皆は歓喜したものだ。
風夏ちゃんの可愛い水着姿。
読者モデルの水着姿よし!
ふゆお嬢様の夏の装い姿。
お嬢様の夏服ワンピースよし!!
水着で、半裸のハジメちゃん。
男の子の半裸よし!!
全てのファンは、感動のあまり歓喜していた。
涙を流し、手を組んで祈りを捧げていた。
それは、絶対に見ることがないもの。
知り合いの高校生男子の半裸。
首筋から胸元。
胸元からお腹。
ハジメの腹筋はガチガチではないが、学生らしく健康的に引き締まっていた。
へそから水着までのライン。
普通の高校生の完璧な得体。
それでしか得られない栄養素がある。
ハジメのフォロワー二十万人が、その写真を見た瞬間に、感動のあまり腰が砕けていた。
人間の目から入る情報は、八割。
生きる為の情報のほとんどは、視覚に依存しているのだ。
タイムラインに流れてきた刹那の裸体。
それは、処理するには情報量が多過ぎた。
何故、そうなったのか。
何故、推しの裸体を見られるのか。
我々はそれほど、徳を積んできたのか。
人には優しくしなさい。
そうすれば、自ずと幸せはやってくる。
おばあちゃんがそう言っていたか。
そう思う暇さえ与えず。
推しの裸体は、我々の脳を焼くのだった。
都内在住の二十代女性は、その時の状況をこう語っていた。
太陽を直視したかのような輝きに、全身が包まれた。
私が知らない感情。
あれは、絶対に母性でした。
自分の中に、人を慈しみ、愛する心があったことに気付かされたのです。
仕事中であろうと言うのに、突如奇声を上げてしまう。
だって仕方ない。
推しは、赤ちゃんなのだ。
推しに母性を感じたならば、ママになるしかない。
ファンの狂気度はいつものこと。
好かれているのは異常者ばかりだったが、東山ハジメは名実ともに小日向風夏ちゃんに匹敵する読者モデルであった。
本人は、他人に対して警戒心がなく、右も左も知らないような赤ちゃんではあるが、みんなに好かれていた。
フォロワー二十万人とは、なろう系異世界にある国の総人口に匹敵する。
それほどの数の男女が、ハジメの水着姿に興奮。
いや、それ以上の感動。
その言葉をオタクとしての最大級の敬意を払い、こう表現しよう。
そう。
メスイキしていた。
この場には、未成年男子に性的嗜好を持つイカれた女性ファンはいないが、普通のハジメのファンは多くいた。
しかも、生粋のメイド好きしかいない。
ハジメちゃんにメイド服を着せたい。
その一心で団結していた。
別に性的興奮を覚えているわけではない。
ただ、ハジメちゃんのメイド服が見たい。
彼等を突き動かすのは、純粋な願い。
人としてのモラルがあったならば、オタクをしていない。
メイドを推していない。
数十種類ある紅茶の名前を覚えていない。
俺達オタクは、高い金を払ってでも、現役高校生のメイド服が見たいのだ。
数千円する高級な映画館に需要があるように、彼等からしたらそれほどの価値がメイド服にはあるのだ。
性癖は、人間の持つ三大欲求。
ご飯を食べてるように。
寝るように。
如何に誤魔化そうと、自分の性癖を隠すことなど出来ない。
彼等は、ニコが引く、引き金の軽さを知っていた。
人は、性癖には勝てぬ。
故に、あのアマネですらニコの悪行を止めなかった。
アマネは、成人女性特有の澄ました綺麗な笑顔をしていたが、内心は大船に乗った気分で喜んでいた。
ニコに任せれば、九分九厘ハジメちゃんは手伝いに来てくれるだろう。
そう確信していたのだ。
ルナは、ぼそっと毒を吐く。
「アマネが呼んだら、ぜったい来ない……」
アマネからの呼び出し。
相手がアマネだ。
裏しかない。
数珠つなぎマジックミラー号の企画の可能性が微レ存。
「なんで私が呼び出す方なのよ!」
そんなことはしないから、来てくれる。
いやいや。
呼び出すのがハジメちゃんってところ以外は、完璧なんだよなぁ。
アマネへの信頼がゼロってところに目を瞑ればなぁ。
「まあ、アマネは常日頃から、そういうことしそうじゃん」
「んだんだ」
高校生の男子に迫られる。
女の子向けエロ漫画ではよくあるご都合主義の展開だが、このアマネ。
襲われる側より、襲う側である。
服を脱がされるのは、私ではない。
ハジメちゃんだ。
女の子は、みんな肉食動物。
可愛い顔したアライさんなのだ。
平日は事務処理。
休日はメイドのアライさん。
見た目に騙されてはいけないのだ。
特定外来生物なのだ。
他の女にも言えたことだが、ハジメの周りには色物が集まっていた。
女の子の癖が強過ぎる。
男の子に守られるだけの女の子じゃない。
強くて可愛い女の子である。
プリキュアみたいなことを言っていやがるが。
……そのせいで、一番苦労している男の子が眼の前にいる。
まあ、なんだ。
この子のことは許してやって欲しい。
アマネは、この歳まで彼氏も作らず、社会の荒波にまみれ、たまの休みに宝石の女王のコスプレをして喜んでいる可哀想な娘なのだ。
乙女心を拗らせた分だけ、不可解な言動をするけれど、本当は悪いやつではない。
いいやつでもないけど。
「おはようございます」
ハジメは、連絡をもらってから一時間ほどで現地に到着した。
夏休み中ということもあってか、事務所の仕事がたまたま休みだったのだ。
だから、家で準備を済ませてすぐに集合出来た。
ドアを開けたら、視線がハジメに集中していたのは謎だったが、周りの者はメイド界隈の人間や、SNSを通じて付き合いがある人達だった。
ハジメからしたら、顔見知りばかり。
途中参加でも、アウェイ感はない。
おっさんの中には、サークル初期からの付き合いがある人もいる。
年齢関係なく、気が知れた仲である。
ハジメは、テーブルに座っている人達に軽く挨拶を交わし、アマネ達に話し掛ける。
「困っているって聞いたから来ましたけど、何をすればいいんですか?」
内容を深くまで聞かずに、すぐに駆け付けてくれた。
イケメン。
行動力がある上に、人を疑わない。
ハジメの人の良さが垣間見える。
しかし、そんなものは他人を気遣えない人間には無駄である。
「ハジメちゃん、ありがとう。メイド服に着替えてきて」
ニコは、ハジメにメイド服を手渡す。
「は?」
「だってぇ、テーブル数に対してメイドの数が少ないのよ~。ハジメちゃんありがとう……」
「だったらテーブル減らせよ」
ハジメちゃん、マジレスやめて。
いや、マジでテーブル減らせ。
目がそう語っていた。
ニコに対してあたりが強いのではなく、事務処理をしている社会人としてのマジレスだった。
予約数の関係で、このテーブル数じゃないと予約が回らなかったのだ。
みんなには、私達のイベントに参加してほしい。
その思いに嘘偽りはない。
仕方なし。
断じて、お金に目がくらんだわけではない。
「夏祭りやコミケ、一番くじで豪遊してた」
「あ?」
「違うのさ!?」
お金は重要だけど。
それは嘘じゃない。
三人では回らないテーブル席では、おっさん達で座談会している。
「金返してやれよ……」
ニコ達の資金繰りが厳しいのは理解したが、そんな奴等から金を取るなよ。
可愛い女の子とお喋りしたいはずなのに、高い金を払っておっさんの憩いの場になっている。
イベントの参加費はけっして安くなく、一枠あたり数千円だ。
可哀想やろ。
これもう、合法的なおやじ狩りだ。
おっさん達曰く、この手のイベントは、カメラマン同士の交流会でもあるので構わないそうだ。
喋る内容も、最新機種の一眼レフカメラのことや、新しいレイヤーさんのことも話したりする。
イベントの話ならまだしも、関係ない内容をアマネさん達にするのは忍びない。
それに、若い子達の方が、メイドカフェを楽しみにしている。
アマネさん達と会話をしたいだろうし、せっかくメイド界隈という狭い場所に来てくれたのだ。
俺達よりも楽しんでほしい。
……聖人か?
「ほら、ああ言っているし」
「いや、他人の善意を利用しないでくださいよ。……なんか、オタクの人は、あんな人多いっすよね」
「みんな優しいからねぇ。うちらの界隈は、平均年齢上がりつつあるから、そこだけは深刻な悩みなんだけどねぇ~」
二人は、おっさん達の温かい目を見て引いていた。
「ちなみにハジメちゃん。他の子は?」
「ああ、他の奴等は、外で待ち合わせしてるんで、もう少し後で来ます」
「ほえ~、風夏ちゃん?」
「いや、違います」
ハジメがクラスのグルチャで呼びかけしたところ、近場のカフェ巡りをしていた橘さんと佐藤が釣れた。
あとは、同じく家で暇していた麗奈を誘ったので、今回のお助けメンバーは四人だ。
珍しい組み合わせではあるが、変に誘って、中野……変なやつを連れてくるわけにはいかなかったので、これくらいでいいだろう。
他のクラスメートも反応がよかったから、もしかすると少しくらいは顔出ししてくれるかも知れない。
「明日香ちんと、佐藤くんかぁ。有り難いわぁ。秋月さんってどの子? アタシ、見たことある??」
「会ったことありますよ。これくらいの身長で、ゆるふわヘアーで、ハンドルネームが麗奈って人です」
「……ああ、あの子」
悪名高き。
いつも、ハジメのつぶやきに即反応する。
高速の超反応。
ああ、あのハジメちゃんのストーカー。
いや、彼女です。
常人以上の反応速度。
ハジメちゃん推しじゃなきゃ、見逃しちゃうね。
何系統の能力かは分からないが、彼女からは強い念を感じる。
すぐに、ハンター✕ハンターに紐付けするな。
「へぇ、彼女だったんだ。ずっとハジメちゃん大好きbotだと思っていたわぁ」
「そんなもんあってたまるか」
毎日風夏ちゃんのイラストを上げる。
風夏ちゃん大好きbotがよくいうものである。
ハジメのイラストを上げる速度が速すぎて、AI絵師と殴り合いしていた。
物理で分からせる。
そんな主人公はこいつくらいである。
麗奈は、場所が分からないであろう橘さん達を回収したら、合流してくれる。
その間に、ハジメはメイド服に着替えてくれ。
「いや、ウィッグとか、靴とか持ってきていないですよ」
アマネは、意気揚々と道具を取り出す。
「大丈夫、ちゃんと準備してあるわ」
一番大丈夫じゃない人が、大丈夫とか言わない方がいい。
「何で、常備してあるんだよ……」
「ハジメさん達がいつ来てもいいように、準備をするのが私の仕事だもの」
青春漫画かよ。
来るか分からないやつの為に、予備のメイド服やウィッグ。革靴を持ってくんな。
キャリーケースに、クソ重いものを入れて持ってくんな。
アニメや漫画ならば、その場に予備がたまたまあったで済まされるご都合展開だが、リアルにやるな。
ハジメは、引いていた。
持ってきている人間がアマネだからか、全く意味が違ってくる。
そこには優しさはなく、私利私欲の為の行動力であった。
アマネの異常性を、より強調させていた。
……よく考えてくれ。
他のメンバー用のメイド服がある時点でおかしい。
そこにツッコミを入れないあたり、ハジメもまた、メイドリストなのだ。
「アタシ達だけでも、メイド服は何度も着替えるもんね?」
メイドカフェとはいえ、半日丸々仕事をするのだ。
一日の枠は、幾つもある。
一日中同じメイド服を着ていたら、フルでイベントに参加している人が飽きてしまうだろう。
撮影時間に、ファンを飽きさせない為、可愛いメイド服を定期的に着替えながら仕事をするわけだ。
ニコは、優しい。
その優しさは、天井知らずや。
メイド服を着替えれば着替えるだけ、オタクから金が絞り出せる。
いい話じゃなかったの?
