この恋は始まらない

こう

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第七十話・湯けむりむちむちメスオーク殺人事件。そのさん。

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あの後に、焼きそばや他の食べ物を持って帰り、小日向達に手渡すと、美味そうに食べていた。
パラソルの下には大量の食べ物が並べられている。
それを見て、秋月さんは呆れていた。
「風夏。食べ過ぎて、晩ごはん食べられなくならないようにね」
「大丈夫!」
小日向は、もりもり食べている。
お前の胃袋は異次元かよ。
見ているこちら側までお腹いっぱいになりそうだ。
「はぁ、そんなに食べても太らないとか、羨ましいわ」
秋月さんも焼きそばを食べたいが、水着姿だからか食べ過ぎないように我慢をしていた。
女の子はね。
少しの油断が、体重増加に繋がるらしい。
前回はあれだけ色々言っていたが、男子からしたら全然痩せているとは思うけれど、本人は納得していない。
男の子の痩せていると、女の子の痩せているは違うのだ。
女の子のカロリー管理は大変である。
萌花がやってきて。
「煮豚」
「……殺す」
喧嘩するなよ。
煽る内容がおかしいぞ。
こんなにも海が綺麗なんだから、もっと自然を楽しめ。
目の前に広がるのは、どこまでも続く青い海。
磯の香り。
さざ波の音。
そんな中、バナナボートに乗っかって、うぇいうぇいしている白石と真島、中野であった。
オタクの男子連中に牽引させるな。
陰キャのオタクはこう使う。
魔性の女である。
まあ、あいつらほど自由に遊べとは言わないが、もう少し海を楽しんでもいいと思う。
中野なんて、焼きそばを食べたらすぐに海に戻っていったし、時間がある限り遊ぶ。
それが高校生らしいノリだろう。
パラソルの下で、だらだらしているのは俺達くらいである。
いつものメンバーしかいない。

「なんだ。みんなで集まって話すなら、私も呼んでくれ」
さっきまでビーチバレーをしていた白鷺がやってくる。
よんいち組が全員集合した。
「白鷺、お疲れ。お茶飲むか?」
疲れて汗もかいたであろうし、冷たい飲み物を差し出す。
「すまない」
「ほら、他のやつも、ちゃんと水分補給をしておけよ。こうも暑いと、熱中症になりやすいからな」
他のやつにも適度に水分補給と休憩を促しているが、大丈夫かな。
注意して見てはいるが、不安である。
「やーやー。ハジメちゃんは心配性だなぁ。みんな大人だし大丈夫だよ」
俺はお前が一番心配だがな。
いつまでも子供じゃないんだから、焼きそばを食べながら喋るな。
行儀が悪い。
口元に付いたソースを吹いてやる。
小日向が側にいると、ウェットティッシュが手放せない。
「お前が言うな、お前が」
「ハジメちゃん。ありがとう」
花よりだんごである。
まだまだ子供だ。
「みんな、楽しそうでよかったわ」
クラスメート全員で旅行とか、最初はどうなるか分からなかったが、何とかなったし。
まあ、みんなが頑張ってくれただけだが。
俺は何もしないで枠だから、特別なことはしていない。
殆んどは、萌花や黒川さんなどの優秀な人がやってくれていた。
この作品のオブジェでしかない人間が、感謝するのもどうかと思う。
真っ先に口を開いたのは、白鷺だった。
「東山は頑張っていただろう? お父様と話を付け、コテージの予約や、食費や交通費の計算。当日までの進行に、観光スポットのチェックは東山がやっていたのだ。だからこそ、休んでいても誰も文句は言わないだろう?」
……へ?
俺って、そんなにやっていたか?
クラスメートに質問されたから、慌てて色々調べていただけな気がする。
萌花にキレられる。
「やってんだよ。だから、休めって言ってんだろ。……クラスメートで旅行するんだから、誰か一人が負担したら駄目なんだよ。帳尻合わせないといけなくて大変じゃんかよ」
すまんな。
働き過ぎると怒られるらしい。
人間、焼きそばや海の家で買った食べ物を食べて、ゆっくりしているくらいがいい。
「……みんな、晩ごはんがあるんだから食べ過ぎないでね?」
冷静にピキられていた。
間食するにしても、加減しろよ。
最近の秋月さんは、母親の魂がオーバーソウルしているから、怒り方が似ている。
秋月さんの手料理は、愛情増し増し、いつも以上に頑張ってカレーを作っていた。
お昼ご飯の際に調理して、カレーを寝かせている最中だ。
じっくりと時間をかけた方がカレーは美味しくなる。
頑張って作った女の子の手料理を、間食し過ぎて食えないとかほざいたら、女子全員から蹴りが飛んでくるだろう。
当然の結果である。
だから、食べ過ぎてはいけない。
もりもり食べている小日向とは違い、俺は普通の胃袋である。
男子高校生としては普通だろう。
勝手知ったる他人の胃袋。
家族同然の秋月さんからしたら、俺がどれくらい食べれるか知っている。
秋月さんは、笑顔ではあるけれど。
内心、ブチ切れているのだった。
うん。
料理を作る女性には勝てない。
今のうちにお腹を空かせないとな。