なんで、金の話しかしていないのか。
「……あの、何着も着替えを持っていることにツッコミすべきか、フルでイベントに参加しているオタクにツッコミすべきか悩むんですが」
夏休み。
今年一番の暑い日だ。
そんな日に一日フル枠である数万円も払って、朝から晩まで椅子に座る。
死ぬまで紅茶を飲む。
頭おかしくなるわ。
十数杯目の紅茶で、初めて飲むが如く優雅にティータイムをするな。
高い金を払って、飲むなよ。
お金の価値は俺が決める。
時間が許す限り、何杯でも頼むつもりだ。
名も知れないファンは、そう言いたげにしていた。
イベント前日まで、仕事がつらくて、夏バテで温かい食べ物は食べられなかった。
しかし、今日は万全を期してイベントに参加した。
体調は、すこぶる元気だ。
この日の為に生き、頑張ってきたのだ。
メイドさんの御主人様になりたい人生だった。
……意味が分からない。
誰だよ、お前。
知らない顔である。
延々と自分語りをしていた。
オタクの狂気度とは、一般人には計り知れないものだった。
あのハジメですら、引いていた。
そこまでして人生を楽しまないと、大人はやっていけないのだろうか。
「んじゃまあ、ハジメちゃんはアマネと一緒に準備をしてきてよ」
「えっ。また、アマネさんっすか」
アマネがハジメの化粧を担当するとか、コミケの二の舞いになりそうだ。
常日頃から、ハジメのことを性的搾取している。
しかも、この頃のアマネは理性のタガが外れているから、男のハジメでもどうなるか分からない。
「まあ、頑張って」
「他人事……」
襲われるのはハジメだけだ。
助けたところで、ニコには不利益しかない。
発狂したアマネとか、化け物でしかない。
ニコですら止めることは難しいだろう。
アタシは、仕事が忙しいから無理。
いや、仕事してないやん。
メイド服を着て、給仕をせずにシルバートレイを叩き付けた人間の言葉とは到底思えないものであった。
「いやいや、シルバートレイは比喩表現だし、メイドの命と呼べるシルバートレイを地面に叩き付けるわけないじゃん」
叩き付けてたわ。
一同騒然。
平然と嘘を付くな。
メイドの風上にも置けないやつが。
「メイドとは、心で誓うもの! このニコは、寝ても覚めてもメイド服を愛している!! シルバートレイを叩き付けたとて、メイドとしての誉れが失われるわけではない!!」
なにいってんの??
お前如きが、メイド服の何を理解しているというのだ。
おっさん達の方がメイド服を愛している。
野次が飛んでくる。
直接的な罵倒はアルファポリスのコンプライアンスを意識してか、韻を踏んで罵倒をする。
勝負は、そう。
ヒップホップで決めるしかない。
ラップバトルだ。
「ルナ、マイクを!」
「めーん」
「このテンションなんだよ……」
ハジメからしたら、メイド界隈。
住み慣れた古巣に戻ってきたはずなのに、変な疎外感があった。
夏休みに実家に帰ってきたかのような感覚だ。
いや、実家住みだったわ。
とはいえ、なんか下手に絡んでも面倒なので、ニコ達のことは放置する。
ハジメは、騒がしい間に着替えることにした。
それからしばらく。
麗奈や明日香。佐藤達。
他のメンバーも合流し、ニコの貸し出したメイド服に着替える。
メイド服三人、裏方一人。
自然な流れで女装枠に入っているハジメはさておき。
秋月麗奈と、橘明日香のメイド姿。
二人の女の子は、高校生らしい若々とした可愛さがある。
ツヤツヤしている。
リアルJKの肌質。
二十○歳がババアに見えるくらいの若々しさである。
ベーシックな黒色のメイド服だというのに、色鮮やかであった。
いい匂いしそう。
高級感溢れる甘い匂いは、ヘアサロン御用達の高級シャンプーだろうか。
いや、女の子特有の匂い。
くそきも。
「はぇ~、メイド服なのに水着みたいに布面積少ねぇ~」
ハジメ。
作中一番の笑顔であった。
お前の目には、メイド服が水着姿に見えるのか。
手首以外の肌など見えないのに、谷間が見える水着のように歓喜していた。
水着姿は堪えられたが、メイド姿は堪えられない。
だって、こいつはメイドリスト。
魂に刻まれた性質。
それに抗う術を持ち合わせていない。
う~ん。
えっちである。
暑い夏。
今の時期だから見ることが出来る姿だ。
生地が薄い夏用のメイド服。
全身は黒い衣に包まれているが、その実涼しい。
夏用のメイド服は、水着と同じく、夏だからこそ、それを楽しめるのだ。
……夏の訪れを感じさせる。
風流である。
夏の風。
風鈴の音色に合うのは、麦茶とメイド服だ。
このメイド服は完全にやっている。
細部まで作り込まれている。
製作者の並々ならぬ情熱が垣間見える。
これは、愛だ。
「シルフィードのメイド服は、いつ見ても素晴らしいものだ」
「え、なんで製作者の区別が付くの!?」
頭おかしいから。
オタクとは、異常者の集まりだ。
ハジメが如何に有名になり、成功しようとも、オタクである限りはイカれているのだ。
雑草よりも逞しく生きている。
メイドが大好きで、数万円も払って茶をしばいているオタクの気持ちなんて分からない。
普通の女の子である明日香には、分かるわけがない。
あの心優しき橘さんが、冷ややかな目をしていた。
メイドカフェ。
それは、人を狂わせる。
くそドン引きされている中で、女の子の格好をして、わくわくしているハジメであった。
黒髪ロングのウィッグを被り、大人の女性の化粧をしている。
喋らなければその可愛さは、随一なのだが、駄目だ。
見た目のダウナーさに反して、落ち着きのなさは風夏ちゃんを彷彿とさせる。
恋人に似たのか。
人間、共に過ごす時間が長いと、好きな人の癖を真似るらしい。
「私には似ないけど?」
麗奈、キレる。
好きな人だよね。
私には全然似ていないけど。
何故、女という生き物は簡単にブチギレるかね。
いや、別にそこで競うものではない。
というのか、貴女の言動に似たら大概やばいのと、麗奈の似てきている大半はハジメママ寄りだから。
簡易母親を相手にしているようなもの。
説明が面倒だ。
「……うっす。仕事すっか」
ハジメは、にげる。
自分の責任から逃げるな。
ハジメ達が話している最中にも、メイドカフェの時間は過ぎていくのだ。
早くしないとおっさんの紅茶が冷めてしまう。
大層ご立派な理由を並べるが、ハジメは逃げているだけだ。
適当なハジメとは対照的に、佐藤は自分のエプロンの紐を締め直す。
「やるからには、世界一美味しい紅茶を淹れるから任せろ」
あらやだ、格好いい。
イケメンが淹れる紅茶は美味しい。
佐藤は、馬鹿だけど。
紅茶を淹れる指しか付いてない男だが、この時ばかりは頼りになる。
佐藤は、数々のカフェを巡り、勉強をして経験を積んだ。
限られた道具でも、その茶葉の最高のポテンシャルを引き出し、美味しい紅茶を提供出来る。
最近では、シルフィードでの厳しい特訓を経て、一級メイド検定を持つ、リゼと同等の紅茶の味を出せるまでになっていた。
今から一年後、紅茶マイスターの資格を取るに至る。
「……はぁ、紅茶を淹れるしか脳がないの間違いだけどね」
せやね。
最近の佐藤は、紅茶の話しかしないから心配であった。
だがまあ、毎日紅茶を飲んでいるハジメや麗奈であっても、美味しい紅茶を淹れるのは難しいし、紅茶に詳しく、美味しく淹れることが出来る。
それもれっきとした才能と呼べるものだ。
現に佐藤がいれば、安心して裏方を任せられるから、ハジメ達は表の作業に集中すればいい。
佐藤は、裏での紅茶に専念し。
ハジメ達は、ニコの指示を聞き、一人ずつテーブルに付く。
優しく迎い入れてくれた。
オタクとはいえ、年上の社会人ばかりだから、別にこちらから話を進めていく必要はなく、テーブルで話している会話に軽く乗っかるだけでいい。
仕事や趣味。
他愛ない話から、少しずつ会話を広げていく。
コミュ力おばけの麗奈や明日香からしたら、何の苦もなく行える。
クソ陰キャのメスガキと化したハジメ以外は、簡単であった。
女の子に生まれたからには、世渡り上手な会話スキルは必須である。
ぼっちちゃん。
陰キャのハジメ。
それを見兼ねたファンが提案する。
「アニメの話でもする?」
メイドカフェ。
アニメの話で盛り上がる。
それならば、生粋のオタクならば会話に入ってこれるわけだ。
ハジメは基本的に、ジャンプ漫画好きだし付いてこれるだろう。
わくわく。
久々のオタクトークに、ハジメは目を輝かせていた。
ハジメの立場上、いつもはまとめ役だ。
クソガキとは言われていても、自分がしっかりしないといけない。
みんなの行動を気に留めている。
それに加えて、周りの人間はアニメとは関係ない一般人や、ファンとの会話ばかりだ。
ハンター✕ハンターや、ちいかわの話を日夜しているわけではない。
一般人に長々とアニメの話をしていたら、頭がおかしいやつだ。
ユーチューブで延々と漫画やアニメの動画を上げているから、そう見えるだけで、ハジメの周りにはアニメ好きは少ない。
その点、年上のオタクだと、話題を融通してくれる。
どれほどハジメの精神が大人だろうと、中身は子供なのだ。
アニメの話をしたい。
ハジメちゃんは語りたい。
わくわく。
やべ、最近のハジメちゃん可愛過ぎる。
高校生って純粋だな。
社会の荒波にもまれていない。
しかも、女の子にはない素直さがある。
コスプレ業界では、可愛い女の子は数知れずだが、野郎の趣味嗜好を理解している女の子は多くはない。
ハジメは、久々にジャンプ漫画の話を出来て喜んでいたが、俺達も嬉しいのだ。
トリコの話が出来るメイドなど、世界どこを探してもハジメしかいない。
トリコの十五周年を祝うあたり、この子おっさんなのではないのか?
ユニオンアリーナにアニメ版トリコが参戦して喜ぶ高校生なんていない。
親父の影響を受けている。
親のジャンプ漫画を見て育ってきた世代だからこそ、古い漫画が好きであり、懐かしいのである。
可愛い。
ハジメちゃんがオタクになった背景を知ると、愛着心が湧いてくる。
最近では、恋愛漫画や可愛い女の子のアニメが流行っているが、そんなもん男の子には不要であった。
友情努力勝利。
男の子はね、格好いい能力や、セリフが好きなの。
命を刈り取るかたちをしているの。
血みどろになるまで殴り合い。
男キャラしか登場しない漫画。
豪華男性声優陣が、最高の演技を繰り広げるアニメ。
最強を目指したゆうえんち。
正しく、それに恋い焦がれていた。
男として生まれたからには、地上最強の男に憧れる。
最強になりたくないか。
日本人であることに誇りがあるのか。
男であることに感謝しているか。
ハジメの担当するテーブルは、熱気に包まれていた。
アホ。
ツッコミ役が不在。
どう考えてもボケしかいない。
萌花ちゃん連れて来い。
もえぴしか流れを変えられない。
夏休みは休みだぞ。
金を貰ってでも、子守りなんかするか。
子守not萌花。
……夏旅行のせいで、一度も顔を合わせてくれないのであった。
萌花ちゃんは、長期休暇中である。
ノー東山ハジメデー。
あんなアホな人間を毎日相手にしていたら、まともな人間は割を食う。
萌花が嫌がる理由も分かる。
麗奈もいると聞いた瞬間に、行くわけねえだろ、死ねや。
即答していた。
そんな中、秋月麗奈は、他のテーブルで会話をする。
今どきのゆるふわ系高校生からしたら、おぢ様と話題が合うとは思えなかったが、B級クソホラー映画をこよなく愛する女の子だ。
B級クソホラー愛好家。
……麗奈。
皆、どこかで聞いたことがある名前だった。
彼女はそう、ツイッターでよく、ホラー画像付きで映画評論をしていた。
名前だけは知っている者は多く、こんなに可愛い女の子があの麗奈ちゃんだったとは誰も思わなかった。
メイド服がとても似合う。
おっぱいも大きくて、だけどメイドさんにえっちな目を向けるのは失礼。
そう思えるくらいに、メイド服が似合っていた。
中身を知るまで疑わなかっただろう。
可愛い皮を被った化け物。
狂人やんけ。
麗奈はそれを活かして、映画の話をする。
おっさん達は、グロシーンを嬉しそうに語る彼女に戦々恐々していた。
ピクミン感覚で人が死ぬ話が飛び交う。
彼女の語る話がグロ過ぎる。
血と肉が飛び散る。
痛みと叫び。
キラーに襲われる恐怖。
助かることのない絶望。
そのイメージだけで、ちいかわおじさんが下を向く。
ワッ。
吐いちゃった!
麗奈ちゃんは、メイド服を着た悪魔だ。
人の皮を被ったSCPである。
人間の本質が他人とは違うのだ。
笑顔の意味が違う。
恋愛映画で感動するよりも、人が殺される映画に笑顔の価値を見出していた。
はあはあ。
人が死ぬ瞬間の輝きほど、美しいものはない。
この場には、ただただ可愛い女の子など存在しない。
メイドリスト然り。
彼女は、ハジメの知り合いだ。
根本からイカれているのだ。
おじさんは、最近の若い子の気持ちが理解出来なかった。
ハジメちゃんのファッション雑誌を見て、女の子の気持ちを勉強すべき?
そんなんで出来るわけがないだろうが。
オタクだからか、みんなどこか天然であった。
あと、理解したらまずい。
深淵を覗くことにより、発狂ゲージが溜まる。
いや、考えてみてくれ。
サイコメイドも、ありよりのあり。
なるほど。
今までにないジャンルだ。
試してみる価値はある。
冬コミはそれで同人誌を出そう。
オタクの目の前に、新鮮ネタが降ってきた。
新しい嗜好に価値を見出すな。
その新鮮さは、血生臭さいものだろうが。
精神異常者を他人に広めるな。
親しみやすいジャンルじゃないのだ。
だからこそ、タイトルはそう。
メイドさんは、狂気りたい。
あるある題名で、一般人の危機感を鈍らせる緩衝材にする。
メイド界隈。
風向き、変わりそうね。
よくわからないけれど、みんな楽しんでいた。
それから数時間、休みなく働き続けると、イベントの終わりが近付いてくる。
ニコは、みんなに呼びかけるように大きな声で話す。
「じゃけん。じゃんけん、しょうぜえ! じゃんけん!!」
唐突に始まるじゃんけん大会。
数十人で、じゃんけんするのか。
どう考えても、この人数でやったらグダグダになるだろう。
あと、景品は?
そんなもん後から決めればいい。
私は、今、じゃんけんがしたいのだ。
ニコは、力説する。
全員グーを出そうぜ。
会場の全員は、殴り合いをする気満々であった。
アマネは、誰よりもしっかりと拳を作っていた。
拳の中に空気の入る隙間なくゆっくり丁寧に握るほど、殴った時の威力は高くなるのだ。
刃牙で出てきた知識である。
「純愛かぁ……?」
いいから司会進行をちゃんとしてくれ。
みんな、遊びに来ているが、暇じゃないんだよ。
「わかった。わかった。じゃんけんと言えば色紙大会ね。ハジメちゃん描いて」
「脈絡ねぇよ……」
「絵が上手い人が描いた方がいいでしょ。みんな欲しがるほど上手くないとね」
「いや、あっちに壁サークルの人いますよ」
メイドスキーさんが、壁際で優雅に立っていた。
舞踏会の端で静かにしている王子気取りかこいつ。
二十代後半でありながら、実績があり、イケメンで絵が上手い。
メイドジャンルの商業誌作家で、メイド好きのほとんどは、彼にお世話になっている人が多い。
この業界の重鎮である。
「アイツのサイン欲しがる人とかいないから」
「……言葉を選んでください」
価値がない。
いや、アニメショップに売ればちゃんと価値はあるのだが、メイドスキーの絵を家に飾りたくないのだ。
色紙を見ているだけで、このサインを描いた本人のどや顔が出てきてムカついてくる。
メイド界隈の面汚しだ。
何にせよ、メイドスキーには色紙を描いてもらわない。
アマネ達、ハジメとスタッフで寄せ書きを描いて景品にする。
流れ的に、麗奈や明日香も書かされた。
ニコは、その色紙を見て、何を思ったか長考していた。
「じゃあ、一万円から」
いや、じゃんけんしろよ。
……じゃあって何だよ。
価値が付くと分かった瞬間、オークションを開くな。
メイドリストやハジメちゃんのサイン色紙はたくさんあるが、麗奈ちゃん達が名前を書くことはないだろう。
世界に一枚の色紙。
しかも、可愛い女の子のサインがたくさんある。
そんなん売るわ。
三万。
メイドスキーさん?!