小日向が話を振ってくる。
「ハジメちゃん、この後の予定は?」
「ん? ああ、晩御飯の前に、貸し温泉があるからそこに行くけど……」
コテージは大人数が寝泊まり出来て便利だが、備え付けられている浴室はかなり小さい。
一人ずつしか身体を洗えないから、歩いてでも温泉に行くしかない。
みんなで入る温泉は気持ちがいいし、広々としている。
それに、露天風呂やサウナを堪能しないと旅行って感じがしない。
「水着で入れて、海辺の景色を堪能出来る温泉エリアもあるから、ラブラブなカップルにも人気らしいぞ」
「……なんで四人居る時に話した?」
どこがラブラブ出来るんだよ。
四人の顔を見れない。
すまんな。
頭よくないんだ。
それはともかく、温泉もコテージの料金に含まれているから、楽しまなくちゃ損である。
カップルに人気ってことなら、さぞかしいい景色が見れるはずだ。
「本来なら、近くホテルがオススメらしいんだがな。インスタ映えの海の幸たっぷりの高級ディナーコースがあるって話だ。まあ、それなりに値段がするみたいだし、俺達学生には難しい話だろうけどな」
旅は思い出とはいえ、一食に数万円もかけるのは抵抗がある。
毎日頑張って仕事をしている俺であっても、無駄にお金を使えるほどの余裕はない。
「え~、美味しいご飯を食べるならお肉がいい」
肉食系女子。
「ホテルの料理だと、肉料理でも量少ないだろうし、小日向だと足りんぞ」
「高いのに少ないの?!」
高いのに、何故に量が少ないのか。
いや、そういうもんだろう。
渋谷で仕事してるなら、高級料理の意味くらい知っておけ。
まあ、食いしん坊のお子ちゃまの舌には合わないので、俺達には一生関係ない話だな。
小日向に関しては、コスパ考えたら三千円の焼き肉食べ放題に連れていってあげた方がいい。
我が家の高級料理は、焼き肉屋さんだ。
秋月さんは、白鷺に聞く。
「冬華はよく家族でホテルとかに食事に行くんじゃなかったっけ? 高級ディナーに行ったことある?」
「いや、ないな。お祖父様からの繋がりがあるホテルではよく食事はするが、それくらいだ。最近はお父様もすぐに帰ってくるから、家での食事が多い。……新しい場所にはあまり行かないな」
白鷺の話だと、昔はお義父さんの仕事の都合で外で外食することが多かったが、お義父さんが家にすぐに帰るようになってからは、家族の作る手料理に夢中らしい。
まあその気持ちは分かる。
外食がどんなに便利であり、如何に高級な食材を使い、最高級のプロの腕で提供されたとしても、家族の手料理を越えるのは難しい。
ホテルのディナーが美味しくとも、そこには個人に向けられた愛情はないだろう。
人は、料理を食べて生きているんじゃない。
愛情を食べて生きているのだ。
白鷺のお義父さんは、元々一般家庭の人間だし、奥さんや娘を愛しており、誰よりも大好きな人だ。
数万円の料理よりも、手料理の方が好きだろう。
そして、かけがえのない価値がそこにあるのは分かり切っている。
この前のカフェでも熱弁して話していたが、白鷺のお義父さんは家庭を顧みない生活を変えるべく、既存の業務を減らし、新規事業の仕事を中心に活動していた。
やっとやりたいことを見付けた。
そう語るほどに、新しい仕事は楽しいらしく、前々よりも若々しくリア充している。
四十歳過ぎても、まだまだ現役だ。
同じ男として尊敬している。
……しかし、家族とのやり取りで嬉しいことがあると、俺に直接電話してくるのは謎だが。
愛娘の彼氏だったら、普通は忌み嫌うものだが、全然嫌われていない。
逆に、暇な時は男同士で教養を高めるべく、美術館や個展に連れて行かれた。
まあ、そんなこんなで、白鷺のお義父さんにはよく分からないベクトルで好かれていたが、揉めるよりかはいいか。
白鷺家の家長であり、白鷺グループの社長という立場だと、身内には言い出しつらいのかも知れない。

「ハジメちゃん、冬華のお父さんとは仲いいよね~」
なんや、こいつ。
あからさまに不機嫌になるなよ。
小日向は怒っていた。
白鷺のご両親と仲良くしているのに妬いているが、待ってくれ。
小日向、お前ん家の両親の喧嘩を短期間で三度、間を取り持って仲介したのは俺なんだぞ。

小日向の仕事終わりには、何度もお前を家まで送り届けているし。
よくコーヒーご馳走になっているし。
全然仲良しだろうが。

人の家の夫婦喧嘩に付き合わされる身にもなってほしい。
いい歳をした大人が、本気でキレているのを見るのなんて、俺の両親だけでいい。
しかも怒っている小日向ママが冷静になるように優しく宥めていると、娘のクソガキがキレるし、阿鼻叫喚の絵面である。
何で、小日向家のパパママ娘と、全員に気を遣わなければならないのか。
触らぬ神に祟りなし。
下手に誰に意見に乗っかって、フォローに入ると、ミイラ取りがミイラになる。
いや、マジで。 
ダブル小日向母娘から怒られる俺よ。
小日向のお義父さんとは、ママとの仲直りのプレゼント選びに付き合わされたこともあったし、男同士のキャンプに連れて行かれたこともある。
仲良しやろ。
ふざけんなよ。

やんややんや。
他人の家と仲良くし過ぎと、批判ばかりしやがって。
他の奴らもそうだ。
家庭の事情に俺を巻き込むな。 

「れーなが一番おかしいだろうが!」
「なんで私なのよ! 月一でパパとママにテレビ電話しているだけだけじゃない……!」
キレんな。
日除けのパラソルの中は狭いんだぞ。
喧嘩するなら、炎天下でやれや。
秋月さんは、東山家で預かっている手前、アメリカに赴任している両親からのテレビ電話で、事細かに近状報告をしていた。
「彼氏とのプライベートを母親に語るのはまだいいが、父親に話したらやばいやろが。父親の脳を破壊するな」
こんなぱつぱつの水着姿をしているアホ娘でも、親からしたら可愛い愛娘だ。
そんな娘の恋バナとか、親からしたら致死毒である。
娘の恋人は死すべし。
パパは許しません。
怒り狂い暴れ出しても仕方がない。
まあ、それはどの家庭でも同じだろう。
可愛い可愛い我が子である。
普通の親なら、当然の判断だ。
「あ、そういえば、お前らのお義父さん達から、娘の可愛い写真を撮ってきて欲しいって言われているんだが、送っていいか?」

お前が一番親と仲良いのおかしいだろうが。

いや、そう言われても。
お義父さん達の気持ちとしては、年頃の娘に直接言えないんだろうよ。
嫌われたくないだろうし。
だから俺が仕方なくお願いされていた。
「いいよ~」
「ふむ。構わないぞ」
「ええ、大丈夫よ」
「もえはパスな」
……まあそうなるよな。
萌花のところは、気付かれないように内密に送っておくか。

萌花のイマジナリーパパと会話する。
ありがとう、ハジメくん。
ええんやで。

萌花の可愛い写真は、カメラマンの高橋に撮ってもらうように頼んであるから、問題ない。
一番いい萌花を頼む。
大丈夫だ、問題ない。
高橋さん。カッコいい。
「しれっと私情込みで高橋を利用するな」
萌花に怒られる。
しかし、旅行の写真には、高橋の撮影技術は必要だ。
プロレベルのカメラの腕前。
写真を撮るためならば、全力を出してくれる。
一眼レフカメラの解像度マックスで、可愛く自分を撮ってくれるから、萌花達だって嫌がっているわけではない。
いつもはお金を払ってコスプレイベントなどを利用している高橋が、三日間タダで無限に可愛い女の子を撮影出来る機会だ。
本人はやる気満々で、喜んでみんなの撮影をしていた。
真剣な眼差しには、オタク特有の気持ち悪さがあったが、誰も気にしていなかった。
キモオタにしか見えなくとも、本気で取り組み、自分のことを可愛く撮ってくれるのだ。
そこには信頼と尊敬の気持ちがあった。
実際に、高橋に任せた方が、自分のスマホで撮る以上に可愛くなるし、高橋なら写真として現像してくれる。
他クラスからしたら、高橋はいつも風景やコスプレ写真を撮っているよく分からないオタクだと煙たがれているが、俺達からしたら全然違う。
学校生活の思い出を、大切に記録してくれる神だ。