三本指の男。
聞きしに勝るクソ汚い大人であった。
メイドスキーたるもの、メイドに糸目は付けない。
金で解決するなら、この命、安いものだ。
やっていることが外道のくせに、イケメンの面すんな。
狂い火やんけ。
……こいつ嫌われるわ。
全員の意見が一致した。
業界の中では、イケメンで絵が上手いから持て囃されていたが、他人に好かれる生き方をしていない。
同人作家だから、自分の感情に率直なのはまあいい。
それがオタクだ。
しかし、お前のせいで高校生が引いているんだよ。
少しくらいは空気を読め。
なんでぇ。
ちいかわやめろ。
高校生にも読んでもらえる漫画を描いているくせに、よく商業誌の作家が出来るものである。
「人間は、他人に好かれる為に生きてないよ。自分の幸せの為に頑張っているんだよ」
誰よりもメイドが好きだ。
愛している。
だからメイドスキーと名乗っている。
だが、別に他人に自分の絵を楽しんでもらいたいわけではない。
漫画に限らず、クリエイターとは、好き勝手にしている。
自分の道を生きているだけだ。
読者に合わせ、見たい展開を描いていたら、詰まらなくなるのだ。
天才が故に。
凡人の世界に合わせるなど、出来るわけがない。
色彩豊かな世界。
全ての理が、自身の才能の糧となる。
そもそも生きている次元が違うのだ。
普通という幸せを噛み締め、のうのうと生きているファンの女の子なんて、呪力を持たない猿にしか見えない。
メイド服を着ても似合わなそうな女の子なんて、全員モブ顔にしか見えない。
だから、お前は嫌われるんだよ。
野郎達から、強烈な野次が飛ぶ。
メイド界隈の恥であった。
繊細なタッチでメイド服を書き込む才能がなかったら、とっくに殺されているだろう。
こんなアホじゃなく、ハジメちゃんがもっと活躍してくれたら、メイド界隈は活気立つのだが。
「いや、メイドスキーさんには絶対に勝てないので」
ハジメは謙遜していた。
性格はあれだが、才能は桁違いに高い。
そして、どの業界であれ、時代を切り拓いてきた先駆者は敬うものだ。
今までのメイド界隈は、少なからずメイドスキーさんが居たから、新規オタクが増えてきたのである。
功績を称えるべき先人を、性格がゴミカスだからってパージしようとするものではない。
コミュニティとは、長年培われてきたもの。
今ある伝統と文化を大切にすべきである。
ニコは言う。
「そんなに怖いか。新時代が」
「……いや、シャンクス構文使わないで」
メイドスキーは呟く。
「なるほど、新しい時代の幕開けか」
「お前のせいだろうが!?」
二人は、かなりの馬鹿であった。
ハジメを囲んでやり取りをするな。
一般人がいる中で、オタク特有の気持ち悪いノリをしていた。
麗奈や明日香を筆頭に、意味が分からない。
いつまでこのノリを味わうのだろう。
精神的な地獄だ。
クソくだらないじゃんけんを長々とした結果、名もなきおじさんに色紙が当たる。
色紙をもらい、嬉しそうに涙ぐむ。
誰だよ、お前。
大半がそう思っていただろうか。
「ありがとう。ハジメちゃんほどの有名人の色紙とか初めてだよ。大切にするねえ」
「……いや、貴方も壁サークルですよね」
コミケや委託合わせて数万部を売り上げるメイド同人作家から、有名人相撲を取らされるハジメ。
こちらがコミケで段ボール一箱。
数十冊の同人誌を頑張って売っている最中、ダース単位で販売しやがる。
化け物だ。
おっさんの見た目に騙されてはいけない。
メイド同人作家たるもの。
メイド服のフリルやレースを生きているキャラクターのように感情豊かに表現出来てこそ。
彼は、超が付く一流である。
さざなみのフリル使い。
おっさんの指先から描かれるメイド服。
それは、ファッションデザイナーのように、一切の妥協は許されない。
世界で一番美しいメイド服。
夜に輝く彗星のように。
人を魅了する芸術品だ。
彼が描くメイド服ほど、美しい洋服は存在しない。
私のデザインを読者に見てほしい。
漫画の細部まで書き込まれたメイド服には妥協はない。
一ミリの狂いもなく、丁寧なタッチで筆を扱うのだ。
メイドリストだ。
……もれなく彼もまた狂っていた。
狂うほどに愛している。
愛は世界を救う。
メイド服には、戦争を止めるほどの魅了があるのだ。
そんな同人作家さんに、自分の色紙を喜んでもらえるのは喜ばしい。
ハジメの描くメイド服は、彼の繊細でいて細かく表現された美しさを少なからず参考にしていたのだ。
しかし、素直には喜べないのだった。
「いや、そう言われても……」
「ハジメちゃん。僕達は、生涯現役の同人作家だ。病床に伏す時でさえ、ペンを握り続け、死ぬまで美しいメイド服を描くだろう。……だから、君の絵の素晴らしさは理解しているつもりなんだ」
おっさんになるまで、数百、数千枚以上もメイド服を描いてきた。
来る日も来る日も。
血が滲むほどにペンを握り続ける。
彼女に向けた恋文のように、絵を書き続ける。
愛する気持ちを失うことはない。
彼等からすれば、メイド服とは愛の結晶なのだ。
この手は汚れていたが、何よりも美しい。
オタクとしての夢があった。
オタクとしての未来があった。
だが、それはもう、遠い昔の話である。
想いは消えずとて、身体は衰えてきている。
心はぴょんぴょんしなくなっていく。
夏アニメを追うのもつらい。
人間も動物だ。
如何に情熱があれど、老いには勝てない。
だからこそ、未来ある若者に夢を託し、道を譲るべきだと思っていた。
「ハジメくん、メイド界隈を頼むよ」
握手を交わす。
どこにでもいるようなおっさんの手が、妙に大きく感じてしまう。
ペンを握ることでペン豆が出来た薄汚れた手。
その価値をハジメは知っていた。
同じ同人作家の手だからこそ、違いがわかるのだ。
「なんでいい雰囲気出しているんですか」
パチパチ。
会場のみんなは、温かい拍手をする。
感動のあまり、涙する者もいた。
おっさんの本気の涙が見れる。
みんな、涙腺さえ衰えていた。
物語が始まる前。
二年以上前からハジメを知る者。
ハジメが漫研部で最初に作ったコピー本を持っている者。
ロイヤルメイド部が一人の時からの付き合い。
ハジメが活躍し始めたのは最近だったが、その大半はそれより以前と、付き合いはかなり長く、まるで弟や後輩のようにハジメを大切にしていた。
有名になったハジメちゃんしか知らない人もいる中で、彼の成長をずっと見てきたのだ。
普通の高校生。
絵を知ったばかりで、自分の絵の酷さに挫折しつつも、輝かしい目でオタクの世界に夢を見ていた。
若さとは無謀だが、無謀だからこそ、どんな未来もある。
そんな一人の男の子が、成長していき、同人作家としてこの時初めて漢になったのだ。
まるでそれは。
例えるならば、先人から槍を受け継ぎ、若人が部族の戦士になるように。
大人になる為の通過儀礼が行われていたのだ。
戦闘民族。
力こそ男の象徴。
戦士としての勇ましさや、度胸で男の価値を決める。
時代錯誤な価値観だが、男にとってそれは何よりも価値がある。
マンモスを狩る為に、勇敢さが求められるように。
先人達の意志を受け継ぎ。
その夢をもっと熱く、心を燃やすように、後世に残していく。
全ての道は、一つに繋がる。
そう、それが男の子に生まれるということだ。
オタクの魂が大きな炎となりて、天高く燃え盛る。
任されたものの大きさに、心臓が脈打つ。
男の子は、誰しも心の中に立派なイチモツを持っている。
昂ぶる感情。
これが、勃起だ!!
「……意味わかんねぇな」
うんうん。
ニコだけでなく、他の女の子達も頷いていた。
世界の半分は女の子なのだ。
野郎だけの空間ならまだしも、軽々しく、勃起いうな。
こちとら、高校生がいるんだよ。
可愛い女の子に勃起言ったらセクハラなのだ。
ツイッターのノリで発言しないで欲しい。
この世界にいるのは、男の子だけではない。
数十人集まっているイベントで馬鹿をやるな。
男の子は、頭が空っぽ。
何歳になっても、高校生のノリで生きている。
楽しければ許される。
女の子には一生分からない生き方だ。
馬鹿しかいないが、女の子はその馬鹿さ加減にどこか憧れてしまう。
上下関係さえ存在しない。
しがらみのない世界。
アマネは、学生時代に戻ったかのような懐かしさを感じていた。
少し、昔の自分を思い出す。
青い空に、白い雲。
ああ、そんな時もあったと。
昔の自分を懐かしむのだ。
「……アマネは陰キャ。そんな淡い思い出はない」
「卒アルに書き込みなかったやんけ」
「○すぞ」
明日もこのメンバーでメイドカフェをするという事実に、一人戦々恐々していた明日香ちんであった。
「明日、家から美味しい茶葉持ってきていいですか?」
暢気に美味しい茶葉を仕入れる約束を結び、楽しそうに茶をしばいている佐藤。
それをしばく明日香であった。
夏休み。
夏休みは、夏休み。
海に行ったり、映画を観たり、祭に行って花火を見る。
青春というものは、学生しか味わうことが出来ない。
「こちとら、クソ暑い日にメイド服を着てるんじゃい!」
ニコは、キレる。
メイドカフェのイベント中。
エアコンを利かした屋内とはいえど、イベント用の一室ではエアコン一基の出力には限界があった。
エアコンくん、夏の暑さに負け。
完全敗北する。
高級業務用エアコンくんですら、勝てるかどうか分からない勝負だった。
何故、人は生きるのか。
ニコは、給仕用のシルバートレイを地面に叩き付ける。
それは、純粋な怒り。
この世の中に対しての嘆きだった。
社会人の夏休み。
今年最大の灼熱の時。
毎度のことのように、埼玉県熊谷市では最高気温を更新している最中、メイド服を着込み笑顔で仕事をしなければならない。
それは、どうしても曲げられぬ。
夏休みとは、コスプレをする人間にとって、最高の稼ぎ時なのだ。
金の為ならば、命を削ろう。
かつお節の如く、身体を酷使させお金を稼いでいた。
メイドリスト。
ニコ含む、アマネとルナは、ヴィクトリアンスタイルの漆黒のメイド服を着込み、笑顔を振り撒く仕事をしていた。
この時。
この時代。
日本には、給仕のみに特化したメイドという職はどこにも存在せず、あくまで漫画やアニメの中のものでしかない。
どれほど願おうとも、メイド服を着た可愛い女の子が、美味しい紅茶を淹れてくれる世界は存在しないのだ。
だが、人は現実のみを見て生きているわけではない。
人は人に対して、とてつもなく冷徹で残虐な一面を持つが、だがその行いが正しいものとは思っていないし、全ての人々が幸せで満たされた世界であればいいと思っている。
紅茶は世界を救う。
コーヒーは世界を救う。
故に、仕事がない土日にはメイドカフェのイベントに参加して、優雅にティータイムをするのだ。
「つらかったら下のコンビニで氷買ってくるからいってや」
「今日みたいな日は、エアコンがあっても、熱中症で死ぬ。おっさんは無理しちゃ駄目」
メイド好きには、三十代が多い。
おっさんに優しいメイドリストであった。
「というわけで。アマネ、氷買ってきて」
ルナは、アマネに吐き捨てる。
「二人がのん気に話している間も、私はちゃんと仕事してるからね!? なんなら、週五で事務仕事してから、アンタ達のイベントに参加しているのに!?」
頑張って給仕している人間に対して、この物言いであった。
テーブル席の兼ね合いで、参加枠は二十人ほどだが、メイド三人で対応するとなると無理がある。
二人は、御主人様やお嬢様と夏アニメの話題で盛り上がっているだけで、仕事をしない。
「仕方ない。救援信号を飛ばそう」
「モンハンの歴史がワールドで止まっている民」
この世にはツイッターという便利な機能があるのだ。
日本人は、助けを求められたら、断れない。
オタクのフットワークの軽さを活かした使い方をしている。
メイドとして給仕が出来る。
ニコは、そんな人間に連絡をするのであった。
ハジメちゃん。
オンナァ!?
いや。しかし、純粋にスペックが高い人間は多い方がいい。
ハジメちゃんならば、顔見知りのメイド仲間も多く、アマネ達よりも男性受けがいい。
表仕事だけではなく、裏仕事も得意であり、紅茶やコーヒーを美味しく淹れられる人材だ。
ハジメの周りには可愛い女の子は多いから、一人や二人でも連れて来てもらえれば一番楽なのであった。
ニコは、スマホ片手で連絡する。
『ハジメちゃん。悪いけど、カフェの人数足りなくて困っているから、他にも手伝える女の子連れて来て……』
こいつ、カス過ぎる。
ニコは、ハジメを介して、可愛い女の子にメイド服を着させるつもりであった。
最近の出番の少なさを、キャラの濃さ。
人間性のカス具合で補う。
可愛い新キャラばかりが目立つ環境で、古参キャラが勝つにはそれしかない。
化け物には化け物をぶつけんだよ。
コスプレ業界では、そういうぶっ壊れた思考回路が必要であった。
呪術師とレイヤーは似ているのだ。
ハジメの友達に、メイド服を着させようとする悪魔。
楽して人材を集めようとするニコ。
普通に考えれば、周りから批難されるのは当たり前だったが、よく考えてほしい。
大人になったら、子供の頃のように恥じることはなくなっていく。
年を取るにつれて、子供のような新しい景色に喜ぶ純粋さも、夏休みに遊び回る元気もなくなる。
私達大人は、大人になると恥がなくなるのだ。
学校でうんこが出来なかった学生時代とは違い、今ならばもりもりと、所構わずうんこが出来る。
アマネの自宅で、アニソンを流しながらうんこが出来るほどに、ニコは己が身の中にある羞恥心を捨てていた。
恥は水に流した。
あの頃の純粋さは、全て捨てていた。
お前は、オタクだろ。
自分の魂に従え。
分かっているだろう。
オタクとは、自分の人生を生きるのが第一。
他人と比べ、他人を鑑みる生き方はしないと誓ったはずだ。
何を恥じる必要がある。
今からでは、新しいスタッフは増やせないし、夏休みにスタッフを雇うと割高になる。
反面、ハジメの周りは若くて可愛い学生さんばかり。
しかも、子供だからか、楽しそうに働いてくれる。
そんな子達が、低賃金で雇えるならば最高だ。
悩む必要などあるまい。
畜生。
外道の極み。
しかし、それが得策ならば、仕方ない。
ニコは、サークルのリーダーだ。
少なからず、アマネやルナの人生を背負って生きている。
休日には家から出ず、知り合いの男の子を推し活している二十○歳喪女。
万年ゴスロリ好きの無愛想クソバード。
二人の社会不適合者の親だ。
雛に餌を上げる必要がある。
ニコは、誰よりもお金を稼がないといけない。
雛たちがピヨピヨ泣きながら口を開けて待っているのだ。
社会人としてはゴミでも、可愛い我が子のようなもの。
食うに困らない人生を歩ませてあげたい。
そう思ったからには、ハジメを利用するしかないのだ。
彼ならば、水に流してくれるだろう。
正当な理由に見えるが。
理由がクソすぎる。
それは、さておき。
メイドカフェのイベントで紅茶を優雅に飲んでいたおっさん達は、ニコを止めなかった。
止める気がなかった。
止める理由がなかった。
ハジメがイベントを助けて、給仕役として参加してくれたら、メイド服を着て、美味しい紅茶を淹れてくれるのだ。
そんなん、紅茶を百杯頼むわ。
ATMで金をおろしてくる所存であった。
それほどに、メイド好きからしたら、嬉しいことはないだろう。
アマネ達は、メイドリストとして人気は高いし、かなり綺麗で可愛いだろう。
他に可愛い女の子がいたとしても、目移りなどしない。
この場に集まったおっさん達は、彼女達の性格こそが好きであり、この空間が好きだった。
ずっと推し活をしていたい。
これからもずっと推し活をするだろう。
しかし、彼等だってメイド界隈の新しい風を感じていたい。
同じラーメンの味では飽きる時がある。
人間は、如何に美味しいラーメンであろうと、同じものをずっと味わっていられない。
如何に可愛いレイヤーさんであっても撮り慣れてしまう。
同じアングルに見えてしまう。
そう、この世で飽きないものなど、ニコが定期的に挑戦する蒙古タンメン中本RTAくらいなのだ。
社会経験がないクソガキが、激辛ラーメンを如何に早く食べるか考察して走るかというだけのクソ動画だ。
だが、それだけは飽きない。
数年間、蒙古タンメン中本だけで飯を食ってきた女だ。
辛すぎて吹き出して、アマネの家のテーブルを汚すまでが様式美になっていたのだ。
イベントの差し入れでは、蒙古タンメン中本のカップラーメンが毎回プレゼントされるくらいに人気である。
再走して。
蒙古タンメン中本RTAから逃げるな。
いっそ、カップラーメンにサインして。
いいからハジメちゃんを呼んで来い。
早くハジメちゃんのメイド服を見せろ。
おっさん達から、リアル投げ銭が飛び交う。
金を払うだけで、ハジメちゃんのメイド服を見れる。
可愛い女子高生よりも、ハジメちゃんだ。
野郎達は、野郎のメイド姿を見たかったのだ。
男の子だっていい。
男の子がいい。
罠でもいい。
罠でもいいんだ。
君じゃなきゃ駄目なのだ。
ハジメでなければ、全員が全員。
ここまで団結し、金を貢がなかったであろう。
……メイド服を着た男の娘には、それほどの魔力がある。
彼は、メイド界隈出身の同じオタクであり、可愛い後輩だ。
成長した今でも驕ることなく、我々を慕ってくれている後輩だ。
未来ある若者の夢を応援したい。
投げ銭というかたちではあれ、彼のためになりたい。
そこには一切の邪な気持ちはなく、全力で応援していた。
ハジメは、男女関係なく好かれている。
根が真面目な男の子は、魅力的だ。
彼が努力している姿は見ていて気持ちがいい。
ハジメちゃんの魅力は、性別の壁を超えていたのだ。
昨日、風夏ちゃんが海で撮っていた写真。
それを見て、皆は歓喜したものだ。
風夏ちゃんの可愛い水着姿。
読者モデルの水着姿よし!
ふゆお嬢様の夏の装い姿。
お嬢様の夏服ワンピースよし!!
水着で、半裸のハジメちゃん。
男の子の半裸よし!!
全てのファンは、感動のあまり歓喜していた。
涙を流し、手を組んで祈りを捧げていた。
それは、絶対に見ることがないもの。
知り合いの高校生男子の半裸。
首筋から胸元。
胸元からお腹。
ハジメの腹筋はガチガチではないが、学生らしく健康的に引き締まっていた。
へそから水着までのライン。
普通の高校生の完璧な得体。
それでしか得られない栄養素がある。
ハジメのフォロワー二十万人が、その写真を見た瞬間に、感動のあまり腰が砕けていた。
人間の目から入る情報は、八割。
生きる為の情報のほとんどは、視覚に依存しているのだ。
タイムラインに流れてきた刹那の裸体。
それは、処理するには情報量が多過ぎた。
何故、そうなったのか。
何故、推しの裸体を見られるのか。
我々はそれほど、徳を積んできたのか。
人には優しくしなさい。
そうすれば、自ずと幸せはやってくる。
おばあちゃんがそう言っていたか。
そう思う暇さえ与えず。
推しの裸体は、我々の脳を焼くのだった。
都内在住の二十代女性は、その時の状況をこう語っていた。
太陽を直視したかのような輝きに、全身が包まれた。
私が知らない感情。
あれは、絶対に母性でした。
自分の中に、人を慈しみ、愛する心があったことに気付かされたのです。
仕事中であろうと言うのに、突如奇声を上げてしまう。
だって仕方ない。
推しは、赤ちゃんなのだ。
推しに母性を感じたならば、ママになるしかない。
ファンの狂気度はいつものこと。
好かれているのは異常者ばかりだったが、東山ハジメは名実ともに小日向風夏ちゃんに匹敵する読者モデルであった。
本人は、他人に対して警戒心がなく、右も左も知らないような赤ちゃんではあるが、みんなに好かれていた。
フォロワー二十万人とは、なろう系異世界にある国の総人口に匹敵する。
それほどの数の男女が、ハジメの水着姿に興奮。
いや、それ以上の感動。
その言葉をオタクとしての最大級の敬意を払い、こう表現しよう。
そう。
メスイキしていた。
この場には、未成年男子に性的嗜好を持つイカれた女性ファンはいないが、普通のハジメのファンは多くいた。
しかも、生粋のメイド好きしかいない。
ハジメちゃんにメイド服を着せたい。
その一心で団結していた。
別に性的興奮を覚えているわけではない。
ただ、ハジメちゃんのメイド服が見たい。
彼等を突き動かすのは、純粋な願い。
人としてのモラルがあったならば、オタクをしていない。
メイドを推していない。
数十種類ある紅茶の名前を覚えていない。
俺達オタクは、高い金を払ってでも、現役高校生のメイド服が見たいのだ。
数千円する高級な映画館に需要があるように、彼等からしたらそれほどの価値がメイド服にはあるのだ。
性癖は、人間の持つ三大欲求。
ご飯を食べてるように。
寝るように。
如何に誤魔化そうと、自分の性癖を隠すことなど出来ない。
彼等は、ニコが引く、引き金の軽さを知っていた。
人は、性癖には勝てぬ。
故に、あのアマネですらニコの悪行を止めなかった。
アマネは、成人女性特有の澄ました綺麗な笑顔をしていたが、内心は大船に乗った気分で喜んでいた。
ニコに任せれば、九分九厘ハジメちゃんは手伝いに来てくれるだろう。
そう確信していたのだ。
ルナは、ぼそっと毒を吐く。
「アマネが呼んだら、ぜったい来ない……」
アマネからの呼び出し。
相手がアマネだ。
裏しかない。
数珠つなぎマジックミラー号の企画の可能性が微レ存。
「なんで私が呼び出す方なのよ!」
そんなことはしないから、来てくれる。
いやいや。
呼び出すのがハジメちゃんってところ以外は、完璧なんだよなぁ。
アマネへの信頼がゼロってところに目を瞑ればなぁ。
「まあ、アマネは常日頃から、そういうことしそうじゃん」
「んだんだ」
高校生の男子に迫られる。
女の子向けエロ漫画ではよくあるご都合主義の展開だが、このアマネ。
襲われる側より、襲う側である。
服を脱がされるのは、私ではない。
ハジメちゃんだ。
女の子は、みんな肉食動物。
可愛い顔したアライさんなのだ。
平日は事務処理。
休日はメイドのアライさん。
見た目に騙されてはいけないのだ。
特定外来生物なのだ。
他の女にも言えたことだが、ハジメの周りには色物が集まっていた。
女の子の癖が強過ぎる。
男の子に守られるだけの女の子じゃない。
強くて可愛い女の子である。
プリキュアみたいなことを言っていやがるが。
……そのせいで、一番苦労している男の子が眼の前にいる。
まあ、なんだ。
この子のことは許してやって欲しい。
アマネは、この歳まで彼氏も作らず、社会の荒波にまみれ、たまの休みに宝石の女王のコスプレをして喜んでいる可哀想な娘なのだ。
乙女心を拗らせた分だけ、不可解な言動をするけれど、本当は悪いやつではない。
いいやつでもないけど。
「おはようございます」
ハジメは、連絡をもらってから一時間ほどで現地に到着した。
夏休み中ということもあってか、事務所の仕事がたまたま休みだったのだ。
だから、家で準備を済ませてすぐに集合出来た。
ドアを開けたら、視線がハジメに集中していたのは謎だったが、周りの者はメイド界隈の人間や、SNSを通じて付き合いがある人達だった。
ハジメからしたら、顔見知りばかり。
途中参加でも、アウェイ感はない。
おっさんの中には、サークル初期からの付き合いがある人もいる。
年齢関係なく、気が知れた仲である。
ハジメは、テーブルに座っている人達に軽く挨拶を交わし、アマネ達に話し掛ける。
「困っているって聞いたから来ましたけど、何をすればいいんですか?」
内容を深くまで聞かずに、すぐに駆け付けてくれた。
イケメン。
行動力がある上に、人を疑わない。
ハジメの人の良さが垣間見える。
しかし、そんなものは他人を気遣えない人間には無駄である。
「ハジメちゃん、ありがとう。メイド服に着替えてきて」
ニコは、ハジメにメイド服を手渡す。
「は?」
「だってぇ、テーブル数に対してメイドの数が少ないのよ~。ハジメちゃんありがとう……」
「だったらテーブル減らせよ」
ハジメちゃん、マジレスやめて。
いや、マジでテーブル減らせ。
目がそう語っていた。
ニコに対してあたりが強いのではなく、事務処理をしている社会人としてのマジレスだった。
予約数の関係で、このテーブル数じゃないと予約が回らなかったのだ。
みんなには、私達のイベントに参加してほしい。
その思いに嘘偽りはない。
仕方なし。
断じて、お金に目がくらんだわけではない。
「夏祭りやコミケ、一番くじで豪遊してた」
「あ?」
「違うのさ!?」
お金は重要だけど。
それは嘘じゃない。
三人では回らないテーブル席では、おっさん達で座談会している。
「金返してやれよ……」
ニコ達の資金繰りが厳しいのは理解したが、そんな奴等から金を取るなよ。
可愛い女の子とお喋りしたいはずなのに、高い金を払っておっさんの憩いの場になっている。
イベントの参加費はけっして安くなく、一枠あたり数千円だ。
可哀想やろ。
これもう、合法的なおやじ狩りだ。
おっさん達曰く、この手のイベントは、カメラマン同士の交流会でもあるので構わないそうだ。
喋る内容も、最新機種の一眼レフカメラのことや、新しいレイヤーさんのことも話したりする。
イベントの話ならまだしも、関係ない内容をアマネさん達にするのは忍びない。
それに、若い子達の方が、メイドカフェを楽しみにしている。
アマネさん達と会話をしたいだろうし、せっかくメイド界隈という狭い場所に来てくれたのだ。
俺達よりも楽しんでほしい。
……聖人か?