みんながみんな、自分の家に、クラスの連中と撮った写真が飾られている。
学校に行く日の朝。
部屋を出る前。
それを見る度に、思い出す。
大切な思い出ばかりだということを。

今だって、嫌な顔をせずに他のやつらの写真を撮っているし。
カメラが本当に好きなんだろう。
高橋は、手を止めない。
次の撮影対象。
野郎達が二時間以上かけて、頑張って作った砂の城。
高橋は、砂の城を撮っていた。
アノール・ロンド。
超大作やん。
炎天下の砂浜に、ダクソ1のステージを再現していた。
その偉大なる佇まいは、誰がどうみてもアノール・ロンドであった。
好きなのは分かるが、人間性を捧げ過ぎ。
才能と時間の無駄遣いだが、男の子ってこういうの好きよね。
無駄こそ愛せ。
男とはそういうものだ。
……あとで俺も見せてもらおう。

アノロンにウキウキしていたら、萌花に頭を叩かれた。
「お前は砂浜以外に見るものがあるだろうが」
哲学かな。
……彼女の可愛い水着姿をもっとちゃんと見ろと言いたいのだ。
よんいち組は、美人の集まりだから、みんな可愛い。
そんな女の子が水着姿ならば、男の子だったら歓喜するのが普通だ。
透き通るような柔肌。
各々の魅力を活かした水着のデザイン。
柔肌と合わさることで、女の子らしい可愛さと魅力を兼ね備えている。
男子連中が水着姿のクラスメートを見て言っていた。
水着のテーマパークに来たみたいだぜ。
テンション上がるなぁ~。

俺も男だ。
期待に応えたい気持ちはある。
全力で喜んで褒めたい。
「でも、俺はメイド属性しかないし……」
「そんなイカれた返答は誰もいらないんだよ」
悲しいがな。
どれだけ彼女のことを可愛いと思っていても、一般的な感想しか出てこない。
今日は、いつもより可愛い。
いや、いつも超超超超超超大盛ペタマックス可愛いのだ。
それでは駄目だ。
語彙力が足りんぞ。
そもそも他人が口にする可愛いと、俺の口にする可愛いだと、圧倒的に意味が違う。
言語の限界。
この愛を語るには、文章能力の壁が存在しているようであり、この気持ちを完璧に表現するには、脳から直接出力しないと無理である。
時代が追い付いていない。
クラスメートとの旅行故に冷静にしているが、今日のよんいち組は、可愛いの洪水だ。
濁流の如く、可愛いが溢れてくる。
メイド服なら死んでいた。
冷静さを欠いていたはずである。

黒川さんに可愛い可愛い言っている一条がまるで馬鹿みたいだと思っていたが、尊敬すらしていた。
女の子を褒めるのは難しい。
ただただ、簡単に。
好きな気持ちを伝える。
人の世は、容易いと思っていることほど、難しくて複雑なのだ。
あれ、なんて褒めるのが普通なんだ?
「……」
「そんなことで簡単にフリーズすんな。ハムスターかよ」
「いや、萌花。考えてみてくれよ。彼女の水着姿を見て、素直に可愛いとか言えなくない?」
「言ってんじゃん」
そうだけど、違うんだよなぁ。
可愛いにも色々な意味があるわけで、好きな女の子の水着姿を褒めるとなると、果たして何が正解か分からない。
秋月さんは言うのだった。
「東山くん、普通に褒めたらいいと思うけど?」
「普通か……」
なるほど。
変に着飾らずに、自分の気持ちを伝えればいいわけか。

「こいつ、普通じゃないぞ」
「失敗したわ……」
言ったそばから後悔すんなよ。
失礼だろうが。

俺は気付かなかったのだ。
高校最後の夏は、特別な意味があった。
男子連中が女子の水着姿を楽しみにしていたように、女子もまた、特別な思いと共に海を楽しみにしていたのだ。
……やられる。
その眼光は、女の子という生易しいものではない。
メスだ。
海に来ていて、可愛い水着姿だ。
女の子だから、いつもより慎ましやかな反応をすると思っていた。
よんいち組は、節度ある女性しか居なく、水着姿で大胆な行動をするタイプではない。
普通の恋愛でも一喜一憂する、可愛い可愛い高校生だ。
水着姿で女の子の可愛さをアピールすることはないと思っていた。
判断をミスった。
何故、自分だけは安全だと思っていたのか。
東山ハジメ、俺は窮地に立たされているんだぞ。
ラブコメの世界だって人は死ぬ。
男と女が世界に存在し、あり続ける限り続く、人の世の理である。
それと同じように、雌カマキリは、雄を見付けると即座に捕獲しようとする。
子孫を残すよりも早く、栄養価の高い雄を補食するために。
この世で一番美味しい完全メシだ。
だから、雄カマキリは子孫が残せる成体になるまで、雌に見付からないように逃げて生きているのだ。
雄と雌の出逢いは生と死の訪れだ。
悲しい生き物である。
パラソルの下に人間の男一人と、可愛い女の子が四人。
何も起きないわけもなく。
俺は悟ったのだ。
補食される。
確かに俺は今、皿の上に乗っていた。
愛に餓えた女の子の前では、上質な餌でしかない。
明確な死のビジョンとして、全身で感じ取ってしまっていた。
助けて~。


海を堪能した後は、軽く水浴びをして私服に着替える。
少し早いがみんなで温泉に向かう。
男子連中で集まって歩いていると。
「東山、よく生きていたね」
「……いや、お前。気付いていたなら、助けろよ」
一条に助けを求めるのは間違っているだろう。
一条ほどの男だ。
俺が襲われていることに気付いていても、助ける勇気はない。
でも、助けて欲しかった。
そうしてもらいたいのに、してくれなかったら、悲しいじゃん。
悲しいよ。
怒るのは普通だよ。
愛されているが故の、わがままだ。
「東山、なんなのそれ」
「いや、意味はない」
「えぇ……」
よんいち組全員に、数百回の可愛いを言わされた俺の身にもなってくれ。
可愛いが壊れるわ。
ハーレム系主人公と揶揄されているが、俺も大変なのだ。
女の子は一人だけでもわがままなのだ。
それが四人もいるとなると、普通では考えられないだろう。
可愛い彼女と過ごす時間と労力がまったく釣り合っていない。
「気持ちは分かるよ。でも、よんいち組のみんなは、東山に水着姿を見てもらいたいから頑張っているんだろう? それに報いるのが男の子だよ」
「一条が代わりに褒めといてよ」
「なんでそうなるんだよ。俺がやっても、クソの価値ほどないよ」
……黒川さんの一件以来、クラスの女子は一条に対して冷ややかな目を向けていた。
彼女がいるのに、他のクラスの女子とカラオケに言った罪は消えない。
一条の株価はストップ安だ。
「運動部の絡みでどうしようもなくて。黒川さんと付き合っているから興味ないって、何度も言っているんだけど……」
「弱味を作ったお前が悪い」
女の子に弱味を見せるな。
野生だったら、それは死を意味する。
そこまで言っていて、彼女持ちのお前がカラオケに行くなど、分かり切っていたことだ。
死んで詫びろ。
あと、一条よ。
必要以上に彼女の水着姿を褒めるのは気持ち悪いって、よんいち組の奴らが言っていたぞ。
彼氏という立場からしたら、彼女が可愛いのは当たり前だが、はしゃぎすぎだ。
イケメンの一条ですら女子からキモいと言われる事実に、俺は震え上がっていた。
海で黒川さんと軽く話した時に、可愛いと言ってしまっていたし。
俺も気持ち悪いと思われていないか不安であった。
きっも。
あの黒川さんにそう思われていると思うと、悲しくなるわ。
クラスメートや彼女とのいい思い出だけじゃなく、悪い思い出も作ってしまっていた。
漫画やアニメみたいな、可愛い展開を期待していたというのに。
叶わぬ故に夢。
現実は甘くない。
野郎が女の子に好かれるのには、並々ならぬ努力が必要なのである。

この旅行のために、男子連中だけのグループラインで話し合い、念入りに調べた旅行プラン。
グルチャ名、クラスの女子には内緒だよ。
そんな思いと共に頑張って、楽しめる場所を探したのだ。
一日目は海で遊んで、二日目は観光する。
女の子が好きそうな水族館に行ったり、インスタ映えのカフェや絶景スポットで喜んでもらおう。
そんな分かりやすいものでさえ、頑張っていたのだ。
「バレてんぞ。それは」
誰だよ、バラしたのは。
萌花が知ってるやろがっ!!
サラッと言って去っていきやがったぞ。

一条が言う。
「え、子守さんが知っているなら、東山がバラしたんじゃないの?」
もえぴは、誰よりも男子が嫌いだし、必要な時以外は関わり合いがない。
そうなると必然的に東山の耳からしか情報が入ってこないはずだ。
そうなのか?
そうかも??
まあ、萌花は俺以外の男子と話さないもん。
萌花の可愛い姿を知っているのは俺だけである。
「いや、俺は言ってないが?」
「何で一瞬、誇らしげにしたの??」
それは知らん。
訳分からん会話をしつつ、歩きながら温泉を目指していると、大きな旅館が現れた。
数十人でも利用出来る有名な温泉があるだけあり、旅館の大きさとしてはかなり立派であった。
修学旅行の時とは違い、学生だけが入れるような外観ではない。
泊まれこそせずとも、温泉に入るだけでも数千円以上しそうだ。
天然温泉に、水着で入れる温泉もある。
底辺家庭出身の俺では経験出来ないことばかりだ。
白鷺のお義父さんには感謝である。
「やったぜ。温泉入ろうぜ、温泉。サウナもロウリュウだから、豪華だって言ってたよ」
夢もねぇ金もねぇ俺達はよぉ。
人のご厚意に甘えて、素直に旅行を楽しむことしか出来ないのだ。
男子連中で盛り上がりながら、旅館の敷居を跨ぐ。

萌花と麗奈は、楽しそうにしている男子を見て一言。
「馬鹿しかいねぇな」
「まあ、男の子はみんな、あんなものだし……?」
女子は全員呆れていた。


男子トーク。
クラスメートと温泉に入る。
サウナといえば、男。
男といえば、サウナである。
すまんな、男の裸で満足してほしい。
サウナに入り、汗だくになった男だけのトークだ。
全員、脚を閉じろ。
どこを見ても、モザイクしかない。
俺や一条含め、サウナに耐性がある人間は我慢比べをしていた。
(※危険ですので真似しないで下さい)
檜の密室。
熱が籠った空間に男子が十人。
男が集まったら、何も起こらないわけがない。
サウナの中央にある熱された石の熱気にさらされつつも、我慢をしていた。
俺は、おもむろに水をかける。
そうすると、即座に水が水蒸気になり、熱風が舞い上がるのだ。
「ぎゃあ! 東山の悪魔!!」
「何で無言で水追加するんだよ!?」
他の男子連中は騒いでいるが、サウナを甘く見るな。
ここは男の戦場だぞ。
我慢大会だ。
生き残りが一人になるまで続くのであれば、容赦なくふるい落とすべきだ。
「……サウナ検定の資格持っているから安心しろ」
「何で!?」
「事務所の人に、将来を考えたら、資格はいっぱい取っといた方がいいって言われてな」
「ぜったい違うよ!?」
五千円払えば通信教育で学べるから、サウナにハマっている人や、資格が欲しい人にオススメである。
クラスに一人。
サウナの資格を持っていたら、修学旅行の人気者になれるぞ。
俺は、腰に巻いたタオルを使って熱波を飛ばす。
みんな、地獄みたいな顔をしている。
それでもサウナから退場しないあたり、俺達のクラスは漢ばかりである。
男には、退路はない。
俺達男は、世界最強になりたいわけじゃない。
クラスで一番になれればいい。
ただそれだけの気持ちで、サウナで勝利をしたいのだ。
バタン。
一人脱落した。
「やばい! 一条が死んだぞ!!」
敗者には冷水を頭からかけて、外に出す。
一条は居なくなり、一条のタオルだけが椅子に残っていた。
皆、戦慄していた。
全員が倒れるまで、この戦いは続くのである。
しかし、自分から扉を開けて出ていくわけにはいかない。
敗北者の烙印を押されるのだ。
ここから出ていくには、倒れるか、死ぬしか方法はない。
「東山さん!? だからって、無言で水を追加しないで……!?」
いや、だってみんな粘るじゃん。
一人になるまで俺は続けるよ。
お前達が男気を見せるために、苦しみながら頑張っている顔を見ていると、俺は嬉しいんだ。
「ただの畜生で草」
騒ぐな騒ぐな。
物語上、必要とはいえクラスメートはヤジを飛ばす。
しかしそれは悪手であった。
喋る度に体力を削る。
それすなわち、死を意味する。
バタン。
また一人、勇敢なる戦士が息を引き取った。
水をぶっかけて、外に出す。
「いいか。一人になるまでこれを繰り返す。一人になるまでだ」
敗北を知りたいのなら、教えてやる。
四股クソ野郎。
サウナだけなら、俺達でも東山に勝てると思っていたのだろうが、そんなことはない。
男の子はなあ。
男に生まれた限り、負けられないんだよ。
愛を知れ。
愛がなければ人は強くはなれない。