「ほら、ああ言っているし」
「いや、他人の善意を利用しないでくださいよ。……なんか、オタクの人は、あんな人多いっすよね」
「みんな優しいからねぇ。うちらの界隈は、平均年齢上がりつつあるから、そこだけは深刻な悩みなんだけどねぇ~」
二人は、おっさん達の温かい目を見て引いていた。
「ちなみにハジメちゃん。他の子は?」
「ああ、他の奴等は、外で待ち合わせしてるんで、もう少し後で来ます」
「ほえ~、風夏ちゃん?」
「いや、違います」
ハジメがクラスのグルチャで呼びかけしたところ、近場のカフェ巡りをしていた橘さんと佐藤が釣れた。
あとは、同じく家で暇していた麗奈を誘ったので、今回のお助けメンバーは四人だ。
珍しい組み合わせではあるが、変に誘って、中野……変なやつを連れてくるわけにはいかなかったので、これくらいでいいだろう。
他のクラスメートも反応がよかったから、もしかすると少しくらいは顔出ししてくれるかも知れない。
「明日香ちんと、佐藤くんかぁ。有り難いわぁ。秋月さんってどの子? アタシ、見たことある??」
「会ったことありますよ。これくらいの身長で、ゆるふわヘアーで、ハンドルネームが麗奈って人です」
「……ああ、あの子」
悪名高き。
いつも、ハジメのつぶやきに即反応する。
高速の超反応。
ああ、あのハジメちゃんのストーカー。
いや、彼女です。
常人以上の反応速度。
ハジメちゃん推しじゃなきゃ、見逃しちゃうね。
何系統の能力かは分からないが、彼女からは強い念を感じる。
すぐに、ハンター✕ハンターに紐付けするな。
「へぇ、彼女だったんだ。ずっとハジメちゃん大好きbotだと思っていたわぁ」
「そんなもんあってたまるか」
毎日風夏ちゃんのイラストを上げる。
風夏ちゃん大好きbotがよくいうものである。
ハジメのイラストを上げる速度が速すぎて、AI絵師と殴り合いしていた。
物理で分からせる。
そんな主人公はこいつくらいである。
麗奈は、場所が分からないであろう橘さん達を回収したら、合流してくれる。
その間に、ハジメはメイド服に着替えてくれ。
「いや、ウィッグとか、靴とか持ってきていないですよ」
アマネは、意気揚々と道具を取り出す。
「大丈夫、ちゃんと準備してあるわ」
一番大丈夫じゃない人が、大丈夫とか言わない方がいい。
「何で、常備してあるんだよ……」
「ハジメさん達がいつ来てもいいように、準備をするのが私の仕事だもの」
青春漫画かよ。
来るか分からないやつの為に、予備のメイド服やウィッグ。革靴を持ってくんな。
キャリーケースに、クソ重いものを入れて持ってくんな。
アニメや漫画ならば、その場に予備がたまたまあったで済まされるご都合展開だが、リアルにやるな。
ハジメは、引いていた。
持ってきている人間がアマネだからか、全く意味が違ってくる。
そこには優しさはなく、私利私欲の為の行動力であった。
アマネの異常性を、より強調させていた。
……よく考えてくれ。
他のメンバー用のメイド服がある時点でおかしい。
そこにツッコミを入れないあたり、ハジメもまた、メイドリストなのだ。
「アタシ達だけでも、メイド服は何度も着替えるもんね?」
メイドカフェとはいえ、半日丸々仕事をするのだ。
一日の枠は、幾つもある。
一日中同じメイド服を着ていたら、フルでイベントに参加している人が飽きてしまうだろう。
撮影時間に、ファンを飽きさせない為、可愛いメイド服を定期的に着替えながら仕事をするわけだ。
ニコは、優しい。
その優しさは、天井知らずや。
メイド服を着替えれば着替えるだけ、オタクから金が絞り出せる。
いい話じゃなかったの?
なんで、金の話しかしていないのか。
「……あの、何着も着替えを持っていることにツッコミすべきか、フルでイベントに参加しているオタクにツッコミすべきか悩むんですが」
夏休み。
今年一番の暑い日だ。
そんな日に一日フル枠である数万円も払って、朝から晩まで椅子に座る。
死ぬまで紅茶を飲む。
頭おかしくなるわ。
十数杯目の紅茶で、初めて飲むが如く優雅にティータイムをするな。
高い金を払って、飲むなよ。
お金の価値は俺が決める。
時間が許す限り、何杯でも頼むつもりだ。
名も知れないファンは、そう言いたげにしていた。
イベント前日まで、仕事がつらくて、夏バテで温かい食べ物は食べられなかった。
しかし、今日は万全を期してイベントに参加した。
体調は、すこぶる元気だ。
この日の為に生き、頑張ってきたのだ。
メイドさんの御主人様になりたい人生だった。
……意味が分からない。
誰だよ、お前。
知らない顔である。
延々と自分語りをしていた。
オタクの狂気度とは、一般人には計り知れないものだった。
あのハジメですら、引いていた。
そこまでして人生を楽しまないと、大人はやっていけないのだろうか。
「んじゃまあ、ハジメちゃんはアマネと一緒に準備をしてきてよ」
「えっ。また、アマネさんっすか」
アマネがハジメの化粧を担当するとか、コミケの二の舞いになりそうだ。
常日頃から、ハジメのことを性的搾取している。
しかも、この頃のアマネは理性のタガが外れているから、男のハジメでもどうなるか分からない。
「まあ、頑張って」
「他人事……」
襲われるのはハジメだけだ。
助けたところで、ニコには不利益しかない。
発狂したアマネとか、化け物でしかない。
ニコですら止めることは難しいだろう。
アタシは、仕事が忙しいから無理。
いや、仕事してないやん。
メイド服を着て、給仕をせずにシルバートレイを叩き付けた人間の言葉とは到底思えないものであった。
「いやいや、シルバートレイは比喩表現だし、メイドの命と呼べるシルバートレイを地面に叩き付けるわけないじゃん」
叩き付けてたわ。
一同騒然。
平然と嘘を付くな。
メイドの風上にも置けないやつが。
「メイドとは、心で誓うもの! このニコは、寝ても覚めてもメイド服を愛している!! シルバートレイを叩き付けたとて、メイドとしての誉れが失われるわけではない!!」
なにいってんの??