「東山、子守さんが呼んでたぞ」
「萌花が?! すぐ行くわ!!」
萌花ちゃん待ってて~。
お風呂上がりの可愛い萌花を見れる機会なんて、人生において何度もあるものではない。
すぐさま、扉を開けて出ていく。
最愛に比べたら、最強など何の価値もない。
「東山、逃げるな! 戦え!! 逃げるな、卑怯者~!! 」
何を言っているんだ。あのガキは。
お前達から逃げているんじゃない。
可愛い彼女に会いに行っているんだ。
泣きながら、全裸で凄むな。


風呂から上がり、着替えてから萌花に会いに行く。
入口から出てすぐのところの椅子に、萌花と黒川さんが座っていた。
髪を下ろした萌花は、サラサラのセミロングもさることながら、凛とした表情とのギャップが可愛かった。
萌花は、ツンケンしているいつもと違って、お風呂上がりだからか血色がよく、可愛い。
「ごふっ」
何故、殴った。
それなりの威力のパンチが飛んで来る。
「いや、気持ち悪いし」
萌花さん、黒川さんが居るんだけど。
暴力と無縁の人の前で、リアルな世界観を見せるのはどうかと思う。
「判断が早すぎます。殴るにしてもちゃんと理由を聞いてあげないと」
「こいつ、頭で考えてないから」
「それでも……」
黒川さんも言い負けないでくれ。
全面的に俺が悪いみたいじゃないか。
……ああ、そうだ。
先ほどの一件で謝るのを忘れていた。
「黒川さん、さっきはごめん」
「……えっ。何かしましたっけ?」
「ほら、黒川さんのこと。水着姿が可愛いとか言っていたけど、今思うとなんか気持ち悪かったかなって」
「あ、ああ。……そんなことないですよ。褒められ慣れていなかっただけで、私の反応の方が気持ち悪かったかも知れないですし」
あわあわしている。
可愛い。
女の子らしい反応で可愛いものだ。
流石、黒川さんだ。
取り敢えず、俺のことを黒川さんがキモいと思っていないようで安心した。
胸を撫で下ろす。
「きも」
もえぴいぃぃぃ。
「姫ちゃんはクラスの姫なんだから、お前のイカれた思考で汚すな」
俺は汚物だと言いたいのか。
萌花は、腫れ物を扱うような冷ややかな視線を俺に向けてくる。
悲しい。
でも、同人作家としては頭がイカれていた方が特別感あっていいな。
漫画家としては普通の感性だけでは、良い作品は作れないものだ。
もう普通じゃなくていい。
高熱で寝込んだ時に見る夢みたいな物語が描けるようになった方が、漫画家らしいだろう。

「……姫ちゃんの時だけ自分から可愛いって言えるんだな」
「そりゃ、黒川さんは可愛いし」
やめて。
萌花、椅子から立ち上がらないで。
強く握り締められた拳が怖い。
萌花は女の子だから、俺より全然背が低いのに、俺以上の覇気を纏わないでくれ。
よんいち組のよんとは、初台学校の四皇の意味である。
戦争が始まる。
「まあまあ、男の子は近い人ほど素直に褒められないですから」
「それや!」
「お前は黙ってろ!!」
黒川さんが呆れていた。
だって萌花は、素直に可愛いって褒めても怒るやん。
女の子扱いされたくないのに、可愛いって言ってほしい。
まったく、わがままなことだ。

褒めるにしても表現方法がイカれていると言われても、カンストするくらい可愛いのだから仕方あるまい。
萌花を例に上げるとしよう。
制服姿は、いつも可愛い。
水着姿も可愛い。
お風呂上がりのTシャツ姿も可愛い。
どの姿を切り抜いても、神作画である。
まつげ一つ取っても可愛い。
世界にはこんなにも、幸せで満ち溢れているのだ。
男に生まれてよかった。
「こんなに馬鹿な男は、お前くらいだけどな」
「一条くんも大概ですよ」
「あー。互いに変な男を持つと苦労するよな」
「そうですね」
気付けばそう。
二人の仲が良くなっていた。
女の子も楽しそう。
ずるい😡
「やめろそれきもいんだよ」
もえぴ、早口やんけ。


俺達が話しながら待っていると、他のメンバーも集まる。
サウナで死んでいた野郎達。
小日向や準備組。
三馬鹿達である。
みんながみんな、お風呂上がりの姿はとても可愛い。
男子もにっこりしていて、嬉しそうであった。
あれだけサウナでしばかれたはずなのに、半数はまだ元気そうである。
流石は高校生である。
思っている以上に体力が有り余っていた。
なんだ。
もう一回、サウナチャレンジするか。
サウナは何回か入った方が気持ちいい。
湯けむり殺人事件だ。
「膝に矢を受けてしまってな」
「う、頭が」
俺がサウナと口にした瞬間、全員脱力状態になんなよ。
嘘が下手な奴らだ。
「小日向達は元気なら、水着で入ってきたらどうだ? 絶景スポットらしいし、カメラマンでの撮影もいけるらしいからさ。ほら、俺達男子は駄目そうだし、夜風で身体を冷まして待っているわ」
腕を掴まれる。
「俺達はまだ戦える」
なんなん、こいつら。
鬼の形相で訴えるなよ。
そこまでして女の子と温泉に入りたい理由は知らんが、命を大切にしろよ。
明日も明後日も、俺達の旅行はあるのだ。
初日で再起不能になってしまって、どうする。
水族館に行くんだろう。
ペンギンを見たいと言っていた。
そのあとにカフェに行って、可愛いあの子と会話をしたいんじゃないのか。
「それは分かるよ。でも、男の子って刹那的な生き物だからさ。女の子の水着の方が重要……」
女の子と温泉に入りたい。
可愛い女の子と同じ湯船に浸かるという、男の夢が果たせるなら、死んでもいい。
男たるもの、宵越しの命は持たないものだ。
サラッと命捨てんな。
そこまでして、女の子に固執するお前らの気持ちが分からん。
女子が超絶嫌そうな顔をして引いているぞ。
いやまあ、男子の気持ちは理解出来るが、せめてニュアンスは変えてくれ。
付き合っている男子なら、彼女の可愛い姿が見れるなら、這いずってでも温泉に行くだろうが。
お前ら全員は彼女いないし、仲のいい女子といっても、一日数回会話するかしないかだ。
他人は他人。
無駄に努力を見せるな。
そこまでするクラスの男子を見て、水着姿を見られたいと思う女の子はいないだろう。