お前如きが、メイド服の何を理解しているというのだ。
おっさん達の方がメイド服を愛している。
野次が飛んでくる。
直接的な罵倒はアルファポリスのコンプライアンスを意識してか、韻を踏んで罵倒をする。
勝負は、そう。
ヒップホップで決めるしかない。
ラップバトルだ。
「ルナ、マイクを!」
「めーん」
「このテンションなんだよ……」
ハジメからしたら、メイド界隈。
住み慣れた古巣に戻ってきたはずなのに、変な疎外感があった。
夏休みに実家に帰ってきたかのような感覚だ。
いや、実家住みだったわ。
とはいえ、なんか下手に絡んでも面倒なので、ニコ達のことは放置する。
ハジメは、騒がしい間に着替えることにした。
それからしばらく。
麗奈や明日香。佐藤達。
他のメンバーも合流し、ニコの貸し出したメイド服に着替える。
メイド服三人、裏方一人。
自然な流れで女装枠に入っているハジメはさておき。
秋月麗奈と、橘明日香のメイド姿。
二人の女の子は、高校生らしい若々とした可愛さがある。
ツヤツヤしている。
リアルJKの肌質。
二十○歳がババアに見えるくらいの若々しさである。
ベーシックな黒色のメイド服だというのに、色鮮やかであった。
いい匂いしそう。
高級感溢れる甘い匂いは、ヘアサロン御用達の高級シャンプーだろうか。
いや、女の子特有の匂い。
くそきも。
「はぇ~、メイド服なのに水着みたいに布面積少ねぇ~」
ハジメ。
作中一番の笑顔であった。
お前の目には、メイド服が水着姿に見えるのか。
手首以外の肌など見えないのに、谷間が見える水着のように歓喜していた。
水着姿は堪えられたが、メイド姿は堪えられない。
だって、こいつはメイドリスト。
魂に刻まれた性質。
それに抗う術を持ち合わせていない。
う~ん。
えっちである。
暑い夏。
今の時期だから見ることが出来る姿だ。
生地が薄い夏用のメイド服。
全身は黒い衣に包まれているが、その実涼しい。
夏用のメイド服は、水着と同じく、夏だからこそ、それを楽しめるのだ。
……夏の訪れを感じさせる。
風流である。
夏の風。
風鈴の音色に合うのは、麦茶とメイド服だ。
このメイド服は完全にやっている。
細部まで作り込まれている。
製作者の並々ならぬ情熱が垣間見える。
これは、愛だ。
「シルフィードのメイド服は、いつ見ても素晴らしいものだ」
「え、なんで製作者の区別が付くの!?」
頭おかしいから。
オタクとは、異常者の集まりだ。
ハジメが如何に有名になり、成功しようとも、オタクである限りはイカれているのだ。
雑草よりも逞しく生きている。
メイドが大好きで、数万円も払って茶をしばいているオタクの気持ちなんて分からない。
普通の女の子である明日香には、分かるわけがない。
あの心優しき橘さんが、冷ややかな目をしていた。
メイドカフェ。
それは、人を狂わせる。
くそドン引きされている中で、女の子の格好をして、わくわくしているハジメであった。
黒髪ロングのウィッグを被り、大人の女性の化粧をしている。
喋らなければその可愛さは、随一なのだが、駄目だ。
見た目のダウナーさに反して、落ち着きのなさは風夏ちゃんを彷彿とさせる。
恋人に似たのか。
人間、共に過ごす時間が長いと、好きな人の癖を真似るらしい。
「私には似ないけど?」
麗奈、キレる。
好きな人だよね。
私には全然似ていないけど。
何故、女という生き物は簡単にブチギレるかね。
いや、別にそこで競うものではない。
というのか、貴女の言動に似たら大概やばいのと、麗奈の似てきている大半はハジメママ寄りだから。
簡易母親を相手にしているようなもの。
説明が面倒だ。
「……うっす。仕事すっか」
ハジメは、にげる。
自分の責任から逃げるな。
ハジメ達が話している最中にも、メイドカフェの時間は過ぎていくのだ。
早くしないとおっさんの紅茶が冷めてしまう。
大層ご立派な理由を並べるが、ハジメは逃げているだけだ。
適当なハジメとは対照的に、佐藤は自分のエプロンの紐を締め直す。
「やるからには、世界一美味しい紅茶を淹れるから任せろ」
あらやだ、格好いい。
イケメンが淹れる紅茶は美味しい。
佐藤は、馬鹿だけど。
紅茶を淹れる指しか付いてない男だが、この時ばかりは頼りになる。
佐藤は、数々のカフェを巡り、勉強をして経験を積んだ。
限られた道具でも、その茶葉の最高のポテンシャルを引き出し、美味しい紅茶を提供出来る。
最近では、シルフィードでの厳しい特訓を経て、一級メイド検定を持つ、リゼと同等の紅茶の味を出せるまでになっていた。
今から一年後、紅茶マイスターの資格を取るに至る。
「……はぁ、紅茶を淹れるしか脳がないの間違いだけどね」
せやね。
最近の佐藤は、紅茶の話しかしないから心配であった。
だがまあ、毎日紅茶を飲んでいるハジメや麗奈であっても、美味しい紅茶を淹れるのは難しいし、紅茶に詳しく、美味しく淹れることが出来る。
それもれっきとした才能と呼べるものだ。
現に佐藤がいれば、安心して裏方を任せられるから、ハジメ達は表の作業に集中すればいい。
佐藤は、裏での紅茶に専念し。
ハジメ達は、ニコの指示を聞き、一人ずつテーブルに付く。
優しく迎い入れてくれた。
オタクとはいえ、年上の社会人ばかりだから、別にこちらから話を進めていく必要はなく、テーブルで話している会話に軽く乗っかるだけでいい。
仕事や趣味。
他愛ない話から、少しずつ会話を広げていく。
コミュ力おばけの麗奈や明日香からしたら、何の苦もなく行える。
クソ陰キャのメスガキと化したハジメ以外は、簡単であった。
女の子に生まれたからには、世渡り上手な会話スキルは必須である。
ぼっちちゃん。
陰キャのハジメ。
それを見兼ねたファンが提案する。
「アニメの話でもする?」
メイドカフェ。
アニメの話で盛り上がる。
それならば、生粋のオタクならば会話に入ってこれるわけだ。
ハジメは基本的に、ジャンプ漫画好きだし付いてこれるだろう。
わくわく。
久々のオタクトークに、ハジメは目を輝かせていた。
ハジメの立場上、いつもはまとめ役だ。
クソガキとは言われていても、自分がしっかりしないといけない。
みんなの行動を気に留めている。
それに加えて、周りの人間はアニメとは関係ない一般人や、ファンとの会話ばかりだ。
ハンター✕ハンターや、ちいかわの話を日夜しているわけではない。
一般人に長々とアニメの話をしていたら、頭がおかしいやつだ。
ユーチューブで延々と漫画やアニメの動画を上げているから、そう見えるだけで、ハジメの周りにはアニメ好きは少ない。
その点、年上のオタクだと、話題を融通してくれる。
どれほどハジメの精神が大人だろうと、中身は子供なのだ。
アニメの話をしたい。
ハジメちゃんは語りたい。
わくわく。
やべ、最近のハジメちゃん可愛過ぎる。
高校生って純粋だな。
社会の荒波にもまれていない。
しかも、女の子にはない素直さがある。
コスプレ業界では、可愛い女の子は数知れずだが、野郎の趣味嗜好を理解している女の子は多くはない。
ハジメは、久々にジャンプ漫画の話を出来て喜んでいたが、俺達も嬉しいのだ。
トリコの話が出来るメイドなど、世界どこを探してもハジメしかいない。
トリコの十五周年を祝うあたり、この子おっさんなのではないのか?
ユニオンアリーナにアニメ版トリコが参戦して喜ぶ高校生なんていない。
親父の影響を受けている。
親のジャンプ漫画を見て育ってきた世代だからこそ、古い漫画が好きであり、懐かしいのである。
可愛い。
ハジメちゃんがオタクになった背景を知ると、愛着心が湧いてくる。
最近では、恋愛漫画や可愛い女の子のアニメが流行っているが、そんなもん男の子には不要であった。
友情努力勝利。
男の子はね、格好いい能力や、セリフが好きなの。
命を刈り取るかたちをしているの。
血みどろになるまで殴り合い。
男キャラしか登場しない漫画。
豪華男性声優陣が、最高の演技を繰り広げるアニメ。
最強を目指したゆうえんち。
正しく、それに恋い焦がれていた。
男として生まれたからには、地上最強の男に憧れる。
最強になりたくないか。
日本人であることに誇りがあるのか。
男であることに感謝しているか。
ハジメの担当するテーブルは、熱気に包まれていた。
アホ。
ツッコミ役が不在。
どう考えてもボケしかいない。
萌花ちゃん連れて来い。
もえぴしか流れを変えられない。
夏休みは休みだぞ。
金を貰ってでも、子守りなんかするか。
子守not萌花。
……夏旅行のせいで、一度も顔を合わせてくれないのであった。
萌花ちゃんは、長期休暇中である。
ノー東山ハジメデー。
あんなアホな人間を毎日相手にしていたら、まともな人間は割を食う。
萌花が嫌がる理由も分かる。
麗奈もいると聞いた瞬間に、行くわけねえだろ、死ねや。
即答していた。
そんな中、秋月麗奈は、他のテーブルで会話をする。
今どきのゆるふわ系高校生からしたら、おぢ様と話題が合うとは思えなかったが、B級クソホラー映画をこよなく愛する女の子だ。
B級クソホラー愛好家。
……麗奈。
皆、どこかで聞いたことがある名前だった。
彼女はそう、ツイッターでよく、ホラー画像付きで映画評論をしていた。
名前だけは知っている者は多く、こんなに可愛い女の子があの麗奈ちゃんだったとは誰も思わなかった。
メイド服がとても似合う。
おっぱいも大きくて、だけどメイドさんにえっちな目を向けるのは失礼。
そう思えるくらいに、メイド服が似合っていた。
中身を知るまで疑わなかっただろう。
可愛い皮を被った化け物。
狂人やんけ。
麗奈はそれを活かして、映画の話をする。
おっさん達は、グロシーンを嬉しそうに語る彼女に戦々恐々していた。
ピクミン感覚で人が死ぬ話が飛び交う。
彼女の語る話がグロ過ぎる。
血と肉が飛び散る。
痛みと叫び。
キラーに襲われる恐怖。
助かることのない絶望。
そのイメージだけで、ちいかわおじさんが下を向く。
ワッ。
吐いちゃった!
麗奈ちゃんは、メイド服を着た悪魔だ。
人の皮を被ったSCPである。
人間の本質が他人とは違うのだ。
笑顔の意味が違う。
恋愛映画で感動するよりも、人が殺される映画に笑顔の価値を見出していた。
はあはあ。
人が死ぬ瞬間の輝きほど、美しいものはない。
この場には、ただただ可愛い女の子など存在しない。
メイドリスト然り。
彼女は、ハジメの知り合いだ。
根本からイカれているのだ。
おじさんは、最近の若い子の気持ちが理解出来なかった。
ハジメちゃんのファッション雑誌を見て、女の子の気持ちを勉強すべき?
そんなんで出来るわけがないだろうが。
オタクだからか、みんなどこか天然であった。
あと、理解したらまずい。
深淵を覗くことにより、発狂ゲージが溜まる。
いや、考えてみてくれ。
サイコメイドも、ありよりのあり。
なるほど。
今までにないジャンルだ。
試してみる価値はある。
冬コミはそれで同人誌を出そう。
オタクの目の前に、新鮮ネタが降ってきた。
新しい嗜好に価値を見出すな。
その新鮮さは、血生臭さいものだろうが。
精神異常者を他人に広めるな。
親しみやすいジャンルじゃないのだ。
だからこそ、タイトルはそう。
メイドさんは、狂気りたい。
あるある題名で、一般人の危機感を鈍らせる緩衝材にする。
メイド界隈。
風向き、変わりそうね。
よくわからないけれど、みんな楽しんでいた。
それから数時間、休みなく働き続けると、イベントの終わりが近付いてくる。
ニコは、みんなに呼びかけるように大きな声で話す。
「じゃけん。じゃんけん、しょうぜえ! じゃんけん!!」
唐突に始まるじゃんけん大会。
数十人で、じゃんけんするのか。
どう考えても、この人数でやったらグダグダになるだろう。
あと、景品は?