風夏ちゃんは、みんなが憧れるような世界一可愛い読者モデル。
男なら死んででも水着姿を見たい。
てめぇら、他人の彼女の水着姿を求めるな。
弱り切った野郎を殴り飛ばしておく。
下段突きだ。

「……野郎には容赦ねぇな」
あの萌花ですら、殴られた男子に同情していたが、よく考えてみてくれ。
小日向は、水着姿を見られるのが仕事の読者モデルではあるが、その前に大切なクラスメートなのだ。
真面目に読者モデルをしている小日向に対して、グラビアアイドルみたいなえっちな視線を向けるべきではない。
俺達は、小日向からしたら他人ではないのだ。
萌花にはゴミカス共と言われていても、ゴミカス共なりに、発言には多少の影響力がある。
気を付けなければならない。
男として生まれた以上は、女の子に対して、真摯な対応をするべきだ。

俺は、彼女の小日向がそう言われたから、怒っているわけではない。
クラスの男子が間違っていたら注意することは、男として正しい行動だ。
だから、殴り飛ばしたまでだ。
何なら、読者モデルの小日向が目当てだったからこれで済んでいるだけで、他の奴らだったら殺している。
萌花は駄目だ。
この恋は誰にも譲らない。
「……誰も、もえのことは見てねぇって」
俺が見ている。
目に入れても痛くない。
普通にキモいって怒られた。


神視点。
水着に着替えた女の子達は、露天風呂から見える絶景。
月夜に映える海のさざ波の美しさを堪能しながら、温泉でまったりしていた。
はあ、生き返るわぁ。
水着姿で入る温泉は気持ちいい。
裸のままでは、脚を伸ばすことも恥ずかしくて難しいが、水着ならば自由に出来る。
「アタシは出来るが??」
中野は、黙ってろ。
下半身モザイクかかりながら股を開くのはお前だけだ。
恥を知れ。

なるほど。
水着で入れる温泉が、若い子に人気になる理由が少し分かった気がした。
元々観光客やカップルに人気な場所ではあったが、旅館側のご厚意により、三十分だけではあるが学生だけで楽しめるようにと、貸し切りにしてくれた。
白鷺のお義父さんが事前に話を通してくれていたからか、それとも旅館にいる小日向風夏のファンの従業員が気を利かせてくれたのかは分からない。
理由はどうあれ、人の好意によって今の結果があることは確かである。
温泉では騒がず、五月蝿くしないのがルールだったが、高校生に騒ぐなというのは無理だろうか。
風夏は、温泉で泳いでいた。
「私は可愛い人魚~」
風夏は、これまた嬉しそうにしていた。
温泉あるあるの定番の展開をする。
しかも、この女。
温泉用に、新しい水着に着替えていた。
昼の花柄の可愛いものから一変し、白色のフリルが付いたシンプルで可愛い水着である。
白い水着の性質からか、小日向風夏の小さいながらも可愛いおっぱいとお尻が強調されていた。
流石、読者モデルだ。
スタイルのよさだけで、トップクラスである。
おっぱいの大きさだけでしか戦えず、女としての取り柄がない人間とは違い、存在するだけで美しい。
風夏ちゃん、マジ天使。
白い水着姿。
それはまるで、天使の翼のように真っ白であった。
翼を広げて羽ばたいていた。
翼の生えたエンジェル。

「いや、幻覚見てんじゃねえよ」
ハジメがツッコミを入れる。
どこに天使要素があるんだよ。
ハジメは風夏ちゃんに厳しいが、それくらい可愛いのだ。
男子連中は、ハジメに感謝していた。
超絶可愛い美少女と同じクラスになっただけですら、とてつもない奇跡だったのに、学校で何気ない会話をしたり、一緒に旅行に行ける人生を歩んでいる。
しかも、雑誌でしか見ることがなかった水着姿を、生身で見ている。
透き通るような肌。
お人形さんのような女の子。
そんな子と、同じ湯船に入っている。
ハジメちゃん、ありがとう。
思い残すことはない。
死ぬにはいい日だ。

昇天しかけている男子が何人かいたが、その死にそうな表情は風夏ちゃんを見過ぎて幸せ過ぎた為か、サウナで体力を削られて死にかけているせいかは分からなかった。
しかもこの女、あと二回も変身を残しているとは、誰も思うまい。
男子連中で固まって湯船に浸かって思いに耽っていたので、ハジメが話し掛ける。
「よく分からん妄想をしているのはいいが、女子連中と話さなくていいのか?」
「……恥ずかしいぢゃん」
「乙女か、お前ら」
海では気にせず楽しそうに接していたのに、急にナイーブな感情をぶつけてくる。
女の子の温泉で火照った顔が、月夜に照らされて少し大人びて見える。
高校生だから、グラビアアイドルみたいな直接的なエロには耐性があるものの、大人の雰囲気にはめっぽう弱いのであった。
しかも、夜ということで静かすぎて会話に困りそうだ。
沈黙して気まずくなったらどうしよう。
……恥ずかしい。
運動部だというのに、弱気なものだ。
ハジメは励ます。
「お前、温泉モノのエロ動画好きじゃん。大丈夫だよ。なっ!」
「何でサラッと性癖暴露するんだよ!」
ハジメは前々からそういう人間だ。
他人の立場を考えて発言出来ない性格をしている。
この男、タオル一枚で男風呂に入ったエロ動画が大好き。
それもまた、個性。
日本人はみんな変態だから大丈夫だ。
多少ぶっ壊れた性癖でも、日本人は何だかんだ許容出来る。
ハジメは、名も無きクラスメートの悪評を広めるのであった。
悪逆無道の行いだ。
否、どのみち温泉モノのエロ動画が好きなのが顔に出ているから、ハジメが言わなくとも察していたはずだ。
だからこそ、地雷は最初に踏んでおいた方がいい。
ハジメは笑顔で言う。
「大丈夫。温泉が好きなやつに悪いやつはいないからさ」
「お前のそれは、サウナのことだろ!!」
イカれた野郎の趣味と一緒にすんじゃねぇ。
仲良しかよ。
男同士の方がキレキレである。
この男、陰キャとして高校三年間を封印しておいた方がいい人間だった。


「男子は仲良すぎる😡」
小日向風夏は、会話の内容はよく分からなかったけれども、楽しそうにしていたのに怒っていた。
もう絵文字を使うのやめてくれ。
この作品がスマホ小説とはいえ、お前らは自由過ぎる。
面白いと思った表現を、イキイキとしてフル活用するな。
楽しそうにしている男子が気になるのか、風夏が近付くと、男子連中は距離を取る。
なんやこれ。
風夏ちゃんは、その状況に面白がってもう一度男子に近付く。
ざざざ。
男子連中は、纏まって逃げる。
お祭りの金魚か、こいつら。
いや、世界一可愛い読者モデルが近距離に近寄ってきたら、ビビって逃げるのが普通である。
当然の反応だ。
理系クラスだけあってか、運動部でも彼女居ない歴イコールの集まりだ。
女の子と話したことすらない連中が、世界一可愛い女の子を直視出来るわけがない。
風夏ちゃんは、温泉ということで、髪が湯船に浸からないように黒髪ロングを後ろでまとめていた。
かわよ。
「小日向、髪の毛邪魔じゃないの?」
あーなんだよ。
またかよ、ふざけんな。
空気が読めない馬鹿がおる。
可愛いって素直に褒めてやれよ。
何で彼女にかける第一声が、これなのだ。
この馬鹿は、何で毎回毎回、訳分からないことを口にするのだろうか。
「これのこと? ヘアゴムだから簡単だよ」
どやどや。
風夏ちゃんは気にしていないようであった。
「へぇ、女の子は大変だな」
風夏ちゃんは、可愛くした髪型を見せるために、後ろに振り返り、うなじを見せる。
日に焼けていない真っ白なうなじ。

名も無きクラスメートが死んだ。
うなじは、彼にとってのベストシチュエーションだった。
可愛い女の子のうなじ姿は、人を殺せる。

夏の月。
湯けむりうなじ。
嬉しいな。

俳句を読んで息絶えた。
辞世の句。
彼はそれを読み上げて、死んだ。
命の無駄遣いだ。
「なんだ、これは……」
流石のハジメも狼狽えていた。
お前のせいだぞ、東山。
お前が常日頃からクラスでふざけているから、他の男子もノリがそちら寄りになってしまっていたのだ。
最初の頃の新しいクラスに馴染めるか不安でいっぱいの、静かなクラスメートなど、誰一人も居やしない。
自由過ぎる。
否、我々のクラスでは我を出していかないと、印象が残らないのだ。
女子からしても、男子が仲良しなのはいいことだが、知能レベルが小学四年生で止まっているような気がする。
最早、猿だ。
全ては東山のせいだ。
しかし、そのせいか。
このクラスでは、いじめが全くない。
性癖暴露されていても、誰もが仲良さそうに学校生活を楽しんでいた。
ハジメがいる限りは、そういったことは起きないだろう。
みんなを見てくれて、気を遣ってくれる。
困っている時は助けてくれるし、いけないことをしたら叱ってくれる。
そう。
それはまるで。
うちのクラスのママである。
男子からしたら、ハジメは聖母様だ。
陰キャも陽キャも、分け隔てなく愛してくれる。
恋愛をしたこともない学生が知る最愛とは、それはママだけだろう。
ハジメが持っている愛とは、それに近い。
目に見えない愛とはママであり。
ママとは愛である。
いつしかママは絶対的な概念となり、人の意思から超越した存在となる。
ハジメから愛を感じる度に、ママに包み込まれているような気持ちになってしまう。
絶対的な愛。
よんいち組が、ハジメを好きになってしまった気持ちが何となく分かる。

ハジメファンも同じだ。
一個人のファンの身ながらも推しに名前を覚えられ、ツイッターで呟いていた悩みが大丈夫だったかどうか心配される。
ママ。
人と出逢い、恋愛し、失恋し。
楽しいことも辛いこともあった。
そんな人生の中で、私達はずっとママを探していたのだ。
男の娘にバブみを感じておぎゃるのが、ハジメファンの流行の最先端である。

クラスメートとて、それと同じだ。
自分を気に掛けてくれる人を好きになってしまうのだ。
だから、よんいち組の誰よりも、ハジメの人気が一番高い。
初恋を知らない男子連中は思っていた。
きっと恋をしたら、ハジメのように人を愛することが出来る女の子を好きになるのだろう。
当然のように、姫にされていた。

それはさておき。
ハジメがいることで、男子は小学生の頃のようなテンションで絡んでこれるし、女子は他人の目を気にしないでいられる。
高校生は高校生なりの悩みがある。
勉強運動と、他人と比べられ、男女間の恋愛のいざこざに巻き込まれる環境とはおさらばだ。
灰汁が強いクラスメートばかりだが、それゆえに最高に過ごしやすい。
みんなが他人に気を遣わなくなり、本来の性格で接することで、駄目な自分を好きでいられる。
素の自分と向き合えるのだった。
ハジメが居なかったら、風夏ちゃんも無邪気に笑っていなかったはずだ。
みんなが憧れる完璧な女の子。
読者モデルとしての自分しか出せず、ダメダメな小日向風夏としての幸せはなかっただろう。
他人に気を遣って生きていくなんて、まっぴらごめんだ。
人は誰よりも幸せになる為に、頑張って生きている。
誰だってそうだ。
だから、自分の努力は自分で認めてやれ。
そうじゃないと、自分が可哀想だ。
ハジメはそう言って、クラスの全員を応援してくれる。
この男は、遊戯王OCGの全国大会でプロになりたいと言っても、否定はしなかった。
やるからには結果を残せ。
男なら、死んでもやりとげろ。
そう言って送り出してくれる。
普通ならば、世界一可愛い読者モデルが彼女だと、嫉妬をするものだけれども、東山なら仕方がない。
そう思えるのだ。
だって、東山は優秀だ。
頭は馬鹿だが、ずっと努力をしているし、時間の許す限りペンを握って頑張っている。
そんな人間が、クラスメートのどんなに下らない夢であっても、話をずっと聞いてくれて、最後には全力で夢を叶えろと言ってくれる。
そんな人間を好きにならない人はいない。
いつも、夢の為に背中を押してもらっている。
風夏ちゃんが少し羨ましいくらいだった。


風夏は、ハジメに問いかける。
「ハジメちゃん、SNS用に写真撮ろうよ」
「えっ、やだ」
……でも死んでくれ。
クラスメートとして、二人の夢を応援しているけども、男としてはやっぱり駄目だった。
嫌な顔をして、秒で断るのやめろ。
ハジメは、可愛い彼女の誘いを即座に断る。
SNSは魔境だ。
旅行先で記念写真とか、腐れリア充みたいな写真を上げたら、ハジメのアカウントが即座に炎上するのは目に見えている。
お前だけが幸せだと思うな。
八月のお盆明けから、通勤ラッシュを味わい、八時間仕事をしている人間が可哀想だと思わないのか。
若いものが、三日間も休みを取るな。
お兄ちゃんなんだから、妹も連れてけ。
そうして、ハジメのアカウントは今日も炎上するのであった。
しかも、水着姿とはいえど、温泉で写真を撮るのはセンシティブ過ぎる。
温泉で頬を赤くして、水に濡れた女の子が嫌いな男性はいないのだ。
クラスメートもそう言っていた。