そんなもん後から決めればいい。
私は、今、じゃんけんがしたいのだ。
ニコは、力説する。
全員グーを出そうぜ。
会場の全員は、殴り合いをする気満々であった。
アマネは、誰よりもしっかりと拳を作っていた。
拳の中に空気の入る隙間なくゆっくり丁寧に握るほど、殴った時の威力は高くなるのだ。
刃牙で出てきた知識である。
「純愛かぁ……?」
いいから司会進行をちゃんとしてくれ。
みんな、遊びに来ているが、暇じゃないんだよ。
「わかった。わかった。じゃんけんと言えば色紙大会ね。ハジメちゃん描いて」
「脈絡ねぇよ……」
「絵が上手い人が描いた方がいいでしょ。みんな欲しがるほど上手くないとね」
「いや、あっちに壁サークルの人いますよ」
メイドスキーさんが、壁際で優雅に立っていた。
舞踏会の端で静かにしている王子気取りかこいつ。
二十代後半でありながら、実績があり、イケメンで絵が上手い。
メイドジャンルの商業誌作家で、メイド好きのほとんどは、彼にお世話になっている人が多い。
この業界の重鎮である。
「アイツのサイン欲しがる人とかいないから」
「……言葉を選んでください」
価値がない。
いや、アニメショップに売ればちゃんと価値はあるのだが、メイドスキーの絵を家に飾りたくないのだ。
色紙を見ているだけで、このサインを描いた本人のどや顔が出てきてムカついてくる。
メイド界隈の面汚しだ。
何にせよ、メイドスキーには色紙を描いてもらわない。
アマネ達、ハジメとスタッフで寄せ書きを描いて景品にする。
流れ的に、麗奈や明日香も書かされた。
ニコは、その色紙を見て、何を思ったか長考していた。
「じゃあ、一万円から」
いや、じゃんけんしろよ。
……じゃあって何だよ。
価値が付くと分かった瞬間、オークションを開くな。
メイドリストやハジメちゃんのサイン色紙はたくさんあるが、麗奈ちゃん達が名前を書くことはないだろう。
世界に一枚の色紙。
しかも、可愛い女の子のサインがたくさんある。
そんなん売るわ。
三万。
メイドスキーさん?!
三本指の男。
聞きしに勝るクソ汚い大人であった。
メイドスキーたるもの、メイドに糸目は付けない。
金で解決するなら、この命、安いものだ。
やっていることが外道のくせに、イケメンの面すんな。
狂い火やんけ。
……こいつ嫌われるわ。
全員の意見が一致した。
業界の中では、イケメンで絵が上手いから持て囃されていたが、他人に好かれる生き方をしていない。
同人作家だから、自分の感情に率直なのはまあいい。
それがオタクだ。
しかし、お前のせいで高校生が引いているんだよ。
少しくらいは空気を読め。
なんでぇ。
ちいかわやめろ。
高校生にも読んでもらえる漫画を描いているくせに、よく商業誌の作家が出来るものである。
「人間は、他人に好かれる為に生きてないよ。自分の幸せの為に頑張っているんだよ」
誰よりもメイドが好きだ。
愛している。
だからメイドスキーと名乗っている。
だが、別に他人に自分の絵を楽しんでもらいたいわけではない。
漫画に限らず、クリエイターとは、好き勝手にしている。
自分の道を生きているだけだ。
読者に合わせ、見たい展開を描いていたら、詰まらなくなるのだ。
天才が故に。
凡人の世界に合わせるなど、出来るわけがない。
色彩豊かな世界。
全ての理が、自身の才能の糧となる。
そもそも生きている次元が違うのだ。
普通という幸せを噛み締め、のうのうと生きているファンの女の子なんて、呪力を持たない猿にしか見えない。
メイド服を着ても似合わなそうな女の子なんて、全員モブ顔にしか見えない。
だから、お前は嫌われるんだよ。
野郎達から、強烈な野次が飛ぶ。
メイド界隈の恥であった。
繊細なタッチでメイド服を書き込む才能がなかったら、とっくに殺されているだろう。
こんなアホじゃなく、ハジメちゃんがもっと活躍してくれたら、メイド界隈は活気立つのだが。
「いや、メイドスキーさんには絶対に勝てないので」
ハジメは謙遜していた。
性格はあれだが、才能は桁違いに高い。
そして、どの業界であれ、時代を切り拓いてきた先駆者は敬うものだ。
今までのメイド界隈は、少なからずメイドスキーさんが居たから、新規オタクが増えてきたのである。
功績を称えるべき先人を、性格がゴミカスだからってパージしようとするものではない。
コミュニティとは、長年培われてきたもの。
今ある伝統と文化を大切にすべきである。
ニコは言う。
「そんなに怖いか。新時代が」
「……いや、シャンクス構文使わないで」
メイドスキーは呟く。
「なるほど、新しい時代の幕開けか」
「お前のせいだろうが!?」
二人は、かなりの馬鹿であった。
ハジメを囲んでやり取りをするな。
一般人がいる中で、オタク特有の気持ち悪いノリをしていた。
麗奈や明日香を筆頭に、意味が分からない。
いつまでこのノリを味わうのだろう。
精神的な地獄だ。
クソくだらないじゃんけんを長々とした結果、名もなきおじさんに色紙が当たる。
色紙をもらい、嬉しそうに涙ぐむ。
誰だよ、お前。
大半がそう思っていただろうか。
「ありがとう。ハジメちゃんほどの有名人の色紙とか初めてだよ。大切にするねえ」
「……いや、貴方も壁サークルですよね」
コミケや委託合わせて数万部を売り上げるメイド同人作家から、有名人相撲を取らされるハジメ。
こちらがコミケで段ボール一箱。
数十冊の同人誌を頑張って売っている最中、ダース単位で販売しやがる。
化け物だ。
おっさんの見た目に騙されてはいけない。
メイド同人作家たるもの。
メイド服のフリルやレースを生きているキャラクターのように感情豊かに表現出来てこそ。
彼は、超が付く一流である。
さざなみのフリル使い。
おっさんの指先から描かれるメイド服。
それは、ファッションデザイナーのように、一切の妥協は許されない。
世界で一番美しいメイド服。
夜に輝く彗星のように。
人を魅了する芸術品だ。
彼が描くメイド服ほど、美しい洋服は存在しない。
私のデザインを読者に見てほしい。
漫画の細部まで書き込まれたメイド服には妥協はない。
一ミリの狂いもなく、丁寧なタッチで筆を扱うのだ。
メイドリストだ。
……もれなく彼もまた狂っていた。
狂うほどに愛している。
愛は世界を救う。
メイド服には、戦争を止めるほどの魅了があるのだ。
そんな同人作家さんに、自分の色紙を喜んでもらえるのは喜ばしい。
ハジメの描くメイド服は、彼の繊細でいて細かく表現された美しさを少なからず参考にしていたのだ。
しかし、素直には喜べないのだった。
「いや、そう言われても……」
「ハジメちゃん。僕達は、生涯現役の同人作家だ。病床に伏す時でさえ、ペンを握り続け、死ぬまで美しいメイド服を描くだろう。……だから、君の絵の素晴らしさは理解しているつもりなんだ」
おっさんになるまで、数百、数千枚以上もメイド服を描いてきた。
来る日も来る日も。
血が滲むほどにペンを握り続ける。
彼女に向けた恋文のように、絵を書き続ける。
愛する気持ちを失うことはない。
彼等からすれば、メイド服とは愛の結晶なのだ。
この手は汚れていたが、何よりも美しい。
オタクとしての夢があった。
オタクとしての未来があった。
だが、それはもう、遠い昔の話である。
想いは消えずとて、身体は衰えてきている。
心はぴょんぴょんしなくなっていく。
夏アニメを追うのもつらい。
人間も動物だ。
如何に情熱があれど、老いには勝てない。
だからこそ、未来ある若者に夢を託し、道を譲るべきだと思っていた。
「ハジメくん、メイド界隈を頼むよ」
握手を交わす。
どこにでもいるようなおっさんの手が、妙に大きく感じてしまう。
ペンを握ることでペン豆が出来た薄汚れた手。
その価値をハジメは知っていた。
同じ同人作家の手だからこそ、違いがわかるのだ。
「なんでいい雰囲気出しているんですか」
パチパチ。
会場のみんなは、温かい拍手をする。
感動のあまり、涙する者もいた。
おっさんの本気の涙が見れる。
みんな、涙腺さえ衰えていた。
物語が始まる前。
二年以上前からハジメを知る者。
ハジメが漫研部で最初に作ったコピー本を持っている者。
ロイヤルメイド部が一人の時からの付き合い。
ハジメが活躍し始めたのは最近だったが、その大半はそれより以前と、付き合いはかなり長く、まるで弟や後輩のようにハジメを大切にしていた。
有名になったハジメちゃんしか知らない人もいる中で、彼の成長をずっと見てきたのだ。
普通の高校生。
絵を知ったばかりで、自分の絵の酷さに挫折しつつも、輝かしい目でオタクの世界に夢を見ていた。
若さとは無謀だが、無謀だからこそ、どんな未来もある。
そんな一人の男の子が、成長していき、同人作家としてこの時初めて漢になったのだ。
まるでそれは。
例えるならば、先人から槍を受け継ぎ、若人が部族の戦士になるように。
大人になる為の通過儀礼が行われていたのだ。
戦闘民族。
力こそ男の象徴。
戦士としての勇ましさや、度胸で男の価値を決める。
時代錯誤な価値観だが、男にとってそれは何よりも価値がある。
マンモスを狩る為に、勇敢さが求められるように。
先人達の意志を受け継ぎ。
その夢をもっと熱く、心を燃やすように、後世に残していく。
全ての道は、一つに繋がる。
そう、それが男の子に生まれるということだ。
オタクの魂が大きな炎となりて、天高く燃え盛る。
任されたものの大きさに、心臓が脈打つ。
男の子は、誰しも心の中に立派なイチモツを持っている。
昂ぶる感情。
これが、勃起だ!!
「……意味わかんねぇな」
うんうん。
ニコだけでなく、他の女の子達も頷いていた。
世界の半分は女の子なのだ。
野郎だけの空間ならまだしも、軽々しく、勃起いうな。
こちとら、高校生がいるんだよ。
可愛い女の子に勃起言ったらセクハラなのだ。
ツイッターのノリで発言しないで欲しい。
この世界にいるのは、男の子だけではない。
数十人集まっているイベントで馬鹿をやるな。
男の子は、頭が空っぽ。
何歳になっても、高校生のノリで生きている。
楽しければ許される。
女の子には一生分からない生き方だ。
馬鹿しかいないが、女の子はその馬鹿さ加減にどこか憧れてしまう。
上下関係さえ存在しない。
しがらみのない世界。
アマネは、学生時代に戻ったかのような懐かしさを感じていた。
少し、昔の自分を思い出す。
青い空に、白い雲。
ああ、そんな時もあったと。
昔の自分を懐かしむのだ。
「……アマネは陰キャ。そんな淡い思い出はない」
「卒アルに書き込みなかったやんけ」
「○すぞ」
明日もこのメンバーでメイドカフェをするという事実に、一人戦々恐々していた明日香ちんであった。
「明日、家から美味しい茶葉持ってきていいですか?」
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それをしばく明日香であった。
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