そうでなくとも、温泉みたいな分かりやすい場所は特定されやすい。
ましてや、プライバシーに関わる写真はあまり撮らない方がいいだろう。
女の子は、可愛いと言われたいからか何も考えずにSNSに投稿しているやつもいるが、ハジメからしたら危なっかしいと思っていた。
現実の人間は、クラスメートみたいに、全員が全員、いい人間ばかりではないのだ。

「なんでぇ。高橋くんはめっちゃ写真を撮っているよ」
「あれはそういう生き物だから……」
高橋は、クラスの女子に頼まれて温泉で写真を撮っていたが、高橋は女の子には興味がない。
女の子イコール被写体。
今の表情は可愛く撮れたと言っていても、写真映えする人間や自然としての意味合いだから、ノーカウントである。
カメラしか興味がない。
それが彼の生き方だ。
彼の一眼レフカメラは、完全防水仕様で重装備だ。
一人だけ温泉に入らず私服なあたり、意気込みが違う。
補助役の男子が、湯けむりでレンズが曇らないようにドライヤーの温風をカメラに当てていた。
頑張っていい写真を撮ろうぜ。
……仲良しかよ。
あれはあれで楽しそうである。
ともあれ、年頃の女の子がむやみやたらに水着姿をSNSに載せるべきではない。
節度ある対応をすべきだ。
ハジメがそれとなく風夏ちゃんに教えてあげると、納得したようであった。
「じゃあ、SNSには載せないけど、プライベート用で撮ってもらおうよ」
微妙に全部伝わらない娘である。
馬鹿だから仕方ない。
ハジメは呆れていたけど、風夏は、ハジメちゃんと写真が撮りたいだけだった。
好きな人との写真がいっぱい欲しい。
SNSに載せて、ファンから可愛いと言って欲しいわけではない。
ただ、誰よりもいっぱい、楽しい思い出が欲しいだけだ。
ずっと忘れないように。
出来るだけ写真に残したい。
学校や仕事が終わって疲れた日の寝る前に見て、何度も幸せを味わいたい。
男の子のハジメには、写真を撮りたがる女の子の感覚はイマイチ理解出来なかったが、まあ落とし所がないと駄々捏ねるから、半ば納得していた。
天然である、風夏ちゃんの扱いに一番慣れているのは、やっぱりハジメだった。
それは、付き合いが長い冬華や麗奈。
萌花ですらも無理なのだ。
「すまない。高橋ちょっといいか?」
高橋を呼んで、二人だけのツーショットを頼むのであった。
撮ってもらった写真は、どれも風夏ちゃんばかりが笑顔で、ハジメは無愛想。
何度もそんな写真を撮ってきたのだから、今更気にする風夏ちゃんではなかった。
嬉しそうにして。
多分、彼女は一生大切にするだろう。
しれっと、ラインのアイコンにしていた。
ハジメがそれに気付いたのは、二泊三日の旅行の後だった。


中野は、二人が楽しそうに写真を撮るそれに気付いて、怒っていた。
「ずるい!😡」
お前も顔文字やめろ。
中野は、クラスのみんなでも写真を撮りたいと駄々を捏ねるのであった。
湯船の中心で、地団駄を踏んでいた。
温泉で溺れてしまえ。
しかし、クラスメートは、中野の意見に賛同であった。
少し前の自分達なら、みんなで写真を撮るのは子供っぽいと馬鹿にしていたが、今は違う。
せっかく旅行に来たのだから、記念写真は必要だ。
夏休みに、クラスメート全員で旅行に行って遊ぶやつなんて、世界中を探してもうちらくらいだろう。
ずっとも。
そんな言葉が恥ずかしくないくらいに仲良しなんだから、写真くらい撮ってもいいはずだ。
「まあ、お前達がそういうなら、いいんじゃないか?」
ハジメは、イカれた性格をしているが、クラスで決めることには何も文句は言わない。
あくまで一人の人間として、みんなの意見に従うまでだ。


「高橋は写真に入らないのか?」
「僕は撮影する側だから気にしないでいいよ」
「そうか。いつも悪いな」
「いや、いいんだ。写真を撮るのが好きなだけだから」
写真として、自分の思い出を撮るのが好きな人間がいれば、他人の思い出を撮るのが好きな人間もいる。
それが高橋なのである。
写真が好きならば、高橋の自由にさせてやるべきだ。
中野は、解決案を提示する。
高橋が写らないのは仕方ないが、せめて卒業写真撮影日当日に欠席した男子みたいに、右上にワイプを出すべきだろう。
そうすれば完璧だ。
アタシって頭がいい。
褒めろ。
甘やかせ。
水着姿が可愛くて、えちえちだって言ってもいいんだぞ。
スタイルはよんいち組には敵わないが、高校生としては目を見張るものがある。
自画自賛する中野ひふみを、ハジメは無視する。
「高橋、三脚はないのか? あれがあれば、みんなで写真が撮れるんじゃないか?」
「ごめん。いらないと思ったから、コテージに置いてきた」
「ああ、そうか。……すまない。なら、どうしようもないか」
一眼レフカメラに遠隔モードがあっても、土台になる三脚がないと撮影は難しい。
人の手でやるしかない。

風夏ちゃんの指導の元、写真映えするような三十人の配置を決める。
男子は右。
女子は左。
温泉の真ん中には、クラスのリーダーであるハジメが鎮座していた。
それを、よんいち組が取り囲むように、可愛くキメ顔をしている。
「なんでや?!」
陽キャギャルに挟まれた童貞。
悪態付くな。
東山ハジメは、ハーレム系主人公なのだから、みんなの正面に座るのは、自然なこと。
当たり前だ。
お前がナプキンを取る側なんだよ。
よんいち組だって、四人一緒に好きな人と写真が撮れる機会は早々ないのだ。
出来るだけハジメの隣に居たい。
裸同然の可愛い可愛い女の子が、ハジメちゃん好き好きして腕組みして抱き付いて来ないだけ、まだマシだろう。
よんいち組の姫は、ハジメちゃんなのだ。
せめてハジメの隣で写真に写りたい。
可愛い彼女のためならば。
記念写真の一つくらい、少しは我慢しろ。
萌花は口にする。
「穏便に事を進めて、早く撮影を終わらせないと、隣にいる発情したむちむちメスオークがお前を襲ってくるぞ」

「ぶっころ」

ろの次は、一体なんなの~?
教えて。
麗奈ちゃん。

温泉で喧嘩するな。
何で俺に拳が飛んでくるんだよ。
二人の対角線上に居たせいで、無慈悲に殴られるのであった。

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